と、いうのが俺、≪黒の剣士≫ことキリトが、今しがた22層の草原で寝転びながら、隣で座っている≪閃光≫アスナから聞いた話である。
「あんまり驚かないんだね、キリト君」
へぇ~と言ったきり口を開かない俺に気を悪くしたのか、口を尖らせながらアスナが言う。
その姿もまた可愛いのだが、それは置いておこう。
それをアスナに言って、本気でへそを曲げられたら俺としても彼女の扱いに困ってしまう。
アスナは一度すねたら機嫌を直すまで時間が掛かるのだ。
確かに俺も、その話を何の予備知識もなしに聞いたのであれば、アスナにその男をフレンド追跡してもらって、否が応でも会っていただろう。
自分より強い未知のプレイヤーがいるとなれば、是非とそいつにも会ってみたいからだ。
ダンジョン内ではフレンド追跡はできないが、その男とて四六時中ダンジョンに潜っているわけではあるまい。
しかし、俺はこう口にした。
「いや……、それより何で今俺にそれを言うんだ? 攻略組の誰かにそんな奴がいるってことを言っても良かったんじゃないか?」
別に攻略組だけではなく、血盟騎士団の誰かでもよかったはずだ。
しかしアスナは誰にも言っていないようである。そう、あのヒースクリフにも。
もしあの男にそんなプレイヤーの存在を言っていたら、間違いなく自分のギルドに勧誘していただろうからだ。
俺のそう聞いてくるを予期していたのか、間髪いれずにアスナが答える。
「それがね、その人に言われたの。俺と会ったことは誰にも言わないで欲しいって」
それをきちんと守っているアスナはやっぱりすごい。
俺なら直後にエギルやらクラインやらに言ってしまいそうである。
いや、ちょっと待て。
アスナさん、今あなたは俺にそのことを話していませんか?
それは約束違反なのでは?
だが、俺のそんな疑問は、アスナの次の言葉によって払拭された。
「でも、キミがどんな秘密でも打ち明けられるような人にめぐり合ったとき、その人になら俺のことを話してもいいって」
ああ、突っ込みたいさ、俺だって。
そんなキザな言葉を言う奴に対して、普段の俺ならキレのある突っ込みをしていたことだろう。
だが俺はそうしなかった。いや、できなかった。
まさか、と思っていたことが事実であったと確信したのだ。
そう、その男が俺の知り合いであるということ。
「なあアスナ」
彼女の顔を見ずに、俺はそう声をかける。
そんな俺に首をかしげながらも、アスナはちゃんと聞いてくれた。
「なあに? キリト君」
俺の次の言葉を聞いたら、アスナはどんな反応をするだろうか。
もしかしたら驚きのあまり、俺が予期せぬ行動をするかもしれない。
そんなことを思って心の中でにまっと笑う。
「そのプレイヤーの名前、インシュヴァルツって名前じゃないか?」
期待していたほどではないが、彼女にしては十分驚いたようだった。
うそ!? と手で口を押さえたことがその証拠だろう。
いつも冷静沈着なアスナらしくない行動をしてくれたから、かのインシュヴァルツには感謝しておく。
「何でキリト君が知ってるのっ!?」
これでしらばっくれる訳にはいかないよなあ……。
実を言うと、あのときのことはそんなに人に話したくは無い。
だってそうだろう? 目の前に好きな人がいるのに、自分よりも強い男の話をするのは誰だって嫌だ。
しかし俺には好奇心に満ちたアスナの瞳を無視することは出来ない。
彼女をがっかりさせるくらいなら俺の残念な体験談の一つくらい話そうじゃないか。
そう奮起した俺は、アスナの疑問に答えるべく彼女とここまで親しくなる前のひとつの思い出を一つ、語ることにした。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。