数分後、俺とインシュヴァルツはキメラと戦う前の状態に戻っていた。二人は向き合い、それぞれの剣を構えている。
違うところは、インシュヴァルツが構えている剣がエクスキャリバーに変わっていることだろうか。
元々半端ではなかったインシュヴァルツからくるプレッシャーが、今はさらに増加している。
「手加減はしないぞ、キリト君」
「望むところだ」
俺がそう言ったとき、カウントダウンがゼロになった。
同時に【DUEL】の文字が空中に煌く。
「うらぁ!」
俺は瞬間的に上に飛び上がり、上段に構えた剣を、一気に振り下ろした。片手剣重攻撃、≪ヘビースワングス≫。
片手剣の中でも屈指の攻撃力を備えた、使い勝手の良いソードスキルだ。
しかし、中レベルモンスターくらいなら一撃で粉砕するその攻撃を、インシュヴァルツはエクスキャリバーを頭の上に掲げただけで防ぎきった。
キキキキキと、金属がこすれあう音がする。空中に火花が煌き、ダンジョンの中を明るく照らす。
俺は瞬時に後ろに下がり、インシュヴァルツから距離をとった。
そしれ相手の攻撃を捌けるよう、剣を構える。
次に動いたのはインシュヴァルツだった。ダッシュで互いの距離を一瞬で詰める。 その一瞬で、剣が彼の手のひらの中で回転し、逆手に持ち替わった。そして巨大な圧力を持った鮮やか攻撃が、下から俺に襲い掛かる。
手に持った剣に力を込めてガードするが、衝撃を抑えきれなかった。
インシュヴァルツの剣が振りぬかれた瞬間、俺の体は宙に浮いた。
相手の攻撃力の高さには驚いたが、まだまだ戦いは始まったばかりである。
大きく打ち上げられたことが逆に幸いした。天井に足を着け、そこを蹴って加速をつけ、再びインシュヴァルツに突撃をかける。
しかし大きくスピードが付いたその攻撃も、伝説の剣に阻まれた。コンマ数秒後、その剣が白く輝き始めた。
まずい。おそらくそれは両手剣用ソードスキル。直撃を受けたら、このデュエルは瞬時に決着が付いてしまう。
俺は目を凝らしてインシュヴァルツの剣を見る。全ての攻撃を、的確にパリィしなければならない。
そしてインシュヴァルツのソードスキルが炸裂した。
俺の身長よりも長いのではないかと思われる剣が、恐るべき速度で振り回される。俺は持ち前の反射神経で、何とかその六連撃を防ぎきると、こん身の突きを繰り出した。片手剣単発技、≪ツイストトラスト≫。
インシュヴァルツはソードスキル発動後の硬直時間を課せられている。確実に当たると俺は思った。この攻撃が入れば、恐らくデュエルに勝つ。
「なっ!」
インシュヴァルツは、たった今俺にパリィされた剣を回転させ、自分の目の前の床に、勢いよく突き立てたのだ。
ほんのわずかだけ、俺の攻撃が遅れた。
もし、これが単発のソードスキルでなかったなら、俺は勝っていたのだろう。だが、連撃を繰り出すだけの時間が無かったのが事実だ。
俺の攻撃は、固く床に突き刺された剣に当たり、弾き返される。
まさかこんな防ぎ方が出来るとは、予想だにしていなかった。
「今のを防ぐなんて、アンタどんな反射神経してんだよ……」
ため息をつきながらそう口にする。するとインシュヴァルツも、ふっ、と一息つきながら、苦笑して言う。
「キミの剣もすばらしいね。今まで戦ったどのモンスターよりも攻撃が予測しにくい」
そんな場の和みも一瞬。
俺たちは再び剣をかち合わせる。
すでにどちらの攻撃も、視認できる速さを超えている。
だが、それでも受けきる。
そこにあるのは感覚だけ。
攻撃をするほうと、受ける方のタイムラグはもはや無いといってもいい。
しかし、勝利の女神は俺に微笑んだ。インシュヴァルツの体を構成するポリゴンが揺れ、構えている剣が一瞬止まったのだ。
その機を逃す俺ではない。俺は全力でその体に剣を叩き込んだ。俺の剣がインシュヴァルツの体に吸い込まれているところが、スローモーションで俺に届く。
勝った。
しかし、その剣閃は虚しく空を切った。
「馬鹿な!」
ありえない。今の攻撃は確実に当たったはずだ。それなのになぜ、攻撃が空を切るんだ! その時、視界の端に何かが映った。
俺は瞬時に振り向き、その何かを視界に収める。
そこにいたのは、剣を構えたままのインシュヴァルツの姿があった。
どうやって、なぜそこに移動しているのか理解できないまま、俺はインシュヴァルツに向かって突撃しようとした。
しかし、背中に視線を感じる。
「どういうことだ……」
そちらを向いた俺が見たのもまた、インシュヴァルツの姿だったのである。
俺の呟きが聞こえたのではないだろうが、二人のインシュヴァルツは冗談めいた言葉で、とんでもないことを言いやがった。
「「エクストラスキル、≪陽炎≫。実体はないが、一人のプレイヤーとして認識される分身を数分間、作ることができるんだよ」」
そんなエクストラスキル、聞いたことがない。
かのヒースクリフの≪神聖剣≫と同じように、この世界で一つしかないユニークスキルとでも呼ぶべきものなのだろうか。
しかし悠長に考えている場合ではない。二人のインシュヴァルツは、同時に上段切りを仕掛けてきた。
だが、
――――このまま終わるか!
二人のインシュヴァルツが、剣を振り上げ、攻撃が当たると感じた瞬間、俺は大きく上に飛び上がった。
これに反応できるのは、オリジナルのインシュヴァルツだけのはず。
一人の攻撃だけなら、まだ何とか防御できる可能性がある。 自分に向かってくる攻撃を受けようと、俺が下を向いたとき。
自分の下で、二人のインシュヴァルツがぶつかり、陽炎のように消えていくのを見た。
「な!?」
どちらも偽者!?
驚愕する俺に、後ろから声がかけられた。
「言ってなかったね。俺は三つに分かれることができるんだよ」
振り向く間もなかった。
俺の背中にエクスキャリバーが叩き込まれ、俺は地面に叩きつけられた。