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放課後TwilightZone 作者:水夜ちはる

1. セーラー服の復讐者

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第4話:「転校生」

現代ファンタジー・吸血鬼モノの伝奇ライトノベルです。
「おはよう、随分不機嫌そうな顔してるね、裕也」

 朝から随分陽気な声の主は沢渡だ。裕也と沢渡は知り合ってもう十年来だが、裕也の記憶によればこの元気娘が不調を訴えた事は一度もない。

「不機嫌じゃなくて寝不足なの」

 裕也はぶっきらぼうに答えてあくびをした。

「裕さん、ひょっとして夢を見るのが怖くて寝れなかったとか?」

 そこへ割り込んだのは小田桐だった。図星を付かれた裕也だったが、理由はそれだけではない。草薙の事、千明の見た過去、雨の中のセーラー服の少女、いろいろ混ざって昨晩は眠りが浅かった。

「あ、オタク、おはよ。何、夢って?」
「裕さん、怖い夢を見て寝れないんだってさ」
「おまえね、誤解を呼ぶような発言するな」

 小田桐は屈託なく笑った。たしかにこの無警戒な笑いは女子に人気がありそうだ、と裕也と沢渡は思った。
 小田桐は裕也に一言断りを入れてから、沢渡に裕也の見た夢を手短に説明した。裕也も別に他人に知られて恥ずかしいような夢の話ではないわけで、拒否しなかった。もっともそれを沢渡が信じるかどうかは別として。

「ふーん、でもさ、それって予知夢ってヤツじゃない?」

 沢渡はさらりと言った。彼女にとっては軽い冗談のつもりだったのだろう、だが、裕也はどきりとした。彼は未来を見るという特別な力を持っている。沢渡が冗談で言った事も彼にとっては冗談ではなかった。

「それよりさ、裕也、真奈美に電話した?」

 裕也はもっとどきりとする羽目になった。草薙の事はまだ誰にも知られなくない事だった。

「何々? 真奈美って草薙真奈美?」

 案の定、小田桐が首を突っ込んでくる。裕也はひとつため息をついて沢渡を睨む。沢渡のほうも実は言ってしまってから後悔してたようで、かなりばつの悪そうな顔をしていたが、見事に開き直った。

「いーじゃん、いずれ分かる事だしさ、でどうだったの?」
「……したよ、電話。けどな、あいつ出なかったぜ?」
「出ないー? うーん、何してんのかなあ、真奈美……」

 沢渡は呆れたような顔で考え込んだ。

「と言うか、草薙、来てないのか? 今日も?」
「そうなんだよね、今日はまだ見てない」
「そっか……」

 と、会話を止めて二人が考えこんでいるとき、裕也の視線に妙ににやけた小田桐の顔が飛び込んできた。

「な、なんだよ」

 小田桐は満足そうに何度も頷くと裕也の肩を軽く叩いた。

「いや、ようやく裕さんにもなあ」

 と毒のない顔で笑う。裕也は苦笑いをするしかなかった。

「実はいい情報仕入れてきたんだけどな、これじゃ意味なかったかもなあ」
「いい情報?」

 沢渡が突っ込んだ。基本的に彼女は噂好きだった。

「転校生が来るんだって。しかもあの名門フェイノール学院からだぜ。しかもすごい美人だ。ちらっと見ただけだけどな」

 小田桐の頭の中には近隣の高校の女子制服は網羅されている。しかも他人の外見にあまり興味を示さない彼が美人と褒めるのだから、相当の美人だと二人は想像した。

「ほら、裕さんの席の後ろ空いてるだろ? これは……と思ったんだけどなぁ。そうか、草薙とヨロシクやってるなら、別にどうでも良かったかな」
「だからなあ、俺は草薙とはまだ……」

 裕也が反論している間にホームルームのチャイムが鳴った。結局二人は含み笑いをしながら自分の席へ戻っていく。裕也は不満顔で彼らを見送った。



 裕也は正直な所、この日常的な二人の空気に助けられた。裕也は今朝から気が滅入っていた。実は学校へ出る直前、ひと騒動あったのである。

 裕也は浅い眠りから目覚めた後、強烈な空腹感に襲われた。そう、まるであの夢の時のような飢えだ。リビングから香ばしい香りが漂っていた。昨日、遅くまで寝付けなかった千明は朝食を簡単にトーストにしていたのだ。
 すでに裕也の分も用意されていたらしく、真っ赤なストロベリージャムが塗られていた。

 赤い。紅い。

 その血肉を髣髴させる色に裕也は思わず嘔吐した。朝起き抜けで胃に何も入っていなかったから、わずかに胃液が口にこみ上げただけに終わったのだが。
 結局裕也は朝食を取らなかった。顔色の悪い兄を心配して千明が学校を休むといってきかなったが、裕也は彼女を無理やり送り出した。

 体調うんぬんよりも気分が悪かった裕也は、このまま一人部屋に残っても気が滅入るだけだと思い、重い足取りで学校へ向かった。

 何故ストロベリージャムからそんな不気味なものを想像できたか。それは裕也が求めていたものがそれだったからである。
 だが、裕也はそれを認めなかった。それを認めてしまったら自分が自分自身でいられるかわからなかったからだ。



 ホームルームが始まって担任の教師が矢継ぎ早に連絡事項を話していた。いつもならもっとゆっくり話す教師だったが、今日は慌しかった。

「今日は突然だが、転校生を紹介する」

 先生は廊下に向かって歩き、ドアを開けた。そこにはセーラー服の女子が一人いた。裕也たちの学校の制服はブレザーなので、一人セーラー服だとやたらと目立つ。それが美しい黒髪のストレートロングで、凛とした端正な顔つきの美少女なのだからなおさらだ。教室中がざわめいた。
 わざとらしく先生が咳払いをする。

「森川恵理です。よろしくお願いします」

 大きくもなく、小さくもない声で彼女は言った。フェイノール学院はお嬢様学校として通っている。少し長身の転校生は教室中の視線を集めても、怯んだ様子はまったくなかった。千明が同じ学校に通っているとは奇跡だ、と裕也は思ったものだ。
 そして裕也は彼女の顔を見て、記憶と照らし合わせて驚いた。

 あの夜、あの路地から出てきた少女だったのだ。あの時は雨に濡れていたが、整った顔、特に眉の美しさは明らかに彼女のものだ。
 裕也は彼女の顔をまじまじと見つめた。

「おい、春日井」
「え? はい」
「おまえの後ろ、一個席空いてるだろ。彼女の席はそこにするからな。あと分からない事だらけだろうから、面倒見てやってくれないか?」
「は、はあ」

 裕也は自分の性格が嫌になった。頼まれればノーと言えない性格だ。彼は今は自身の事で精一杯のはずなのに、他人の厄介ごとを引き受けてしまうその性格を恨んだ。

「裕也はいい奴だよね」

 沢渡がすぐそばならそう皮肉った事だろう。

「よろしく」

 裕也が気づくと森川恵理はすぐ隣まで来ていた。裕也は近くで見ると本当に綺麗な顔立ちだと思った。彼女に見合う男となれば小田桐くらいだろうと裕也は思った。
 裕也は何か言葉を返そうとして緊張で何も答えられず、ただ頷いた。
 恵理は特に表情を変えず、裕也のすぐ後ろの席に着いた。黒髪がなびいてまるで幻が消えるかのようだった。



 休み時間、教室はいつも以上にざわめいている。それは転校生、森川恵理のせいだ。彼女自身が騒いでいるわけではない。彼女を取り巻く生徒たちがよってたかって質問攻めをしている。

「やれやれ、ミーハーな事だぜ。おかげで俺は楽してるけどな」

 裕也は小田桐の席に来ていた。彼の席は転校生美少女を取りかこむ男女に占領されてとんでもない人だかりだ。普段は同じような目にあっている小田桐は半ば呆れ、半ば同情した視線を向けながらため息をついていた。

「でもさー。この時期に転校なんてねぇ?」

 沢渡が裕也と小田桐に近寄って言った。確かに、後二週間もすれば期末テストだ。後一ヶ月で冬休みである。この時期の転校は少し珍しかった。

「裕さん、女難の相が出てないか? 草薙も来てないしさ」

 小田桐がからかうように笑う。

「それにしても真奈美、どうしたんだろ? あの子が休むなんて事あった?」

 沢渡が言った。
 裕也は草薙とクラスが一緒になったのは初めてだった。裕也は記憶を遡るが、活発で真面目な彼女が休んだことは無いように思う。
 裕也は二人の顔を見た。二人とも彼と同じことを考えていたのだろう。三人は少し不安の入り混じった真剣な顔をした。



 午後にもなると転校生騒ぎは随分収まっていた。
 森川恵理はその存在感はともかく、人としての反応はあまりにもそっけない感じのする人物だったからである。
 たとえ二重三重に取り囲まれて、次から次へと質問を投げかけられても動じる様子もなかったし、質問には一つ一つ律儀に答えていた。ただ、その答え方にも、笑いを取ろうとか冗談めかそうとかいう要素は何一つなく、明確な答えだけを淡々と述べ、むしろ表情すら変えることもない。

 それを神秘的だと喜ぶ男子も若干名いたことにはいたが、あまりに冷たすぎるその反応に早くもクラスメイトは飽き始めていたか、その雰囲気に近寄りづらさを感じていたのか、人だかりはなくなって行った。



 放課後、裕也は帰り支度をして昇降口まで歩いてきた。
 そこにある自販機でパックの飲み物を買うセーラー服の女子生徒に出くわした。恵理である。裕也と恵理はそこで視線が合った。

 彼女はじっと裕也の顔を見た。裕也は何もなければその場を立ち去るつもりでいたが、目を合わせたたまま、立ち去るというのも気まずいものだ。

「アレだけしゃべらされちゃ、さすがに喉も渇くよね。でもちょっとほっとしたな、なんだか森川さん、人間らしくないから」

 裕也は笑いながら言ったが、少し失礼な事を言ってしまったと思い後悔した。恵理はじっと裕也の顔を見た。裕也は恵理の端整な顔立ちゆえか、それが冷ややかな視線に感じてしまう。

「春日井君。ちょっと教えてほしいことがあるんだけど、いいかな?」

 それはクラスメイトの質問に答えていたときのような無機質な声ではなく、少しだけだが微妙に遠慮と不安定さがあった。
 裕也はに断る理由がなかった。
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