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放課後TwilightZone 作者:水夜ちはる

1. セーラー服の復讐者

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第17話:「望外の終幕」

現代ファンタジー・吸血鬼モノの伝奇ライトノベルです。
 黒崎は戦い慣れていた。そして彼は恵理の持つ刀の力を知っていた。草薙と恵理に挟撃された時、彼は一瞬の判断で恵理の刀こそ脅威だと標的を切り替えていた。
 恵理たちのプランは、草薙の方が囮になるはずだった。それが逆になってしまったのだ。黒崎は手刀を繰り出した。驚異的な、吸血鬼の身体能力で繰り出されるそれは、恵理の全身全霊の運動神経を発揮しても避けられるものではなかった。

 死を覚悟する恵理。彼女の視界に影が入った。裕也が黒崎と恵理の間に身体を滑り込ませていた。未来視の彼だからこそできる反応だった。

「春日井君!」

 恵理は叫んだ。

 次の瞬間、黒崎の手刀が裕也の背中から突き刺さり、そして貫いた。

 簡単に裕也の胸板を貫いたそれは、恵理のセーラー服をわずかに切り裂く程度で止っていた。まさに紙一重だった。

「ちっ」

 黒崎が手刀を引き抜く。ポッカリと開いた裕也の胸からはおびただしい流血が飛び出し、恵理を真っ赤に染めた。

 血に染まるセーラー服の恵理。それは裕也がいつか見た未来だった。それは彼女自身の血ではなく、裕也の血だったのだ。お笑い種だ。だが、彼女が自身の血にまみれるよりはずっといい。裕也は紅くなっていく視界の中で思った。

「春日井君!」

 恵理が裕也の名を叫んだ。裕也の膝が崩れ、恵理に向かって倒れ込む。恵理はそれを必死になって支えた。

「森川……」

 裕也は彼女名を口にしたが、自身の声がひどく遠くに聞こえた。彼女の細腕では俺の身体は重いだろうな。いや、これだけ血が流れているのだ。少しは軽くなっているだろうか。裕也は恵理の腕の中、そんなことを思った。

「春日井君! ……どうして!」

 黒崎が標的を変えた。裕也が致命傷を負ったことに呆然としていた草薙に襲いかかった。やはり一対一では黒崎と草薙では差がありすぎた。一方的に草薙は嬲られる。勝ち目はなかった。
 草薙の戦いを横目で見た裕也は口にたまった血を吐きだして言った。

「森川。悪い……皆を護ってくれ……俺、森川さん、まもった、かわりに」

 一言一言に激痛が伴う。だが彼は強く言った。

「春日井君!」

 常に冷静だった彼女の表情が崩れくしゃくしゃになる。涙が溢れその声はもはや悲鳴のようだった。
 裕也は似合わないと思って苦笑いを浮かべた。だが痛みに目を開け続けることが難しくなる。

 裕也は寒さを感じた。血が流れ過ぎて体温が奪われているのだ。
 すると、彼は唇に温かくて柔らかいものを感じて驚いた。
 うっすらと彼は目を開けた。それは恵理の口付けだった。
 二人の口の中に溢れる血液が混ざり合う。

 沢渡と小田桐が裕也たちの様子に気づいて駆け寄った。沢渡が裕也の傷を見て悲鳴を上げる。裕也の傷は助かるとは思えないものだった。
 恵理は二人に裕也を預けて立ち上がった。

「護るわ。皆を――。春日井君が護ってくれたもの――!」

 彼女はそうつぶやき、唇を真一文字に結んだ。その唇からは赤い液体が伝う。彼女自身と裕也の血だ。

 彼女は黒崎に向かって駆けた。裕也はその時かすむ目で、確かに見た。彼女の瞳は赤く光っていた。それは吸血鬼の目の光だ。彼女は裕也の血で吸血鬼に目覚めていた。
 ぼろぼろのセーラー服姿の恵理は黒崎との間合いを詰めていく。
 黒崎は恵理に気がついて、草薙を投げ捨てた。草薙はさんざんにいたぶられて戦意喪失状態だった。

「その目、目覚めたと言うわけか」

 黒崎は始めて緊張を含んだ声で言った。

「あなたは殺すわ。あなたは大切なものを奪いすぎた」

 恵理の声には怨嗟がこもっていた。彼女の兄、そして春日井裕也。黒崎のために彼女は大切な二人を奪われようとしていた。

「俺とて吸血鬼の力が目覚めたとたん、俺はおまえら闇払いの一族に追われる立場になった。おまえらこそ俺から色々なものを奪った。だから俺も奪うのだ。おまえの友人もすべてうばってやろう!」

 黒崎が語調を荒げた。その言葉に恵理は体を怒りに振るわせた。吸血鬼の力は感情も増幅させるのか、彼女の髪が怒りに逆立っていく。

「させない、これ以上。誰も失わない!」

 彼女は鋭く叫ぶと、剣を構えて突進した。その速度は人のものではない。彼女はすでに吸血鬼なのだ。

 黒崎も体勢を整えて彼女を迎え撃った。吸血鬼と吸血鬼の正面衝突。恵理の刀が紅い閃光を放って翻る。それは確実に黒崎の胴体をなぎ払っていた。

「ばかな……」

 二人が対峙したときその実力は互角に見えたが、結果は恵理の圧倒だった。

「忘れたの? 私の血は、吸血鬼を殺すために何百年も磨かれてきた遺伝子なのよ」

 恵理が静かに言った。

「そうか、そうだったな……しかし、これほどまで、とは……」

 黒崎が崩れて行く。不死であるはずの彼が滅び、灰になっていく。

 恵理が勝利した。それを見届けた裕也は意思が遠くなるのを感じた。裕也の力が抜けていく。それを見た沢渡たちが金切声をあげた。だがその声も裕也の意識を留めるには至らず、彼は意識を混濁した闇の中へ沈めた。

 微かに冷たい風が肌を撫でていく。
 光が差し込んでいることがわかる。裕也はその光が鬱陶しかった。眠りつづけるには、明るすぎた。

「う……ん」

 耐え切れず裕也は目をゆっくりと開けた。
 ぼんやりとした意識が徐々にはっきりとする。そこは白で覆われた壁の部屋だった。所々に花瓶などの装飾品。部屋の隅に小さなテーブルと椅子が一脚あるほかは、深い茶色の広い絨毯の上には大きなベッドだけの部屋に裕也は眠っていた。
 真正面にある大きな窓は全開になって白いカーテンが風を受けて揺らめいている。そこから覗く光景はすっかり色を黄色くしたイチョウの木々だ。

「ここは……どこだ?」

 裕也はその場所に見覚えがなくぼんやりを辺りを見渡した。
 すると、小さな寝息が彼の耳に届いた。

「千明……」

 ベットの脇に上半身だけの乗せた格好で千明は寝息を立てていた。
 裕也は頭の中を整理した。
 彼らは黒崎と戦っていた。その時裕也は恵理をかばって致命的な傷を負った。その胸を彼は手で確認した。傷口はない。

「夢? いや……ここは天国、かな?」

 風の冷たさ意外は楽園のような風景に裕也はそう思った。
 すると、その静かな部屋に微かに会話が流れてくる。
 それは徐々に近づいてきた。

「だからさ、私も血を飲んだらさ、この足治るかな?」
「そう都合のいいものじゃないと思うけど」
「新しい傷にしかだめっぽそうなイメージだしなあ」

 そんな雑談を交わしているのは沢渡と小田桐、そして恵理だった。
 ドアが開く。

「春日井君」
「裕也」

 ドアを開けた二人の女子の顔が驚いた顔で硬直する。小田桐はにやっと笑ってごく近い未来を想像した。

「や、やあ……」

 どういう状況なのかいまいち把握できずに、とりあえず裕也は手を上げて言った。
 二人は裕也を見て硬直したまま沈黙が続いていた。裕也も挙げた手をどうしていいかわからずに、困ってしまった。

「……やあ、じゃないでしょ。やあ、じゃ!」

 沢渡は驚いた顔、泣き出しそうな顔、嬉しそうな顔をした後、突然怒鳴り始めた。
 千明が驚いて軽く飛び跳ねるように目を覚ます。
 裕也は訳が判らず、突然怒り出した沢渡の剣幕に上げた手をひっこめた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺には……何がなんだか。あれからどうなったんだ? っていうかここは何処なんだ?」

 沢渡は大股でずかずかとベッドまで歩き、怒った顔をしていたかと思ったら突然泣き出しそうな顔をした。

「裕也、七日も寝てたのよ……もう、起きないかと思ってた……」

 裕也は驚いて沢渡を見た。

「俺、七日も?」
「お兄ちゃん……あの時、すごい大怪我をして、普通なら助からない怪我だったのに……でも、私が駆け付けた時、不思議な力で傷がどんどんふさがって行った……」
「裕也も一瞬、真奈美みたいになっちゃったかと思ったよ。でも、そのあと丸々一週間こんこんと寝つづけてさ。一体どれだけ心配したか……」

 沢渡や千明の声が震えている。二人の目は潤んでいた。
 裕也はその二人の顔を見て現実感を取り戻し始めていた。

「俺、生きてるんだな」

 裕也はふと、目の前に立つもう一人の少女の姿が目に入った。もちろん、森川恵理である。

「森川さん……みんなを守ってくれたんだな」

 彼の真正面に立つ恵理の目も潤んでいた。溢れそうになるものをこらえているような唇。

「うん……護ったよ。あなたの言葉は、何時も大きな意味を私に与える……」

 恵理が泣きそうな顔で微笑んで言った。
 裕也は微笑み返した。
 恵理は黒崎を滅ぼす以上の何かを手に入れた。彼女が裕也たちに出会ったころ、彼女はこのような表情をすることはなかった。

「ありがとう」

 裕也がそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。

 廊下から金属が小さく触れ合う音が聞こえてきた。
 続いてドアをノックする音が部屋に響いた。するといろいろな医療器具を乗せたカートを引いた女性が現れた。
 短めの髪にメイドドレスに身を包んだ彼女は明らかに裕也たちとは歳が違って見えた。若いが大人の女性という雰囲気を持っている。

「あら……お目覚めになられたのですね」

 女性は裕也を見て微笑みながら言った。

「紹介します、春日井君。彼女は芹香。森川家の使用人です」

 恵理が言った。

「渡辺芹香、と申します」

 恵理の紹介に続いて、改めて芹香が頭を下げた。裕也たちも思わずつられて頭を下げる。

「芹香には春日井君の看護を頼んでいたの」
「うふふ、お任せください。といっても医療免許などは持っていないのですけどね」

 芹香に恵理以外の驚いた視線が集中する。裕也はもちろん、千明たちも初耳だった。千明たちは彼女が裕也の看病を手慣れた様子で行っているのを見ているから、驚きは一層だった。

「あはは、大丈夫ですよ。資格をとっていないだけです」
「うちではいろいろと普通の医療ルートに乗せられないものがあるから。偽の診断書や闇カルテなども彼女に作成してもらっています。もちろん腕は確かよ」

 恵理はけろりとした顔で言った。芹香も屈託なく笑った。だが裕也たちにはそれが怖い。
 沢渡はため息をつき、千明は最後まで不安と疑いの目で芹香を見つめていた。

「でも、お目覚めになったなら、これは必要ないかもですねえ……どうですか? 食欲は?」

 芹香が運んできたカートには点滴の機材が積まれていた。
 七日間も寝ていたのだ、無論裕也は何も摂っていないことになる。その間の栄養補給は点滴だけだったのだろう。彼はそう思うと急に空腹感に襲われて大きく腹がなった。

「ぷっ」

 一同静まり返った中、初めに吹き出したのは沢渡だった。

「なんだよ裕さん、元気じゃん」

 小田桐が言うと一同が爆笑に包まれた。裕也も笑った。こうしてみんなが無事なのだ、これ以上願うことが他にあると言うのだろうか。
 笑いが収まるとやわらかい表情で芹香が裕也の体温、脈、呼吸の状態を調べた。

「うん。大丈夫なようですね。では、点滴を止めて食事にするとしましょう。ただし裕也さんは消化の良いもので。お腹がびっくりするといけないから」

 恵理たちはお互いの顔を見渡して安心した表情をうかべた。だが、裕也はまだ引っかかるものがあった。あの時裕也は確実に死を感じていた。裕也が受けた傷は間違いなく致命傷だった。

「あの、芹香さん」

 裕也は深刻そうな顔をして彼女を見上げた。彼女は怪訝そうな顔をして彼を見返した。

「あとで教えてほしいことがあるんですが……いや、今でいいです。皆がいる前で」

 芹香は沈黙した。栗色の瞳が裕也を見つめた。

「俺はあの時致命傷だったはず。何故、その傷跡もなく今生きていられるのか……芹香さん、教えてください。そして森川さんのことも。彼女はあの時俺の血を飲んで……そう目が紅くなっていた……そして黒崎に彼女が勝ったのなら、彼女は吸血鬼になっているんじゃない、のか?」

 芹香はすっと目を閉じた。
 恵理はゆっくりと裕也に近づいた。
 他の三人は心配そうな顔をして芹香を見つめた。

「あの時、あなたは左の肺に大きな損傷と肺と心臓を繋ぐ血管を破られ、とても助かる見込みのある状態ではありませんでした。しかし、恵理様に呼ばれた私が到着したとき、既にあなたの傷はふさがりつつあったのです」

 芹香はゆっくりと口を開き、語り始めた。

「それはいわば『吸血鬼』の再生能力と同等でした」

 裕也は悪寒を覚えた。

「故に、精密検査を行いました。当然、普通の病院では行えないものですが……吸血鬼と人間とではDNAに大きな違いがあります……でも、裕也さん、あなたのDNAは確かに人間の物でした」

 芹香はすこし戸惑ったような表情を見せた。

「結論から申しますと、あなたは吸血鬼にはなっていません。その過程を説明するには仮説を用いねばなりません。私の仮説はこうです。あなたはわずかながらも吸血鬼の一族、つまり恵理様の血を飲んだ。その影響であなたは一時的に吸血鬼の力を得て、その不死身と言える治癒能力が傷を治した、と。ただその血の影響はあまりに少量だったためか、一時的にしか力を発揮しなかった」

 彼女も仮説を用いなければ説明が出来ない不可思議な現象だった。

「前例のないことです」

 彼女は申し訳なさそうに首を横に振った。

「とりあえず俺のことはわかりました。それで森川さんは……」

 裕也は無理やり自分を納得させると、次いで恵理を見た。
 芹香が頷く。

「恵理様は、元々吸血鬼の因子を含んだ一族の血を引いています。元々遺伝子に吸血鬼になる因子を持っています。問題は陰性か陽性かであって……一度に大量の生き血を飲むことでその因子は目覚めます。今の恵理様は……陽性が出ています。吸血鬼として目覚めていると言ってもよろしいでしょう」

 一同の視線が恵理に集まった。恵理は驚かなかった。彼女はそれをすでに知っていた。
 芹香は言葉を続けた。

「しかし、恵理様の陽性反応は日々薄れています。おそらくは飲んだ血の量が圧倒的に少なかったのでしょう。異物……おそらく自分の血も混ざっていたことで完全な覚醒にはならなかったようです……と言っても、陽性は陽性……確実に吸血鬼としての目覚めがあります」

 芹香は恵理をじっと見つめた。彼女に見られてそれまで平然としていた恵理の表情が少しだけ不安に曇る。芹香は冷静な顔で続けた。声も極めて平静だった。

「ただ、森川家の一族の中には何もない状態で、一時的に陽性反応が出る、そう言うことがあるようです。それゆえ森川恵理に関しては特に不問でよろしいでしょう……」

 芹香が急に表情を崩し、悪戯っぽく舌を出す。

「と、報告しておきました」

 くすくすと笑い始める芹香。恵理は驚いた表情で彼女見た。

「薬もなしで血を飲んだとあれば、もう森川家は恵理様を生かしてはおかないでしょう。そんな報告は私にはできません。それに一時的な陽性反応が出たとならば、恵理様をこのまま最前線に置くことはなくなるでしょう」
「え……?」
「万が一のことを考えてでしょう。戦いと言う激しい環境の中では、その陽性反応がどう拡大するかわかりませんから」

 恵理は納得がいかない顔をした。彼女は一線を引いて、その責任から逃れていいことを理解できなかった。
 芹香は優しげな表情で恵理を見た。

「黒崎は死んだのです。お兄様の敵はお打ちになられたのでしょう? もう無理に戦うことなどないのです。その身を削り、傷つくことも、悲しむことも」

 恵理は呆然と芹香を見つめていた。
 芹香は悠然とした仕草で器具を片付けてカートに乗せた。ゆっくりと絨毯の上をカートを押して扉の前に立つ。

「では食事の用意をいたしますので」
「芹香」
「はい」
「……ありがとう」

 恵理の目には一滴の光るものが浮かんでいた。芹香はそれを見て満足そうに微笑んでいた。
 裕也はすべてが終わったのを感じた。いろいろなことがあったが、望むべくもない結果だった。これでよかったのだ、と。
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