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放課後TwilightZone 作者:水夜ちはる

1. セーラー服の復讐者

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第2話:「夢と現実と」

現代ファンタジー・吸血鬼モノの伝奇ライトノベルです。
 まもなく朝のホームルームが始まろうと言う教室はざわめきにあふれ返っている。その中で裕也は黒髪の美少年と向かい合わせに座っていた。流れるような長めの黒髪、白い肌、はっきりとした目鼻立ち、少しだけ優美な感じのする唇。それを絶妙にちりばめた卵形の顔。下手な男性アイドルよりずっと美形だった。裕也の親友、小田桐拓郎である。裕也も割と整った顔立ちの少年だが、この小田桐と比べては分が悪い。

「そりゃ裕さん。なんかおかしいぜ」

 裕さん、これは小田桐独特の裕也の呼び方だった。

 この小田桐拓郎と言う少年は、裕也の認識では校内一の美少年である。それでいて成績優秀、スポーツ万能。そんな彼を校内の女子が放っておくはずはない。拓郎には追っかけ軍団はできるわ、休み時間にはやたら来客がくるわでとんでもないこと限りない。

 だが、拓郎の通り名は「オタク」であった。おだぎりたくろうの「お」と「たく」をつけたものだが、彼の内面を表して良く表していた。とにかく小田桐と言う少年は自分の興味を持ったものに対して徹底的な知的好奇心を持ち、執着心も群を抜いていた。とにかくマニアックなのである。そして彼の興味は多岐にわたるもので、その知識量は高校生離れしていた。

「裕さん、夢ってやつはその見る人の脳みそに詰まっている情報が、断片的に引き出されて作られるもんなんだ。そりゃ多少は想像力から生まれてくるものもあるかも知れないけどな」

 裕也ははその小田桐に昨夜の夢とテレビで見た光景が一致した事を相談した。裕也と小田桐は中学時代からの付き合いで、他の友達に相談できない事を相談できる仲だった。そして小田桐はこのような現実離れした事にも真剣に答えてくれる、稀な性格の持ち主だった。

「本当にそこに行った事はねぇの?」
「ああ、確かにないし、確かに夢で見た場所だった」

 裕也は昨晩見た夢がしっかりと脳裏に焼きついていた。それが風化しないうちにあのテレビのニュースを見たのだ。あの殺人現場は彼が夢で見た場所であり、彼が今まで行ったことのない場所だった。

「ふうん」

 小田桐はあごに手をあてて考え込むような表情をした。
 彼は真剣に考えた。だからこそ裕也は彼に相談を持ち込んだのだ。彼以外の友人なら冗談半分で笑い飛ばされただろう。
 だが、チャイムが鳴ってホームルームの時間がきてしまった。

「ああ、裕さん。この事はまた後でな」

 小田桐は立ち上がり、人懐っこそうな笑みを浮かべて自分の席へ戻った。他の生徒たちも各々自分の席へ座っていく。

 裕也はもうひとつの重要な事を思い出して視線を滑らした。
 その目的地は草薙真奈美の席だった。指輪の事、昨日の事。話さなければならない事は想像ができないくらいあった。

 だが、その場所には草薙の姿はなかった。一人分、ぽっかりと空いたスペース。草薙の席は空席だった。

 裕也は落胆すると同時に胸をなでおろす気持ちだった。裕也は情けないことに彼女に第一声をどうかけて良いか分からなかった。このことを小田桐に相談しなかったのは彼の自尊心というよりは羞恥心のなせる業だった。



 結局、そのあと裕也は小田桐とゆっくりと話をする時間を取ることはできなかった。小田桐は追っかけ集団の相手で、まともな休み時間をとれなかったからだった。そんな彼に彼女の一人もいないのだから不思議なものだ。彼女ができたと言えば、少しはその人数も減るのではないかと裕也は考えるのだが、逆に小田桐が特定の女子と付き合おうものなら、その女子にどんな人為的な不幸が襲い掛かるか分かったものではない。

 小田桐の事だからその辺のことを考えて彼女を作らないのかもしれない。もっとも、彼は気さくな割には自分のことをあまり話さない。裕也は彼の本心はどうなのかわからなかった。

 一方、草薙は今日は結局学校に来なかった。裕也はまるで肩透かしを食らったような感じだった。

 裕也は草薙の事を考えてみても、見た目は十分に可愛いと思うし、運動部で活発な印象があって記憶に残りやすいタイプだが、彼女の言葉についての記憶はどうにも思い出せないでいた。
 そうしてあれこれ考えているうちに時間は勝手に進んでしまう。いつの間にか放課後になって教室の中は部活動に急ぐもの、ふざけ合うものでざわめいている。

 裕也は自席で草薙の事、夢の事を考えていた。
 その彼の視界にモップの柄が浮かぶ。それは彼に直撃する軌跡を描いていた。

 それは現実の風景ではない。
 裕也の秘密の能力だった。

 彼には未来を見る力があった。だが、予知とか予言とか大それたものではない。ほんの少し、そう時間にして数秒だが、裕也には未来を見ることができた。残念な事にそれは自分の意思で見ることはできない。それは突発的に彼の視界の中に飛び込んでくる。

「あぶない!」
「おっと」

 その声はほぼ同時だった。掃除道具でふざけていた男子生徒が手を滑らせたモップが、裕也の死角から直撃しそうになっていた。それを彼は振り向きざまに受け止めたのである。
 男子生徒は驚いて目を丸くした。

「すげえな、裕也」

 裕也はぎくりとした。

「何が?」
「今良く受け止められたな、って」
「いや、ただ振り向いた時にたまたまだよ。それより気をつけろよな」

 裕也は適当なことを言ってごまかした。その能力を知られるのはトラウマだった。

 たかだか数秒の未来。しかしそれがスポーツだったら大きな力となってしまう。
 彼のその力がはじめて働いたのは小学生のときのミニバスだった。相手チームのエース級の選手を裕也は難なく、それも何度も止めた。裕也が特別上手かったわけではない。裕也にはその相手の動きが先に分かってしまったからだ。

 所詮は小学生だった。彼はいい気になって「俺には未来が見えるんだ」と自慢しまくった。チームメートたちは半信半疑で有頂天になっていた裕也を試した。だが、その時には彼の未来視はまったく働かず、チームメートたちは彼をうそつき呼ばわりをしていじめた。結局裕也はそのチームを辞めることになった。

 小学生の時の話だが、裕也の中ではトラウマとなって残っていた。
 いまならその能力を隠して運動部の活動をする事もできるだろう。言わなければ誰にも分からない能力だ。しかし、結果のわかってしまう勝負事に裕也は熱中する事ができなかった。

 裕也はこの能力で良い思いをした事はない。
 そしてこの能力を知っているのは裕也と妹の千明だけだった。逆に千明は突発的にだが過去の出来事を見ることがある。なぜこんな能力があるのか、兄妹もその原因を知る術を知らない。最も知ろうともしない二人ではあったが。

 裕也は小さく息をついた。小田桐の話を信じるならば、夢で見る光景は記憶の中から作り出されるものだと言う。だが、俺のような普通の人間なら見ることのできない未来を見れる人間はどうなのだろう? 見たことのない場所も未来に見た場所として記憶に乗せる事ができるのだろうか? それが夢に出てくる可能性もあるのだろうか?
 裕也はそう考えた。だが彼は今までそんな夢を見たことはなかった。考えても答えなど出でなかった。

 裕也は軽く頭を横に振ると席を立った。
 ここにいてもどうしようもなかったからだ。

「あ、裕也! まだ帰ってなかったんだ」

 廊下から良く通る声が飛んできた。声の主は短めの髪型で大きな目、そしてミニスカートから伸びた健康的な足が特徴的なクラスメイトだ。
 沢渡陽子。裕也とは幼馴染だった。

「ったく、真奈美になんて返事をしたの?」

 沢渡は不機嫌そうだった。表情にメリハリがあるのも彼女の特徴のひとつだ。ちなみに草薙の手紙を裕也に持ってきたのは彼女だった。

「返事?」
「だって、真奈美、昨日裕也に告ったんでしょ?」

 裕也は即答できなかった。その代わり顔が紅潮した。それが彼自身でも良くわかったから余計に恥ずかしく思った。

「はぁ、裕也ってわかりやすいよね」
「悪かったな」
「その様子じゃ、変な返事を返したわけじゃななさそうね」

 沢渡はあきれたような声で言った。

「……返事をした、というかなんて言うか、一方的だったよ、草薙は」
「一方的? なんだかよく分からないけど。とにかく、裕也が真奈美をふってそれがショックで休んだのかな、って思ったから」
「だったらどうするつもりだったんだ?」
「一発シメておこうかと思って」
「勘弁してくれよ」

 裕也は本気でそう思った。小柄でやや幼く見える沢渡だが、中学の時、空手で全国大会準優勝の成績を持っている。怪我さえなければ、優勝は間違いなしと言われていた実力者だった。彼女はその事を自慢気に話したりはしないし、それを知っている同じ中学の人間も高校に入ってクラスがバラバラになってしまえば特に話題に上るような事もなかったので、その事を知っている人間は少ない。
 彼女は現在、空手部のマネージャーを勤めていた。

「じゃあ真奈美が休んだのは他の理由か……」

 沢渡は妙に安心した顔でつぶやいた。何故、そんな顔になったのか裕也には分からなかった。

「で、裕也、付き合うの?」
「って言われてもなあ、『付き合って』と言われたわけじゃないしな」

 裕也は言葉を濁した。正直なところ裕也は恋愛に疎く、草薙の言葉に対してどういった反応を示せばいいのか分からなかった。

「あー、はっきりしない男ね! ったく、真奈美の奴、こんな男のどこがいいんだか」

 沢渡は半分怒ったような、半分あきれたような顔で裕也を睨んだ。裕也は肩をすくめて視線を逸らした。
 そのあと沈黙が続いた。廊下から女子の遠い笑い声が二人に届いてくる。

 その気まずい空気を破ったのは裕也の携帯電話だった。短くメロディが鳴った。メールを着信したのだ。裕也はこれ幸いにとばかりに携帯を取り出してメールを開いた。

『やっぱり、今日は遅くなります。ご飯は適当に食べてね』

 千明からのメールだった。裕也はますます憂鬱になってため息をついた。

「はい、コレ」

 沢渡がメモ帳の切れ端を裕也に渡した。そこには十一桁の数字の羅列があった。
 裕也は沢渡の顔を見た。

「真奈美の携帯の番号。夜でもいいからかけなよ」

 沢渡は微妙な顔だった。困ったような情けないような、それでいて口元は微笑んでいた。

「サンキュな、沢渡」

 裕也は沢渡からその紙を受け取って教室を出た。



 裕也が家に着く頃、空は紅く染まっていた。徐々に季節は進み、太陽が沈む時間は早くなっている。彼はマンションのエントランスに入ろうとして立ち止まった。今日は千明の帰りが遅い為に妹の夕食にありつけないからだ。きっと千明も外食してくるに違いないし、裕也も料理が出来ないわけではないが、一人前を作るくらいなら外で食べて帰ろうと考えた。

 裕也はエントランスの前でターンすると商店街にある行きつけの定食屋へと足を進めた。
 裕也の自宅から商店街へ抜けるには大通りと裏道がある。裏道は一直線にその目的地へと向かっている最短ルートだった。彼は迷わずその道を選んだ。他に用事もなかったし、いつも通る道だったからだ。

 裕也は人通りの少ないその道を何気なく進んでいた。
 ふと彼は立ち止まった。ある交差点に目が行く。
 脳裏に記憶が鮮明によみがえってくる。

 ここは彼が通った事のない細い道だ。この道が何処へつながっていくのか、彼は知らない。無論、ここに住んで長いわけだからこの道がどのあたりに出るか想像くらいはついた。たしかに彼はこの道を使った事はない。だが、彼はこの道のある場所を確実に知っている。
 そう、ここはあの夢で見た場所につながる道だ。
 裕也は生唾を飲み込んだ。彼の知らない道の奥に彼が知っている場所がある。まるでトリックのような矛盾だ。裕也はその道に足を踏み入れた。

 裕也は入り組んだ路地を進んだ。人気のない暗い場所に黄色と黒のストライプのロープが張ってある場所に行きつく。夕日に紅く染められた場所は蒼い月の光に照らされたあの夢とは随分印象が違ったが、間違いなく彼が夢で見た場所だった。

 冷たいコンクリートで裕也の視界は埋め尽くされた。風雨でボロボロになったパイプと使い道のない捨てられたドラム缶。彼は昨夜、ここで女性を殺した。夢の中で。
 だが、それは夢ではなく現実だった。事実ここで一人の女性が昨夜のうちに殺され、死体となって発見された。

 裕也は背筋を冷たいものが触れて行く感覚に襲われた。寒からぬ憶測。

「俺が……まさかね……」

 彼は唇の端に固い笑みを浮かべてつぶやいていた。
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