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放課後TwilightZone 作者:水夜ちはる

2.ヒトガタに宿る魂

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第4話:「標的」

現代ファンタジー・吸血鬼モノの伝奇ライトノベル。
 一時間ほどだろうか。会場のほとんどの人間が眠りに落ちた後、一人目の少女が目覚めると、堰を切ったかのように一斉に皆が目覚めた。
 思い思いの言葉で夢について話しはじめる彼女らの会話は、夢であるはずなのに話が繋がっている。これは台本のある演劇ではない。夏希の理解の超えたところにあった。彼女は背筋が凍る思いがして身震いした。

「また、夜が降りなかったのね、エリーさん」

 恵理はやや丸顔で人のよさそうな少女に声を掛けられていた。

「ええ、私はあなたたちと違うみたい……」

 恵理は彼女から視線を外して言った。

「あら、そっちの子も?」

 少女は恵理の後ろにいた夏希に視線を向けた。夏希はそれに怯えるように身体をすくませた。元々人と話すことが苦手な彼女は、この異様な出来事の後で何時にも増してナーバスになっていた。

「そうみたいね」

 その夏希を庇うように恵理が言った。

「そう……」

 少女は眉をひそめて夏希を見た。憐れむような表情だった。

「私は『降夜祭』の主催、『カエデ』よ」

 彼女は気を取り直し、夏希に自己紹介した。主催を名乗った彼女の顔には毒気がなく、夏希は呆気に取られた。何かをたくらんでいるような顔にはとても見えなかったからだ。『エンジェルハイロゥ』と自殺とは偶然なのだろうか。

「大丈夫よ、二人とも。夜が降りる時、夢を見ないあなたたちは力のない証拠。でもそれは普通なことなの。普通なことはきっと幸せなことよ。余計な力は不幸を呼ぶし、それを振り払うこともつらい事だわ」

 力とは霊的な力、霊感などのことを言うのだろうか。夏希そう思った。 夏希は過去を振り返り、カエデの言葉がまさしく正解だと思った。霊的な力をもっていれば、普通触れないようないわゆる悪霊のような存在にも触れてしまうかもしれない。夏希はその経験はなかったが、十分にありえることだと思っていた。
 そして実際、その霊視能力のために彼女は七年もの間、トラウマから抜け出せずにいる。それが不幸と言わずになんと言おうか。

「安心して。力がなくても別に仲間はずれにするつもりもないわ。そうだ、これを渡さなきゃ……」

 カエデは手にしていたトートバッグから小さな木偶人形を取り出した。
 香津美や自殺者が持っていたと木偶人形だ。

「ひっ」

 夏希は小さく悲鳴をあげて身体を硬直させた。

「どうしたの? エリーさんにはもう渡したよね?」

 カエデは微笑んで夏希に木偶人形を差し出した。夏希は恵理の顔を見た。恵理は頷いていたが、どこか慎重な表情に見えた。
 夏希は木偶人形を見つめた。
 違和感はない。これ自体には何もないのだろうか。夏希はそう思って恐る恐る手を伸ばした。
 手にとる。
 表面の加工は特に変哲もないものだが、重量感のあるしっかりとした木偶人形だ。

「水上先生に作っていただいた人形のお守りなの。いろんな災いから身代わりになってくれるお守りよ」
「みな……かみ?」
「高名な彫刻師の先生よ。知らない?」

 カエデは無邪気に微笑んで言った。人を死に追いやるようなものを渡す時のような表情ではない。夏希はそう思いつつも、聞き覚えのある「水上」の名前が出たときから冷たい汗が流れていた。




 少し雑然とした、だが雰囲気がよく安価なメニューを提供してくれるチェーンの喫茶店は高校生でも気楽に入れる場所だった。
 何度目のコールだろう。少しも目的を果たしてくれそうにもない携帯電話に沢渡陽子は苛立ちを覚え始めていた。

「あーっ、もう! 何処ほっつき歩いてんだかっ」

 沢渡は携帯電話をやや乱暴にテーブルに置くと、身体を椅子の背もたれに預けた。大きくため息をつく。

「ここんところ学校にも来てないんだよねぇ……」
「大丈夫なんすか? その人」

 苦笑いをしながら言ったのは沢渡の対面に座っていた杉本健司だ。杉本はエンジェルハイロゥというオカルトサイトに熱中している香津美を心配して、沢渡に相談を持ちかけたのだが特に進展はなく週末を迎えてしまっていた。
 というのも沢渡もあてにしていたオカルトに詳しい友人がつかまらずにいたのだ。それは森川恵理で、偶然にもこのとき恵理はエンジェルハイロゥの降夜祭に参加していた。その会場が地下だったために携帯電話が繋がらなかったのだが、当然沢渡がその事情を知る由もない。

「恵理ほどこう言うことで頼りになる奴を知らないけどね」

 沢渡は苦笑いをして答えた。

「でも、こんなものが……」

 杉本のとなりでテーブルに置かれた木偶人形を見つめたのは三浦香津美だ。薄いレンズの奥の瞳には不安が宿っていた。その木偶人形も彼女のものだ。

「そうと決まったわけじゃないけど、こないだの自殺の子、遺書も何も出てないらしいよ。他殺って言うような感じでもないらしいけど。それに、その子も持っていたらしいじゃない? それ」

 沢渡は指先で木偶人形をつついた。

「そう言われると不気味なんですけどね」

 香津美は肩をすくめて言った。

「まぁ、それはともかくとして、私としては部活をサボるほうが問題だわ。香津美、一応団体戦のメンバーだし、大会も近いわけだからね……空手の他に趣味を持つのは私から何か言うつもりはないけどさ」
「それはわかってますよぉ。今日だってオフ会あったけど部活出ましたよ。というか、もう行っても相手にされないかも」
「どう言うことだ?」

 杉本が怪訝そうに訊いた。香津美はやや困ったような顔をしたあと、自嘲気味の笑みを浮かべて答えた。

「『降夜祭』って言うエンジェルハイロゥのオフ会なんだけど、ある音楽がかかるとみんな一斉に眠ってしまうの。で、寝ている間みんな同じ夢を見てるらしい」
「らしい?」

 沢渡と杉本が異口同音に訊いた。

「うん……私はそれで眠らなかったの。それが『力』のない証拠だって。だから、力がない人でも、霊的な災いから護ってもらえるようにこのお守りを渡されたってわけ」

 それを聞いて杉本は難しい顔をして黙り込んだ。
 沢渡は頭を掻いてため息をつくと、強い口調で反論した。

「それって催眠術かなんかじゃないの? たまたま香津美はそれにかからなかっただけで。そういうのってたまにテレビでやってるよね。エンジェルハイロゥを否定するつもりはないけどさ……そんあので相手にされないなんて香津美が可哀想だよ」

 沢渡は本来香津美が部活をおろそかにしていることを注意しようと呼び出していたのだが、今はエンジェルハイロゥで香津美が仲間はずれにされていることに腹を立てていた。
 と、一人杉本が難しい顔をして木偶人形を見つめていた。それに気づいた香津美が彼の顔を覗き込んだ。

「ん? どうしたの? 杉本君」
「うーん……皆が寝るって言うのは催眠術とかって沢渡先輩が言うように聞いたことあるんだけどさ、同じ夢まで見るってのは聞いたことないな、って」

 と、杉本が半ば戸惑ったようにつぶやいていると、無造作に置かれていた沢渡の携帯電話が振動をはじめた。着信があったのだ。

「もしもし」

 沢渡は急いで拾い上げて電話に出た。彼女の予想通り、その相手は森川恵理だった。




 木偶人形を受け取ってからの夏希は明らかに落ち着きがなかった。
 見かねた恵理は彼女の体調を心配する理由で『降夜祭』を抜け出していた。

「ん? 留守録? 沢渡からだ」

 その時ようやく携帯電話の電波が届く地上にでたため、彼女は携帯電話の着信に気が付いた。手馴れた手つきでダイアルを呼び出し、発信する。

「もしもし」
『ようやく繋がった! 恵理、何処へ行ってたのよ、もう。学校にもこないし』

 電話の向こう側で恵理とは対照的な元気な声が聞こえてきた。苛立ちと安心と入り乱れた感情が聞き取れる。

「いろいろあったのよ……で、どうかした?」
『いろいろ聞きたいことあってさ。恵理、エンジェルハイロゥってオカルトサイト知ってる?』

 キーワードに恵理は一瞬だが驚きの表情を作った。

『もしもし? 恵理聞いてる?』
「ん。ごめん。知ってるわ……でもどうして沢渡が?」
『後輩がね、ハマったらしいの。今ここにいるんだけど』

 恵理はいやな予感がした。そしてそういう予感こそ当たるものだと彼女は思っていた。そしてこの場合、それはまさに正しかった。

「その子、木偶人形は持ってる?」
『木偶人形? あるよ。今、目の前に……やっぱりコレが何か関係してるの?』
「陽子、後で私の家にこれない? 私は今、新宿だから……そうね、一時間後に。その子も一緒で。詳しく話がしたいの」

 電話機の向こう側で沢渡が確認を取る声が聞こえた。

『オッケー、じゃあ一時間後ね』

 約束の後、電話を切った恵理は夏希の方を見た。
 夏希は外に出てからも落ち着きのない表情をしていた。恵理は小さくため息をつくと、彼女の肩を叩いた。

「私の友達がエンジェルハイロゥに関わって木偶人形を渡されたっていう後輩と一緒にいるって。もしかしたら夏希ちゃんの友達かもしれない」
「え……香津美が?」
「その子と決まったわけじゃないけど、同じ学校でこう言う事に巻き込まれてる生徒がそんなにいる、とは考えにくいわ。これから私の家で落ち合うことにしたんだけど、あなたも来る? 私は一人暮らしだから遠慮はいらないわ」

 恵理は笑顔を作って言った。元々人付き合いはそれほどうまくなかった彼女だった。恵理は名家の令嬢として生まれ育ち、お嬢様学校で有名なフェイノール学園に在籍していた。家庭でも学校でも尊厳と欺瞞に満ちた生活だった。そんな恵理も「孤高の人」から瑞穂学園に転校してから、周りの影響を受けて徐々に軟化をしていた。
 もっとも彼女自身は友人の沢渡陽子と比べては、彼女の様に行かないと悩んでいたのではあるが。

「いろいろお話聞きたいこともあるし……いいですか? 先輩」

 夏希は戸惑いながら答えた。
 恵理は頷いた。

「じゃあ行こう」

 彼女は駅に向かって歩き始めた。半歩遅れた格好で夏希が彼女に従った。夏希は右手に木偶人形を掴んだまま、それを胸に当てる。木偶人形を通して心臓の動きが右手に伝わった。

「これを持っていると死ぬんですか?」

 夏希は恵理を追いかけながら言った。唐突な質問に恵理は驚いて振り返った。
 彼女には理解できない光が夏希の目に映っていた。
 死を予感していながらも、彼女の目には恐怖や不安ではなく、希望のような明るさがあったのだ。それは恵理が見たことがない瞳の色だった。たった一人を除いて。
 それは恵理自身だった。かつて彼女はそのような光の目をしていた。彼女は死ぬことにある種の希望を感じている、そう言う時があった。




 駅前の繁華街を抜けて公園に至り、その向こう側に森川恵理が住むマンションはある。一時間という待ち時間は活発な少年少女達をひとところにとどめているには少し余裕がありすぎた。
 喫茶店とゲームセンターで時間をつぶした杉本たちは少し時間が早かったのだが、恵理のマンションを目指していた。

「あれ? 香津美?」

 道案内役の沢渡はふと振り返った。そこには杉本だけがいて、香津美の姿がない。杉本がやや驚いた顔をして沢渡に追って振り返った。

「あ、先輩、あそこ」

 杉本が指を指した。沢渡は彼の指の方向を見ると香津美は上品な感じのするブティックの前で立ち止まっていた。
 彼女はウィンドウに飾られた洋服を見ていた。

「しょうがねえなあ」

 杉本が腰に手を当てて苦笑いをした。そのセリフに女になれているな、と沢渡は感じた。女子にはありがちな行動だ。それを杉本は理解しているのだから、沢渡の受ける印象は間違っていない。
 二人は香津美が立ち止まっているところまで戻った。

「香津美!」
「あ、ごめんなさい。ちょっと見ていってもいいですか?」

 香津美は悪びれもなく言った。杉本が呆れたような顔をする。

「おい、三浦……」
「うーん、まあ、このまま行っても待ちぼうけだしね。すこしなら」

 杉本は香津美を止めようとしたが、ウィンドウを見上げた沢渡もその店の雰囲気を気に入ったようだった。
 香津美は喜び、その後で沢渡も目を輝かせて店に入る。最後に杉本がため息をついて続いた。
 店内は木目を基調とした落ち着いた感じだった。外のウィンドウの部分と店内は壁紙で仕切られ、ドアも重い木製ため、外の喧騒とは隔離されている。香津美はそのどこか大人っぽい雰囲気をとても好ましく思った。

 店内には他の客の姿は見当たらず、ゆっくりと三人は品定めをはじめた。といっても杉本はそれを横で見ているだけで、落ち着きなさそうにしているだけだったが。

「なんだかやたらマネキンの多い店だなぁ」

 杉本はぼんやりとそんな感想を述べたが、女性陣は服を見るのに一生懸命で彼の言葉は届かなかった。

「あ、これいいな。買っちゃおうかな」

 香津美がTシャツを見つけて、財布の中身を確認する。

「ん、そろそろ時間だから買うなら早くね」

 沢渡が促した。香津美はそのTシャツを買うことを決めて、奥のレジへ向った。若い女性の店員が座っている。先ほど、レジ近くの棚を整理していた店員だった。

「あの、これをおねがいしますー」

 香津美がカウンターにシャツを載せる。レジの店員は営業スマイルで立ち上がり、会計を行う。それが香津美の予想だった。だが、店員はぴくりとも動かない。彼女は不思議に思い、店員の顔を覗き込んだ。

「ひっ!」

 香津美は思わずしりもちをついた。それはマネキンだったのだ。何時の間にすり替わっていたのか。
 いや、レジに何故店員の格好をしたマネキンが必要なのか。香津美は混乱した。

 すると、その店員の格好をしたマネキンが動き始めた。
 間接を人の曲がる方向とは逆に曲げ、カウンターを乗り越え、香津美に覆い被さろうとする。

 さして広くない店舗に香津美の悲鳴が響き渡った。
 杉本と沢渡がはじかれたように悲鳴の上がった方向を見る。人形のような店員が、否、人形の店員がゆっくりと動き、香津美を襲おうとしている。それだけではない。店舗内のマネキンというマネキンがゆっくりと動き始め、二人に近づいてくる。

「うわあっ」

 二人は悲鳴を上げた。慌てて、入り口を目指して走り始める。

「香津美、逃げろっ」

 パニックの中、沢渡が声を上げた。その声に香津美も必死に立ち上がり、出口を目指して走り始めた。

 転がり出るように杉本、そして沢渡が店内から飛び出す。それは出口に近かった順だ。続いて香津美が飛び出そうとその時、勢い良く入口のドアが閉まる。

「えっ?」

 誰もいなかったはずだ。沢渡は振り返ってドアのノブを掴んだ。それは鍵でもかかったの様に固くびくともしない。

「香津美! 香津美!」

 必死になって扉を叩き、後輩の名を叫ぶ沢渡だったが、その扉の内からは何の反応も返ってこなかった。
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