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三界大戦記―好色皇子と三界の姫たち― 作者:安里優

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真龍内乱(下)

 真龍の住まう島の北東部には、海に突き出るように小さな半島が存在する。
 半島の付け根が比較的低地となっているため、月の内何日かは独立した小島となってしまう。そんな場所だ。

 いま、まさに小島と化したその場所に数十人の真龍が集まっていた。
 人身の者たちは小島の中央部で食事と酒に興じ、龍身の者たちは島の周囲の浅瀬で戯れ合う。
 真龍の次期族長、ツェン=ディーの主催する宴がそこで行われているのだ。

 彼ら空に生きる者たちの宴は、屋根のある場所で行われるものではない。
 昼であろうと夜であろうと、屋外で行われ、参加者たちは広い会場を散策しながら、それぞれに行き会った人々と話し合い、酒を酌み交わし合う。

 今日の宴もそうしたものであった。
 夕刻の澄んだ光の中で、彼らは語り合っている。
 その中でも、ツェン=ディーの人身ディーを囲む一団ではことに言葉の応酬が激しかった。

「手をこまねいている暇はなく、早急に動くべきだという君たちの論はわかった」

 そんな中で、ディーは手を広げ、皆に落ち着くように示しながら、言葉を放つ。
 彼の周囲には、十数人が集まり、我も我もと意見を述べていた。だが、いかに議論が白熱していても、さすがに若長の発言には口をつぐんで耳を貸そうとする者が多い。

「君たちの望みの大枠については、僕も同意する」

 おお、と周囲が沸き立つ。

「では、若長!」
「ついに神族と!」

 この日、宴に参加している集団は二つに分かれる。
 ツェン=ディーやその腹心ラー=イェンと親しい直属の部下たちと、若者の中でも、急進派と呼ばれる面々である。
 ディーを囲んでいるのは後者の集団。

 ディーたちは、数日前にラー=イェンの妹分であるイー=シェンから仕入れた情報を元にして、現状に不満を持ち、いざとなれば力尽くでも現況を変更しようと考えている急進派の者たちを割り出した。
 そうして、彼らを宴に招き、意見を交わしているのだった。

 ただし、情報をもたらしたイー=シェンの元恋人の姿はそこにない。
 彼は、『話の出来る』相手とみなされていないためだ。
 ここにいるのは、まだ多少は話が出来そうな者たちなのだ。

 そんな者たちでも、ディーが彼らに理解を示した途端、目の色を変えて歓喜の声をあげる。
 基本的に興奮しやすい……いや、浮かれやすい者たちなのではなかろうか。
 ディーのかたわらでずっと黙って観察を続けているラー=イェンはそんなことを思う。

「まあ、待った待った」

 期待の声をぶつけられたディーは苦笑しながら、周囲を鎮めようと手を振る。

「さっきも言った通り、神族と戦う事について、僕にも異は無い。ただし、だ」

 そこで、ディーは周囲を囲む一群の中の一人を指差した。

「たとえば、君、兵站についてはどう考えてる?」
「それは……」

 指名された男は、躊躇うように口ごもる。彼は、真龍の中でも戦闘部署ではなく、それを支える事務方に配置されている男だ。
 後方支援の重要性を知るが故に、軽々に口に出来ないのだろう。

「昔の戦なら、僕らは魔族を同盟相手とし、彼らの確保した地点を物資の集積場や休息場所や、傷病者の待機場所と出来た。だが、現時点では彼らとの連携はない。さて、どうする?」
「それは……地上を利用する前提でしょう」

 周囲からの視線と、なによりもディーからの問いかけという自体に、男は額に汗を浮かべながら、なんとか答えを絞り出す。

「島嶼部を……いえ、海……。そうです。海上を利用しましょう。海上を利用するならば、我らだけでも可能となるはずではありませんか」
「ほう?」

 ディーは興味深そうに小首を傾げた。

「我々は、空を行きます。たしかに、時に翼を休めることも必要となります。しかし、それが大地の上である必要はない。海上でも……たとえば、いまいるこの場所のような小島さえあれば、物資を保管することも出来ますし、病人を上げることも出来るでしょう。食糧の補給というだけならば、岩場すら必要無いかもしれません。海の産物を食えばよいのですから」
「ふむふむ。それはいい手かもしれないな」

 感心したようにディーは頷く。
 実際、それは有用な手段の一つであろうと、彼は思っていた。
 おそらく、発言者である男自身、苦し紛れにひねり出した発想であろうが、実際に話している内に、それが冴えたものであると感じたか、顔色がよくなっている。

 魔族や羅刹といった種族と連携することを考慮に入れなければ、海上における補給は真龍にとって現実的なものになり得るのだ。
 ただし……と彼は思考を進める。

「ところで、その場所の候補はもう目星が付いているのかな? 物資集積を可能とする岩場や、漁場となる海域については」
「それは……」
「当然ながら、それらは、神族との戦線を支えられる場所になくちゃいけないよね。それに、出来れば複数存在しているほうが好ましい。隠蔽も可能であればなおいいね。それらの情報はまとめられているのかな。少なくとも僕は知らないのだけれど」

 意地の悪い質問ではあるとわかりつつも、ディーはその疑問をぶつける。
 当然のように、男は黙り込んだ。
 周囲の者たちも、先ほどまでの勢いと熱を失って意気阻喪しているように見える。
 その様子を確認し、ディーは声を張った。

「先ほども言ったように、僕は神族と戦う事を否定しない。彼らの行いを見て、なにもせず沈黙し続けることなんて出来るはずがない。だけどね」

 周囲の者たちは、彼の言葉に慎重に耳を傾ける。

「やるからには勝たなきゃいけない。神族に思い知らせるだけのことをしなきゃいけない」

 残念ながら、とディーは言葉を失った男を見つめながら言った。

「僕らには戦う準備は出来ていても、勝つ準備はまだ出来ていないんだ」
「しかし、若長。その準備すら進められておらぬではありませんか。そもそも戦う意思すら……」
「そうだね。だから、僕としてはなるべく早く大きな枠組み、あるいは進むべき道というものを提示すのがいいと思っている。そうして、なにを為すべきか、皆がわかることで……」

 なおも噛みつくように迫る者がいるのに、なだめるようにかけられていたディーの声が途切れる。
 彼の目は、駆け寄ってくる数人の部下の鬼気迫る表情を捕らえていた。

「ツェン=ディー様。緊急事態です」
「何事だい?」

 ディーは、ことさらに陽気な声を出すことで、声を抑えるよう示したつもりであった。
 だが、血走った目をした部下たちには通じなかったようだった。
 走り寄った彼らは、ディーたちにこう告げたのだ。

「謀反です」

 と。


                    †


「どういうことでしょうか」

 足早に歩くディーを追いながら、ラー=イェンは周囲に目を走らせ、緊張した声を放つ。
 彼女とディーの周りは彼女も信頼する部下たちが固めているものの、その周囲は見事に混乱に陥っていた。

 ことに招かれた――つまりは急進派の――者たちの戸惑いの様子は、度を超しているように思えた。

「そんなはずは……」

 だとか、

「早すぎる。計画では……」

 だとか怒鳴り合っているところを見れば、彼らの驚きようがわかるというものだ。

「簡単な話さ。彼らにとっても、この日に謀反が起きるなんてことは予想外だったんだろう」

 夕闇が落ちる中を海へと向かうディー。その先にはツェンをはじめ、龍身の者たちが待っている。
 無事に合身出来るようにとその場を確保しているのだった。

「要するに囮に使われたんだよ、彼らは。僕らが接触したのに気づいて、利用されたんだろうね」
「……我らの注意を今日の宴に向けさせておいて、本隊は……ということですか」
「そういうこと」

 周囲に目を配るラー=イェンに対して、ディーはひたすら前を見て進む。いまは、囮にされた連中に構っている暇は無いのだ。

「今晩の内にどれだけ招集できる?」
「すぐにということでしたら二百、朝までには三百五十。多少信頼の度合いが下がる者まで含めるなら五百です」
「まずは二百。朝までに五百だ。いいね?」
「了解しました」

 そこでディーは深々とため息を吐いた。

「見誤ったよ。彼らがここまで事を急ぐとは。これで叔父上になにかあったら、僕の責任だ」
「ディー様のせいでは……」
「いいや、そうなんだよ。そうなるんだ」

 彼はきっぱりと否定の仕草を示して、彼女に説明してみせた。

「僕たちの力で、鎮圧できればよし。そうでなければ、彼らは僕らを担ぐ。いずれにしても、僕らの責任って事になる。事態が悪化すれば悪化する程ね」

 全ての責任を押しつけて、当人たちは追及を逃れるくらいするかもしれないな、とディーは思う。
 仲間を囮として切り捨てられる者たちなら、それくらいするだろう。

「そんな……」
「だからこそ、僕たちでなんとかするしかない。おそらく、実働部隊は少数だろうから。問題は」

 ついに海岸にまで至り、ツェンたち龍身の姿が見えるに至って、ディーは多少の安堵を交えて呟く。

「あとは、潜在的な同調者がどれほどいるかだな……」

 その言葉の不吉さに、身を震わせるしかないラー=イェンであった。


                    †


 真龍の一族の中にも、治安維持を担う者は当然に存在する。
 日常の中で警察権を行使する部署も、軍の規律を保つために監察を行う部署も存在する。
 それら両部署が、族長たちが住まう場所に対して警護の人員を出していた。

 宮殿の門や周辺には軍の人員がおり、静かに場に溶け込むような警護が必要とされる内部は警察側の警備が主に担当している。
 故に、玉座の間近くで警備にあたっていた者がこう漏らすのもしかたのないことであろう

「軍のやつら、負けちまったっていうのかよ……」

 彼の目には、宮殿の中になだれ込む龍たちの姿が映っていた。
 それぞれののど元に光る宝玉を見れば、彼らが合身して、しかも戦闘態勢にあることは明白であった。

 幸いにも、家具などを利用して廊下に並べられた障害物のため、そうそう突撃など出来る状況にはないものの、じりじりと進んでくる様子は同族にとっても恐ろしいものだ。

「違うな」

 謀反とはわからずとも、なにかおかしなことが起きたと察した途端、宮殿の通路に障害物を設置することを命じ、実行させた警備隊長が重々しく否定する。

「軍の連中は抵抗しなかったのさ。見ろよ。あそこにゃ、軍の中でも高位の連中が混じってる」
「そんなばかな」

 隊長の言葉に部下の一人が思わずと言った様子で呟く。だが、それ以上、隊長の言葉を否定する者は出なかった。

「……そんなに戦がしたいんですか、奴ら」
「さて、どうだろうな」

 隊長は部下の問いかけにそんな風に応じた後、障害物の向こうにいる十数人に向けて、三度目の警告を放った。
 侵入は不法である。即刻退去せよという呼びかけは、それまでの二度と同じく無視された。

 それを見て、隊長は部下たちに合身を命じる。
 警備の者たちは、軽々に実力行使に出ないよう、合身しないことを常に意識しているが、もはやそれも通じない。

「奴らがなにを意図しているかなんてどうでもいい。ここを守備するのが俺たちの仕事だ。奴らはここを突破しようとする犯罪者だ」

 この場にいる警備の者が五人に対して、向こうは少なくとも十五人。おそらく、その後ろにはもっと多くの反乱者がいるのだろう。
 だが、退く選択はない、と隊長は覚悟していた。

「犯罪者を素通りさせたとあったら、これまでの毎日が無駄になる。そうだろう?」
「……それもそうっすね」
「毎日床と壁だけにらみ続けて、なにもしないとなったら、置物で十分ですからねえ」

 部下たちは彼の言葉になにを読み取ったか、明るい声で応じる。その事に、隊長は胸が熱くなる。たとえ、もし、それが破れかぶれのものであったとしても。

「それに、空での戦いならともかく、狭いところでの戦いなら、うちらに分がありますしね」
「その通りだ」

 そう、龍身が何人か並んでも余裕のあるこの宮殿の通路でさえ、空を縦横に駆ける真龍にとっては狭い。
 翼を広げればすぐにひっかかるし、仲間の邪魔にならずに攻撃するのも、なかなかに大変だ。
 そうした場所での護身術の訓練を受けている彼らのほうが有利な事は、間違いないだろう。

 実際、ここにいる五人の龍身が居並ぶだけで、通路は封鎖できるのだ。
 だが、一度は撃退できたとしても、次の攻撃に耐えられるか。あちらは交替することが出来ても、こちらには無理なのだから。
 結局の所、援軍が来ることが無ければ、彼らに望みは無いのだ。

 それでも。

「さあて、一暴れしましょうか!」

 部下の空元気な声が、隊長には嬉しくてたまらなかった。


                    †


「いやあ、これはいかんなあ」

 そう首をふりふり玉座の間に入ってきたのは、真白い体の龍と、同じ色の髪を持つ男――白翁だ。

「お前はいつもあきらめが早すぎる」

 対して、不機嫌そうにそれに応じるのは、真龍族の長。彼は、龍身も人身もその玉座を動いていなかった。

「そうは言うが、儂らとて通ってきた道であろうよ」
「ふん。馬鹿を言うな」

 白翁の面白がるような物言いに、ツェン=ディーの叔父は思い切り鼻を鳴らす。他に聞く者がいないからであろうか、彼の口調は実にあけすけであった。
 玉座の間にたむろしているはずの、長老たちはいまはいない。
 ここから逃げ出した者もいれば、この場に逃げ込むことがかなわなかった者もいる。彼らがどうなっているのか、白翁にも長にも把握することは出来なかった。

 なにしろ、叛乱を起こした者たちはまさにここを目指していて、他所の情報など入るはずもないのだから。

「ここまで乱暴にした覚えは無いぞ。兄を追い落とすためだけに、宮殿に押し入ろうとも思わんがな」
「どうだろうな。あの方はなかなかに手強かった。謀略で長の地位を奪えねば、強硬手段を考えざるを得なかっただろう。だが、だからこそ……」
「そうだ。だからこそ、お前たちはこの身を担いだ。どんな意図があったにせよ、表立ってか、あるいはお前のように密かにであったかは問わずな」

 辛辣な言葉に、白翁は苦笑を浮かべるしか無い。その顔を見て、真龍の長は、満足げな笑みを浮かべた。

「兄であったなら、別の未来があった思うか?。それは甘いぞ、我が友よ」
「わかっているさ、我が長よ」

 表向き、長たる男に近づきすぎず、かといって敵対するでも無く中立の立場を取っているように見せかけながら、長と二人して真龍族の政治を操ってきた男は、戦友の呼びかけに肩をすくめて応じた。

「誰であろうと、変わりはしなかっただろう。なにしろ、これをもたらしたのは我らでは無い。神族……いや、それを動かした魔族であろうかな」
「だから言ったのだ。さっさと始末すべきだとな」
「そうだな。その点は、その勘に全てをかけられなかった我らの誤りだ」
「ふんっ」

 人身は頭を掻き、龍身はその首を垂らし、謝罪の意を示す白翁に、長は勝ち誇ったように得意げな顔を見せる。

「だが、ま、しかたあるまい。あのユエリがあちらにいると知れば、なにかあると勘ぐらざるを得まいよ」
「兄妹でなにか企んでると思うものだよ、普通は」
「だから、お前たちはわかっておらんというのだ」

 言い訳がましく呟く白翁を嘲笑うように長は言い、しかし、すぐに深々とため息を吐いた。龍身もまた長く息を吐く。

「ま、過ぎた話だ。もはやツェン=ディーめに任せるしかない」
「出来るかね? あのお坊ちゃまに」
「やってもらうしかあるまい」

 普段とは逆に、ツェン=ディーに対して厳しい態度を取る白翁に、長はなだめるような声をかける。

「もはや、あれに託すしかないからな。いくら俺があきらめが悪いと言っても、終わりの時くらいはわかる」

 そして、彼にはもう一つわかっていることがある。
 いかに現状に不満だからといって、すぐさまそれを暴力によって変更しようとする者たちに、未来など担えるはずがないのだと。
 力を発揮するならば、やるべき場所と、それを為すべき手順がある。

 長からしてみれば、こんな稚拙な謀反をしでかす者たちに、自分の後を継げるわけなどないことは、もはやわかりきった事であった。

「だが、我が甥も含めて、若い連中には少々、教育が足りんようだ。そのことを、俺直々に思い知らせてやらねばなるまい」
「ああ」

 白翁は頷き、そして、深々と頭を垂れた。

「真龍族の長こそは、当代最強の戦士でもあるということを、彼らは思い出すことでしょう」

 その声は実に恭しく、敬意にあふれている。
 それに応じるように、長は――人身と龍身が共に――吠えた。

 長々と続く挑戦の雄叫びを。


                    †


 暗く沈む夜の空を、数十の真龍が駆ける。
 直進した後で翼を大きく広げて制動をかけ、右に左に回転した後に、急上昇する。
 時に空間の中で衝突しそうなほど接近し、時に散開する。
 蛇にも似た巨大な体が、鱗を煌めかせながら、翼を打ち振るい、必死で夜闇を切り裂いていく。

 彼らは、なにもその翼を用いて戯れているわけではない。

 その証拠に近づいた表紙に、彼らはお互いに向けて、炎や毒液や酸の吐息を吹きかけているではないか。
 二つの群れが、怒りと敵意をむき出しにしながら、ぶつかりあっているのであった。

 彼らは、飛行しながら、そののど元の宝玉――龍身と合身した人身の額に宿る龍玉――を光らせて罵倒や挑発を繰り返す。

『何故、我らの義挙を妨げようとなさるか、若長よ』

 自分たちを襲う一団にツェン=ディーの漆黒の龍体を見つけ、叛徒の一人がそんな信号を飛ばしてきた。
 ツェン=ディーはそれに対して、きらきらと明るく龍玉を煌めかせた。

『義挙ときたか』

 人の身であれば嘲笑に等しい調子で、彼は応じる。

『義が君たちにあると言うなら、君たちはなぜ謀反なんて起こしてるんだい?』
『知れたこと。いまの真龍が腐りきっているためだ!』

 別の誰かの宝玉がそんな風に強く自分の意を示す。それを行った者は、鎮圧側の真龍に追われ、高く上空へと消えていった。

『若長の仰ることが伝わっておらぬようだな。貴様らが謀反を起こした理由を問うているのではない』

 戦場から離れた場所で、ツェン=ディーと共に指揮をとる空色の真龍――その色もこの闇の中では深い深い海の色のように見えた――が、馬鹿にしたように続ける。

『なぜ、謀反という形になったのかを問うておられるのだ』

 そこで、ラー=イェンはツェン=ディーの反応をうかがうようにしばしその光を一段落とした。
 結局、漆黒の真龍が口を挟もうとしないのを見て、彼女は続ける。

『義挙だというならば、なぜ、自らが望む行動を自ら為さなかった。神族と戦いたければ、神族との戦いに赴けばよい。それを、自らの意思を押しつけんと権力の奪取を謀ったのは何故か』

 真龍の長老たちの動きが鈍いという不平はわかる。
 神族に対して憤るのもわかる。

 だが、本当に組織が腐っていると思うのなら、そんなものは捨て去ってしまえばいいではないか。
 義挙だというならば、賛同者を組織し、外に飛び出ればよいではないか。
 なにも謀反を起こし、自分の意に染まぬものを無理矢理に動かす必要などないはずではないか。

『貴様らにこそ義があるというなら、神族に対する戦に赴くのに、誰もがついていくはずではないか。なぜ、それをしなかった?』

 答えは、ない。
 あるいは誰もが炎を避けるのに、真龍の硬い表皮をも溶かす毒を避けるのに忙しいのかもしれない。
 だが、そこでの沈黙は、舌戦においては致命的であった。

『所詮は賊か』

 ツェン=ディーの慨嘆は、どこか残念そうな雰囲気すらあった。

 結局は、彼らもわかっているのだ。
 真龍族全ての力を合わせねば、神族との戦いなど出来るはずがない。
 彼らは、皆の意思を束ね上げ、その力を引き出すという難行に挑むことを拒んだのだ。
 その代わりに、暴力と恐怖をもって、皆を従わせようとしている。

 あるいは、義挙という言葉に酔って、先をまるで見もしていない者も多くいるのかもしれない。
 自分が参加したこの謀反の結果がどこにあるのか、わかってもいないのかもしれない。

 いずれにしても、叛徒たちの誰一人としてツェン=ディーの問いかけに答えられなかった事実は、謀反側の動揺を誘い、逆に若長に従う真龍たちの意気を上げた。

『さっさと、こんなばからしい謀反は終わらせよう』

 そうツェン=ディーが命じるに至って、鎮圧側の真龍たちはさらなる勢いを持って、その任を果たそうと、翼を振るうのだった。


                    †


 叛乱は、日が昇り、再び日が沈むまでに鎮圧された。
 短時間での収束は、早々に鎮圧の兵を出すことの出来たツェン=ディーの功績であろう。

 だが、その間に失われた人命は、叛乱側、鎮圧側、そして、巻き込まれた者たちを含めて、三百を超えた。
 その中には白翁と呼ばれる重鎮も、当代の長その人も含まれていた。
 これにより、真龍は経験したことのない混乱の時代を迎えることとなる。


(第四部 人界侵攻・征西編に続く)
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