最初にたどり着いたモンスター出現フロアは大した難易度ではなかった。
出てきたカマキリ型モンスター、≪デス・マンティス≫は強力ではあったが、それでも最前線より数ランク下。
攻撃方法は鎌での攻撃のみ。しかもそのアルゴリズムは単純。
数対同時に攻撃してきても、アスナのスピードなら鼻歌を歌いながら回避できた。
最初のフロアを突破したときは何て安直なネーミングだ、とモンスターの考案者を笑える余裕さえあったのだ。
そしてモンスター群を全滅させるのに大して時間もかけず、次のフロアへの階段に足を伸ばすことができた。
だからこそアスナはこのままこのダンジョンを突破できると思っていたのだ。
そしてそこから数フロア。現在の状況に至る。
今出現しているモンスターの名前は変わらず、≪デス・マンティス≫。しかし、大きさがはじめのものとは桁違いだった。
全長二メートルはあろうかというカマキリが、鎌を振りかざして襲ってくる。しかも、その攻撃力は最前線の出現モンスターよりも高いのだ。
一度肩にくらってしまい、そのとき減少したHPを見て、アスナは恐慌状態に陥りそうになったくらいだ。
幸いなことにHPだけは低めに設定されているようで、何とか対応できた。
アスナは、≪閃光≫の二つ名のごとく、目にも止まらぬスピードで細剣を振るい、このHPが低いモンスターを次々に葬り去っていく。
しかもアスナのレベルの賜物か、このモンスターの攻撃でも数回ならば耐えられるし、そもそもほとんど当たらないため、時間がかかるポーションでの回復が間に合うのだ。
それに気が付いたときの安堵感は大きかった。
だから今は目の前の敵に集中できている。
しかし、いかんせん。数が多い。壁に開いた穴からこれでもか、といわんばかりに湧いてくる。
戦闘の中で、四十六層にあった狩場のことを思い出した。
そこで出てくるアリ型モンスターは攻撃力が高い代わりに防御力とHPが低く、このカマキリ型モンスターとよく似ている。
そこも効率良く経験値を稼ぐいい狩場だったが、アリとカマキリの実力差は大きいようだ。
どれだけの数を葬り去ったのか分からないまま、アスナは何とかカマキリ群の全てを撃破したようだった。
実際には数十分なのだが、何時間にも感じられた戦闘を終えた後、アスナもさすがに疲れて、フロアの床に座り込んだ。
静かになったフロアには、さっきまでの攻撃によるライトエフェクトと、爆発にも似た衝撃音が嘘のようだ。
さっきまでの音に耳が慣れきってしまった後では、この静寂はどうも少し居心地が悪く感じられる。
静かなことが一番いいのは分かっているのだが。
普通に考えて戦うより戦わない方が断然いい。こんなきついダンジョンならばなおさらのことである。
「少し休もっか。別に時間制限があるわけじゃないし」
そう一人呟き、この隠しダンジョンについて少し考える。
最前線モンスターより強いだけあって、ここのモンスターから得られる経験値は相当なものであった。これなら、経験値稼ぎのための有力スポットとしてプレイヤーに知れ渡ることだろう。
そんなダンジョンを一人で攻略できることはアスナにとってかなりの喜びである。これならあの黒の剣士に自慢できるかもしれない。そう思うと、自然に顔がほころぶ。
その時のアスナは彼のことをそう快く思ってはなく、彼に対して上から目線で話が出来ることをうれしく思ったのだが。
「さて、そろそろ行きますか」
アスナはよし、と立ち上がると、今までどおり階段を下りようとした。
しかし、その足がはたと止まる。
フロアの先に、階段がなかったのだ。
その代わりに、無駄に装飾が綺麗な扉が設置してあった。
さっきの戦闘中には存在していなかったはずであるから、カマキリを一掃したことによって現れたことは間違いない。
もしかしたら次が最後のフロアなのかな?
アスナはそう、目星をつけた。最後のフロアだけ今までと違うステージになっていることなど、どんなゲームでもよくあることだ。
SAOの迷宮区がいい例だ。ボスの部屋だけ普通と違う。
しかしセオリーどおりなら、それはそこに出てくるモンスターが強いことをも意味する。回復結晶が使えない以上、HPにはいつも以上に気を使わなければならない。
自分のバーが満タンであることを確認して、アスナは扉に足を踏み入れた。
まだこの時点ではアスナはこのままダンジョンをクリアできると思い込んでいた。
確かにきつかったとはいえ、今いるフロアも確実に攻略不可能というほどのレベルではなかったからだ。
このゲームがデスゲームでなかったなら普通に挑戦してもいいレベルであろう。
しかし、最終フロアに足を踏み入れた瞬間、そんなものはただの幻想であったことを思い知らされることになる。
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