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魔王カフェ

作者:冷鳥 涙

「こ、ここが……」

俺の名前は遠山昇。
18歳。
大学生。
趣味は、カフェをめぐる事。
大学のカフェサークルにも入っている。
これまで訪れたカフェは百件以上。
あまり多くないかもしれないが、これからもドンドン増える予定。
そして今日もまた、そんな俺のカフェ辞典に、新たな名前が刻まれようとしていた。

「魔王カフェ。図書館の様な静寂とリビングの様な安らぎ。キャッチコピーはおもろいな。」

魔王カフェ。
皆さんは最初にこの名前を聞いたらどう思うだろうか。
RPGデザインの、若者たちが集うお店。
はたまた、斬新なデザインの今流行り系のお店、などだろうか。
『魔王』と『カフェ』の異色の組み合わせに、中々想像がつかない。
そして、俺は今、魔王カフェの目の前にいる。
そのネーミングから、出店三か月前から目を付けていたのだ。

「確かに、雰囲気は落ち着くカフェってとこだな。けど、魔王要素が見当たらんぞ。」

俺は確かにカフェ大好き人間だ。
だがその前に、一人の男であることを忘れないでほしい。
『魔王カフェ』といったら、魔王とカフェ、両方を感じさせる店でなくてはならない。
俺もまた、少年という名の勇者なのだから。

「やべぇ、今のセリフかっけぇ……覚えとこ。」

そろそろ前振りにも飽きてきたし、本題に入ろう。
このカフェは、朝六時からやっているという珍しいカフェ。
好奇心旺盛な俺は、開店当日の朝五時五十五分に来た。
まだ空いている様に見えないが、『close』とも書かれていない。
もしかしたら、入れてくれるのだろうか。

「鍵が開いていたらもう開店してるかもな。」

ドアに手をかけてみる。
手応え的にはもう開いているようだ。
まだまだ薄暗い早朝の中、太陽に照らされたドアを、俺は慎重に開ける。
真夏だが、店内は涼しい雰囲気で満ちていた。

「こんにちはー?」

電気が灯っているが、店員さんらしき影はない。
内装は木製で統一されていた。
静かな雰囲気で、ここまで来てもまだ、『魔王』要素が見当たらない。

「えーっと……」

誰からも返事がないので困る俺。
当たり前だ。
やはり、六時まで待った方がよいだろうか。
とりあえず適当に席に座って待つことにする。
長いカウンターに腰掛けてみる。

「メニューでも見て……あれ?」

暇つぶしにメニューの確認を行おうかと、カウンターの上を探る。
だが、いくら探してもそれらしいものはない。
他のテーブルにも、メニューどころか何も置かれていなかった。
シンプルをテーマにでもしているのだろうか。

「おすすめを聞けばいいか……」

メニューはとりあえず断念。
すると、まったくもってすることがない。
暇だ。

「あー、でも六時まわりそうだな……」

五時はもうすぐ終わりを告げ、開店時間の六時になろうとしていた。
流石に、六時になれば何か進展があるはず。
ワクワクとドキドキが止まらない俺であった。

「3……2……1……」

六時へのカウントダウンを自然にとる俺。
もう針が一動きすれば六時になる。

「0。」

「いらっしゃいませ。」

カウントダウンを終了するや否や、店員さんがどこからともなく現れた。
俺は多分顔が赤くなった。
それもそうだろう。
大きな声でカウントダウンを行っていたのだから。

「えっと、その……」

咄嗟の事であたふたしてしまう俺。
制服を着た少女は、カウンターの前に歩み寄ると、俺に向かって言った。

「ご注文は?」

単刀直入に言われたが、メニューがない。
さっきの作戦でいこう。

「おすすめってあります?」

「少々お待ちください。」

店員は『おすすめ』を聞いた途端、店の奥へと戻ってしまった。
カフェのおすすめなんて、大抵見当のつく物だろう。
コーヒーとか、手の込んだジュースとか。
しばらくすると、さっきの店員が、オシャレなコップを持って戻って来た。

「えーっと、これは?」

目の前には、透明な液体が注がれたコップが置かれた。
見た感じ水だが、最近は透明なジュースなどもある。
もしかしたら、その手の飲み物かもしれない。

「水です。」

少女はきっぱりと答えた。
水?
その単語に俺は疑問府を浮かべる。
おすすめが水なのか。

「……どこかの美味しい水なんですか?」

~の雪解け水などの、海外の美味しい水なのかもしれない。
だとしたらかなりレベル高いんじゃないか。
俺は期待に胸を膨らませる。

「水道水です。」

「え?」

再び彼女はきっぱり答えた。
水道水?
水道水ってあの水道水?

「人体に問題ないことは確認済みです。安心してください。」

俺が呆気に取られていると、少女が補足した。
そんなことをフォローされても、何も変わらんのだが。

「えっと、店員さん?」

「はい?」

少女は可愛らしく答えた。
少し注意してやろうかとも思ったが、可愛くてついやめてしまった。
少女は、自分よりも年下の様であるし。

「……メニューってないんですか?」

「当店ではそのようなサービスは取り扱っていません。」

あれってサービスなのか。
俺は再度疑問符を浮かべる。
とにかく、メニューがないという事は……

「え、じゃあここって……何を提供しているんですか?」

少女は一度目を閉じると、俺の質問に答えた。

「お客様の好きな食べ物は何ですか?」

「……オムライスですけど……?」

「ご注文、受け付けました。」

「え……?」

聞くと、少女はまた奥に戻ってしまった。

*************************************

少女がいなくなってから、いくらか時間が過ぎた。
今回は中々戻ってこない。
俺は、試しに水道水を飲んでみる。

「うん。水だな。」

味も特にしない。
少し思ったのだが、もしかして彼女はオムライスを作っているのだろうか。
文脈的にはそんな感じがする。
だが、メニューはないのだし、材料もそろっているのだろうか。

「んー、まぁお腹空いてるからいいんだけど。」

朝ご飯は食べていない。
オムライスなら一日中食べていられるから、出されても大丈夫だが。

「ん?」

どこからか、足音がする。
すると、エプロン姿になった、先程の店員が戻って来た。

「おまたせしました。オムライス、約三百円です。」

「え?安くないですか?」

カウンターの上に、一つ皿が置かれる。
そこには、本当にシンプルなオムライスが。
別にしゃれているわけでもないが、見た目は完璧なオムライス。

「あの……料理得意なんですか?」

「……職業にする程度には。」

彼女は、エプロンを外すと、再び俺に問いかけた。

「ケチャップのサービスもありますが、いかがいたしましょうか。」

確かに、このオムライスにはケチャップがかかっていない。

「じゃあ、お願いします。」

聞くと、少女はケチャップを持ちだした。

「なにか、書いてほしい物などありますか?」

「……おすすめで。」

『ここはベタにハートマーク』と、少し思ったが、この店はメイド喫茶じゃない。
あまり気持ちの悪い男子の趣味を押し付けるのはやめよう。
美味しいオムライスが食べれれば、俺はそれでいいんだ。

「できました。」

「……」

彼女には、心を読む能力でもあるのだろうか。
俺は、ケチャップがかけられたオムライスを見て思った。

「どうぞ、召し上がってください。」

俺が中々オムライスを食べないのを見て、少女は言った。
少々動揺はしたが、スプーンを手にする俺。
何故かと言えば……

「ハートマークだよな……」

確かに、そこにはハートマークが描かれていた。
しかも、見事にきれいな。

「いただきます。」

一口食べてみたものの、普通に美味しい。
三食これでもいけるんじゃないか、と言うレベル。
カフェではなく、飲食店でもいいんじゃないだろうか。

「案外いいお店かも……」

こんなに静かな店で、オムライスを頬張れるなんてよいではないか。
図書館の様に静かだし。
音楽すらかかっていない。
早朝の日差しが注ぎ込む中、静かに食事をする。

「毎日通おうかな……」

流石にそれは無理だが、値段も安いし、気軽に来れそうだ。
他のカフェも回りつつ、定期的に来ることは可能だろう。

「あ、あの……」

俺は店員に話しかける。
オムライスを作ってくれた店員だ。
というか、この店には彼女以外の店員がいなさそうに見える。

「はい。」

少女は、カウンターの向こう側で、本を読んでいた。

「ここって、頼めばなんでも作ってくれるんですか?」

一番気になっていたことを聞く。
オムライスが可能なら、他の料理も可能なのだろうか。

「材料があれば作れます。一週間ほど前に、連絡を入れてくだされば、材料も用意いたします。」

つまり、大抵の家庭料理なら作ってくれる。
そうとらえていいのだろう。
それで、リビングという事か。

「へぇー、すごいですね。」

少女は、再び読書へと戻ってしまった。
中高生くらいの女の子に見えるのだが、あまり明るい雰囲気ではない。
なんというか、落ち着きがあって大人な感じ。
この店もきっと、親の手伝いか何かでいるのだろう。
となると『魔王』はお父さんの趣味か何かなのだろう。

「……」

静かな雰囲気を台無しにしないように、黙々とオムライスを食べる。
そして、

「ごちそうさまでした。」

完食した。
ボリューミーだったが、美味しかったので余裕で食べれた。
今度来るときは、何か他の物を食べようか。

「……何か飲み物いただけますか?」

「紅茶にコーヒー。果物はあるのでジュースも作れます。」

ジュースまで作る気なのか。
と言うか紅茶あるなら、水道水出さなくてもいいんじゃないか?
少し疑問に思う。

「……紅茶で。」

「かしこまりました。」

何となく気分的に紅茶。
そもそも、ブラックはあまり得意じゃない。
大抵のカフェじゃあ、カフェオレとか、カフェラテとかおいてるから、いつもそっちを頼む。

「紅茶、100円です。」

「え?」

店員さんが紅茶を淹れてくれた。
だが、驚くのはその値段。
安すぎないか?
ちょっと笑ちゃったぞ。

「つーか、赤くね?」

「『紅』茶ですから。」

普通の紅茶は、どちらかと言うと茶色。
だけれど、この紅茶真っ赤なんだが。

「まぁ、その……いただきます。」

普通だ。
普通に美味しい。
何か真っ赤だけど。

*************************************

「あの、お勘定お願いできます?」

「はい。」

しばらくして、俺は口を開いた。
少女は本を置くと、カウンター越しに近づいてきた。
見たところ、ファミレスなどで見かける、計算装置的なものはないようだ。

「オムライス300円。紅茶100円。計400円。以上です。」

財布を開いて、四百円を取り出す。
ある意味ワンコイン以下なので、何だかお得な感じがする。
普通カフェに行くと、この二倍、三倍は使うのが普通なのだから。

「はい。確かに。」

少女は四百円を受け取った。

「それと、任意参加なのですが、お名前をお聞かせ願えると嬉しいです。偽名でも構いません。」

「……別にいいですよ。」

少女に名前を聞かせると、ひらがなで『とおやま のぼる』と書いてくれた。
実名をさらすのは抵抗があるが、ひらがなならまだ大丈夫だろう。

「ありがとうございました。」

少女は礼を言った。
ふと思い出したので、俺は気になったことを聞く。

「そう言えばこのカフェ、どこが魔王なんですか?」

質問すると、少女は少し雰囲気を変えて言った。

「それは、私が『魔王』と言う意味ですよ。」

「……?どういうことですか?」

俺が動揺していると、少女は俺の服を引っ張った。
勢いで、俺はカウンターに肘をつく。
そして彼女は、俺の耳元でこう言った。

「また来てくれないと、魔法であなたの事、食べちゃいますよ?」

身に染みるような、少々怖い声だった。
だが、少女は俺の服を離すと、少し優しく微笑んだ気がした。

 
魔王って言っても、『元』ですよ?

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