第09話Part2
祝:600アクセス突破!!
いや〜嬉しいやら恥ずかしいやら。
稚拙な文章で綴った作品ですが、読んで頂いてありがとうございます。
どうかこれからもよろしくお願いします。
ご感想・ご意見お待ちしてま〜す。
−戦場にいる神?俺には、死神しか思い当たらねぇな…相棒−
−1926年10月23日 中央海北部戦線 エスティリア国防海軍 シンヤ・ササキ大尉
現在時刻0550時 場所マウアー諸島本島沖、西へ8km 上陸艇上
攻撃開始時刻にはまだ早いが、すでに艦隊からの支援砲撃が始まっている。
戦艦や重巡の主砲の咆哮がこちらまで聞こえてくる。
その咆哮と共に、撃ち出された砲弾が大気を切り裂き、飛んでいく音も。
俺達、海兵隊は上陸用舟艇に乗り込み、その時を待っている。
陸軍の連中は俺達が橋頭堡を築いた後に上陸強襲艦から戦車・装甲車輌を下ろして進撃する手筈になっている。
“予定”ではな。
「手前ェら!。装備の点検はしたか!?戦闘の最中に“壊れました”は無しだぜ!!」
そう言うと、乗り込んでいる上陸艇、周りの舟艇から笑い声が広がる。
新入りの隊員が俺に問い掛けてくる。
「そう言う大尉は大丈夫ですか?戦闘中に小便チビらないで下さいよ!」
「それなら大丈夫だ二等兵。ちゃんとオムツを履いてきたからな」
さらに広がる笑い声。
その笑い声に混じって、東の空から爆音が聞こえた。
眼を凝らし、目視する。
俺の視界に入ったのは、小さな芥子粒の群…いや違う。
味方の飛行隊だ。
おそらくは、親友二人もあの中に居るんだろう。
飛行隊は瞬く間に、艦隊の上空を航過し、俺達の上を通り過ぎた。
部下達が、海兵隊の連中が飛行隊に手を振る。
それに気付いたのか、何機かが翼を振って応えてくる。
航過した戦闘機、急降下爆撃機が海岸に肉薄し、搭載してきた爆弾を落とし、迫撃砲や対空砲を消し炭にする。
それを確認し、搭乗している上陸艇の艇長に接岸指示を出す。
発進し速度を上げる上陸艇。
俺達、海兵隊には上陸の際にはある合言葉を言い、士気、戦意を昂揚させる。
その合言葉は
「三軍で最高の戦闘部隊は!?」
−海兵隊!!−
「三軍で二番目に強い部隊は!?」
−海兵隊!!−
「三軍で一番、勇敢な部隊は!?」
−海兵隊!!−
「三軍で一番、女にモテる部隊は!?」
−海兵隊!!−
「敵軍に一番、恐れられる部隊は!?」
−俺達だッ!!−
舟艇の群が海岸を目指し突き進む。
そして、艇長の傾斜路確保の号令と共に上陸艇の平らな船首が砂浜に降ろされる。
その直後に俺は叫び、突撃する。
「行くぞ!野郎共ッ!!」
銃弾が飛び交う中を声を張り上げ、俺達はひたすら任務達成の為に突撃する。
任務の為
祖国の為
愛する者の為
様々な事を胸に抱き、突き進み、戦う。
それが俺達、“海兵隊”だ−
現在時刻0601時 場所マウアー諸島本島 上空高度800m
眼下の上陸部隊の歓声に応えながら、戦闘指揮官として指揮下にいる各部隊にそれぞれ命令を下した。
俺達、飛行隊の任務は、まず海岸線に配置されている砲台群を潰し、次に制空権を掌握すること。
いたってシンプルな任務。
そして、難しい任務…。
指揮することに夢中になりすぎて、撃ち落とされんなよ俺…。
まずは、機体を軽くさせるのが急務だ。
それを果たす為に爆弾の安全装置を解除し信管起動。水平距離600mぐらいに配置されている4連装対空機銃に狙いをつける。
水平距離100mで背面飛行になり急降下。
そして、高度150mで一発目を投下し機首を持ち上げる。
機体下から爆音が響く。
俺の攻撃で対空機銃が沈黙した証だ。
再び新しい獲物に狙いを定め、同様にお見舞い。
投下し対空機銃を沈黙させた直後に無線から声が流れてくる。
『こち…ら第1海…兵師団第2歩…兵中隊。上空の味…方機へ応答願う』
無線の声は雑音のせいか、途切れ途切れで、引っ切りなしに発砲音や銃弾が飛び交う音が聞こえた。
「こちらブラック・ウルフ隊だ。交信中の味方部隊へ、どうした?」
『上…陸に成功し…敵軍と交…戦中だが、我々の前…方にある半地…下壕から機銃を…掃…射している奴…がいる。そ…いつを−グッ!!?」
突然、交信が途絶える。
だが、無線からは相変わらず発砲音が響く。
『……二曹!?…オイッ!!ヘルモーズ!?チクショウ!通信兵が殺られた!!二等兵!!貴様が無線機を持て!…そうだ貴様だ早くしろ!!」
突如、無線の声がクリアになり、綺麗に聞き取る事ができた。
おそらくは、さっきの通信兵−ヘルモーズ二曹−は戦死。
それに代わって聞こえてきたのは、どこか聞き覚えがある声。
その声が、通信兵の戦死にも慌てず冷静に命令を下している。
『…よし、しっかりと背負え。絶対に落とすなよ!!』
『イッ Yes,sir!!』
『…上空の味方機へ。まだいるか!?』
「まだいるぞ」
『よしッ!さっきの通信で大体の事は判るだろう。半地下壕にいる敵の機銃手を叩きのめしてくれ。ついでにその付近の塹壕にいる敵兵も掃除してくれるとありがたい!上から確認できるか!?』
その問い掛けに、機体を傾けて探すと確かに海岸付近の塹壕に味方部隊がうずくまりその前方100mほどに半地下壕から機銃を掃射している敵とその付近に、敵軍二個中隊がいるのを目視した。
「…肉眼で確認した。今、超特急で掃討に向かう。…頭は上げるなよサミー!?」
もしかしたらと思い、そう呟くと無線の向こうで交信相手が微かに苦笑するのが聞こえた。
『…了解だBrother。…野郎共ッ!今から味方機が敵兵を掃除する。絶対に頭を塹壕より上に上げるな!破片でヘルメットごと頭をもっていかれるぞ!!…頼むぞ』
『了解だBrother』
交信相手と同様にそう言い返して無線の周波数を部隊のそれに合わせる。
「こちら隊長機。ブラック・ウルフ全機へ。味方地上部隊から支援要請があった。まだ爆弾を抱えてる奴はいるか?」
『こちら2番機だ。一発だけ残ってるぜ。どこに落としゃ良い?』
それに応えたのは、マックス。
二番機に視線を向けると確かに右主翼に一発の爆弾が吊されている。
「投下地点は、敵半地下壕、及び敵軍二個中隊だ。機銃を掃射している奴のせいで、味方の進撃が阻まれている。目視で確認しろ!」
ややあって二番機から目視で確認の報告が聞こえた。
「よし!ついでに、全機の増槽も投下しろッ!」
『了解だ隊長!盛大なキャンプファイヤーになりそうだな!!』
『3番機、オリビア、了解しました!』
『4番機、オズワルドも同じく!』
「…行くぞ!全機突入!!」
俺の命令で全機が背面になり急降下。
計器を操作して燃料を増槽から機体内部の燃料タンクに切り替える。
そして爆弾投下の要領で増槽を切り落とす。
俺の増槽は、敵部隊が潜んでいる塹壕付近に落下し、土埃が舞った。
オリビアとオズワルドが投下した増槽の内、ひとつは塹壕内部に落下。
そこに、マックスが爆弾と増槽を同時投下。
爆弾は半地下壕に直撃。
機銃は沈黙した。
そのオマケとばかりに、投下した増槽から漏れ出した高オクタン価の燃料に爆炎が引火する。
マックスの言葉を借りるなら、本当に派手なキャンプファイヤーになった。
炎は塹壕を容赦なく包み込み、行き場を失った敵兵たちを炎の舌が舐める。
ここからでも、その様子が目視できる。
火傷を負った敵兵たちが背中に炎を背負いながら塹壕から這い出る。
その敵兵たちが苦悶の表情で地面に倒れる様が…。
「こちらブラック・ウルフリーダー。味方部隊へ敵部隊の掃除が終了した。…気をつけて進め…」
『…正確な支援に感謝する。…敵部隊の掃除が終わった!これより残敵掃討にかかり、橋頭堡を築く。第2歩兵中隊突撃ッ!!』
味方部隊が大柄な男を先頭に突撃する。
部隊は手にしている銃を撃ち、敵兵を掃討しつつ突撃する。
部隊の目指す先は、鉄筋コンクリート製の掩蔽壕だ。
海兵隊の任務は、目標の座標を艦隊に伝え、砲撃破壊の後に橋頭堡を築くことだ。
彼らなことだ上手くやってくれるはずだ…。
ふと俺は先程、爆撃した塹壕に視線を向けた。
火は収まりつつあるが、点々と黒い炭のような物が転がっているのが眼に入る。
あれは…敵兵の死体だ…。
『……アレックス…見えるか…あれって…』
「…ああ…あれは…」
それ以上、言葉を紡ぐことが出来なかった。
『…俺達がやったことは正しかったんだろうか…なぁアレッ−』
「−もし、爆撃しなかったら俺達が…上陸部隊がやられたかもしれないぞ」
俺の台詞にマックスが押し黙る。
「マックス…お前の気持ちは良く解る…でもな…」
一拍区切り、呼吸を整える。
「でもな…俺達がやってるのは戦争で俺達は戦闘機パイロットだ。こんな事は…兵学校に入った時に覚悟してたはずだ。俺もお前もサミーも…そして戦争に参加している兵士全員がな。…彼等も自分達の信じる正義、大義の下に戦ってる。…もちろん俺達もな…。言いたい事は解るよな…?」
『…そうだな。済まない、らしくないこと愚痴っちまった。まだ作戦は始まったばかりだ気を引き締めていこうぜ』
そう言って、マックスは回線を切った。
俺は再び、地上に視線を向け対空砲が残っていないかを確かめる。
見回すと、特に爆撃隊の障害になるような対空砲は残っていない。
爆撃隊は俺達の20分後に出撃の予定だった。
次の任務は爆撃隊の到着までに制空権を確保すること。
再び、無線を開き指揮下の部隊に指示を出す。
海岸付近にいくつかの部隊を残し、他は全機、敵飛行場上空へ向かった。
現在時刻0625時 場所マウアー諸島本島 帝国軍中央海岸掩蔽壕付近
迫撃砲や対空砲が敵飛行隊に破壊され、敵上陸部隊の進撃を阻むのは、味方が掘った塹壕と有刺鉄線、そして友軍が放つ銃弾と掩蔽壕のみ。
はっきり言って、撤退したほうが良い。
だが、それも叶わない。
昨夜、降下した敵部隊が退路を塞いでいる。
そのおかげで、増援が来ない。
待てど暮らせどな。
唯一の頼みの綱である味方機は、昨夜に敵部隊を運んできた輸送機が墜落の腹いせに滑走路に多数、突っ込んだ。
滑走路は使用不能。
…絶望的だ。
そう思いつつ、俺は再び愛銃であるモーゼルKar98kを伏せ姿勢で肩付けし構える。
スコープを覗き込むと、敵兵が視野に入る。
先程から士官や衛生兵と思しき奴の頭を撃ち抜いているが、怯む気配が微塵も感じられない。
また再び、300mほど先にいる敵兵を照準レティクルに収め、己の心拍と呼吸そして意識を愛銃と同化させる。
銃爪をギリギリまで引き絞る。
呼吸を一瞬だけ止め、手ブレを抑え、銃爪を引く。
7.92mm弾の雷管が叩かれ、炸薬が爆発し、反動が肩を蹴り弾頭が発射される。
スコープは頭を撃ち抜かれ、もんどり打って倒れる敵兵の姿を写す。
何度も繰り返してきた行為。
南部戦線から今まで、何人の敵兵を殺した事だろう。
もう人数なんか忘れてしまうくらい、殺したのは確かだ。
俺は狙撃地点を変えるために移動を始める。
あの場所では、撃ち過ぎた。
あのままでは、位置が特定され砲撃が加えられる。
危険を避けるために移動していると耳を打ったのは大気を切り裂く、風切り音。
それを意識した瞬間に200mほど離れた味方の掩蔽壕が轟音と共に崩れ落ちた。
おそらく敵艦隊からの砲撃だろう。
見るも無残な姿になった掩蔽壕を眺めていると、腰の弾嚢ベルトに吊している小型無線機から空電の後に声が流れてくる。
『この通信を聞いている全降下猟兵師団員へ。敵軍が中央海岸の味方掩蔽壕を破壊した。よって3km後方まで各自、撤退せよ。再編成を行う。繰り返す…』
無線機の声は再び、同じ事を繰り返し伝えてくる。
それが終わった時、俺は無線機を掴む。
「アラーベルガー伍長、了解した」
了解を伝え終わった俺は、命令に従って撤退を始める。
現在時刻0641時 場所マウアー諸島本島 敵飛行場上空 高度1000m
海岸から約11kmほど東にある敵飛行場の上空に俺達の部隊も含めて、80機ほどの友軍戦闘機・艦上爆撃機が到着した。
到着してみると、滑走路には味方輸送機の残骸が山となって転がっている。
よく見ると、滑走路には所々であるがでかい穴が空いている。
おそらくは、昨夜に出撃した空挺旅団のだろう。
輸送機のパイロット達が最期の意地で、滑走路を使用不能にした結果だ。
どうりで、敵直掩機が海岸に現れなかったはずだ…。
戦死した勇敢なパイロット達に敬意を表して、敬礼する。
ふと地上を見回すと対空機銃が多数、配置されているのが視界に入る。
そして俺の視界には、嫌な物が眼に入った。
「−チッ!敵機がハンガーから出てきやがった!!」
舌打ちと共に悪態をついたが、疑問が生じる。
滑走路があの状態なのに、連中は何処から離陸するつもりなんだ?
俺の疑問は、すぐにオリビアからの報告で納得に変わった。
「隊長!敵機が滑走路脇の野原から離陸しようとしてます!!」
「ああ確認してる!全機、敵機が地上にいるうちに破壊しろ!まだ爆弾を抱えてる部隊は敵ハンガーと対空機銃をブッ壊せ!!」
命令を伝え終わるか否かで、俺は愛機の操縦桿とスロットルレバーを操作し、まだ地上滑走中の敵機に襲い掛かる。
俺の愛機を始め、部隊の震風には空戦の際、有利になるように、それまで操縦席の脇に配置されていた機銃発射把柄を操縦桿の前部に配置するよう改良した。
これでわざわざスロットルレバーから手を離さずに攻撃でき、撃墜数は格段に増えた。
軽く銃爪に指をかけ、機銃の射程内に入り、掃射する。
7.7mm弾、20mm弾の曳光弾が大気中に刻まれ、滑走中の敵戦闘機に弾痕を穿ち炎に包まれ、地面に機首から突っ込む。
破壊確認後、地上スレスレから上昇反転し、再び攻撃位置に付く。
部隊の機体も俺と同様に地上滑走している敵機に銃撃を浴びせ、破壊している。
ハンガーの方向に視線を向けると新たな敵機が出て来たのを確認した俺は、攻撃に向かった。
だが、それを攻撃するため翼を翻した直後に味方機がハンガー直上から爆弾を投下した。
ハンガーは、爆発の衝撃で屋根が壊れ、そこから爆煙と炎が舞い上がる。
それと同時にハンガーから出て来た敵機も出口付近で爆発に巻き込まれ炎に包まれた。
たぶん、中にあった燃料や弾薬に引火したんだろう。
爆弾一発で、ここまで派手には爆発しない。
とにかくこれで、敵機が飛ぶことはなく制空権は手に入れたはずだ。
あとは、爆撃隊が到着しだいここより先に展開している敵部隊に抱えてきた荷物を全部バラ撒き、上陸部隊の露払いをする。
ふと計器盤の燃料計を見るとだいぶ燃料が減っていると針が伝えている。
愛機の空腹を満たすために俺達は燃料に余裕がある者を除いて、機動艦隊、空母群が停泊している海域に針路をとった。
現在時刻0729時 場所マウアー諸島より南東へ100kmの海域 第1機動艦隊旗艦空母“リバティー”飛行甲板上
空母に着艦し、飛行甲板中央にあるエレベーターに機体を移動させようとしたら、甲板要員から停止の指示が出た。
理由を尋ねると既に甲板下の格納庫は被弾機の整備と修理で満載になっているため、降ろせないと言うことだ。
しょうがなく甲板の隅に機体を移動させ、久しぶりに足を下ろした。
愛機の機体周りを見るとあちこちの弾痕がある。
空戦をやったわけではない。
対空砲火によるものだ。
だが、それほど心配するほどのものではない。
損傷はいずれも軽微で飛行も戦闘機動にも支障はない。
安心し、そのまま機体の傍らに腰を下ろしポケットをまさぐり煙草を一本引き抜き火を点ける。
吐き出した紫煙と共に、我知らず溜め息が零れる。
「…疲れた…」
こんな独り言を言ってしまうのも安心したせいだ。
作戦は今のところ順調。
何事もなければ俺達に出番はない。
安心しきっていると唐突に背後から声がかけられた。
「アレックス、一本くれ」
「…なんだマックスか」
「なんだとは随分だな隊長。それより一本くれ」
「…お前のは?」
「置いてきた」
あっけらかんと言う親友に呆れながらも再びポケットをまさぐり煙草を差し出す。
「おっ!悪いな」
そう言いつつマックスはオイルライターを取り出し火を点ける。
煙草は忘れてたくせにライターは持ってきたらしい。
そのまま遠慮なく吸いながら、これまた遠慮なく俺の横にどっかりと腰を下ろす。
「…さっきは済まねぇな」
おそらく戦闘中の愚痴のことを言ってるんだろう。
「別に気にしなくて良い。俺も似たようなモンだ」
そう呟き、また紫煙を吐き出す。
しばらくして短くなった煙草を甲板から海面に投げ捨て、そのままゴロリと横になる。
「…少し寝る。…1時間経ったら…起こしてくれ…」
「了解だ隊長殿」
その返答を聞いて、俺は眼を閉じた。
現在時刻0735時 場所マウアー諸島本島 敵飛行場
…凄いもんだな。
辺り一面、味方機や敵機の残骸ばっかりだ。
航空機を納めるはずのハンガーは屋根が吹き飛ばされ、側面は大穴が空いている。
これでは本来の役目を果たせない。
空から爆音が聞こえ、咄嗟に身を屈める。
だが、それは杞憂に終わった。
爆音の発生源は味方の爆撃隊。
無事に任務を終えて、これからミッドウェー島に帰投するんだろう。
作戦はここまでは順調に進行している。
このまま何事もなく終わってもらいたい。
考えこんでいると背後から声がかけられた。
「隊長!作戦本部から連絡です。“海兵隊各隊は敵飛行場を確保し、現状を維持。本格的な攻撃は機甲師団に一任し、海兵隊は待機せよ”だそうです」
「了解したと返信しろ二等兵」
「Yes,sir!」
既に、敵飛行場は人っ子一人いない。
あるのは航空機の残骸と敵兵の屍のみ。
確保したも同然だ。
心配なのは狙撃兵だが…気配はない。
海岸では他の部隊の隊員が大勢撃たれた。
ただ撃たれたんじゃない。
明らかに狙撃兵の仕業だ。
それもかなりの腕前の。
その証拠に撃たれた奴は分隊長や衛生兵を中心に頭部を撃ち抜かれたそうだ。
俺自身も塹壕から狙撃兵らしき敵を撃ち殺したが、それほど腕前は良くなかった。
明らかに俺が殺った敵狙撃兵とは一線を画す奴だ。
そんな奴がいるなんて考えただけで怖気をふるう。
南部戦線でもそうだったが、狙撃兵は単独で戦況を変えるだけの能力がある。
たった一発の銃弾が指揮系統を混乱させ、戦意・士気が低下し、下手をすれば部隊の壊滅に繋がってしまう。
できれば、その凄腕の狙撃兵が死んでいるか、遭遇しないことを祈るばかりだ…。
弱気の虫を頭から追い出し、飛行場の確保を部隊に伝え前進を命じた。
現在時刻0807時 場所第1機動艦隊旗艦空母“リバティー”飛行甲板上
間食もそこそこに、整備班長に呼ばれ行った先にあったのは私の部隊の隊長機−の下で寝ている隊長と副長。
「ずっとこのままで整備が出来ません…何とかしてくれませんか中尉」
「…分かりました…」
そう言って上官二人の元へ歩みより、まずは副長を起こしにかかる。
「副長!起きて下さい!!」
そう言いながら身体を揺すると怠そうに瞼を開ける副長。
「んっ…?…なんだオリビアか…。何か用?」
「整備班が困ってますよ。寝るなら別の所で寝て下さい」
「ああ…判った」
副長が完全に起きたのを確認した私は、次にその横で寝ている隊長を起こしにかかる。
「隊長!起きて下さい!!」
さっきと同じく身体を揺するけど…。
「………」
…全く起きない…。
何で…?
「ああ…そいつは起きないぞ」
欠伸を噛み殺しながら、副長がそう言ったのを聞いて振り向く。
「兵学校からそうだったけどよ。そいつ起床時間にはきっかり起きるけど、それ以外は余程の事が無ェとなかなか…。…あと…無理矢理に起こすと銃口、額に押し付けられるぜ…」
そんな事が有り得るの!?
だけど、このまま寝かせていると整備班の邪魔になってしまう。
しかたなく、私と副長で彼を運ぶことにした。
運んだ先は艦橋の外壁。
ここなら邪魔にならない。
副長は間食を取るために食堂に向かった。
一方の私は…副長曰く“お守り”だそうだ…。
運ぶのに苦労したのに運ばれた当の本人は−
「………」
−と全く起きる気配が微塵も無い。
運んでる最中も起きなかったくらい。
運んでしまうと何もすることがなくなった私は取り敢えず隊長の側に腰を下ろした。
…きっと疲れてるのよね…。
自分の部隊だけでなく指揮下の隊にまで命令しないといけない心労は分からないけど…大変なのは分かる気がする…。
その証拠に今日…いや昨日から隊長は恐いくらいに気を張っていた。
寝息もたてずに静かに寝ている隊長を眺めていると海風で彼の逆立っている髪が揺れる。
そう言えば…以前にこうして隊長の寝顔を眺めていたことがある。
あの時は砂浜に、直に転がったまま寝ている隊長を見兼ねて膝を貸した。
その時も彼は寝息もたてずに子供みたいな寝顔で寝ていた。
そう考えていると少し心配になってくる。
……ちゃんと息してるわよね……?
そう思って顔を近付けると本当に微かに、彼の口から寝息が零れているのが聞こえた。
一応、確認のために胸にも耳を当てる。
トクントクンと鼓動が規則的に聞こえる。
生きている事を示す鼓動と一緒に感じるのは彼の体温の温もりとちょっとだけ香る煙草の匂い。
なぜか…とても安心する…。
幼い頃、お父さんにおぶさわれた時の安心感とはまた違うもの。
一体何なんだろう…。
「……んっ……」
微かに彼が身じろぎしたのが判った瞬間に硬直してしまった。
「んっ…あれ?…オリビア?」
寝起きの怠そうな声で私の名前を呼ぶ彼。
なんと言ったら良いんだろう…。
身体は彼の胸元で硬直したまま。
「…どっどうかしたのか//?」
え〜と……何て言ったら良いの!?
素直に“貴方の鼓動を聞いてました”って言える訳ないわよ〜!
内心であたふたしてると彼がふっと微笑った。
「…そんな表情されると俺が困っちまう…」
そう言って私の頬に手を添えて身体を引きはがす。
ちょっとだけ自分の顔が熱くなってるのが分かる。
「あの…ちょっと心配になって…。隊長、寝息もしないで寝てるから…」
言っちゃったよ〜!
幻滅されるかな…
呆れられるかな…
「あ〜……その…済まない。昔からこうで親父とお袋にも心配されたことがあるんだ」
そう言ってバツが悪そうに頬を掻く隊長。
いつものギャップに失礼だと思いつつ笑ってしまった。
隊長も釣られて苦笑する。
しばらく笑ってると隊長の顔が急に引き締まった。
「−ところで、そこで何してんだお前等?」
鋭い問い掛けに、私の背後で物音が響く。
その場所は、飛行甲板とは一段低い対空砲が配置されている舷側。
そこに視線を向けると、副長やオズワルド君、そしてアンダーソン隊長を始めとする飛行隊の面々が対空砲や防壁の物陰に隠れこっちを観ていた。
「いや〜…その…なっオズワルド」
「なんで俺に振んですか!?あの隊長!?」
すっと立ち上がり、私の横を通り過ぎて彼等の前に立つ隊長。
近付く度に彼等の顔が青くなっていくのが見えて、隊長がどんな表情をしてるのか気になる。
「…随分と良い趣味だな…諸君?」
ボソッと呟やいた隊長の声音が空戦中のそれと同じだと思ったのは私だけかな?
隊長が呟いた瞬間に彼等の顔が更に青白くなったのを見て少しかわいそうになった。
「アレックス?…少し落ち着け?なっ?」
「何がだ親友?俺はいたって冷静だぞ」
「冷静ならなんで微笑いながら、そんなもの取り出してんだ!?」
副長の言う、そんなものとは隊長の愛銃。
腰のホルスターから引き抜きハンマーを起こすのが私の眼にも見えた。
「お前ら……逃げるぞ!!」
そう言っていち早く逃げ出す副長。
それに遅れながら他の人達も逃げ出す。
「まてコラァァ!!」
そう叫んで猛然と追い掛ける隊長。
少しの間、呆然としてたけど彼等と隊長の追いかけっこを見ていて知らず知らずの内に頬の筋肉が緩む。
作戦中なのに笑ってしまった。
頭上からも笑い声が聞こえ、顔を上げると艦橋の防空指揮所から艦長や見張り員と思しき人達が笑いながら追いかけっこしている彼等を眺めている。
それと同じ様に飛行甲板でも整備班の人達が彼等を笑いながら眺め、ある人は彼等を囃したてる。
作戦中…戦争の最中とは到底思えないような時間。
こんな時間が永久に続けば良いと私は思った…。
第09話 Part3へ続く