THE REVERSE CLOSS 縦書き表示RDF


THE REVERSE CLOSS
作:青舞


 薄暗い墓場に響く詠唱の声。ゆったりと落ち着いて、全てをなだめる鎮魂の歌。
 白い装束の司教が墓の土を踏んで歩き回る。
 胸に大きな聖印。聖句の刻まれた白い手袋。
 司教は手にした小さな聖書を閉じた。
 彼の傍らにお付の戦士。二人の目の前、十字架が逆さに突き立った墓所に
もう一人の戦士がかがみ込んで何か調べている。
「よかったよかった。……もうここは大丈夫でしょう。墓石や土の乱れた跡もないし。
今回は無事に帰れそうですね」
 司教の傍らの戦士がにこにこして言う。彼はダークな髪の、頬に傷のある青年だ。
「そうだなシェスター。しかし……逆さの十字はいつ見ても心が痛む」
 司教はそう答える。
「……仕方ありませんよ。VAMP退治はいつも危険と隣り合わせ……あれは、
ヴァンパイアハンターの転化したなれの果ての印……いや、見せしめのための墓標ですからね……」
 二人は沈鬱な表情をして、墓場に背を向けた。
「おい、ロイ、引き上げるぞ!」
 シェスターの言葉に、墓石に見入っていた戦士が立ち上がる。「今行くよ!」
彼は、どこか幼げな面持ちをした戦士だったが、やはり暗く、弱々しい表情を張り付けていた。


 司教が村の頭に報告に行っている間、戦士たちは宿に残された。
 ロイは相変わらず暗い顔をし、ベッドに腰掛けていた。
「なぁ、ロイ。気持ちは分かるけど、明日は出立だ。今回は何事もなかったんだから
いいじゃないか。もう墓の事なんか忘れろ」
「……シェスターは強いね。……僕たちもいつかあんな風に葬られないとも限らないんだ。
それを考えると……やっぱり明るい気持ちになんてなれない」
「まぁ、そんときゃ仕方ないさ。何事も運命さ」
「そうだね……」
 ロイは遠い目をした。
「僕の父さんは……やっぱりヴァンパイアハンターのお供で出かけて、命を落とした
んだ……。だから、僕はいつか敵をとってやりたい。それで……向いてないとは思ったけど……
この仕事を目指したんだ……」
「そうだったのか……。司教さんにも息子さんと娘さんがいるらしいけど……ハンターの
訓練を受けるらしいぜ」
「……いやだね……どうして……こんな事になったんだろう……」
 ロイはそう言って遠い眼差しをした。


 司教が戻ってくると、宿はしんとしていた。
 それ程遅かった訳でもない。彼は嫌な予感と気配を覚えながら、建物の中を歩いた。
人の姿がない。
カウンターも、宿の客も。
 妙な静けさの廊下を進み、戦士たちの部屋の前までくると、彼は軽く戸をノックし、
扉を開けた。
 血臭がした。司教は鼻を手で覆った。息を呑む。
 ベッドの上で戦士の一人があお向けに血まみれで倒れていた。
「シェスター!?」
 司教は動かなくなった青年の亡骸を抱き締める。「なんて事だ……」
 ロイの姿はない。司教は部屋を飛び出す。
 周囲の部屋をノックし、開くと、血まみれの客の姿が見せしめのようにあらわになった。
「どうなっている!?」
「司教!!」
 悲鳴混じりの呼び声に司教は顔を向ける。ロイが泣きながら、黒っぽい何かに
捕らえられていた。
 そもそも、司教もロイが戦士にしては華奢な事をよく分かっていた。手遅れにしたくは
なかった。
「……光よこの地に満ち……全ての闇の者を飲み込め」
 司教はそう叫ぶと、聖職者の持つ飾りロッドを手に、二人の陰に駆け寄った。
 呪文がロッドの先端を槍の先端に変える。滑らかに溶け込む様に、その刃が陰の
存在に飲み込まれる。
 悲鳴がした。
 闇の苦痛の悲鳴、そしてロイの怯える悲鳴。
 ロッドが元の様に無難な存在に戻ると、黒衣の人物が床に倒れていた。
誤ったものに変えられた憐れな人間。
「……ロイ、大丈夫か!?」
 司教は震えるロイを助け起こす。
「司教さま!!」
 ロイは聖職服にすがりつく。
「シェスターが……!!」
「何も言うな……」
 司教は怯える戦士を抱き締めた。


 墓は正十字がささっていた。人間として死ねた事がシェスターの唯一の救いだったの
かも知れない。
 花をそえて、ロイは少年の様に涙をたくさんこぼした。
「……御免なさい……。なんにも出来なかった……」
 ロイは首を左右に振った。その肩に司教が後ろから手をかけてそっと囁いた。
「ロイ、戦士としてではなく、聖職になって、彼の敵を討ってはどうだろうか?」
 そうすればもう非力に手をこまねいていなくてもすむ。
「……なれるでしょうか……」
 ロイはそう言って司教を見上げた。
「……」
 司教は頷く。


 ロイはやがて司教の子供たちがハンターの訓練を始める頃、自らもハンターとしての
訓練を受ける事になったらしい……。














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