コンコン
その、部屋のドアを叩く音で、あたしは目を覚ました。
意識がまだはっきりしないまま、はーい。と返事をする。
発音をはっきりかくと、ふぁーい、だ。
「昨日の客だけど。メンテナンスは終わったかい?」
しまった。この人が来るの忘れてた。
一気に意識が覚醒する。
あたしは自分の装備フィギュアに着せている服を、大急ぎで寝巻きから普段着ている服に切り替えた。
寝巻き姿なんか絶対に見られたくない。
この世界では寝癖が存在しないことが一番ありがたい。そう思いながら、あたしは部屋の扉を開けた。
「や、できた?」
そこには男の満面な笑顔があった。
そこまでメンテナンスを待ち遠しくしていたのだろうか。
そのあまりのうれしそうな顔に、あたしはつい効いてしまう。
「何かいいことでもあったんですか……?」
どうやらそういうわけではなかったらしい。目の前の男ははあたしの質問にこう答えた。
「いやー、あの剣が綺麗になったらどんなことになるのかな、と思ってね」
「ちょっと待っててくださいね」
あたしはそういいながら、ボックスからエクスキャリバーを机の上にオブジェクト化させた。
相変わらず発せられている光は強いが、太陽の光を押しのけるほどではない。
男はほーぅ、と言いながら剣を取り、いろんな角度から眺めていたが、満足したように自分のアイテムボックスにそれをしまった。
「素晴らしいね。ありがとう。キミのおかげだよ」
「いえ、あたしはただ研いだだけですから……」
そっけないふうを装いながら、内心ではガッツポーズである。
やっぱり高レベルのプレイヤーにお礼を言われるとうれしいものである。
あまり攻略組のプレイヤーに会うことのなかったあの頃は、余計にそれがうれしかった。
「あ、あとさ」
「はい、何でしょうか?」
次は何を言われるのかと身構えたあたしだったが、以外にもそれは普通の頼みだった。
「この剣に合う鞘、見繕ってもらえる?」
もしかすると、剣を装備していなかったのは鞘が無かったから、というのもあるかもしれない。
一番の理由は人に剣を見られたくないから、なのだろうけど。
「かしこまりました」
あたしは自分のストレージ画面から、鞘の一覧を眺める。何度もスクロールしているうちに、一つだけエクスキャリバーの美しさにつりあいそうな鞘を見つけた。
その鞘は、いつもあたしが鞘を仕入れている細工師にオーダーメイドで作ってもらった物だった。
あたしが偶然見つけた宝石をその細工師が見て、これは鞘にする以外に無い、と言ってきたものだから、その場の雰囲気に流されて、ついつい鞘にしてしまった。
今まで宝石として売れば良かったと後悔していたのだが。
しかし、その宝石がかなり珍しい物だったこともあり、鞘の時価はとてつもなく高い。
オーダーメイドの武器が十万コル。既製品が一万コルくらいであることを考えると、鞘だけで十五万コルというのはどれほど高いか分かるだろう。
あたしはとりあえず、その鞘をオブジェクト化し、目の前の男に見せてみた。
「こちらの鞘なんかどうでしょう」
「ほう。いいね。じゃあこれにしてもらおうか」
一瞬でそう決めた男に、あたしは恐る恐る聞いてみる。
「この鞘、かなり高い物なんですけど、よろしいでしょうか……」
「いくら?」
どうということもなさそうにそう言う男に、あたしは断られるのを覚悟で鞘の値段を言った。
「十五万コルなんですけど……」
「いいよ」
「え……?」
「十五万コルでしょ。ちょっと待ってくれる? 金出すから」
確実にならいいや、というような反応をされると思っていたあたしは、おいおいおい、と心の中で突っ込む。
十五万コルの鞘買うことを全くためらわないためにはどれほどのお金を持っていればいいのか見当もつかない。
あたしがそう思っている間に、男は金貨が入っているであろう袋をあたしの目の前にどん、と置いた。
「じゃあ、俺はこれで。せっかく綺麗にしてもらったんだ。使わないとこの剣に悪い」
つまり、これからモンスターを狩りにいくということだろう。場所は現在の最前線、四十九層だろうか。
あ、それと、と男は続ける。
「ちょっと代金に色付けといたから。これからもメンテナンスよろしく、リズベットさん」
男に名前を呼ばれて、あたしは少し戸惑ったが、何のことは無い。看板を見ればすぐ分かることだ。
そう思ったところで、あたしはその男の名前を聞いていないことに気が付いた。
「あのー、お名前聞いておいてもいいですか?」
「教えてなかったっけ? 俺の名前はインシュヴァルツ。よろしく頼むよ、鍛冶屋さん」
そう言って男は一度手を挙げた後、あたしの部屋から出て行った。
そこで、あたしは男から渡された袋を空けてみる。
中に入っていたのは、三枚の金貨。それだけだった。
まさか足りていない? とひやっとしたが、額面を見て、そうでないことに気付く。
三枚の金貨は、全てが十万コルの金貨だった。それに気付いたとき、あたしの口は自然と大きく開いていた。
本来さっきの男、インシュヴァルツが払うべき料金は、鞘の十五万コル+研磨代の百コル。つまり、十五万百コルな訳だが、あの男は三十万コルも置いていったということだ。
あたしはこう叫ばずにはいられなかった。
「色を付けるにもほどってもんがあるでしょうがぁぁぁあああ!!」
その瞬間、リズベットの叫びを聞いてか聞かずか、ある最強のプレイヤーがくしゃみをしたことは誰も知らない。
次から本編に戻り、インシュヴァルツさんの身の上についてさらっと、ええ、さらっと触れます。
まあ、なんとか頑張って肉付けしたいとは思ってるんですが、書きにくいんですよ、これが。
理由は読めばわかってもらえる(かもしれない)と思っています。
では
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