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フェアリィ・ダンス
領主の手ほどき2
「じゃあ次は魔法です。これは飛ぶことより格段に手順は楽です。時間はかかりますが」
「魔法ね……。以前やってたゲームでは存在しなかったからな……。どんなものか分からないんだが」
 もちろん、ナーヴギアが出る以前のゲームでなら、魔法なんて数え切れないほど使ってきた。
 しかしVRゲームで魔法を使ったことはない。少し心配なインシュヴァルツだったが。
「私が一つ手本を見せましょう」
 フィーランはそう言うと、どこの国の言葉とも知れない単語を二つ三つ口にした。
 すると、インシュヴァルツの体が光に包まれ、数ドット分減少していたHPバーが満タンになる。
「今のは簡単な回復魔法です。マニュアルを開いたら、自分が今習得している魔法のスペルワードが表示されているはずですよ」
 言われたとおりインシュヴァルツはマニュアルを開く。すると、六つほどの魔法のスペルワードが表示された。
 一つの魔法だけやけに単語数が多いが、なぜだろうか。
 すぐに分かった。これが偏在、とやらのスペルワードなのだろう。この単語の数からすると、どうやらかなりの高度魔法のようである。
「ありましたか?」
「ああ。見つけた」
「後はそれを覚えて詠唱するだけです。ただ文字列として覚えるよりも、単語の持つ意味を考えて、前後の繋がりで覚えるとやりやすいですよ」
 だがそのアドバイス、インシュヴァルツの耳には入っていなかった。フィーランは知らない。インシュヴァルツの頭脳が、どれほど高性能なものなのかを。
 外国の言語を約数日で習得してしまう彼にとって、スペルワードの暗記など一桁の足し算をするようにたやすい。
 その証拠に、20秒もかからなかっただろうか。インシュヴァルツは特に感慨もなく静かにこう言った。
「覚えた」
 もしかしたらそれはフィーランに向けて言ったものではなかったのかもしれないが、彼女の耳はそれをとらえていた。
「どの魔法をですか?」
 フィーランがそう聞くと、インシュヴァルツは当たり前の様にこう答えた。
「いや、全部。ここに表示されている魔法は全部覚えたよ」
 二の句がつげない、とはこのことである。フィーランは固まったまま、いかなる言葉も発声することができなかった。
 無理もない。取得している魔法を20秒で全て覚えたというのだから。
 しかもそれは初期魔法のみではない。18ワードもの長い魔法、≪偏在≫も含まれているのである。
 もし初期魔法の5つだけだったならば、インシュヴァルツはどれだけ早く覚えていただろうか。
 しかし何とかしてフィーランは口から言葉を搾り出した。
「もう一度聞きます……。あなたは本当に何者ですか?」
「もう一度言おう。俺に勝ったら答えてあげるとね」
「まあいいでしょう。私が勝つことに変わりはないですから、すぐに分かることです」
 フィーランはそう言うと、さて、と呟きながらインシュヴァルツの指先を見た。
 スペルワードを覚えるときにその言葉を呟いていたせいか、そこには光の残滓が残っていた。
 はっきりと発音していたわけではないので魔法自体はファンブルし、一瞬黒煙が上がったが、それはすぐに風に流されて消えていった。
「では、一つ魔法を唱えてみてくれますか? 魔法は正確に、速く唱えることでその有用性が増します。早口言葉の感覚で詠唱してみるといいかもしれません」
「早口言葉ね……」
 インシュヴァルツは先ほど覚えた魔法の一つを詠唱した。直線的な軌道を描く低級攻撃魔法である。
 指先から黄色い光がほとばしり、そびえ立つ木々の一つに当たると音を立ててはじけた。
「こんなものでいいのかな?」
 肩をすくめたインシュヴァルツに、フィーランはオーケーです、と答える。詠唱速度もそこそこ速かったし、短い魔法とはいえ完全に唱えることができたところはすごいと思ったからだ。
 だが、何か悪いところを指摘したいフィーラン。あら探し、というと聞こえは悪いが、今の詠唱の欠点を探していると、インシュヴァルツの視線が鋭くなっていること気が付いた。
 最初は自分を睨んでいるのかと思ったフィーランだったが、彼の視線はその向こう、木の幹と幹の間に向けられていた。
「どうしたんですか?」
 フィーランの疑問には答えず、インシュヴァルツは視線を緩めることなく鋭い言葉を発した。視線の先に向かって。
「覗き見とは趣味が悪いな。今すぐ出て来い!」


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