挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
放課後TwilightZone 作者:水夜ちはる

1. セーラー服の復讐者

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

6/59

第6話:「コール」

現代ファンタジー・吸血鬼モノの伝奇ライトノベルです。
 深まった秋の空は何処までも蒼だ。空の境界は地上とそれだけで後は何もさえぎる事のない蒼。白銀の太陽はひとつ空に浮かんでいて蒼との見事なグラデーションを描く。そこには何一つ境界線などない。

 裕也は公園でその空を見上げていた。
 小春日和という言葉のためにあるような陽気だ。公園は午前中であるに関わらず、雑踏があふれて少しだけにぎやかだ。それでも街の喧騒よりはこの公園のような静かな空間のほうが裕也の好みに合っていた。

「気が、狂いそうだ」

 裕也は誰にも聞こえない低い声でつぶやいた。公園のベンチから見上げる空と裏腹に彼の心はひどく沈んでいる。

 昨夜、裕也は実の妹を襲うところだった。あの頭痛がなければ彼は千明の首筋に噛み付き、その鮮血をすすり上げ殺しただろう。いや、あの頭痛の中で彼はそれでも千明の血を飲みたいと思っていた。

 朝起きると、昨夜のようなその衝動は消えていた。
 裕也は自身が巷で騒がれている殺人鬼なのではないかと思った。あれは夢ではない。起きて荒れた自分の部屋を見たとき、彼はそう確信した。

 裕也はすでに学校へ行った千明のいない部屋で朝食を取った。朝のワイドショーのレポーターが彼らの街で起きている連続殺人事件をやはり必要以上に悲しそうな表情で伝える。
 裕也は千明に悪いと思ったが、気分が悪くなって朝食を残したまま街に逃げ出した。



 太陽は随分高くなっていた。
 突然、裕也の座っていたベンチが軋んだ音を立てた。誰かが勢いよくベンチに座ったのだ。裕也は驚いて視線を空から地上へ戻した。思考を妄想から現実へと引き戻す。

「沢渡」

 ベンチに座った人物は沢渡陽子だった。

「裕也何してんの? ボケーっと空なんか見ちゃってさ」

 沢渡はジーパンにふんわりとしたセーターといった普段着でアクティブな彼女の性格が服装にも出ていた。

「そういうおまえこそ?」
「私はバイトの帰り」

 この公園は街の中心である繁華街と住宅街を分断するようにある大きな公園である。沢渡の家はその他多数と同じで住宅街に家族と共に住んでいる。裕也はその逆で駅に近い繁華街のマンションに千明と住んでいた。
 もちろん住宅街と繁華街を行き来するには、まともに道を歩いていくよりもこの公園を突っ切るほうがはるかに早い。

「最近夜物騒だから、バイト早番にしてもらってるんだ。休みの日はね」

 沢渡はこの空のように陽気な笑顔で言った。すぐ表情が変わるところなど秋の空とそっくりだと裕也は思った。

「ふうん」

 裕也は曖昧な返事で相槌をした。

「裕也なんかあった? 悩み事?」
「え?」
「これでもさ、おばさんと千明ちゃんの次に裕也と付き合い長いんだ。分かるよ」

 昨日、沢渡が言い残した言葉が蘇る。裕也はしどろもどろとした。

「相談に乗るよ? 愚痴でもなんでも聞くよー」

 沢渡は笑顔だった。裕也は悩んでいることが馬鹿らしくなって苦笑いを浮かべた。

「もし、俺が街で起こっている連続殺人事件の犯人で、吸血鬼だったらどうする?」

 裕也はさらりと言った。沢渡は驚いて裕也を見た。あまりに突飛な言葉だったため彼女は返答を忘れていた。数瞬、間をおいて彼女が口を開く。

「何、それ?」

 沢渡は小さな声で言った。まさかこんな事を真に受けるとは思えない、と裕也は思った。

「……裕也大丈夫?」

 沢渡は手を裕也の額に乗せて、心配そうに覗き込んだ。これは彼女の演技だ。

「裕也が連続殺人犯? あの太陽が落ちてきたってありえないね。裕也は人を殺すくらいなら殺されるほうがマシだって考える人間じゃない? 私はそう思うよ」

 そう言いながら沢渡は音を立てて笑い始めた。突拍子もないことを言ってしまった、と裕也は頭を掻いた。妙な考えに至っているのかもしれないと裕也は冷静になることが出来た。

「それにさ、吸血鬼ならこんないい天気に日向ぼっこする?」

 沢渡の笑いは止まらない。しかし沢渡の言う事はもっともだ。裕也もつられて笑いがこみ上げ、我慢できなかった。
 二人してしばらく笑った後、沢渡が提案をした。

「これから真奈美の家に行く予定だったんだ。連絡は取れていないんだけどね。休み続いてるし、もし病気とかだったら心配でしょ? 裕也も行く?」

 沢渡の質問は質問ではなく強制のような声だった。ここで首を横に振ろうものなら、マシンガンのように文句が降り注ぐに違いない。裕也は苦笑いをすると、首を縦に振った。彼も草薙の様子が気になっていたのだ。



 草薙の家は公園からさして遠くない住宅街の一角にある。良くある住宅地の戸建住宅で建物にも風景にも特に特徴もない場所にあった。
 沢渡はインターホンのボタンを押した。草薙の家はカーテンやら雨戸やらで、二人からは中の様子はわからなかった。ここ最近の事件のせいで用心のために締め切っている家も珍しくはない。
 だが、しばらく待っても何の反応も返ってこなかった。沢渡はもう一度インターホンを鳴らしたがやはり反応はなかった。

「留守、かな?」

 沢渡が小首をかしげた。

「学校休んでるのに?」
「うーん、家の人とかもいないのかなぁ?」

 二人して沈黙する。

「まさか入院とかないよね?」
「まさかね。それにもし入院とかなら、学校に連絡があって先生が言うんじゃないか?」
「だよね」

 裕也と沢渡は同時にため息をついた。

「大げさな言い方をすれば草薙は消息不明って奴だな」
「ちょっとやめてよね」

 裕也の冗談めかした言に沢渡は少し真剣になって怒った。裕也は確かに冗談ではすまないなと思い肩をすくめた。

「ま、今夜にでも電話しとくよ……それじゃ、私は帰るけど?」
「ああ、俺も帰るよ。気も晴れたしな」
「なーんだ、やっぱ沈んでたの?」
「ちょっとな」
「……ね、裕也」
「うん?」

 裕也は沢渡に背を向けて歩き出そうというところで呼び止められた。振り返ると何時になく真剣な眼差しの沢渡が彼を見上げていた。

「私ら友達だよね。それも何年もの。相談したい事とかあったら言ってよね」

 友達、と言う響に裕也は自然と笑みがこぼれた。

「ああ、その時はよろしく頼むよ」



 その後裕也は平穏な土曜の午後を自宅で過ごした。夕方前に千明の帰宅があり、あとは何もない日常だった。
 裕也は千明の様子を伺ったが、彼女は昨夜の事は何も覚えていないようだった。
 裕也たちは夕食を終え、夜も深まった頃に携帯が鳴る。
 裕也は携帯の表示を見て固まった。

『草薙真奈美』

 一昨日、登録したばかりの番号だ。そして、彼に告白をして以来ぱったりと姿を消したクラスメイト。
 裕也は慌てて通話ボタンを押した。

「春日井君?」

 携帯からはクリアな音で草薙の声が聞こえた。

「草薙か? 何で……いや、何処にいるんだ? 今までどうしてたんだ? 俺……」
「質問が多いよ。まあそれだけ心配してくれてた、ってことかな? うれしいなあ」

 ひとまず元気そうな草薙の声に裕也は安心して緊張をほぐした。

「今さ、私学校に居るんだけど……」
「学校?」

 時計の針を見る。時計は午後十時三十分を回ったところだ。

「そんな時間に、学校で何やってんだよ? 一人か?」

 ただでさえ、女の子の深夜歩きは危険だ。さらにこの街は最近物騒になっている。

「一人。だからさ、春日井君、今から学校に来れない?」
「え?」
「ワガママは分かってるよ。でも来てほしいんだ。今すぐ」

 草薙の声は強くはなかった。だが何か有無を言わせない深刻さを裕也は感じた。裕也はしばらく考えた。考えても答えは一つしかないだろう。しばらく間をおいて口を開く。

「わかった。待ってろ」
「うん」

 草薙のうれしそうな声が聞こえて電話が切れた。
 裕也は部屋を飛び出してリビングに出た。
 千明はいつものようにテレビドラマを見ていた。

「悪い、俺今から出かけるから」
「今から? って何処に?」

 千明が驚いて振り返った。あまりに驚いた彼女は声が裏返った。

「あのねぇ。物騒だから人には早く帰って来いってうるさいくせに」
「友達が一人で学校に居るんだ。ほっとけないだろ?」
「学校? こんな時間になんで?」
「わかんねえ。すぐ帰るから」

 裕也は玄関のドアを開けようとした。

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 千明が慌しくクローゼットを開けて、裕也のダウンコートを持ってきた。

「せめてこれ着てきなよ。寒いよ、今日」
「ああ、ありがとう」
「ったく、彼女からの呼び出し? 不良!」

 裕也は千明の憎まれ口に感謝しながらマンションを出た。
 裕也たちのマンションから学校へは走れば数分の距離だった。裕也は冷え切った街を駆けた。


 昼間の快晴はまるで嘘のように、何時の間にか雲が張り出し星は見えなかった。
 吐き出した息が白くなって後ろに流れて行く。裕也は思う。こんな寒い夜に草薙は学校なんかで何をやっているのだろう。いや、今まで姿を見せなかったのは何故なのか、今まで何をしていたのか。とにかく彼女の意図が知りたかった。

 僅かな時間で裕也は校門についた。
 学校は少し街からはずれた場所にあって深夜にはこの辺りはほぼ無人である。しんと静まり返った夜の校庭は青白い明かりに照らされてなんとなく不気味だった。
 校門はさすがに閉まっている。裕也は辺りに人かげないことを確認するとそれを乗り越えて校内へ進んだ。

「草薙……どこにいるんだ?」

 裕也は少し戸惑ってつぶやいた。学校と行っても広い。とりあえず彼は登校時と同じように昇降口に向かった。
 草薙はそんな彼の心理を読んでいたのかもしれない。
 白銀の照明に照らし出され、長い影をアスファルトに落としたクラスメイトは昇降口で彼を待っていたのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ