●木曜日
「昨日、いい事あったの!」
あたしことチカは教室に入るなり、親友のエミコちゃんに言った。
「すっごいカッコいい人に会ったんだぁ」
「え〜。チカちゃん、ついに初恋ですかぁ! めでたい!」
「だから聞いてよぉ。・・・・・・でも、相手の名前知らないんだけど」
「え〜!」
話が聞こえたのか、ナオミちゃんとマユミちゃんも寄ってきた。
「ウチの学校?」
「違うんだ。えっと、ちょっと用事で出かけた先で、あたし、変な人達に絡まれちゃって」
「え〜! 大丈夫だったの?」
「うん。その時、その人が助けてくれたんだぁ!」
「うわ〜! 漫画みたい」
「顔、カッコ良かった?」
「どんな人?」
つぎつぎ質問してくる。
あたしはなんか楽しい。こんな経験、今までなかったもん。
「えっと、高校生だと思うんだけれど、襟に校章がついてた」
ノートになんとなくうろ覚えの絵を書く。
「あ、これ、うちの兄貴の通ってた高校だよ!」
「ホント? ナオミのお兄ちゃんって、4月に大学生になったよネ」
「うん。ねえチカちゃん。この校章の周りって何色で囲ってた?」
あたしは一生懸命思い出す。
「確か赤。エンジ色っていうのかな」
「兄貴が同じ色だったから、なら一年生だね。あたしらと同学年だ」
あたしはどんどん嬉しくなる。
全然知らないあの人が、どんどんわかってくるから。
「あと、何か情報ないかな」
「どうやって助けてもらったのよ」
「うん、あたしと変な人達の間に割って入ってくれて、ちょっと殴り合いのケンカになった」
「こわっ!」
「結構殴られた?」
「でも、一方的に強かった! 全然相手にならないくらい強かったんだぁ」
「へぇ〜! 白馬の王子様みたいなんだ」
「そりゃ、恋愛経験のないチカちゃんが一目ぼれするだけあるネ」
「それだけ強いとなると、運動部に入っているのかな」
「空手や柔道やってんのかな」
みんなが、自分の事のように考えてくれる。
なんか、みんなありがとうネ・・・。
その日一日、あたしはウキウキした気分だったぁ。
●金曜日
次の日学校へ、わざわざナオミちゃんとマユミちゃんが、出身中学の卒業アルバムを持ってきてくれた。
「エミコちゃんはチカちゃんと同じ出身校だから」
「あたし達、中学校違ったでしょ? もしかしたらいるかもって」
「ありがとう〜!」
とっても嬉しいよ・・・。
でも、いるのかな?
ここにいたら、超ラッキーだけれど。
あたしはアルバムをめくる。
ナオミちゃんのアルバムにはいなかった。
マユミちゃんが持ってきてくれたアルバムもめくってみる。
そして。
「いた! この人!」
あたしはすっごい嬉しかった。
クラス写真の中に、この間助けてくれた人がいた。
「どれ? どの人?」
他の三人が覗き込む。
「メガネかけてる。真面目そうだネ〜」
「ケンカするタイプじゃないナ」
しばらく見ていたマユミちゃんが、言いにくそうに言う。
「・・・・・・この人、中学の時は性格暗くて、あんまり印象に残っていない」
「え〜。でもこれに名前とかクラブとか載ってるよネ」
黙ってみているあたしの代わりに、エミコちゃんが聞いてくれる。
「うん。載っているけれど。・・・・・・クラブは美術部だね。あと変な人って噂があった」
「なにそれ。どう変なの?」
「よくわかんなかったけれど。いじめまではなっていなかったけど」
暗そうな人で変な人。
そんな感じ、しなかったけれど。
前に会った時、メガネもしていなかった。
新しい情報に、ちょっと落ち込むかも。
「でも、変な人って言うけれど、平凡な人より逆に付き合ってみたら楽しいかもよ」
エミコちゃんが言ってくれた。
うん、そうだよね。エミコちゃんありがとお。
「明日、この人が通う高校で練習試合があるんだ」
ナオミちゃんが言う。ナオミちゃんはテニス部だ。
「応援って事でついて来る? あたしはかまわないよ」
あたしは大喜びでお願いした。
学校の帰りには、マユミちゃんにお願いして、
クラス写真のカラーコピーをとった。
●土曜日
エミコちゃんが一緒についてきてくれた。
あたしのために、クッキーまで焼いてくれた。
あたしは意気揚々とテニス部の人達と共に、その学校の門をくぐる。
「じゃあ、あたしは試合があるから、帰りに待ち合わせしようね」
ナオミちゃんに「頑張って」と言って、残ったあたしたちは校内をうろついてみる。
考えたら、土曜日のお昼に学校にいるとは限らないんだ。
それでも一抹の望みで、美術部と、あと行けるところまでうろついてみた。
「いなかったね」
エミコちゃんがつぶやいた。
「偶然に会えるなんて、そうそうないかぁ」
疲れたあたしたちは、テニス部の試合が見える、二階の大きな踊り場で眺めていた。
隣では、バレーボール部が試合をしている。
ぼんやり眺めていたあたしの目の端に、一階へ向かう階段がみえた。
そして、そこにあの人をみつけた。
「! ・・・・・・エミコちゃん、いたよ」
袖を引っ張り、エミコちゃんに言う。
あたしの小さな声で、エミコちゃんが慌てて振り向く。
あの人が、階段の下で立っていた。誰かを待っているんだろうか。
時計の時間を気にしながら、腕を組んで立っていた。
「チカちゃん、チャンスだよ。声、かけなきゃ」
エミコちゃんが言うけれど、何て声をかけたら。
「ほら、この間はありがとうでも、何でも!」
エミコちゃんに背中を押されて、一歩前へ出た。
その時、あの人も偶然あたしを見た。
すっごい緊張で、顔が上げられなくなる・・・・・・。
「お待たっ!」
その時、その人の所へ、大きな声と共に女の子が飛び込んできた。
「遅い」
「だってさぁ」
とたんに、あたしは逆に、階段を駆け上がっていた。
一気に三階まで上がった。
エミコちゃんもついて来てくれた。
考えたら、彼女がいる場合もあったんだ・・・・・・。
・・・・・・遠目だったけれど、髪の長くて可愛らしい感じの子だったな。
エミコちゃんは何も言わなかった。
ナオミちゃんと待ち合わせた場所で、二人で、エミコちゃんの作ってくれたクッキーを食べた。
お茶を買っていなかったから、とってもぱさぱさで食べにくかった。
・・・・・・エミコちゃん、ゴメンね。
途中で、ナオミちゃんが帰ってきた。
ナオミちゃんは試合に負けて泣いていた。
あたしも一緒に泣いた。
それまで泣かなかったのにね。
家に帰って、日記帳を開いた。
そこに、昨日カラーコピーした写真をはさむ。
告白する前にフラれた感じ・・・・・・。
でも、なんでだか、すぐに新しい恋を見つけられそうな気がする。
あたしは、もう一度コピーを取り出し、彼の顔を眺めたあと、裏を返した。
次の恋をして彼の名前を忘れる前に、鉛筆で書いておこう。
さとしくん
そして日記帳にはさみなおし、机の引き出しにしまった。
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