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季節のひみつ

作者:溟犬一六
2017/09/11 ページ区切りした連載版を登録しました。(内容はそのままです)
http://ncode.syosetu.com/n1577eg/

※ブックマークいただいてる+童話企画でURLが登録済みなので、こちらの短編版は削除せず、なろう検索対象外としています。
 あるところにゴードという太った魔法使いがいました。ゴードは魔法の力で島国(しまぐに)を作って、その国の王さまになりました。
 ほかの魔法使いたちはとてもおどろきました。どうしてかというと、魔法で海の上にとても大きなものを作ったら、その大きなものはぶくぶくとしずんでしまうからです。ところが、ゴードが作った島国はしずみません。
 一人の魔法使いがたずねました。
「ねえゴード、この島国はどうしてしずまないんだい? どうして、ずっとぷかぷか浮いていられるんだい?」
 ゴードが答えます。王さまらしく、とてもえらそうな話し方です。
「それはね、私が季節(きせつ)の神さまと契約書(けいやくしょ)をかわしたからだよ」
 魔法使いはおどろきました。「契約書をかわす」というのは約束(やくそく)を紙に書いてのこすことでした。その約束の相手、季節の神さまというのはドラゴンのすがたをした、口から火をはくとてもこわい神さまなのです。もしも約束をやぶったら、家ぞくも友だちもみんな焼きころされてしまうでしょう。
 魔法使いはぶるぶるふるえて、ゴードに聞きました。
「いったい、季節の神さまとどんな約束をしたんだい?」
「私の島国はピーナッツの形をしているんだけれどね。まん中の細くなったところに魔法の(とう)を作るんだ。そこに私の家系の娘四人――つまりは女王だね――彼女たちを、季節の順番に住ませるという約束だよ。春、夏、秋、冬、かわりばんこにね。それで女王は、塔から季節の力をプレゼントとして季節の神さまにおくるという約束なんだよ。季節と娘の名前は契約書に書いてしまったから、塔に住む順番(じゅんばん)を間ちがったり、塔にずっと入っていると季節がおかしくなってしまうんだ」
「へえ、なるほど」
 魔法使いは、本当はゴードの言うことがよく分かっていませんでしたが、ゴードが得意(とくい)そうなので、なっとくしたふりをしました。
 それから何十年もたって、ゴード王がおじいさんになって死んでしまってからも、ゴードの息子と娘たちは約束を守り続けました。ゴード王も、季節の女王も、次の子どもの世代へ、そして孫の世代へとこうたいしていきました。
 ゴードの島国はゴードアイランドとよばれて、たくさんの人たちがしあわせにくらしました。


  *


 それから何百年もたったある年のこと、ゴードアイランドの季節がおかしくなりました。もう五月だというのに、あたり一面まっ白い雪におおわれています。
「これはどうしたことだろう?」
 旅人はおどろきました。ゴードアイランドのおそざきの(さくら)を見るのを毎年楽しみにしていたのですが、雪がふっていて、はき出した息も白くて、とてもさむいのです。
 町はひっそりとしていて、外を歩いている人が見あたりません。
 旅人は雪のつもった町を歩いていると、こしの高さくらいの雪山を見つけました。なんとなく気になって雪をはらってみると、それは雪だるまでした。雪だるまの上に、雪がつもっているのでした。旅人がまわりを見ると、おなじように雪山になってしまった雪だるまがたくさんありました。
「かわいそうに。目もはなもあるのに、雪にかくされてしまっているんだね。ぼくが助けてあげよう」
 旅人は雪をはらって歩きました。雪山が雪だるまにもどっていくと、町が元気になったように思えました。
「旅人さん、旅人さん」
 旅人のうしろから声がしました。ですが旅人がふり返ると、だれもいません。ふしぎに思うともう一度、
「旅人さん、こっちです」
 と声がします。声は旅人の足元の方から聞こえました。旅人が下を見ると、雪の上で茶色い、小さなシマリスがはねていました。
 シマリスの名前はチャピンといいました。チャピンは旅人に言いました。
「やさしい旅人さん。どうか助けてください。このゴードアイランドの季節がおかしくなっているのです」
「そのようだね。いつも三月になると雪がとけてきて、四月のおわりから五月のはじめには桜が楽しめたのに、こんなにさむくて雪がつもっているなんて。いったいどうしたことだい?」
「実は、冬の女王さまが魔法の塔から出てこなくなってしまったのです」
「冬の女王さま? 魔法の塔? いったいどういうことだい?」
「ゴードアイランドの季節は、四人の女王さまがいるおかげでまわっているのです」
 チャピンは道の横の方を指さしました。旅人がそちらを見ると、立てかんばんがありました。旅人は何度かこの島をおとずれているのですが、いつも桜のある公園を歩くだけでしたので、そのかんばんには初めて気づきました。
 旅人はかんばんに書かれた文章を読むと、こくりとうなずきました。
「ふむふむなるほど。四人の女王さまは春、夏、秋、冬の順番(じゅんばん)に、こうたいで魔法の塔に住まなくてはならない。魔法の塔に住んでいる間、ゴードアイランドはその女王さまの季節になる――ということだね」
「その通りです。ですが今年はどうしたわけか、冬の女王さまであるフユーナさまが塔から出てこないのです」
「フユーナさまに理由を聞いてみたのかい?」
「それが、ゴードアイランドに住む人間は、女王さまのいる魔法の塔に入ってはならないという決まりがあるのです。ですから、フユーナさまがどうして塔から出てこないのか、聞くことができないのです。春の女王であるハルーナさまも例外ではありません。フユーナさまが塔にいる間、ハルーナさまも塔に入ってはいけないのです。フユーナさまが塔から出てきたあとでないと、ハルーナさまは塔に入れないんです。そういう契約なんです」
「契約? 契約というと約束という意味だね。うーん。女王さまが順番に魔法の塔に住むとか、女王さまがいる間、島の住人が塔に近づいてはいけないとかいうのは、いったいだれとだれが契約したのだい?」
「大昔に、さいしょのゴード王と、季節の神さまとが約束したのです」
「き、季節の神さまだって! あのドラゴンの! なんとおそろしい!」
 チャピンは、ふるえる旅人に言いました。
「フユーナさまが魔法の塔から出てこないので、冬がずっとつづいているのです。それで、お城からこんなおふれも出されたのですが、私たちにはどうすることもできず……」
 チャピンはまた別の方向を指さしました。ずいぶん細い道の、かげになって見えにくいところに、別の立てかんばんがあります。旅人はそれを読みました。
「なになに、『冬の女王を春の女王とこうたいさせた者には好きなほうびを取らせよう。ただし、冬の女王が次にめぐって来られなくなる方法はみとめない。季節をめぐらせることをさまたげてはならない』――なるほど」
「ね? そんなことを言われても、この島に住む人は塔に入れませんし、かといって、わるい旅人さんやこわい旅人さんを塔に入れたくもないわけですよ。ですからこのかんばんは、こんなかげに立てて見えにくくしているのです。やさしい旅人さんにだけ声をかけて、読んでもらうために。島の皆さんも、実は今まで、旅人さんのことを見守っていたのですよ」
 旅人がまわりを見ると、家の中から出てきた人たちが、旅人へ向けて小さく頭を下げました。子どもたちは旅人がこわいのか、親のうしろにかくれるようにしていました。
 旅人は言いました。
「よし分かった。ぼくがやさしいかどうかは自分では分からないけれど、塔に行って、フユーナさまに理由を聞いてこよう」
「よろしくお願いします。旅人さん」
「ではチャピン。あんないしてくれ」
「そうですね。とちゅうまでならごいっしょしましょう。そこから先のことはお願いします」
「なにを言っているんだ。いっしょに塔の中まで行くのさ。ゴードアイランドに住む人間は塔に入れないと言ってもね、君は人間じゃなくて、シマリスなんだから」
 そう言われてチャピンはおどろきました。自分が契約に関係ないことに、今まできづかなかったのです。こんなことならもっと早くから、冬の女王のところへ行って話を聞けば良かったとも思いました。
「そうですね! 私はシマリスで、人間じゃないから、塔に行っても大丈夫でした! 行きましょう旅人さん。こっちです!」


  *


 雪のふる中を旅人は歩きました。旅人のかたに乗ったチャピンは道あんないをしました。
 ピーナッツの形をした島の真ん中に、魔法の塔はありました。塔に近づくための道は一本道でしたが、チャピンははじめて通るのできんちょうしました。
「これが魔法の塔か。目の前で見ると……」
 旅人はつぶやきました。魔法の塔はとても大きくて、見上げると雲の中までとどいて、てっぺんが見えないほどです。塔の形は、下の方は丸い柱のようで、上の方へいくほどだんだん細くなっていきます。
「この中にフユーナさまがいるのだね」
「そうです。行きましょう」
 塔にはだれも入れない約束になっているからでしょう。とびらにはカギがかかっていませんでした。
 とびらを入ると、広間の中央に階段(かいだん)がありました。階段はぐるぐるとうずをえがきながら上へつづいています。チャピンが「ふしぎな階段ですね」と言うと、旅人は「これは、らせん階段とよばれるものだ」と教えました。
 旅人とチャピンは塔の上の方からふしぎな魔法の力を感じました。らせん階段を上っていくと、一番上の階につきました。そこには白いベッドがひとつだけおいてあり、そこにフユーナが横になって目を閉じていました。彼女は長い金色のかみをして、雪のような白いドレスを着ていました。
 旅人は目を丸くしました。フユーナが小さな女の子だったからです。女王さまと聞いていたので、大人の女性を想像していたのですが。
「おどろいた。まだ子どもじゃないか」
 チャピンは旅人のかたの上で言いました。
「年れいは関係ないんですよ。王さまの家系(かけい)の女性ですから、女王さまなのです。フユーナさまはたしか今年で九才。塔に入る『おつとめ』は三回目になるはずです」
 その話し声を聞いて、フユーナはおどろいた様子で起き上がりました。
「あなたたち、だれなの?」
 フユーナの声は子どもらしく高くて、むじゃきなひびきをしていました。
 チャピンは旅人のかたから飛び下りてベッドへよじのぼると、おじぎをして自己紹介(じこしょうかい)しました。また旅人のことも紹介しました。それを聞いたフユーナは安心した様子です。
 チャピンはフユーナの顔を見上げると、びっくりしてしまいました。彼女(かのじょ)の目に(なみだ)()き上がっていたのです。ついさきほどまでも泣いていたのでしょう。ほっぺに涙のあとが見えます。
「いったい、どうしたんですフユーナさま」
「……今は、何月なの?」
「今は五月です」
「ああ! 私、たいへんなことをしちゃった……」
 チャピンはどうしていいか分からずおろおろして、旅人の目を見ました。
 旅人はうなずくと、落ち着いた声で言いました。
「フユーナさま。いったい何があったのか、ゆっくりでかまいませんから、お教えください」
「この塔の中で季節の女王のおつとめをしている間、私の耳には、島に住むみんなの心の声が聞こえるの」
「心の声が聞こえる……」
「そうなの。季節のことをどう思っているか、声が聞こえるの。お姉さまたちにも聞いたことがあるけれど、みんなおんなじように、島のみんなの心の声が聞こえるって言うの」
「なるほど。それで声が聞こえて、どうされたのですか?」
「私は、冬がきらわれているのがイヤなの」
「冬がきらわれているですって? どうして、そのようにお思いになるのです」
「だってみんな、さむいさむいと言って外に出たがらないし、早く春にならないかなって、そればっかりなんだもの。だから私、イヤになって、塔を出なきゃいけない日になっても、もうこのまんま出てやらないぞって思ったんだけど、でもそれはいけないことだし、早く出なきゃいけないなって、思ってたんだけど、一日たって、二日たって、どんどん出て行きにくくなって……」
「大丈夫。今からでもおそくはありません。外へ出ましょう」
 旅人とチャピンはフユーナと塔を出ると、そこに美しい女性が立っていました。桜色のドレスをまとっています。フユーナと顔立ちがそっくりでしたので、旅人もチャピンも、その女性がフユーナの姉だとすぐに分かりました。
 フユーナは言いました。
「ハルーナお姉さま。ごめんなさい」
「フユーナ。お帰りなさい」
 旅人はハルーナのやさしいまなざしを見て思いました。
 ――ハルーナさまは、フユーナさまのお気持ちを分かっていたのかもしれないなあ。
 ハルーナは次に旅人と、そのかたに乗るチャピンを見て、ほほ笑みかけました。
「本当にありがとうございました。すぐ近くに馬車を待たせてあります。フユーナといっしょに、どうぞお城へいらしください。私はこれから、春のおつとめへ」
 そう言うとハルーナは礼をして、塔の中へ入っていきました。


  *


 馬車には旅人とフユーナが乗っています。旅人のかたにチャピンのすがたはありません。
 チャピンははじめての馬車にこうふんして、馬のたづなをにぎる「ぎょしゃ」のかたの上に乗せてもらっていました。
 しばらく馬車にゆられていると、旅人はおどろきました。とたんに空気があたたかくなり、雪がとけ、桜が咲いたからです。馬車のゆく道のどこにも、立ちならぶ家のどこにも、雪だるまはもう見当たりません。
 おくれていた時間を取りもどすために、季節は急ぎ足に見えました。もう五月もなかばでした。いっぱんに春とよばれるのは三、四、五月ですから、もうひと月も待たずに、ハルーナは夏の女王とこうたいすることになるのでしょう。
「女王さまがこうたいすると、こんなにはっきりと季節が変わるものなのかい?」
 旅人が聞くと、フユーナが答えました。
「いつもは、季節はゆっくりと変わっていくの。今回はきっと、私がわがままをしたから」
 旅人の耳に、どこかから子どもの声が聞こえます。
「やったー! 冬がおわったー!」
 とても(とお)くの、小さな声でした。フユーナに聞こえなかったことをいのりながら、旅人はフユーナとの会話をとぎれさせないようにしました。
 いくつもの言葉の中で、フユーナはぽろりと、旅人にこぼしました。
「私ね。冬じゃない季節の女王さまも、やってみたいな。そんなことだめだって、分かってるんだけどね……」


  *


 フユーナが自分の部屋にもどると、旅人とチャピンは兵士(へいし)にあんないされて、王さまの部屋へ向かいました。
 りっぱなろうかを歩いていて、旅人はふしぎに思って言いました。
「お城の中は、外と空気の感じがちがうようですね」
 つきそって歩いていた兵士が答えました。
「ええ。ゴード王の魔法の力で、お城の中は一年中、かいてきにすごせるようになっているのです。冬はあたたかく、夏はすずしく。今回のような問題がおきて、お城の中に季節感がないというのも、ひにくなものですが――どうぞ。こちらが王の間です」
 王さまはでっぷりと太っていました。りっぱな王かんをかぶって、白いひげを生やして、やさしそうな目をしていました。そのやさしい目で旅人とチャピンを見ると、王さまはお(れい)を言いました。
「本当にどうもありがとう。フユーナをつれ出してくれて」
 旅人とチャピンは王さまに自己紹介(じこしょうかい)すると、フユーナが塔から出て来なかった理由を話しました。それを聞いた王さまは言いました。
「そうか。フユーナは冬がきらわれていると思って、なやんでいたのか……」
 頭をかかえた王さまに、旅人は言いました。
「来年の冬が来た時、フユーナさまがまた冬の女王をやってくれるものか、私には分かりません――いえ、せきにん感のつよいお方ですから、きっと冬の女王のおつとめはこなすとは思うのですが、それでいいのでしょうか」
 その時、王さまの部屋に入ってきた女性が二人いました。二人とも美しい顔立ちで、それぞれ青色とオレンジ色のまばゆいドレスを着ていました。二人は夏の女王ナツーナと秋の女王アキーナでした。
 ナツーナが言いました。
「私たちもそう思います。フユーナは冬の女王をつとめようとがんばるでしょう。そしてそのまま、いつまでもあの子の心は悲しいままです」
 今度はアキーナが言います。
「どうかあの子のささやかなお願いを聞いてあげられないでしょうか。一度でいいから、他の季節の女王もやってみたいというお願いです」
 そのフユーナのお願いは、馬車の中で旅人も聞いていました。ゴード王はまゆげを八の字にして、こまった様子で言いました。
「お前たち……しかしね。季節の神さまとの契約(けいやく)があるんだ。契約をやぶるわけには……」
 しばらくだれもしゃべらなくなった時、旅人は言いました。
「ゴード王。ぼくはフユーナさまをみごと、塔からつれ出して見せました。そのほうびをちょうだいしたく思います」
「ちょっと旅人さん! こんな時にしつれいな!」
「いやいいのだよ。シマリスのチャピン君。ごほうびをあげる約束をしたのは私だからのう。さあ、もうしてみよ。どんな望みでもかなえてしんぜよう」
「ではゴード王。ぼくはつよく望みます。フユーナさまの願いをかなえるため、いま一度のごけんとうをお願いいたします」
「なんとまあ、心のやさしい旅人よ!」
 王さまは、なやむのをやめました。旅人へのほうびをやることに決めたのです。それはつまり、王さまがフユーナの願いをかなえるためにがんばるということでした。
 ゴード王も、ナツーナもアキーナも、旅人に感しゃの言葉をおくりました。
 旅人は言いました。
「もちろん私も力をつくします。まずはもう一度、なにか方法がないか、それぞれで考えてみましょう」


  *


 旅人とチャピンはその後、町の人々の声を聞いて歩きました。何も知らない子どもたちは、「やっと冬がおわった」とはしゃいでいます。
 旅人と一匹のシマリスが春のおとずれにひと役買ったことは、町中に知れわたっていました。
 ベンチにすわる夫婦(ふうふ)が旅人とチャピンに気づくと、話しかけてきました。
「これはこれは旅人さま。ひとつおたずねしてもよろしいですか? フユーナさまは、お元気でしたか?」
「まあその、お元気といえばお元気でしたが……。お二人はフユーナさまについてなにか知っているのですか?」
「いえ、お話をしたことはありませんがね。まだ小さいでしょう。うちの息子(むすこ)とたいして変わらない年れいなのですよ。そんな子どもを毎年、塔に閉じこめるような『おつとめ』というのは、かわいそうなことだと思っております」
 夫婦はたがいにうなずいて続けます。
「王女さまがイヤだと言うなら、もう『おつとめなんて』やめにして良いと思うのですけどねえ」
 その言葉を聞きつけて、散歩をしていたおじいさんがあわてて近づいてきます。こしを曲げて、つえをついています。
「お前さんがた。めったなことを言うもんじゃないぞい。言い伝えではおつとめをやめると、島がしずむと言うからのう」
「そうは言ってもね、おじいさん。フユーナさまがおかわいそうで」
「ううむ。おかわいそうなのはその通りじゃが、今までの王女さまもみんな、おつとめをこなしてきたんじゃ。フユーナさまだけ特別あつかいするわけにもいくまい……」
 おじいさんはそう言いながらも、悲しそうな表情になって、小さい声をこぼします。
「そうじゃのう。フユーナさまのお心を、少しでも軽くするようなことが、わしらにできたら良いのじゃけど……いやいや、とにかく旅人さんには春のおとずれをかんしゃですじゃ」
 夫婦と老人からお(れい)を言われ、旅人はほほ笑みました。
 みんなと別れたあと、旅人はきっさ店に入りました。旅人はコーヒーを飲みました。チャピンはココアをお皿に入れてもらいました。
「旅人さん。いったいどうすれば良いのでしょうね。次の冬も、その次の冬も、フユーナさまは悲しい気持ちで塔に入るのでしょうか。それで本当に良いのでしょうか。いっそのこと、私たちで塔に入るのをやめさせてしまいましょうか」
「そうもいかない。おじいさんが言っていただろう。この島の言い伝え――おつとめをしないと島がしずむと。ここに来る前にゴード王に教えてもらっていたのだけど、本当にしずんでしまうと言っていたからね。季節のおつとめをやめてしまえば、この島に住むすべての人が海の(そこ)にしずんでしまう。チャピンの家ぞくもお友だちもね」
「ああ、おそろしい! ――あ。そうだ良いことを思いつきましたよ。あのおじいさんが言っていた通り、フユーナさまのお心を軽くすれば良いのです!」
「どうやってだいチャピン?」
「みんなで冬がイヤだと思わないようにすれば良いのです。『冬はさむくないし大好きだ!』って、みんなでさけぶようにおふれを出しましょう!」
「そんなウソをついてもどうにもならないよ。塔の中の女王さまに聞こえるのは心の声なんだ。ウソをついても、『本当はさむいからイヤだ。早く春になってほしい』って、そういう本音が聞こえたら、もっと悲しいだろう。ウソをつかれることもウソをつくことも、とても悲しいことなんだよ」
 旅人に言われて、チャピンはしょんぼりしました。
「だいじょうぶ。チャピンをせめたわけじゃないよ。フユーナさまのお心を軽くしたいという気持ちは、私も同じだ」
 旅人はコーヒーを飲みおわると、「うーん」とうなりました。
 そこへやって来たのは、ナツーナとアキーナ、二人の女王でした。あまりの美しさに、町の人々がこちらを向きます。そして女王だと分かると、みな頭を下げました。
 女王につれられ、旅人とチャピンは馬車に乗りこみました。
 旅人がたずねます。
「なにか名案(めいあん)を思いついたのですか?」
「名案などありません。ですが、やっぱりフユーナに、別の季節の女王さまをやらせてあげるのが一番良いと思ったのです」
 旅人はうなずいて言いました。
「ええ。ですが、季節の神さまとの約束はやぶれないと、王さまは言っていましたよね? ――名案などない? もしかしてあなた方は、季節の神さまにちょくせつ、お願いしに行くと言うのですか?」
「そのとおりです」
 チャピンはおどろいてしまいしました。
「ななな、なんですって!」
 ナツーナは言いました。
「約束をむだんでやぶれば、ほのおで焼かれてしまうでしょう。それでしたら、女王の順番をたまに変えても良いように、約束を新たに取りつけてやれば良いというのが、私たちと、ゴード王の考えです」
 チャピンは不安そうに言いました。
「そんなに上手くいきますかねえ。季節の神さまをおこらせて、みんなこんがりおいしく焼かれるなんてことには……」
 女王二人は首を横にふりました。
「上手くいくかどうかは分かりません」
 その様子を見て、旅人はほほ笑みました。
「それでもやってみましょう。可能性(かのうせい)があるのなら、やってみる価値(かち)があります」


  *


 季節の神さまの山は、ゴードアイランドから東にある大陸にありました。山のてっぺんには大きな神殿(しんでん)があり、その中に季節の神さまは住んでいました。
 旅人とチャピンは王さまと、それからナツーナとアキーナといっしょに、季節の神さまの神殿へ来ていました。
 船で行くには何カ月もかかってしまうのですが、王さまの魔法でひとっとびでした。王さまは一度行ったことのある場所ならひとっとびできると言うので、旅人は「べんりだなあ」と感心(かんしん)しました。
 神殿の中に入ると、季節の神さまは体を丸めて眠っていました。とても大きな体をしたドラゴンのすがたをしています。
「季節の神さま。おひさしぶりです」
 王さまが声をかけると、長い首の先についた大きな顔の中の大きな目がゆっくりと開きました。その金色の目のおそろしいこと!
 女王二人ははじめて季節の神さまに会ったのですが、おそろしさのあまり、あわをふいて気ぜつしてしまいました。チャピンもガタガタとふるえました。旅人は王さまから、「季節の神さまは見た目はこわくても、理由もなしに人間をおそいはしない」と聞いていたのでなんとかがまんできました。
 季節の神さまは首をもたげると、上を向いて大きくあくびをしました。あくびといっしょに口からほのおを吐きました。そして低い声で言いました。
「おおこれはこれは。何代目かは忘れてしまったが、かの島国のゴード王ではないか。いったいワシになに用じゃ?」
「季節の神さまにお願いがあって参りました」
「願いじゃと? いったいなんじゃ?」
 王さまはわけを話しました。旅人が意外だったのは、季節の神さまが親身(しんみ)になって話を聞いてくれたことです。「うむ、うむ」となんどもうなずきながら聞いています。最初おそろしかった金の目も、今はやさしく感じられました。
「そこで季節の神さまには、この契約書に書かれた名前を、一時的に変こうすることをお願いしにきたのです」
 そうして王さまは契約書を開いて見せました。大昔の初代ゴード王から受けつがれてきた紙ですが、魔法の力できれいなままでした。
 契約書のさいごの方に、季節の女王の名前がならんでいます。

===========
春の女王:(ハルーナ)
夏の女王:(ナツーナ)
秋の女王:(アキーナ)
冬の女王:(フユーナ)
===========

 王さまはつづけて言いました。
「この契約書の、カッコでかこんである名前の部分は、長い年月の中で、新たな女王の名前になんども書きかえてきたものです。今回はどうでしょう。フユーナとナツーナか、フユーナとアキーナの位置(いち)を入れかえさせてもらうわけにはいかないでしょうか」
「うーむ。そうだなあ……」
 季節の神さまはみじかい足であぐらを組むと、羽をぱたぱたさせて、うでぐみしました。長い首をひねって考えました。
「ワシは毎回、お主の国から季節の力をプレゼントしてもらっておるからのう。そうじゃそうじゃ。そういえば今回は冬が長くて()もたれぎみじゃった。フユーナちゃんはまだ小さいというし、気分てんかんに順番を変えてやりたい気持ちもあるんじゃがのう……」
「ではよろしいのですね!」
「そうもいかんのじゃ。これ、『契約書』じゃろう? 口約束(くちやくそく)なら良かったんじゃが、契約書を作る時は、契約書の神さまにお願いして作っておるからのう」
「ななな、なんですって!」
 王さまも旅人もチャピンもふるえ上がりました。さらには季節の神さまもふるえ上がってしまったのです。
 季節の神さまは言いました。
「ちゃんとした理由もなしに契約書を書きかえたら、契約書の神さまに、のろいころされてしまうんじゃ。ワシ、こわいもん」
 季節の神さまは長い首を下げて、しょんぼりしてしまいました。そしてつづけて言いました。
「それに契約書を変こうするなんて、大仕事(おおしごと)じゃから、フユーナちゃんの気分てんかんなんて、そんな理由じゃ変こうさせてくれないと思うんじゃよ。何十年かに一回の、女王こうたいの時じゃないと、契約書の神様もみとめてくれないんじゃよ」
 旅人は食い下がります。
「では、契約書の変こうはむりだとしても。フユーナさまが別の季節に塔へ入ることを、どうか見のがしてもらうことはできませんか?」
「むりじゃ。だって契約書に書いてあるもの。ほれその上のところ」
 旅人は契約書をよく読みました。するとなるほど、『順番をまちがった場合はゆるすが、わざと順番を入れかえた場合、季節の神さまは、ほのおのブレスで相手を焼きころすこと』と書いてあります。
「その契約がなかったら、ワシだって見のがしたいんじゃよ?」
「それじゃあ、はじめっからこんなこわいこと書かないでくださいよ……」
「島を浮かべるのはたいへんなことじゃから、そのくらいのリスクは必要なんじゃよ。それに今回だって、フユーナちゃんはわざと塔にいのこり続けたわけじゃから、フユーナちゃんを焼きころせって、契約書の神さまが言ってきてもおかしくないくらいなんじゃよ……。いやあ、本当に、相だんにのってあげたいのは山々なんじゃけれども……」
 しばらくだれもなにも言いませんでした。そして、その場にいたみんながため息をつきました。 
 チャピンが言いました。
「どうやらダメみたいですね。フユーナさまに、別の季節のおつとめをしてもらうのは」
 ゴード王は悲しそうでした。その顔を見ていると、旅人はあきらめられない気持ちになりました。契約書を何度も読み返して、そしてあることをひらめきました。
「……まだ決まったわけではないよチャピン。ぼくに考えがある」
「いったい、どんな考えです?」
 旅人の答えを聞くと、みんな飛び上がっておどろきました。旅人はこう言ったのです。
「みなさん、契約書の神さまに会いに行きましょう。契約書を書きかえてもらうのです」


  *


 ゴードアイランドの西の大陸に、契約書の神さまは住んでいました。
 契約書の神さまは五十階()てのビルの一番上のオフィスにいました。黒いスーツにかわぐつで、かみがたは七三分けです。メガネをくいっと上げるとデスクから立ち上がり、まどを開けて言いました。
「おやおやだれかと思えば、季節の神さまじゃないですか。いったいどうしたのです。そんなところで」
 季節の神さまは羽をパタパタと動かして、空中に浮かんでいました。その首にゴード王と旅人が必死でしがみついています。旅人のかたにはチャピンが必死でしがみついています。落っこちたら死んでしまいます。チャピンは下を見て目を白黒(しろくろ)させました。
 そんな様子はまったく気にせずに、契約書の神さまは思い出したように言いました。
「ああ、そう言えば、今年はゴードアイランドの冬が長かったようですが、そのことですか? 契約書には順番をわざと入れかえた時のことは書いていましたが、季節が長くなった時のことは書いてませんから、お好きにしてかまいませんよ。どうぞご勝手に。にるなり焼くなり――」
「いや、そのことは別にどうでもいいんじゃがのう……」
 こわがって上手く話せないでいる季節の神さまにかわって、旅人はわけを話しました。そして契約書を、契約書の神さまに渡しました。
「ふーむ。この契約書に問題があると言うのですか? たしかに、大昔に初代ゴード王と季節の神さまに立ち会って、私が作ったものですが……」
 季節の神さまとゴード王とチャピンはドキドキしていました。そんなに上手くいくのだろうかと不安だったのです。それにもし契約書の神さまのいかりを買ってしまったら、みんなのろいころされてしまいます。
 しかし、旅人は強気でした。
「ええ、まったくもって問題があります。こんなに『あいまい』な契約書ではいけません。さいごの方をごらんください」
「あいまいですって? うーん。季節の名前と女王の名前がならんでいますが、それがどうかしましたか? 女王の名前は何十年かおきに書きかえることを許可していますが。それは問題ではないでしょう?」
 ここからが、旅人のうでの見せどころでした。旅人は「あいまい」なところを説明しました。
「契約書の神さま。あいまいなのはそちらでなく、この部分です。よろしいですか――」
「――ははあ、なるほど。たしかにそう言われてみれば……よろしい。書きかえましょう」
 結果だけをいえば、旅人はみごとに、契約書の一部を書きかえてもらうことに成功したのでした。
 しかし、季節の神さまの神殿(しんでん)に帰りつくと、ゴード王はこまった声で言いました。
「旅人よ。いったいこれからどうするつもりなのだい?」
 季節の神さまも不安そうでした。
「そうじゃそうじゃ。けっきょく、名前はそのまんまじゃ」
 チャピンは少しおこっていました。
「本当ですよ! ハルーナさま、ナツーナさま、アキーナさま、フユーナさま……かんじんの順番がぜんぜん変わってないじゃないですか!」
「それで良いんだよチャピン。だけどこれからは、みんなの力が必要になる。国中のみんなと、それから季節の神さまにもがんばっていただきたいのですがね。ちょっとお集まりください」
 そうして旅人はみんなと小さく集まると、こそこそとないしょ話をしました。
 話を聞いたゴード王もチャピンも「なるほど」と手をたたきました。季節の神さまはゆかいそうに笑いました。上へ向いた口からついつい、ほのおが出てしまいました。
 気ぜつしていたナツーナとアキーナは、まわりがにぎやかなので目を覚ましました。
「あらあらみなさん、どうしたのですか? そんなに楽しそうにして――」
 ドラゴンがほのおを吹いて飛び回っているのを見て、二人はまた気ぜつしてしまいました。


  *


 フユーナはお城の自分の部屋に閉じこもってすごしていました。本当なら春にはお花見をし、夏には海であそび、秋にはもみじがりをしてすごすのですが、冬の時間を長くしてみんなにめいわくをかけたと思い、ふさぎこんで部屋の中から一歩も外に出ませんでした。
 ハルーナが塔にいる間はナツーナとアキーナが、ナツーナが塔にいる間はハルーナとアキーナがフユーナの部屋に行って、遊び相手になっていました。また旅人とチャピンもフユーナの部屋へよく遊びに行きました。
 アキーナが魔法の塔に入り、いよいよ自分の順番が近づいてくると、フユーナは悲しそうな顔をして言うのです。
「冬が来たら、また塔に入るよ。だいじょうぶ。今度はちゃんと時間を守って出てくるから。私は冬の女王さまだもんね……」
 その声のさみしそうなことといったら。
 フユーナの様子は王さまから国のみんなに、そして季節の神さまにも伝えられました。
 すると国のみんなは、朝早くから行列をつくって外へ出かけるのです。みんな、木のぼうをかついでいます。その木のぼうの先には、木の(いた)がくっついています。
 みんなは、おたがいに声をかけ合いました。
「さあ、十二月はもうすぐそこだ! みんな、もうひとがんばりだ! えんやこーらさっさ!」


  *


 十二月一日。その日はフユーナが塔に入る日でした。
 フユーナは白いドレスに、ぶあついコートを着こみました。お城の中では暑いくらいですが、お城から外へ出た時の風はいつもつめたく感じるので、ちょうどいいだろうと、フユーナは思いました。
 フユーナがさびしい気持ちで部屋を出ようと思ったところへ、旅人とチャピンがやって来ました。
 二人が外国のお話を聞かせてくれると言うので、フユーナはベッドにすわりました。塔に向かうのはお話がおわってからでもおそくありません。
 旅人はぶたい役者のように、ゆうがなおじぎをしました。
「それではまいりましょう。タイトルは、『さむがりネズミ』……はじまり、はじまり――」
 旅人が始めたのは小さなネズミのお話でした。旅人の足元にはチャピンがいました。主人公のネズミ役です。
 旅人が言います。
「そのネズミはとてもさむがりで、いつも体を丸めていました」
 チャピンが言います。
「チューチュー。さむいチュー」
 チャピンは体を小さくしています。
「そのネズミがさむそうにしているので、かわいそうに思った神さまはネズミの前に小さな太陽(たいよう)を作ってくれました」
 旅人はそっと、ネズミの前にまっかなトマトをおきました。太陽のかわりです。
「チューチュー。お顔があったかいチュー」
「よろこんでいたネズミですが、おしりがさむくてたまりません」
 チャピンがおしりをふるわせると、フユーナはくすくすと笑いました。
「チューチュー。どうしようかなチュー」
「こまったことに、ネズミは長い間ずっと丸まっていましたので、体の向きを変える方法を忘れてしまいました。その場でおしりを太陽に向けられないのです。ですが足は動かせましたので、体の向きはそのままで、ちょこちょこと、時計と反対まわりに移動しました。今、太陽は体の左がわにあります」
「チューチュー。なんかちょうどいいチュー」
「ネズミがほっとしたのもつかの間。体の反対がわがさむくてたまりません」
「チューチュー。今度は向こうがわまで行こうかなチュー」
「体の向きはそのままに、ネズミはトコトコと走り出します。最初いた場所と反対の場所までくると、ネズミはつかれて立ち止まります」
「チューチュー。おしりはあったかいけど、お顔がさむいチュー」
「ネズミはまた進みます。太陽は今、ネズミの右がわにあります」
「チューチュー。頭もおしりもちょうどいいけど、やっぱり反対側がさむいチュー」
「そうしてネズミは、さいしょにいた場所へもどってきました」
「チューチュー。だけどまたまた、おしりがさむいチュー。でも走るとつかれるチュー」
「ネズミは走るのをやめて、ゆっくりと太陽のまわりを歩いてみました。するとちょうど具合が良くなりました」
「チューチュー。こうしてずっと歩きつづけていると、頭もおしりも順番にあったかくてちょうど良いチュー」
「めでたしめでたし」
 フユーナははく手しました。
 部屋を出てお城のろうかを歩いている間、フユーナは旅人に聞きました。
「さっきのお話って、だれのご本にのっているお話なの? 私、いろんなご本を読んだけれど、あんなヘンテコなお話は、はじめてよ」
 旅人は答えます。
「さっきのお話はね、ある国で、子どもたちのお勉強のために聞かせるお話なんだよ」
「お勉強? いったいなんのお勉強?」
 この質問には、旅人のかたの上に乗ったチャピンが答えました。とても得意そうです。
「それはですねフユーナさま、太陽(たいよう)地球(ちきゅう)のお勉強なのです!」
 ちょうどその時、三人はお城の外に出ました。つめたい風にそなえていたフユーナはおどろいてしまいました。
 秋のおわりのさみしい景色はどこへいったのでしょう。辺りはまばゆいばかりの太陽につつまれ、木々はゆたかな(みどり)にしげっています。それに、ものすごく暑いのです。セミのなき声がひびいています。どこまでも青い空の下、ヒマワリの黄色がゆれています。
 おどろくフユーナの目の前には、島中のみんなが集まりおうえんの声を送り、塔へつづく道にならんでいました。
 フユーナはあまりのことに声が出ません。(あせ)が流れてくるので、ぼーっとしながらも、コートをぬぎました。近くにゴード王と、三人の女王さまが立っていました。
 アキーナが言いました。
「ほらフユーナ。早く魔法の塔に向かわなきゃ。今、塔の中にだれもいないところを、季節の神さまに見のがしてもらっているんだから」
 その言葉と同時に、フユーナのまわりが(くら)くなりました。巨大なかげに入ったようでしたので、フユーナが上を見ると、そこに季節の神さまが()ばたいて笑っていました。とても楽しそうに笑っているので、ちっともこわくはありませんでした。
「わっはっは。塔の女王が入れかわるまでのことは、契約書に書かれてないので見のがしほうだいなのじゃ! ゆかいじゃ!」
 フユーナはあわてた様子で、次々と質問(しつもん)します。
「で、でもどうして? 今は冬のはずなのに、どうしてこんなに暑いの? セミがないているの? 今は夏なの? どうなってるの?」
 これには旅人が答えました。
「さっきの『さむがりネズミ』のお話を覚えているね?」
「うん。おしりがさむくなって、太陽のまわりをぐるぐるまわるの」
「そう。いいかい。主人公のネズミを、地球と考えるんだ」
「ネズミが地球? 地球は、太陽のまわりをぐるぐるまわるの?」
「その通り。そして地球はほんの少しだけ、頭がかたむいているんだ。そしてそのかたむきのまま、ネズミみたいに太陽のまわりをまわっているんだよ。つまりね、ネズミみたいに、地球にも頭の方がさむい時と、おしりの方がさむい時があるんだ。そのタイミングは、ちょうど一年でめぐってくるんだ。一年でさむい時がめぐってくる……何か思い出さないかい?」
 フユーナは「あっ」とさけびました。
「そのさむい時が冬なのね?」
「その通り。ゴードアイランドは地球の頭の方にある国で、毎年十二月ごろにさむくなる。つまり冬をむかえるんだ」
「だけど、今はどうしてこんなに暑いの? 私、冬を一回とばしちゃって、夏まで部屋の中にいたの?」
「そうじゃないよ。地球の頭の方がさむい時、反対に地球のおしりの方は暑くなる。十二月に夏をむかえるところがあるんだよ。そしてつまりね。今、ゴードアイランドはそこにやって来たんだよ。ゴードアイランドの夏と冬は反対になっているんだ」
 これにはフユーナはおどろいてしまいました。
「やって来たですって? いったいどうやって?」
「ゴードアイランドを、みんなでがんばって動かしたのさ。ゴードアイランドは魔法の力でプカプカ浮いている島国だからね。みんなで島の両がわに立って、オールでせっせとこいだんだ。季節の神さまには、島が変な方向に行ってしまわないように、島のいちばん前で引っぱってもらってね」
「でもでも! 私は冬の女王さまでしょ? これじゃあ夏の女王さまじゃない? 約束をやぶったことにならない?」
 ゴード王がフユーナのそばへ歩いてきて、頭をなでて、言いました。
心配(しんぱい)いらないよ、フユーナ。これをごらん。旅人どのが契約書の神さまにお願いして、書きかえてくれたんだよ」

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三、四、五月の女王 :(ハルーナ)
六、七、八月の女王 :(ナツーナ)
九、十、十一月の女王:(アキーナ)
十二、一、二月の女王:(フユーナ)
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 その契約書には、どこにも「春、夏、秋、冬」という言葉が使われていませんでした。
 旅人は言いました。
「季節は地球のどこに住んでいるかによって変わるものなんだ。『常夏(とこなつ)の島』――ずっと夏の島――なんてよばれる場所もあるくらいだからね。そんなあいまいな契約書は良くないという話をしたら、契約書の神さまもなっとくしてくれたんだよ」
 旅人とチャピンとフユーナは馬車に乗りこみました。塔に向かいながら、フユーナは道で手をふる人々にお(れい)を言いました。みんなの手のひらには、オールを使いつづけたことで「たこ」ができていました。
 チャピンは手をふる人の中に、「島がしずむ」と教えてくれたおじいさんの顔がないことに気づきました。フユーナに聞こえないように、小さな声で旅人に聞きました。
「ねえ旅人さん。あのおじいさん、見かけましたか?」
「あのおじいさんは、はりきりすぎてギックリごしになったそうだよ」
「あれまあ!」
 フユーナが心配してもいけないので、このことはないしょにしておきました。
 塔が近づいてくると、人々のすがたか見えなくなりました。 旅人ははっとしました。話さなくてはいけないことがあったのです。
「フユーナさま。『さむがりねずみ』のお話のことだけどね」
「なーに?」
「あのお話は、地球と太陽のお勉強の、きっかけをつくるだけのお話なんだ。本当はもっといっぱい知らなくちゃいけないことがあってね。それを知らないと、説明できないことが出てくるんだ」
「たとえばどういうこと?」
「たとえばね。地球の頭のてっぺんと、おしりの先は、一年中、ずっとさむいんだよ」
 旅人が言うと、フユーナは目を白黒させました。ついでにチャピンも口を開けてぽかんとしていました。
「どうして? ねずみさんはあったかいって言ってたのに。それに、頭の方とおしりの方で、夏と冬が反対になるんでしょう?」
「ふふ。ヒントはね、ねずみさんとちがって、地球は丸いということと、少しだけしか、体をかたむけていないということ。あとでお姉さんやお父さんに聞いてごらん。ほら、もう塔に着いてしまった」
「旅人さんたら、やさしいと思ってたのに、いじわるね!」
 馬車をおりると、旅人とチャピンはそこでフユーナを見おくることにしました。いっしょに塔の中に入ることもできたのですが、そこから先は冬の女王――いいえ、十二、一、二月の女王のおつとめだと思ったのです。


  *


 三月一日、塔から出てきたフユーナの前には、ハルーナと旅人とチャピンがいました。「おつかれさま」と言うように、チャピンはフユーナのかたに飛び乗りました。
 ハルーナがフユーナにたずねました。
「お帰りなさいフユーナ。夏の時間はいかがでしたか?」
「みんなとーっても楽しそうだった! 海でおよぐでしょ、虫とりするでしょ、きもだめしでしょ、それから花火大会でしょ! でもね――」
 フユーナは続けました。
「夏は夏で、イヤな気持ちになる人もいるんだね。暑くて外に出たくないとか。日焼けしたくないとか、『か』にさされるのがイヤとか、じめじめしてねむれないとか……それからね、早く冬になれって言う人もいたの」
 ハルーナと、旅人とチャピンもほほ笑みました。
「私ね、冬の女王でいる間、みんなのイヤだっていう気持ちばっかり気にしてたけど、それと同じくらい、冬を好きだっていう気持ちもあったんだなって、ようやく分かったの。さむさを忘れて夢中(むちゅう)になって雪であそぶ感じ、家に帰った時にほっとする感じ、部屋をあったかくして家ぞくとおもちを食べる、しあわせな気持ち……それぞれの季節には、いいところも悪いところもあるんだね」
「その通りじゃ。フユーナちゃんよ」
 その声は空から聞こえました。見上げると季節の神さまが羽ばたいていました。
「季節を変えたくなったら、ゴード王を(つう)じてお願いするがいい。また私が力をかして、島を動かしてあげよう」
 それを聞いたハルーナは言いました。
「うふふ。だけどすぐに元の場所にもどるのはだめよ。私もはじめての『秋の声』を楽しみたいんだから。それにフユーナ、雪であそんでみたいでしょう?」
 フユーナは目を丸くして、それから笑顔になりました。
「うん! あそびたい!」
「わっはっは! そうかそうか。そうするとしばらくゴードアイランドはこの場所から動けぬな! それではどうする、旅人よ?」
「もちろん神さま、ごいっしょさせてもらいましょう」
 旅人の言葉を聞くと、季節の神さまは頭を下げました。旅人はその首に飛びつきました。
 チャピンはフユーナのかたの上で飛びはねて、声を上げます。
「旅人さん! どこへ行くの?」
「ぼくもそろそろ自分の国に帰ろうと思ってね。ここからだとたいへんな時間がかかってしまうし、ゴード王の知らない国だからね。季節の神さまにつれて帰ってもらう約束をしていたのだよ」
「約束って、ももも、もしかして契約書(けいやくしょ)ですか!」
「まさか! 口約束(くちやくそく)さ!」
 このやりとりを聞いた季節の神さまは大笑いして、旅人をつれて天高くのぼっていきます。
 チャピンが小さな体で、大声でさけびました。
「いつか、また会えますか?」
 旅人もさけんで返しました。
「もちろんだとも! この島が地球のどこかをめぐり続けるかぎり……この島の季節が、いつまでもめぐり続けるかぎり!」
 旅人を乗せたドラゴンは、元気いっぱいに太陽の向こうへ飛びさっていきました。



(おわり)


 読んでいただきありがとうございました。
 童話とはちょっとちがう感じになっちゃったかな。

 季節が反対の地域があるって初めて知ったよー、という子がいたら、うれしいです。日本とオーストラリアの季節が反対になるのが有名ですが、オーストラリアは広いから、地域によって気候が異なるそうです。
 きょうみをもってくれた人がいたら、「自転」「公転」「地軸」「赤道」「黄道」なんかの言葉で、検索して調べてみてねー。ちなみに作者はその辺まったくくわしくないので、あんまりツッコまないでね。


 お話の内容としては、フユーナを助けようとするみんなの気持ちや、フユーナが気づいた「いいところと悪いところ」といったことを、いっしょに考えてもらえたらうれしいと思います。

 ではあらためまして、読んでいただきありがとうございました。

追伸
 もちろん「ゴード」は「gourd」です。


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