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フェアリィ・ダンス
LOF〝予選〟3
「言っておくがな」
 実に得意げにしている彼女に向かって、インシュヴァルツは呆れたように言った。
 そして一度ため息を付く。
「キミに助けられなくとも、自分でどうにかできたぞ」
 うそっ! と彼女が叫ぶ。
 嘘じゃない、とインシュヴァルツが言うと、だって、と彼女は不満そうにまくしたてた。
「後ろにいるプレイヤーのことが分かるわけないじゃない! それなのにどうにかできたって、どういうこと!?」
「何を言っている。君だってできるだろうに」
 あまりにもあっさりとした言葉だった。
 しかし彼女への効果はてきめんだった。
 すっ、と彼女の表情が変わる。
 同時に視線の鋭さが倍増する。
 最近同じような場面があったな、とインシュヴァルツはフィーランと会ったときのことを思い出した。
 彼女は今、この予選を見ているのだろうか。
 そんなインシュヴァルツを彼女は上から下まで眺めると、ふーん、と顎を突き出した。
「ただ強いだけじゃないんだ」
 その言葉に、インシュヴァルツの顔に笑みが浮かぶ。
 彼は一度首を振った。
「いや、それも強ささ」
 面白いこと言うね、という言葉は、インシュヴァルツの耳元で聞こえた。
 彼女が、インシュヴァルツの体に自分の体を押し付けるように近づいたからだ。
 傍から見たら、仲がいい二人かと思われるかもしれないが、二人ともその気は無い。
 ただ、彼女がインシュヴァルツを試し、インシュヴァルツが彼女を受け流しているだけである。
 そもそも二人ともが剣を即座に動かせる状態にある以上、場が和むなんて事は万が一にもありえない。
「私の名前はティリス。あんたは?」
「俺はインシュヴァルツ。なあ、俺を誘惑するのはいいが、後ろも気にしたほうがいいぞ」
 そう言って、インシュヴァルツはティリスの後ろを指差した。
「さっき私にも同じことができるって言ったのはあんたでしょ?」
「それはそうだが。その状態で大丈夫なのか?」
 ティリスはしぶしぶ、といった様子でインシュヴァルツから離れると、手に持っていた長剣を体の後ろに構えた。
 キィィィィィンという小気味よい音を立てて、その剣がティリスの後ろで振り下ろされた剣とぶつかる。
 ティリスは剣を上に跳ね上げ、後ろのプレイヤーの体をがら空きにすると、自分の剣を振りかざした。
 ズバン、という音と共に、ティリスに攻撃を仕掛けてきたプレイヤーの半分ほどあったHPがゼロになり、全身がエンドフレイムに包まれた。
 ちなみに、このステージでHPがゼロになっても『死んだ』訳ではないので、リメインライトは残らない。
 ルールの抜け穴として複数での行動は可能だが、基本的には個人戦なので、蘇生魔法を使えない様にする策でもあるようだ。
「さて、ティリス」
「いきなり呼び捨て? まあいいけどさ。あんたにさん付けされると何か虫唾が走りそうだが」
「さて、ティリスさん」
「言うなって言ってるでしょうがぁ!!」
 インシュヴァルツのボケに対して、ナイスな突っ込みのティリスである。
 はあはあと息を付いているティヨンを面白そうに眺めながら、インシュヴァルツは続きを口にした。
「そろそろいい話とやらを教えてくれよ」
 うっ、と言葉に詰まるティリス。
 それをきっちり見ていたインシュヴァルツはにやりと笑う。
「まさか自分が助かりたいためだけのでまかせじゃないよな?」
「ま、まさかそんなことあるわけないじゃない」
 言葉が棒読みになっている。
「じゃあ教えてくれよ。そのいい話」
 え、えっと、とティリスは空中に目を泳がせると、何か閃いたような顔で、インシュヴァルツに向き直った。
「あんたが私と一緒に行動するのよ。そしたら絶対本戦に進めるから」
「別に俺はキミと組まなくとも本戦には出られるよ」
 インシュヴァルツの冷たい言葉に、ティリスは慌てたように両手を振る。
「ち、違うわよ! 別にあんたが進める、とは言ってないでしょ」
「どういうことだ?」
 珍しくインシュヴァルツの頭に疑問符が浮かぶ。
 今のくだりで、主語がインシュヴァルツでないとしたら、誰なのだろうか?
「そう、本戦に進めるのは、私よ!」
「どこが俺にとっていい話なんだ?」
 インシュヴァルツの言葉に、ティリスの顔がぴきっと固まった。
 確かに、誰がどう見てもインシュヴァルツの得にはならない。得をするのはティリスただ一人である。
 どうにかして言葉を続けようとしているティリスだったが、その口からはいかなる言葉も出てこなかった。
 だが、とインシュヴァルツは続ける。
「この状況で自分のことを優先するその考え方は気に入ったよ。分かった。一緒に行動しようじゃないか」
 かなり変なものを気に入っているインシュヴァルツだが、本人は全く気にしていない。
 インシュヴァルツの言葉に、ティリスの顔が一気に明るくなった。
 それでもまだその言葉が信じられないというように、こう聞いてくる。
「マジで?」
「マジだ」
 いやっふー、と片手を上げて飛び上がるティリス。
 もしそれを女子高生がやるというのならおかしくはないのだろう。
 しかし妙齢の美女、に見えるプレイヤーがそうすると、生まれる違和感の量があまりにも大きいのだが、ここがMMOの中であるからして仕方がない。
 さて、とインシュヴァルツは眼下の森を見やった。
 いまだに多くの場所で戦闘が繰り広げられているようだ。
 まだ脱落させたプレイヤーは一人だけ。
 それではあまりにも、少なすぎる。
「ティリス、行くぞ」
「あいよ」
 しばしの間のパートナーに声をかけ、インシュヴァルツは丘から飛び降りた。
 それに続いてティリスも空中に身を晒した。
 それぞれの翅が奏でる音が、絶妙なハーモニーを作り出す。
 二人が地表に降り立ったとき。広大な森の一角に、鮮やかなライトエフェクトが作り出された。
現在聖剣探索が終わるまでの加筆が終了しましたが、なかなか増えるものですね。

加筆部分だけで数万文字も増えてしまいましたw


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