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三界大戦記―好色皇子と三界の姫たち― 作者:安里優

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真龍内乱(中)

「ライ(ねえ)

 真龍の次期族長の腹心たるラー=イェンの人身は、後ろから呼びかけられたときから相手が誰かわかっていた。
 声や気配はもちろんのこと、そもそも彼女をそんな風に呼ぶ人物は一人しかいない。

「その呼び方は止めろといつも言ってるだろう。イー=シェン」

 振り向けば、茶色い髪を短くまとめた人身の女がいた。背はラー=イェンの人身より低く、しかし細身のその体は実にしなやかで表情もまた快活だ。

「いいじゃないすか。あたしのこともシイとか縮めて構わないのに」
「お前が構わんでも、こちらが構うのだがな」

 そう言いつつも、ラー=イェンは彼女が己の横に並んで歩き始めるのを拒絶しようとはしない。
 イー=シェンは仲の良い、いわば妹分のようなものだからだ。

「で、なんの用だ?」
「いや、ライ姐を見かけたから、ちょっと世間話を」
「嘘をつけ」

 彼女の軽い調子の言葉を、ラー=イェンは一言に切って捨てる。
 ラー=イェンはいま、彼女が仕えるツェン=ディーの部屋へと向かうところだ。そのことは、当然イー=シェンにもわかっている。

 これが龍身のいる場所へ行こうとしているだとか、休息に向かおうとしているとかであれば、イー=シェンがじゃれついてくることは大いにあり得る。
 しかし、ツェン=ディーの元へ向かうラー=イェンを、それ相応の理由もなしに呼び止めようとするほど、イー=シェンは馬鹿では無い。

 底抜けに明るく見える妹分が、その実、気遣いも出来ることくらい、ラー=イェンはよくわかっていたのだ。

「いやー、まあ、話があるのは本当なんだけど……さ」
「……わかった」

 何か言いにくそうにしている彼女の様子に、ラー=イェンは道を逸れ、廊下に囲まれた小さな庭に出た。囲いはないが、四方が開けていて誰か来ればすぐにわかるので、内緒の話をするのには都合が良い。

「で?」
「えーと、あの馬鹿の話なんすけどね」
「ああ、お前の恋人か」

 妹分がそうした相手のことを照れ隠しに『馬鹿』と呼んでいることを、ラー=イェンは知っていた。
 だが、それに対してイー=シェンは首を振って否定の仕草を示した。

「いや、もう元恋人で」
「なに? 別れたのか? いつのことだ?」
「昨日」

 これはまた急な、とラー=イェンは声に出さず呟く。
 だが、正式に番う夫婦関係が破綻することは珍しい真龍の文化でも、恋愛関係が終わりを告げるのは、そこまで珍しいことでもない。
 しかたのないこともあるのだろう、とラー=イェンは結論づける。

「なるほど。そうした話か。まあ、もしお前が私に話して気が済むなら……」
「あー、いや、ライ姐。違う違う」

 ぱたぱたと顔の前で手を振って、イー=シェンは苦笑を見せる。

「実は、その別れを決意させた言動がね。ちょっと」
「……ん?」
「簡単に言うと、あの馬鹿、あたしがライ姐に親しくしてもらってるのを知ってて、若長様に口利きしてもらおうって言い出したんで」

 不快げなその口調に、ラー=イェンはかえって不思議そうな表情になる。

「いまの役が不満だという程度なら話を通してもよかったと思うが」
「そのくらいだったらよかったんすけどねえ……」

 だが、イー=シェンの元恋人の要望はその程度では無かったらしい。彼女は深々とため息を吐いた。

「あの馬鹿、本当に心底馬鹿だったみたいで」

 ラー=イェンは妹分が初めてその言葉に、言葉通りの軽侮の意味を込めたことに気づいた。
 それほどのことを、元恋人がしでかしたのだろう。

「一体何を持ちかけたのだ?」
「それが……若長様を担いで、族長様を追い落とそうなんてことを企ててるらしいんですよね」

 それまでと変わらぬ表情で、しかし、張り詰めた声で言う妹分に、ラー=イェンはいっそ感心するほどであった。

「その話、詳しく聞かせろ」
「ええ、もちろん」

 そうして、彼女は昨夜打ち明けられたという謀議について、詳しく話し始めるのだった。


                    †


 真龍にとって、遊び場といえば、海である。
 彼らの故郷である島は、住まうには十分な広さを持つが、巨体である龍身がはしゃぐには少々手狭だ。

 だが、彼らには翼がある。
 そして、まだ飛ぶことがおぼつかない幼い者でも無い限り、島の上空に留まる必要は無い。
 故に彼らは島を飛び出して、海の上で遊び回るのであった。

 今日も、二人の真龍が海の上を行く。砂色をした真龍と、緑に近い暗い青をした真龍。イー=シェンとその恋人サァカ=ジンだ。

 二人は空中で不意に近づいたり、あるいは飛びかかるようにするのをひょいと避けてみたりとじゃれ合いながら空を行く。
 目的などなさそうな動きであったが、その実、彼らが目指している場所がある。
 潮の引いた時にだけ顔を出す小島……あるいは岩塊だ。

 彼ら二人は目的の地点まで来ると、たしかに波間に岩とも島とも言い難い大きさのものが浮かび上がっているのを確認して、下降を始める。
 お互いの周りを回るようにくるくると彼らは螺旋を描く。その軌跡の美しさは、お互いの動きを理解しきっているが故になし得るものであるように見えた。

 そうして、岩場に降りると、彼らは見るからに寛いだ様子となる。ここは、彼らのお気に入りの『秘密の場所』なのだ。
 秘密と言っても、実際には真龍の一族に伝わる海図にはしっかりとこの場所が記されている。
 ただし、岩礁として記述されているため、それが潮の満ち干で海面上に出てくることを知っているのは、一部の者だけだ。
 その一部の者の中に、イー=シェンやサァカ=ジンが含まれているというわけ。

 真龍は誰でも一つか二つ、そうした『秘密の場所』を持っている。
 こうした岩場だったり、あるいは回遊する浮き島だったり、先史時代の遺構らしき骨組みだったり、様々な場所を。
 きちんと報告しろと上層部が咎めないのは、自らも若い頃にそうした場所で秘密の相手と逢い引きをしていたからに他ならない。
 そんなわけで、洗い出せばいくつも見つかるであろう気持ちの良い隠れ家は、公にされぬままそっとされている。

 そんなところに降り立った彼らは、首をもたげ、ぐっと胸を張った。
 すると、のど元が花びらのようにめくれ上がり、中から人身が現れる。
 人身と龍身の二様に分かれた彼らは、そのまま岩場に寝転がって、ひなたぼっこを始めた。

 日差しに温められた岩の表面が、素肌に心地よい。
 二人は――あるは四体は――それぞれに気持ちよさそうな声をあげ、きゃいきゃいと喜びの声をあげた。
 だが、体も温まり、うとうとと眠りに誘われそうになったあたりで、サァカ=ジンがはっとしたように起き上がる。

「そうだ。今日は、君に頼みがあったんだ」
「頼み?」

 男があぐらをかいて座り込むのに、イー=シェンの人身も身を起こしてそれに対する。こういう時、龍身のほうは首をもたげるだけですむので便利だ。むしろ、体ごと起き上がろうとするにはこの岩場は狭すぎた。

「ああ。だが……」
「なんだよ、水くさいな」

 自分から言っておいて、躊躇うように言葉を濁す男に、イー=シェンは明るい笑みを漏らして言った。後ろでは龍身もまた元気づけるように声を立てている。

「あたしとあんたの仲だろ、サジ」
「そうか」

 あからさまにほっとしたような表情になるサァカ=ジン。
 その様子に、イー=シェンは小首を傾げた。
 先ほど躊躇うような素振りをした時に、これまで見たことが無いような表情を、彼がしていたように思えたからだ。

「実は、その……君はラー=イェン殿と仲が良いだろう?」
「うん」
「彼女との会談を設けてもらうことは出来るだろうか? 俺とあと数人とね」
「内容によるなー」

 そこでサァカ=ジンは再び躊躇うような表情になった。先ほどと同じ表情。
 何が違うのかとイー=シェンは考える。

「出来れば、君は聞かないで、俺を紹介するだけに止めてもらうことは出来ないだろうか」

 そうか、目の色だ。
 彼がこれまでこんな暗い目をしたことがあったろうか。

「無茶言うなよ、サジ」
「無茶なことであるものか。君が俺を信頼して紹介してくれればいいだけのことじゃないか」
「あんたは信頼してるさ」

 イー=シェンは言って肩をすくめた。形の良い乳房がぷるんと揺れる。

「でも、あんたのお友達までは、あたしにはわかんないしね」
「俺の信頼する同志たちでもか?」

 男の声は奇妙に抑揚を失っていた。怒りを無理矢理に抑え込んでいるかのように。
 同志……ねえ、とイー=シェンは心の中で呆れたように呟く。

「あんたは、その人たちを信頼してると。それはいいよ。で、あたしにも信頼しろって言う。それなら、まずはあたしのほうを信頼してちゃんと中身まで話すのが筋じゃない?」
「それは……」

 男の目が動揺に揺れる。目をそらしながら話す男の姿も、イー=シェンはこれまで見たことが無かった。
 それまでのつきあいでは、彼はいつも真っ直ぐに彼女を見つめてきていたものだ。

「君を危険に巻き込みたくない」
「危険に巻き込むような話なの?」
「場合によっては」

 はあ、と彼女は小さくため息を吐く。

「じゃ、無理だね。ライ姐をやばいことに巻き込むわけにはいかないもん」
「イー=シェン……」

 男が囁くように彼女の名前を呼ぶ。それが彼が甘えてくるときの手だと、彼女は心得ていた。

「此度のことは、ラー=イェン殿にとっても益のある話なのだぞ。いや、ツェン=ディー様にとってもというべきか」
「若長様に? サジ、あんたってば、ライ姐から若長様に話をつないでもらうつもりだったの?」
「それだけのことなのだ」

 サァカ=ジンの顔が興奮に彩られ、ぎろりと睨むようにしてくる。
 その目の光り様に、イー=シェンはますます警戒心を強くした。ぎらぎらと力だけはあるのに、焦点が合っていないような、そんな目つきだ。

「それならなおさら話してもらわないとね」
「イー=シェン。だから……」
「若長様に聞いてもらわなきゃいけないくらいの大事なんだろ? だったら、そりゃあ、真龍全体に関わる話のはずだよ。あたしが、それに関係ないとでも?」

 そこで、男がはっと表情を変えた。まるでなにか大事なものに気づいたとでも言うように。

「なるほど、君の言うことも尤もだ」

 彼は顔を歪める。苦しげに言葉を押し出すサァカ=ジン。

「しかし、俺には同志との誓いがある。軽々に事を漏らすわけにはいかんのだ」
「だったら、あたしも同志の誓いを交わせばいい。他の人とは無理だけど、いま、この場にいるあんたとなら出来るよ。サジ」
「同志とはそういうものでは……」

 言いかけて、しかし、男は苦笑のような表情を浮かべた。

「いや、そういうものかもしれんな。うん。そうだな」

 明るい調子で言うサァカ=ジンに、イー=シェンはこれも明るく笑いかける。
 だが、彼女はわかっていた。
 ラー=イェン、つまりは次期族長の腹心とのつながりを作るためには、ここで彼女を納得させるしか無いのだと頭の中で損得を計算したことくらいは。

「では、秘密を守ると誓ってくれ」
「ああ。あたしは同じ志を持つ仲間の秘密を守るよ」

 人身が手を掲げてそう誓うと、その背後で龍身もまた大きな吠え声で己の意思を示した。
 そうすることでようやく男は安心して話すことが出来るようになったと考えたようだった。
 サァカ=ジンの人身は、ぺろりと唇をなめて一気に話し始める。

「イー=シェン。俺たちはな、老人たちには引退してもらうべきだと考えている」
「老人って、長老方ってことかい?」
「そうだ。彼らはすでに指導者としての資質を欠いている。思考は鈍り、決断は遅くなり、大義に殉じる勇気も失ってしまっている」
「死んじまうのが前提なのはどうかと思うけどね」

 イー=シェンが小さく呟くが、その声は男の耳には入っていないようだった。

「真龍は誇り高い種族だと、俺たちはそう教えられてきた。そう信じて育ってきた。ところが、いまの真龍はどうだ。神族を打倒するという使命も、人界の守護者としての任も捨て去って、ただただ無為に時を過ごすだけではないか」

 彼は段々と興奮してきたのか、身振り手振りを交えて、己の主張を開陳し続ける。

「特に、俺たちが生まれてからはその傾向が顕著だ。人界の国々との接触を断ち、ただただ傍観者として、彼らの生活を眺める日々。それになんの意味があるというのだ? いや、いままでは、それでもよかった。これまでは、そうした観察だけでも、意味はあるものだと思っていた。魔族が侵入することも、神族が人界にちょっかいを出すこともほとんどなかったからな。監視にもそれなりの価値があるのだと、そう思っていた。いや、そう思わされていた。だが!」

 男はぐっと拳を握る。

「いま、この時に至ってはどうだ? 魔族が人界を荒らしても、神族が人界の都市を蒸発させても、あの老人どもは動こうとしなかった。兵を集めようと、実際に動かさぬのなら、なんの意味も無い! そうではないか、イー=シェン?」
「まあ……あたしもなんのために招集されたんだと思ってはいるけどさ」

 サァカ=ジンもラー=イェンも、魔族討伐のためにと出陣を準備していた兵の一人である。それが待機を命じられた上、神族による暴挙があってなお何の命令もないとなれば、色々と疑問を抱かずにはいられない。

 だが、イー=シェンは目の前の男ほど不満を抱いてもいなかった。
 敬慕するラー=イェンがいまはまだ時では無いというなら、それ以上のことを考える必要もなかったのだ。

「そうだろう? 老人どもは形ばかり兵を招集し、ただただなにかをなしている振りをするだけなのだ。実際にはなに一つ前には進んでいないというのに!」
「まー、なんていうか」

 イー=シェンは少し考えて、彼に話を合わせることにした。ここで議論をするよりは、彼の主張を最後まで聞いてみるほうが良いと判断したのだ。

「長老方は慎重だなあと思うことはあるね」
「あれは慎重なのではない。惰弱なのだ! 小胆なのだ! 腑抜けなのだ!」
「そうかもしれないけど……。でも、結局は族長が決めることなわけだし」
「そこだよ」

 サァカ=ジンは我が意を得たりとばかりに微笑んだ。

「なにが?」
「結局の所は、決定は族長に委ねられる。いかに長老どもの声が大きかろうと、族長には勝てん。だが、当代の族長は、もはや長老どもと同じ、老いさらばえた抜け殻に過ぎん。あれでは、なんの決定も下せまい」

 無茶苦茶を言いやがる、とイー=シェンは思いつつ、口ではもっと穏当な事を言っていた。

「でも、族長は族長だろ?」
「永遠に族長の地位を占められる者などいないだろう?」
「そりゃそうだけど、こんな時に代替わりしようとは言わないと思うけど」

 イー=シェンの反論を、男は笑い飛ばす。

「地位に執着して晩節を汚すというなら、無理矢理にでも退いてもらうまでさ」
「無理矢理って……」
「ここまで来れば、事の大きさもわかってくれたと思うが……」

 そこで、彼は声をひそめた。どこで誰が聞いているかわからないとでもいうように。

「俺たちの同志の数は百を超えているんだよ」
「……なるほどね」
「わかってくれたか」

 男の言葉に絶句してしまったイー=シェンは、それでもすぐに立て直し、不敵な笑みを浮かべて頷いていた。
 そんな彼女の様子に喜悦満面のサァカ=ジン。

「ああ、わかったよ」

 あんたらの心根がね、と彼女は舌に乗せずに呟く。

「でも、若長様が乗ってくれるかね? まがりなりにも叔父君だろ」
「心配するな」

 男は自信満々に胸を張って見せた。

「真龍の未来を考えておられる方が、我らと志を同じくしないわけがない。我らは大義のために動いているのだからな。そして、ツェン=ディー様は、きっと我らに賛同し、我らを助けてくださるはずだ」
「……なるほど、そうだね」

 そんな馬鹿なことがあるものか。
 イー=シェンは心の中でせせら笑う。
 真龍の事を考える者が、一族を割るような企てに荷担するわけがあるものか。

 目の前の男が言っているのは自分の都合のいい願望に過ぎない。
 そこには真龍の行く末どころか、ツェン=ディー個人の考えすら存在していない。

 都合のいい人形のように若長が動いてくれると信じるほど愚かな集団に、真龍の未来など預けられるわけもない。
 ぽかぽかとした日差しの中にありながら、イー=シェンの心中は冷え冷えとしていた。

「なるほどね。わかったよ、サァカ=ジン」
「わかってくれたか、ありがとう」

 久しぶりに彼の本当の名を呼んだ彼女の態度をどう受け取ったのか、サァカ=ジンは嬉しそうに笑うのだった。


                    †


「なるほどねえ」

 イー=シェンの話を聞き終えたディーは、わずかにひきつった笑みを浮かべながらそう言った。

 いま、彼の部屋にはイー=シェンとラー=イェン、そして、彼の三人がいる。
 妹分から話を聞いた彼の腹心は、自分を通じてではなく、イー=シェンの話を直接彼に聞かせるべきだと判断し、ここに連れてきていたのであった。

「いや、聞かせてくれてよかったよ。ありがとう」

 二人に対して頭を下げるディー。ラー=イェンとイー=シェンは二人して慌てながらそれに対して返礼した。

「まあ、あらましは理解したけど、二つほど尋ねたいことがある」
「はい」

 少し緊張した様子のイー=シェンに微笑みを向けた後、ディーは心配そうに尋ねかける。

「話によると、君は彼と誓いを交わした様子だけど、僕に話しちゃってよかったの?」
「ああ」

 彼女はそれに苦笑で応じた。

「あたしが誓ったのは、同志との秘密を守ることですよ。あいつとはもう恋人でもなければ、同じ志を持つ仲間でもありませんからね」
「なるほど」

 愉快そうに笑って、ディーはぴっと指を一本立てた。

「もう一つ。君は懸念しなかったのかな? 僕が彼らと同じようなことを考えているとは。自ら叔父上を除いて事態を掌握しようとしているとは?」
「そうですね」

 そこで彼女は少し考え、それから朗らかに告げた。

「そういうことだったとして、あたしを口封じに始末するというなら……まあ、なんとか差し違えるよう努力しますね」
「ははっ」

 ディーは手を叩いて嬉しそうな声を立てる。

「いやあ、気に入ったよ。さすがは彼女が目をかけてるだけはある」

 その言葉に、ラー=イェンが深々と頭を下げる。イー=シェンは、ラー=イェンとディーの二人を見ながら、淡く微笑んだ。

「とはいえ、今回はここまでだね。その、君の元彼氏くんをラー=イェンに紹介して、あとは黙ってみておいてくれると助かる」
「それがお望みということなら」

 自分がそれ以上関われないことに少々残念そうな顔をしながら、イー=シェンは頷く。そんな彼女にディーは請け合った。

「約束するよ。君の元彼氏のような陶酔した連中が描いている絵図よりはましな形に落ち着かせると」
「それは安心です」

 そうして、イー=シェンが出て行った後、ディーは部屋を横切って寝台へと飛び込んだ。
 大の字になりながら、部屋に残った腹心に声をかける。

「参ったね」
「はい」
「百を超えるときたか」
「はい。ただし、はったりの可能性はあります」
「元彼くんが詳細を知らされていないだけかもしれない」
「もっと多いかもと?」
「可能性としてはね」

 そこまで言って、言葉は途切れる。
 しばらく続いた沈思黙考のあと、ディーは鋭く尋ねかけた。

「僕の考えが伝わる手勢は?」
「三百ほどは」
「そう」

 彼はラー=イェンの答えを受け、がしがしと頭をかく。

「こりゃあ、一度爆発させるしかないかあ……」

 そうして、諦めたようにそう呟いたのだった。
月末であまりに忙しく、次の更新まで少し間が開きます。
できれば二月中には投稿したいと思っております。
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