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三界大戦記―好色皇子と三界の姫たち― 作者:安里優

第四部:人界侵攻・征西編

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第15回:決断(上)

 頭でっかち――そんなあだ名で呼ばれる晴空種の六脚竜が、大地を踏みならしながら進む。
 あだ名通りの大きな顔に空いた大きな鼻の穴から、ぶふぅぶふぅと大きな鼻息を漏らしながら、竜は進む。

 左の前脚と後ろ足、右の真ん中の脚を一度に上げる、大地をしっかと踏みしめてから、今度は右の前後、そして左の中央の足を上げる。
 常に三本の足で体を支えながら、その背をほぼ揺らすこと無く、竜は大地を進む。
 背にあるのは、いくつかの座席を備えた籠のようなものだ。

 そこに、三人の女性がいた。

 一人はとろけるような黄金の髪を揺らす黒銅宮の姫ユズリハ。
 一人は灰金の髪をゆるやかに巻いた無頼の『毒姫』ミズキ。
 そして、彼女たちに挟まれているのは、しなやなかな体に分厚い毛皮を持つ獣人シャマラ。

 彼女たちは、その背後に続く騎竜兵の隊列と共に、カラク=イオの根拠地、陣城へ近づいているところであった。

 すでに先触れの兵はカラク=イオの幹部である二人とその客人が到着することを知らせている。
 後はゆるゆると進めばいい。戦時ではないのだから、受け入れ準備も整っていないところに慌ただしく乗り込む必要は無かった。

「城に着いたら、すぐに皇子様に会うことになるのかにゃ?」

 土で作り上げられた城を眺めながら、シャマラが尋ねる。彼女の両側の姫二人は揃って上品な様子で小首を傾げた。

「さて、どうですかしら? 殿下のお気持ち次第ではありますけれど、長々と引き延ばすようなことは好まない御方でしてよ」
「とは申しましても、一息入れるくらいの時間はいただけますわ。もしお望みならば、身に着けるものを用意させましょう。湯浴みはよろしくて?」

 ミズキが言うのに、ユズリハが続ける。
 最初のものに比べると後のほうがより親しみを込めた調子であるのは、過ごした時間の差であろう。
 ハイネマンでシャマラの訪問を受け、その後一緒にやってきたユズリハと、途中で合流したミズキでは、距離感に差が出てくるのは致し方ないところであろう。

「そこまではにゃ……」

 咄嗟に断ろうとしたシャマラであったが、ミズキやユズリハの姿と自分のそれを見比べるようにして、彼女は考え直したようだった。

「そうだにゃ。湯浴みはともかく、汗をふく布はもらいたいにゃ。それと、失礼にならないような服があったら欲しいかにゃ」
「賢明な判断と考えますわ。わたくしたちは人の姿を仮の物と考えておりますが、身に着けるものをそれで軽視するわけではありませんもの。殿下の前に出るのにふさわしいものをご用意いたしますわ」

 にこにことユズリハが言うのに、ほっとしたような顔になるシャマラ。その様子に、ユズリハはさらに笑みを深くした。
 このところの道行きで、彼女は獣人の表情――とその変化――をずいぶんと理解出来るようになっていた。

 そもそも毛や鱗や針で覆われた顔を見慣れた魔族ではあるが、別の種族の仕草や表情が自分たちの思っているものと同じとは限らない。
 そのあたりの差異も含めて、ユズリハは学習しようとしていた。

「まあ、殿下は異文化に触れるのも楽しまれるでしょうけれど。ただ、魔族の文化を尊重する姿勢を見せるのは、あなたにとってもよい効果を生むかもしれませんわね」

 ミズキも後押しするようにそう付け加えた。彼女もまたシャマラの目的と意図を聞いていたが故の発言であった。

「ありがとにゃ。それと……ほんの少しだけでいいから、一人きりの時間が欲しいにゃ」
「天幕の中でよろしいのならいくらでも。さすがに、一人で歩き回らせることは難しいですわ」
「天幕で十分だにゃ」

 防諜部門の長であるミズキがわずかに釘を刺すような口調で言うのに、シャマラは真剣な顔で頷く。
 元より、魔族たちの本拠地でおかしな動きをするつもりはなかった。彼女は――現在も未来も――魔族と敵対するつもりなど毛頭ないのだから。

「ところで今更なんだけどにゃ」
「はい?」
「皇子様はいきなり来た獣人なんかに会ってくれるのかにゃ?」

 その問いに、カラク=イオの幹部にして、揃ってスオウの愛人たる二人は顔を見合わせ、にんまりと同じような笑みを浮かべた。

「安心なさって、シャマラさん」
「それはもう間違いなくお会いいただけましてよ」
「そ、そうなのかにゃ?」
「ええ」

 二人はもう一度視線を合わせて、不安そうな獣人の大頭目に向けて、こう告げるのだった。

「なにしろ、あの方は、面白い出来事が大好きですもの」
「さらにお好みなのは、面白い女性でしてよ」


                    †


 ユズリハたちに告げたとおりシャマラは一人になる時間を与えられ、その間に幹部たちが招集された。
 イー=シェンがラー=イェン――その人身――を呼びに出たのはこのときのことである。
 そして、ラー=イェンの龍身もまた会議に同席できるようにと、議場は陣城中央に位置する大天幕の中となった。

「ん……」

 だが、ラー=イェンの態度を見て、スオウが不思議そうな声をあげる。
 円卓に着く人身も、円卓そのものを囲むように巨大な体を丸めている龍身も、どうにもそわそわしているように見えたのだ。

「真龍は、人龍二態が共にあったほうが気が楽になると思ったのだが、違ったかな?」
「はい。その通りですよ」

 スオウが脇に座るエリに小声で尋ねると、そんな答えが返ってくる。エリは公式の身分はともかく、真龍の血を引く者である。彼女の言うことに間違いは無いだろう。

「ふむ。すると別の理由か」
「ええ」

 その答えに、エリもまたラー=イェンの態度が奇妙なことに気づいているのだとスオウは気づいた。
 その上で、真龍の種族的特性とは関係ないとエリは保証している。
 となれば、それ以上気にしてもしかたない。彼はそう判断した。

 まだ集まりに慣れないだとか、そういった部分はおいおい克服していってもらう他ない。
 ひとまずは、会議に同席し、真龍の立場を代表していてくれればそれでいいのだから。

 そこで、彼はラー=イェンから他の者たちに注意を移した。

 この場には、カラク=イオ幹部のほとんどが揃っている。
 スオウの頭脳たる参謀スズシロ。
 フウロ、シラン、ユズリハの実働三部隊の隊長たち。
 カノコ、ミズキという支援部隊の隊長。
 そして、同盟者たる真龍からラー=イェン、ショーンベルガーからはエリ。

 老将ハグマ、ゲデック侯爵、それにスオウの『若宮』ケイはここにはいないが、彼らはソウライの統治のため各地に派遣されている。参席出来ないのはしかたない。
 実際のところ、今後幹部一同が揃うというのは難しくなっていくだろうとスオウは予想していた。

 カラク=イオの支配域が広くなればなるほどそれは顕著になっていくはずだ。
 そうなってもなお一体感を維持できるか。
 それがいずれ課題となる。そのことを彼は理解していた。

 だが、いまはまだそれに対してそれほど思い煩う必要は無い。
 それよりも、目の前の問題を解決すべきであろう。

「ユズリハ」
「はい。シャマラさんの印象ですわね?」

 スオウの問いかけに、ユズリハは当然のように応じる。主が頷くのを見て、彼女はこう続けた。

「お友達になりましたわ」
「そうか。それはいい」

 満足げに頷くスオウ。
 ユズリハが友になれたというなら、これ以上の安心はない。
 目指すところが異なり、交渉が決裂したとしても、あるいは万が一にも敵となるにしても、信頼に足る相手であることはこれで保証された。

「ミズキはどうだ?」

 スオウの問いに、ミズキは慎重な顔付きになり、唇をすりあわせるようにして湿らせてから話し出した。

「彼女に関しては、問題はないことでしょう」

 ミズキはその頬に小さく笑みを刻む。

「恐るべきことに、ワタシたちの調べでも、巷間流れている大頭目シャマラの英雄像は、ほぼ彼女自身の経歴に合致します。もちろん、多少誇張した部分が入ってはいることでしょうけれど、無視できる程度でしてよ」
「つまり、彼女は紛れもなく英雄ということですか」

 スズシロが確認するのに、ミズキはこくんと頷く。
 シランが肩をすくめ、フウロがぐるりと両目を回した。

「ただし」

 そこで、ミズキの声は低く落ちる。

「西方……ネウストリアの情勢は日増しに悪化しております。どの情報源も、それを示しておりました。もし、我々が干渉するとなれば、混乱はいや増すでしょう。ですから」
「首を突っ込むなら、覚悟を持ってしろということか」

 顔を引き締めて対するスオウに、毒姫と呼ばれる女性は軽やかに首を振った。

「世界に向けて喧嘩を売った時点で、殿下のお覚悟は重々承知しておりますわ。ワタシが申し上げたいのは、ネウストリアにどれほど注力するかを最初に決めておくべきだということでしてよ」

 くすくすと笑い声を立てながら、ミズキは自分のくるくると丸まった髪に指を絡ませる。

「我々の目的は、人界、それも北部だけに留まるものではありませんもの」
「なるほどな」

 そこまで言われれば、聞いているほうも理解が及ぶ。

 獣人の頭目が、助けを求めていることは、わかっている。
 それに応じてネウストリアに兵を進めるのか否か。介入するならば、どこを目標とすべきか。そして、どれだけの戦力を割くのか。
 それを最初に決めておくべきだと、ミズキは主張しているのであった。


「やるなら、全力一気呵成だけど、それを状況が許すかなー」
「むしろ地形でしょ。あちらは森ばっかりよ」
「ああ。そうだった、そうだった」

 フウロとシラン、二人の大隊長が、軽い口調でそんなやりとりを交わす。
 ラー=イェンは奇妙な沈黙を守り、そんな彼女を眺めながら、エリはにこにこと微笑んでいる。
 カノコはすでに筆と紙を前に議事録を取り始めていた。

 幹部たちを見回し、再びユズリハとミズキの二人と目を合わせてから、スオウは左に座る参謀に目をやった。

「ともあれ、まずは相手の話を聞いてから、ですね」
「そうしよう」

 そういうことになった。


                    †


「あら」

 天幕に入ってきたシャマラの姿を見て、ユズリハは思わず小さく呟いた。
 しなやかな体つきに、つややかな毛皮を持ち、ほれぼれするような均整の取れた体。
 その身に着けているのは、魔界式の衣服。獣化を前提に、脱ぎやすく工夫されたそれは、獣人の体にも適応できたようだ。

 それはいい。獣と人の融合した美しさをひきたてこそすれ、毀損することはない。

 ただ、違うのは――ユズリハが驚かされたのは――そのまとう衣にあらず、空気だ。
 凜としたした姿と、その目に宿る力。
 それは、まさに『英雄』の名にふさわしいものとなっていた。

「お初にお目にかかります。獣人の小部族を束ねる頭目、シャマラと申します」

 常のにゃあにゃあいう口調もどこへやら。柔らかな声は、よく通る透き通ったものへと変じている。

「よく来てくれた。どうか座ってくれ」
「ありがとうございます」

 シャマラは席に着くと、じっとスオウの顔を見た。
 否、彼女はこの天幕に足を踏み入れた瞬間から、スオウ以外の者を見ていない。
 スオウとシャマラ。
 率いる者も、その規模も、そして、その目指すところも大いに異なるであろう二人の指導者は、言葉を発すること無く視線を絡め合う。

 しばらくして、なにか感じるところがあったのか、一つ頷いて、シャマラは口を開く。

「私がここに来た理由に関しましては、すでにユズリハ殿より伝わっているものと思います」
「一応は。しかしながら、ぜひ、あなたの口からお聞きしたい」
「わかりました」

 スオウの求めに、シャマラははっきりとした口調で、自らの望みを述べる。

「我々獣人が平和に暮らせるよう手助けをしていただきたい。そのためならば、私たちは、あなたがたのネウストリア支配に関して、協力を惜しみません」
「平和にか」
「はい。戦士たち以外の者は、平和に。そして、戦士たちは、あなたがたの軍の先駆けとなりましょう」

 シャマラはそう言い切った。自分たちの勢力に助力をしろというのではなく、カラク=イオに組み込まれてでも、生きのびると。
 その決断の重みを思い、スオウは口を開かなかった。
 代わりに、詳細を尋ねたのは、スズシロである。

「ネウストリアの状況は漏れ聞いております。しかし、そこに外部から勢力を招き、自らその膝下に降ってまで、助けを求めるのはなぜでしょう?」
「ネウストリアには以前から緊張がありました」

 すっと視線をスズシロに移し、シャマラはよどみなく応じる。

「我々獣人を奴隷としたい人間たちと、自由に生きたい我々との。ですが、その緊張は、徐々に緩和しつつありました。森に逃げた我々に対し、人間たちも諦めの念を抱き始めていたからです」

 シャマラは哀しげに首を振る。ぴょこんと飛び出た耳が柔らかく揺れた。

「しかしながら、いつを契機とするかはわかりませんが、人間たちの間で、獣人たちを狩りだし、再奴隷化すべきという一派が勢力を伸ばし始めました。ついに彼らは森に侵入して奴隷狩りをはじめ、結果、現在のネウストリアは混乱に陥っております」
「唯々諾々と奴隷になる必要はありませんからね。あなたがたも抵抗することでしょう」
「ええ。直接に襲い来る連中を撃退するだけでは無く、都市への襲撃も散発的ではありますが、行うようになりました。ですが」

 シャマラの口調が早くなり。それを意識してか、一つ大きく息を吐いた。

「いずれ我々は敗れます」

 しばしの沈黙が落ちる。
 それを破ったのは赤毛の第一大隊長であった。

「そう判断した理由はなんだい?」
「我々の勢力伸長がままならないからです。人間たちは、我々の抵抗が強くなればなるほど各都市の連携を強める方向にあります。しかし、我々にはもはや余裕はありません」
「獣人はもうあなたの下に全て集まっているってことかしらぁ?」

 シランの問いかけに、シャマラは小さく首を振った。

「いえ。私の直属や協力関係にある部族とは別の者たちもいます。しかし、彼らと共闘することはおそらくできません」
「何故?」
「彼らは、人間を恐れているからです。かつて奴隷であった頃、人間は彼らの上に君臨する絶対的な支配者でした。彼らは人間を憎んではいても、同じくらい恐怖してもいます。反抗することなど、とても無理でしょう」
「けれど、その人たちもまた奴隷解放の戦いの中で立ち上がり、自らを解放したのでは?」

 カノコが、『戦って自らの自由を勝ち取ったはずなのに、元の主人を恐怖する元奴隷たち』の心理が理解できずに、小首を傾げながら尋ねる。

「……いえ。彼らは我々が解放しました」

 だが、シャマラの答えは、一種悲痛なものであった。
 誰もが黙り込んだ中で、エリはとんとんと自分の膝を叩きながら考え込む。

「それは、あなたがたへの援助も無理なほどの恐れということなんでしょうか?」
「はい。おそらく、彼らは状況が悪くなれば、留まらず逃げ出すでしょう」
「なるほど」

 つまり、戦力としては数えられない。
 実質、獣人側の戦力はすでにシャマラの指揮下にあると考えていいということだ。

 そこで確認するようにシャマラに問いかけるのはミズキ。
 彼女は自分の部隊――といっても当人ともう一人しかいない――が仕入れた情報から判断して、疑問に思ったことを口にした。

「ですが、現状は、一方的というほどではありませんわよね?」
「だからこそ、です。持ちこたえることの出来るいまだからこそ、あなたがたへ助力を求められる。こちらが提供出来るものがある内だからこそ」
「ふむ……」

 わずかな間、場が静寂に包まれる。
 誰もが、そこで得た情報を頭の中で反芻していたのだろう。
 シャマラは、幹部たちの印象を、そして、カラク=イオの者たちは、ネウストリアの情勢を。

 そんな中で、スオウはこれまで一言も発していない女性に目を向けた。

「ラー=イェン殿はなにか意見はあるかな?」
「わ、私か?」
「ああ」

 声をかけられたラー=イェンは、人身、龍身共にびくりと身を震わせる。
 それを見て、その時初めて巨大な龍身に気づいたとでもいうように、シャマラの毛がふわっと逆立った。

 とはいえ、ラー=イェンもシャマラもすぐに平静を取り戻す。
 ラー=イェンのほうは、なぜかエリをちらりと見てからであったが。

「私は……」

 言いかけて、んっと喉を鳴らしてから、ラー=イェンの人身は続ける。

「まず、真龍としての意見を述べさせてもらおう。純軍事的に考えれば、我々の特性に鑑みて、彼女たちの側に立つほうが有利だ。森の中に潜む獣人たちを敵とするよりは、上空からの偵察、襲撃、離脱が容易な都市を目標とするほうがいい。種族的な信条に基づいて言えば、人界の守護たる我々としては、ネウストリアで乱を起こし、獣人たちを狩り出している都市部の人間を誅するのになんら異論は無い」

 それから、彼女はぐっと拳を握り込み、スオウのほうをじっと見つめた。

「そして、個人的な意見を述べると」

 そう前置きして、彼女は続ける。

「奴隷を欲するような精神は唾棄すべきものだ。焼き払おう」
「そうか。ありがとう」

 意見の過激さにはあえて言及することなく、スオウは礼を述べる。
 それから、カラク=イオの主は、瞑目し、自らの中に潜った。

 それから、どれほどの時が流れたか。
 一呼吸か。
 あるいは、ずっと長い時間であったか。
 誰もが固唾を呑んでスオウを見つめ、時を忘れていた。

「ミズキ。南はどうだ?」

 唐突にぱちりと目を開けて、彼は鋭い声を飛ばす。

「ネウストリアとは比べものにならないような混乱ですわね。雷将の遺領は四分五裂どころか、十人の戦王が立ったとか」
「もし愚か者がおかしなことを企てたとしても、侯爵閣下が食い止めてくださいますわ」

 ミズキに加えてユズリハが自信満々に付け加えるのに、スオウは一つ頷く。
 雷の将と呼ばれたヴィンゲールハルトはもはやなく、その勢力も分裂して矮小化した。
 ならば、なにがあろうと、ゲデック侯爵に任せておけば問題ないだろう。
 神々を憎み、新たな魔族となった彼ならば。

「スズシロ。ケイの様子は?」
「さすがに殿下の代理とするにはまだまだ……。しかしながら、何故かローザ殿が守護についておりますので」
「心配は無いか」
「はい」

 スオウは顎をなで、懸命に議事を記録しているカノコのほうを見やった。

「カノコ」
「はいっ!」

 嬉しそうに声がはね上がり、カノコが椅子の上でわずかに飛び上がった。

「西方に全軍の六割を投じたとしよう。どれだけ戦える? あるいは八割では?」
「六割で丸一年、八割で半年です!」

 カノコの返答は打てば響くようだ。確信に満ちた声は、それが間違いなく試算済みであることを示していた。

「フウロ。半年だそうだ」
「明日の午後までには、大まかな計画を立てちまいますよ」

 第一大隊の長の声に、スズシロとシランが揃って天を仰ぐ。
 明日の午後までと簡単に言ってくれるが、実際に取り纏めるのは、なかなかの難行なのだから。
 だが、実働部隊の代表がそう言った以上、それはもう定まったことだ。

「よし」

 そこでカラク=イオ、すなわち『万民』の長たる男は立ち上がり、こう宣言する。

「これよりカラク=イオはネウストリアを征服する」

 と。
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