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放課後TwilightZone 作者:水夜ちはる

2.ヒトガタに宿る魂

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第2話:「天使の輪」

現代ファンタジー・吸血鬼モノの伝奇ライトノベル。
 他の二人が感じた衝撃よりも、自身が感じた衝撃は小さいものだと夏希は思っていた。事実そうであり、彼女が霊視能力を持っていたり、自殺願望があるということも原因の一つだった。彼女は死と言うものに他者より近い。

「それ、なんだか気味が悪いな……」

 杉本が言った。香津美がもっていた木偶人形のことだ。

「え?」
「俺、それがあの自殺と関わってんじゃないかってさ、思うんだ。何の根拠もないんだけど」

 杉本は困った顔を作っていった。彼自身、感でしかないことだったからその口調ははっきりしたものではなかった。

「でも、これお守りよ。エンジェルハイロゥってところからもらったの」
「エンジェルハイロゥ?」

 異口同音に夏希と杉本が聞き返した。
 エンジェルハイロゥとは、最近インターネットのとあるサイトを発端とするカルト宗教にも似たオカルトマニアの集まりだ。香津美はそれを説明するともう一度二人に木偶人形をみせた。

「で、これを『降夜祭』っていう、まあいわゆるオフ会なんだけど、そこでもらったの。なんとなく不思議な感じしてさ、それ以来持ってるんだけど……でも、そこのリーダーの人は『不吉なものから護ってくれる』って言ってたよ」

 夏希は戸惑いながらも何も言えずにいた。
 その手のもので大抵のものは胡散臭いものだ。自分の能力と過去の経験からそう言った集団は好きになれなかった。無論、彼女は香津美にも霊視能力のことは話していない。
 だが、それでも香津美が信じていると言うなら、何も言う事はないだろう。夏希はそう思ってこの場で何も言わなかった。




 夏希は帰り道、一連の会話を思い出し杉本の言葉が心に引っかかった。一度引っかかるとたちまち一瞬にして夏希の心を不安で埋め尽くす。

 もし、あれが原因で香津美がいなくなってしまったら。

 足早になる。不安から逃げるように彼女の足は前へ進む。
 香津美の持っていた木偶人形には何も感じなかった。だから大丈夫だ。そう言い聞かせて彼女はマンションの扉を開けた。

「ただいま」

 静寂に包まれた薄暗い部屋は、彼女が家を出たときから時間の流れが止まったかのようだった。
 習慣的に言葉を出したが、返事をする人はいない。

 夏希の家は母子家庭で、たった一人の肉親である母親は仕事で夜遅かった。だから彼女が扉を開けるときは何時も一人だ。
  テーブルに一枚の置手紙がある。やや伸ばしっぱなしのような前髪を彼女は右手でかきあげながらそれを手にとった。それは夕食が冷蔵庫に入っていることを伝える簡素な手紙だった。

 母親が女手一つで自分を育てている忙しさを理解していた。理解していても釈然としないものが彼女の中に残っていく。
 学校で孤独を感じ、家庭で孤独を感じ、彼女は母親に暖かさを求めた時、

「もう自立して生きる力を身につけなきゃ」

 と、彼女の母親は返した。それに対して夏希も言った。

「家計を助けるためにバイトをはじめたい」

 と、彼女が訴えた時、それは母親に却下された。
 彼女の母親はこうして彼女をほったらかしにすることで自立を求め、そして同時に親の言いつけを守るよう求められていた。その矛盾が彼女を軋ませていた。

 母親の置手紙を見るたびに左手の傷がうずいた。




 火照った体が内から冷めていく。欲求を満たす。その行為が得も知れない快感をもたらしてくれる。

「ぷはーっ」

 キンキンに冷やした麦茶を喉に流し込こんで杉本健司は大きく息を吐き出した。
 空手部の彼は夏の太陽と湿気で蒸れた武道場の中で汗を流した直後だった。ひと時の休憩時間に武道館の入り口の影で、水筒の麦茶を一気に飲み干したところだった。

「おっ、今日はまじめに練習でてるね」

 彼の背後から聞きなれた声が飛んできた。振り返るとそこには軽い茶色のショートカットで活発そうなイメージの上級生が微笑んでいる。制服のミニスカートから伸びる健康そうな長い足が活発さをさらに強調していた。

「今日も、ですよ。沢渡先輩」

 杉本は苦笑いを浮かべながら頭を書いた。現れた女生徒、沢渡陽子は空手部マネージャーである。今年はもう三年生で部活に顔を出すことは少なくなったが、三年生の中ではよく顔を出すほうだった。

「どうかなあ? あんた実力はあるんだけど、よく練習サボるからなぁ」

 沢渡の顔はにやにやと緩んでいる。当然冗談のカマかけだ。

「というか、俺より三浦の奴の方が心配っすよ。ここんところサボり多いし……昨日、たまたま話すことがあったんだけど、なんか妖しげな事にハマってるみたいで」
「妖しげな事?」
「えーと、エンジェルハイロゥって言ったかな。オカルトマニアの集まりとか言ってたけど、そう言うのに興味あるみたいっすよ」
「オカルト? うーん、まあ個人の趣味にとやかく言いたくないけど、練習こないのは困るなあ」
「まぁ、女子部のことだし、俺が言うより先輩からいってもらったほうがいいかな、と」

 杉本が腕組みをして言った。沢渡は中学の時に空手の全国大会で準優勝まで行っている。そのとき痛めた足のため、現在はマネージャーをしているがそれでも部員の信望も厚い。明るい性格やあっさりした性格などもそれに寄与しているだろう。杉本も他に漏れず沢渡陽子という先輩マネージャーを信頼していた。

「うん、オーケー。でもなんで杉本が香津美のことを心配するかなあ?」

 沢渡は悪戯っぽい上目遣いの視線で杉本を見た。口元が含んだ笑いを形取っており興味本位な疑いが多分に含まれているのが明らかにわかる。杉本は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。

「ふと気になっただけっすよ。クラスメイトだし……それに本当ならまじめな奴じゃないすか。あいつ」
「ふーん……まぁいいけど。ほら、休憩終りじゃない?」

 沢渡は軽く笑って視線を杉本の肩越しへ投げた。杉本が振り向くと部員たちが集まっている。休憩時間は終わったようだった。

「やっべ……じゃ、そういうことで!」

 杉本は胴着の帯を締めなおすと慌てて集まっている部員の方へ駆けて行った。
 沢渡は杉本を見送って空を見上げた。
 燦然と夏の太陽がグラウンドを照らしている。野球部やサッカー部がその灼熱のグラウンドで練習を繰り広げている。

「オカルト、ねえ……ま、夏だしね。詳しそうな奴に聞いてみるかな」

 沢渡はそうつぶやくと武道館を後にした。彼女はそのキーワードについて相談するなら、誰を選ぶか選択の余地はなかった。その手の事に関しては右に出る者はいない人物が彼女の親友にいた。




 夏希たちが通う私立瑞穂学園は私立の学園としてもかなり大規模な学園に分類される。設備もその規模に見合うだけのものがあり、生徒にパソコンを触らせる教室がいくつか用意されていた。その教室はIT関連の授業の他、放課後や昼休みに一般生徒にも解放され、自由に触ることができる。
 夏希はその部屋に入って一つの端末を起動した。

 エンジェルハイロゥ――。香津美の言ったそれがどうにも気になってしかたがなかったのだ。

 しかし、パソコンが起動したあと、夏希は画面を見つめて途方に暮れる。
 パソコンはおろかスマートフォンも持っていない彼女は、ネットで目的のサイトを探し当てる手段を彼女は知らなかったのだ。

「うー……」

 一人ため息をついて、彼女は呆然とする。
 パソコンを立ち上げたは良いが電源の落とし方がわからないのだ。
 記憶の彼方では授業で電源の落とし方を教わったらしいが、パソコンに興味を持てなかった彼女にはその方法は靄のかかった向こう側にある。

 しばらく眉を難しそうに寄せたあと、彼女はゆっくりと電源ボタンに指を伸ばした。

「こらっ」

 その瞬間、夏希の背後で鋭い声が飛んだ。
 夏希は驚いて手を引っ込める。

「ちゃんと終了させないとトラブルの原因になるよ」
「す、すいませ……」

 夏希は振り返りながら謝ろうとして息を飲んだ。
 反射的に強張った体が立ち上がり、その拍子に机と椅子にぶつかって派手な音を立てた。教室にいた生徒数名が彼女たちを見る。
 夏希を注意した女生徒は驚いた顔で夏希を見つめた。いや、夏希の方こそその女生徒の数倍驚いた表情を浮かべていた。

「どうかした?」

 その女生徒は首をかしげて夏希に問い掛けたが、夏希は声を出せなかった。
 彼女は昨日、自殺体の側で人形を拾い、夏希と目があったあの恐ろしくも美しい上級生だったのだ。

「終わらせたいの?」

 彼女はパソコンのモニタを覗き込みながら夏希に訊ねてきた。

 そのやわらかな雰囲気に夏希は少し冷静さを取り戻して彼女を見た。確かに姿や顔は昨日見た上級生だ。間近でみればその美しさが際立っている。これほどの美人を見間違うはずがない。しかし、彼女が持っている雰囲気は柔らかで暖かだ。昨日の冷たい印象とはまるっきり別人だった。

「あ、あの……」

 夏希はしどろもどろに訊ねようとしたが、元々会話が苦手であったし初対面となればなおさらだった。

「あ、さっきはごめんね。そんなにビックリさせるつもりはなかったんだ。私は水上鏡子。三年よ」

 鏡子は微笑んで言った。

「あ……私、二年の川村夏希です」

 夏希は昨日の記憶に戸惑いながら答えた。間違えようのない外観。だがあまりにも違う印象。彼女は確かめたかった。

「あの……インターネットで調べたいことがあったんです」

 彼女は意を決していた。生唾を無意識に飲み込む。緊張した面持ちで口を開いた。

「……エンジェルハイロゥ、って言うホームページなんですけど」

 自殺体の下で鏡子が拾った木偶人形と、香津美がエンジェルハイロゥでもらったと言う木偶人形。それらが同じ出所のものならば、鏡子は何らかの反応を示すだろうと彼女は予測した。

「エンジェルハイロゥ? じゃ、やってみるから見ててね」

 鏡子は頷くと自然な仕草でキーボードをたたき始めた。その様子にはキーワードに反応したそぶりはない。夏希は拍子抜けした。

「あの、先輩……先輩と私、どこかでお会いしませんでしたか?」
「え?」

 鏡子はモニタから目を離し、夏希の顔をまじまじと見た。端正な顔に埋め込まれたやや碧がかった瞳がじっと夏希の顔を直視している。夏希は綺麗な上級生にじっと見つめられて気恥ずかしさからか、胸が高鳴って頬が紅潮した。

「うーん……多分初対面だと思うけど。もし会っていたら、ごめんなさい」

 鏡子はやや困ったように言った。その表情に嘘はないと思う夏希だった。夏希も困ってしまいうつむいてしまった。

「いえ、私の方こそ勘違いかも……」

 勘違いなのか人違いなのか。夏希は昨日の記憶に自信が持てなくなっていた。
 鏡子はモニタに向き直り、わずかな操作をした。

「でたわ。これかな?」

 夏希が顔を上げると確かにエンジェルハイロゥとロゴが描かれたホームページが表示されている。

「後はリンクを辿ればいろいろ見れると思うから」

 鏡子は微笑んで立ち上がった。

「あ、あの……ありがとうございます」

 戸惑いながらも夏希が礼を言うと鏡子も笑って頷き返した。
 立ち去る鏡子を見送ってから夏希はモニタを見つめた。慣れない手つきでリンクを辿りページを閲覧する。

 掲示板の書き込みやサイトの更新は頻繁でかなりのアクセスのあるのが伺えた。内容は、閲覧者からの投稿された怪談話などオカルト話が中心だった。
 内容の信憑性や真実性などはともかくとして、オカルトの分野に興味のある人間なら、十分に惹き付けるだけのものはあると夏希は思った。

 『降夜祭』と呼ばれるオフ会は毎週土曜日に行われているらしく、初めての者でもゲストとしての参加も可能だと書かれている。

「どうしようかな……」

 夏希はそうつぶやきながら、掲示板のリストを眺めていた。と、ある記事が目に付いた。

『ここで知り合ったカリンちゃん……しばらく連絡が取れないな、と思っていたら。七日の夜に自殺してたそうです。あのカリンちゃんがどうして自殺なんか……どういうわけかは判りません。ただ、ただせっかく知り合えた……』

 内容は続いている。夏希は背筋が凍る思いがした。
 それはエンジェルハイロゥに関わった人間で、昨日の上級生以外にも自殺者が出ていると言うことだった。
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