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フェアリィ・ダンス
語られる真実2
「まずは、俺たちが探していた少女の名前。彼女の名はアスナという」
 この人は本当に全てを知っている。
 インシュヴァルツのその一言でリーファはそう確信した。兄、桐ヶ谷和人が現実に戻っても追い求め続けていた人。そして今キリトとして救おうとしている人。
 その仮想世界での名前を知っているということは、この人も――――
「俺とキリト君、そしてアスナさんは、あのソードアート・オンラインのプレイヤーだった」
 サクヤとアリシャが信じられないといった目でインシュヴァルツを見る。やはりリーファの予想通りだった。
「そしてアスナさんは、まだ現実世界の病室で目を覚ましていない」
 下を向いて苦々しげに呟くインシュヴァルツ。だが、彼はすぐに顔を上げ、話を再開した。
「俺とキリト君がこの世界にアスナさんがいると考えたきっかけは、一枚のスクリーンショットだ。キミたちも見たことがあるだろう? 世界樹上部の写真」
「あの鳥籠が写ってるやつだよネ?」
 アリシャの言葉に、インシュヴァルツはああ、と肯定した。
 そういえば、とリーファはその写真のことを思い出した。リーファも一度見ていたが、低画質な上に大きさも小さかったから軽く目を通しただけに過ぎない。。しかし今思うと写真に写っていた少女は今日病室で見た結城明日奈という少女に酷似していたように思える。
「ちょっと待ってくれ」
 いきなりとんでもないことを言われて混乱しているのかもしれない。サクヤが頭を抑えながらインシュヴァルツを止めた。
「あなたの言うことを疑っているわけじゃない。しかし、何故その少女がこのアルヴヘイム・オンラインの中にいることになるんだ?」
 インシュヴァルツはサクヤに対して、このアルヴヘイム・オンラインのメインサーバはソードアート・オンラインのものを流用しているということを話した。そして、細工次第では開放されたSAOプレイヤーの魂をALOサーバの中に取り込むことができるということも。
「実際にそれが行われていたとしたら、犯人はレクト・プログレスの社員ということになる。まあそっちの捜査は警察に任せるとして、今の話がこの剣に繋がってくる」
 そう言ってインシュヴァルツはエクスキャリバーを一振りした。リーファは今日の午前三時半、確かにヨツンヘイムの最奥部で彼が持つ剣と全く同じ剣を見た。エクスキャリバーはサーバーに一本しか存在しないはず。それがなぜここにあるのか。その疑問の答えもインシュヴァルツの話の中にあった。
「この剣は俺のSAO時代の愛剣なんだよ。何を思ったか知らないが、ALOの開発者はSAOからこの剣のオブジェクトIDをそのままコピーしたようだ。中身は同じサーバーだ。俺の持つエクスキャリバーも、IDはこちらのものと同じ。使えないはずが無い」
「つまり、今この世界にはエクスキャリバーが二本あるってことだネ?」
「まあ、そうなるな」
 アリシャがそう言うと、インシュヴァルツは頷いた。それを聞いていたサクヤが、そうか、と呟いた。
「だから彼はユージーンを倒すことが出来るほど強かったわけだ。そもそものログイン時間が桁違い。それがエクストラ効果によるハンデを埋めたわけか」
 たった今全てを明かしたインシュヴァルツの横顔を見ながらリーファは思う。キリトは、まだあの世界から帰ってきていないのだとリーファに言った。だとしたら彼もそうなのだろうか。彼の中でもあのゲームは終わっていないのだろうか。
「アスナさんは、帰ってくるんですか?」
 リーファはそう口にしていた。彼女のことをお兄ちゃんは愛している。それが分かっても、いや分かったからこそ今は彼女に目覚めて欲しい。
 恋のバトルならそれから正々堂々としようとさえ思っている。
 だから聞いたのだ。ここまでして彼女が戻ってこなかったら、どうすればいいのか分からなかったから。インシュヴァルツの確約を得て、安心したかった。
 しかし彼は、分からない、と首を振った。
 そんな、と俯いたリーファに、だが、とインシュヴァルツは力強く言う。
「キリト君は、俺が前いた世界でも簡単に常識を砕いてくれた。今回もやってくれるよ、彼なら」
 そう言うインシュヴァルツの顔は笑っていた。そうだ、私が信じないでどうするのか。キリトと一緒に冒険してきて、彼は何度常識を打ち破り危機を乗り越えてきたことだろう。
 彼なら絶対にアスナさんを助けだせる。リーファはもう、それを信じて疑わなかった。
「今日はもう解散しよう。話ならまた後でしようじゃないか。キリト君が帰ってきてからでも」
 その場にいた全員がそれに賛成した。サクヤとアリシャが、さっきまでの暗い話は無かったかのように明るく会話しながらアルンへと向けて歩いていき、少し遅れてティリスが続く。
 そしてリーファがインシュヴァルツにお礼を言って彼女たちを追いかける。最後にフィーランが笑ってアルンに向けて立ち去り、この場にはインシュヴァルツだけが残された。
「だが、もしアスナさんが助け出されたとしても、この事件を起こしたのがレクト・プログレスの社員ならVRゲームは壊滅的なダメージを被ることになる。どうしたものかな」
 インシュヴァルツは誰に聞かすでもなくそう呟くと、ログアウトするために足を踏み出そうとした。だが、その耳に声が聞こえた。
『久しぶりだな』
 それを聞いてにやりと笑うインシュヴァルツ。驚きは無い。むしろ、面白い。何故この男がここにいるのか。
 インシュヴァルツは笑いながら返事を返した。
「こっちの台詞だよ、茅場」



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