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アインクラッド
聖剣探索2
 俺は久しぶりのまだ寝ていたいという症状に陥りそうになりながら、何とかベッドから体を起こした。
 大きく欠伸をしながらウィンドウを開き、現在時刻を確認する。そして、日付と日時が目に入った瞬間、一気に俺の眠気は覚めた。
「もうこんな時間かよ!」
 表示されていた日時は十二月三十一日。時刻は二十三時三十八分。どうやらあまりの疲れに三日間も眠ってしまっていたようだ。
 日付が変わった瞬間からダンジョンを攻略しようと考えていた俺は、次の瞬間には宿屋を飛び出していた。
 走りに走って四十九層の街の転移門まで辿り着く。
 そして即座に十二層へと転移し、フィールドに向かって街の中を駆け抜ける。
 そして着いた先はフィールドにある大きな滝の目の前。
 SAOの中では絶景とも言われているこの場所には、景色を拝みに来るプレイヤーもそれなりの数存在する。
 しかし時間が時間。こんな真夜中に人影はなかった。
 キリト自身は景色とかいうものにそこまで興味はないので、この層では基本迷宮区の中にしか入っていない。
 層が攻略されたらすぐさまその上の十三層に移動したため、ここに立ち寄ったのは実に八ヶ月ぶりとなる。
 入手した情報によると、情報ではこの滝が二つに割れ、隠しダンジョンが現れるらしい。
 何故こんな下層にダンジョンを配置したのか、という疑問はあるが、おそらく正規に情報を入手したプレイヤー以外にダンジョン攻略を行わせないための策なのだろう。
 まさか今更隅々まで探検された層の中に新たなダンジョンが現れるなど、誰も予想していないだろう。
 それにあまり考えたくはないが、この層をホームにしているプレイヤーがダンジョンを見つけたところで、マージンが足りるとは到底思えない。
 その場合はまた一人このゲームによる犠牲者が増えそうである。
 まあ、周りに人影は見えないから、そういうことは起こらないだろうと俺は思う。
 現在時刻は十二時五十三分。
 まだ日付が変わるまで数分ある。俺はゆったりと目の前の景色を楽しむことにした。
 俺はアンヘルやらナイアガラというような有名な滝を見たことはもちろんない。
 だからその圧倒されるような大きさや美しさを知らないのだが、目の前の滝も中々のものだと思えた。
 長さは百メートルそこそこといったところだろうか。あまり長いとは言えないのかもしれないが、その混じり気一つない透明な水が上から下へと落ちてくる様子は、たしかに絶景といえた。
 よくよく見ると、下の方には小さな虹が掛かっているようにも思える。
 俺はしばしその風景に心奪われていたのだが、反射的に剣を構えて振り返った。
 すぐ後ろでこちらに近づいてくる何者かの足音が聞こえたのだ。
 振り返った先には俺が見たこともないプレイヤーが右手でウィンドウを操作しながら歩いてきていた。
ざっとその姿を眺めると、燃えるような赤い鎧の上に、端正な顔が乗っかっているのが見て取れた。 
 俺はその男の頭の上に表示されている、自分の索敵スキルによって現れるカーソルがオレンジではないことを確認した。
 しかし構えは解かない。
 オレンジプレイヤーにならなくとも人を傷つける方法などいくらでもある。
「あんた、なんでこんな時間にここにいる?」
 その男が自分の声が聞こえる範囲に入ったであろうことを確認し、俺は男を警戒しながら声をかけた。
 俺の問いかけにその男は明朗とした声で答える。
「俺はおそらくキミと同じ理由でここにいるんだけどね。伝説の剣を入手しに来たのさ」
 なぜこの男がそれを知っている。
 俺は、自分の視線が鋭くなるのを感じた。
 俺は自分の得た文書を誰にも見せていない。
 ヒースクリフに概要だけは話したが、奴が他の人間にそれを言うとは思えないし、第一この場所のことは話していない。
 だとすれば……、まさか!
「あんた、アーガスの人間か?」
 そうとしか考えられない。もしアーガスの社員で、SAOの開発に携わっていた人間なら正月イベントの情報を知っていてもおかしくはない。
 それどころか何か有益な情報を教えてくれるかもしれない、と思ったのだが、男は苦笑しながら否定した。
「残念ながら俺はアーガスの社員じゃない。しかしまあ、あるプレイヤーからここで何かが起こるという文書をもらってね。伝説の剣とやらを入手しにきた、という訳さ。そうか、ということはキミが≪背教者ニコラス≫とやらを倒したのかな?」
 俺はああ、と頷いた。
 今男が言った言葉を鵜呑みにしたわけではない。
 俺としてはその情報を流したのは誰か、是非とも聞きたいところである。
 しかしどうにも胡散臭い情報だが、信じるしかないだろう。この男がそういう限り、真実を見つける方法なんてないのだから。
 俺が頷いたのを見ると、男はこう俺に提案してきた。
「よかったらパーティーを組んで一緒にこのダンジョンを突破しないかい? なんといってもここは隠しダンジョンだ。何が起きるか分からない。一人で行くのは危険だろう」
 確かにそれは正論だ。
 いくらソロプレイをずっとしてきたとはいえ、危険度が高いことには変わりない。だから俺はクラインやエギルに声をかけようとしたし、ヒースクリフにも話を持ちかけてみた。
 もし、相手が気心の知れている奴ならば、俺は即座にOKしていただろう。しかし相手は見知らぬプレイヤー。信用しがたい。
 装備はなかなかのレア物のようだが、攻略組の人間ではなさそうである。つまり、レベルもトップクラスとはいえないだろう。ボリュームゾーンの中でのトップクラスといったところか。
 もしこの男に悪意が無かったとしても、俺の足手まといになる可能性は十分ある。
 そう色々と迷ったのだが、結局その提案を受けることにした。
 パーティーを組もうが組むまいが、どうせこのプレイヤーはダンジョンを攻略しようとするのだろう。
 勝手に付いてこられた挙句、目の前で命を落とされたら俺としても後味が悪すぎる。
 だとすれば、問題となるのは一つ。
 まさか伝説の剣が二本存在するなどという間抜けなことはあるまい。
「分かった。あんたと組んでもいい。でも、伝説の剣をどっちが取るかはどうやって決めるんだ?」
 答えはすぐに返ってきた。
 相手もその問題は考えていたのだろう。
 パーティーの誘いをしたときから考えていたのかもしれない。
「一撃終了ルールでデュエルして決めようじゃないか」
 俺は心の中でひそかにガッツポーズをした。
 俺は少なからず自分の剣技に自身を持っている。
 事実上、俺にデュエルで勝てる可能性がある奴なんてあのKoBのナンバー一、二。すなわち≪神聖剣≫ヒースクリフか、≪閃光≫アスナくらいのはずである。
 ちなみに、一撃終了の一撃とは、強攻撃一度のことであり、実際には小攻撃を数初当て、HPが五割以下になれば終わりとなる。
「よし分かった。その条件で組むことにしよう。俺はキリト。あんたは?」
 そう言いながら、手を差し出す。
 パーティーを組む以上、相手を信用しておかなければ自分も危ない。
 疑心暗鬼に駆られることこそ恐ろしいものは無いからだ。
 それを分かっているのか分かっていないのか、男はちゃんと手を握り返してきた。
 そして俺は男の名前を聞いたのだが、やはり初めて聞く名だった。
「俺の名前はインシュヴァルツ。よろしく頼むよ、キリト君」


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