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フェアリィ・ダンス
その出会い、幸か不幸か2
 その言葉に彼女は足を止め、インシュヴァルツの方へ振り向いた。そして一度首をかしげた。
「何か用?」
「何か用? じゃないだろう……。人を押し倒しといてそのまま立ち去ろうとするのはどうなんだ」
 彼女は右手で後頭部をさすりながら、何故か照れたような顔をする。
「褒めてないぞ」
「え? そうなの?」
 こいつは天然なのか? そう思ってしまうインシュヴァルツである。だが、そうではない、ということはインシュヴァルツ自身が一番よく分かっていた。
「説明しろ、と言っている」
「何を?」
 とぼけたことを、と思いながら言葉を続けるインシュヴァルツ。
「どうしてさっきのプレイヤーたちから逃げていたのか、ということだよ」
「えーっと、別に悪いことしてたわけじゃないよー」
 目を逸らしながらそう言う彼女だったが、すぐにその表情は一変した。インシュヴァルツがこう言ったからである。
「何で領主ともあろうものが他の奴から逃げているのか、と聞いているんだよ」
 これまで笑っているだけだった彼女の顔が引き締まった。視線の鋭さなどさっきとは比べ物にならない。
「どこでばれたのかなー? お兄さん、見るからに初心者でしょ? しかも私の顔を見て驚いた風もなかったからてっきりばれてないのかと思ってた」
 口調だけは変わっていない彼女に、インシュヴァルツは自分が見たままの事を言う。インシュヴァルツの前から立ち去ろうとした彼女だったが、一瞬だけウィンドウを開こうとした。すぐそばにインシュヴァルツがいることに気付いてすぐに閉じたが。
 それが場所を確認しようとしたのか時間を確認しようとしたのかは分からないが、一瞬見えたそれは明らかに普通のプレイヤーのものと違っていた。
 そのことと、インシュヴァルツが知っていた各領の領主は専用の巨大システムメニューを使える、という情報を組み合わせれば、おのずと答えは出てくる。
 目の前にいる彼女を見ると、どうやら種族はプーカのようだ。
 だからインシュヴァルツは疑問を持ったのだ。なぜ、自分の領で、領主が人から逃げないといけないのか、と。
 そう言うと、彼女はやっぱ見られてたか、と呟くと、インシュヴァルツにその理由を説明した。
 曰く。領主つまんない。
 だそうである。
 インシュヴァルツは自分の中から湧き上がってくる腹立ち、という衝動を抑えるのに手一杯で、突っ込むことさえできなかった。
「それはいくらなんでも無責任だろう」
 それだけ言ったインシュヴァルツに、彼女はこう答える。
「仕事はちゃんとやってるよ。でもろくに狩りにも出れないんだよ、領主。嫌になるのも仕方ないと思わない?」
 確かにそれは辟易しても仕方がない理由かとは思う。ゲームの中にまで仕事に追われるとは、娯楽としてのゲームではなくなってしまう。
 こっちの世界でも疲れるのなら本末転倒である。
「と、いうわけだけど。どうするお兄さん。私の場所を誰かにばらす?」
「そんなことはしない。その代わり」
 そこで言葉を切ったインシュヴァルツに、彼女は本心からの疑問を顔に浮かべた。
「何? お金でも要求する?」
 もしインシュヴァルツに金が一銭も無かったのなら、そういう選択肢もあったのだろうが、幸い金ならある。
 今インシュヴァルツに圧倒的に不足しているのは情報、それだけだ。領主ともなればこの世界のことを一番知っている人間の一人だろう。
 だからインシュヴァルツはこう要求した。
「キミの言うとおり俺は初心者だからな。ここのことがまだ分からん。だから色々と教えてくれ。それで今回のことはチャラだ」
 どうやら彼女にとってもいい話だったらしい。領主としての仕事を離れることができるし、初心者にレクチャーする、というのも久しぶりのことだろう。
 彼女の口がオッケー、と動いた。
「私はプーカ領領主、フィーラン。お兄さんは?」
「俺の名前はインシュヴァルツ。よろしく、フィーラン」
「こちらこそよろしく、インシュヴァルツさん」
 交わした手を離すと、フィーランが口を開く。
「最初はどこに行く? インシュヴァルツさん」
「任せる。こういうことは知ってる奴に全部頼んだほうが確実だからな」
 インシュヴァルツがそう言うと、フィーランは少し考えるような素振りを見せる。そして手を腹部に置くと、こう言った。
「おなかすいちゃったんだけど、まずは何か食べに行かない?」
 インシュヴァルツがまず行きたかったのは武器屋だったのだが、フィーランに全て任せるといったのは自分だ。
 それに、少々小腹がすいているというのも事実である。
「おススメの店で頼むよ」
 その言葉にフィーランは屈託無く微笑んだ。
「りょーかい!」
 ここまででのインシュヴァルツはフィーランがその明るいキャラクターと容姿で領主に選ばれたのだと思っていた。
 領主は一ヶ月に一度の領民の投票によって選挙で選ばれる、という情報を持っていたからだ。
 無理も無いことである。プーカという種族の能力が楽器演奏に長けている、という地味なものにもかかわらず、結構な人気種族である理由。
 プーカ独自の領主を決める方法を知らなかったのだから。


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