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アインクラッド
聖剣探索4
 時間にすると一時間半くらいであろうか。俺は久々に狩りを心から楽しみ、充実した時間を過ごした。
 今まで、俺はモンスターを倒すことをレベルを上げる、または攻略を進める一つの作業だと認識していた。
 何故今まで気付かなかったのだろうか。ゲームが作業になってしまったらお終いだと。作業ゲーと呼ばれるゲームの中に人気タイトルは何本存在しているだろうか。
 だが俺は、久しぶりにモンスターを倒したときに達成感というものを得ていた。あの一件以来パーティープレイというものを頑なに避けてきた俺だったが、インシュヴァルツという男とのパーティープレイには安心感すら感じていた。
 それはインシュヴァルツが強いからというだけでは決してないと断言できる。
 さて、怒涛のごとくダンジョンを攻略してきた俺たちだったが、今、目の前の巨岩に、一つの剣が突き刺さっているのを目にしていた。
 光り輝く黄金の刀身。細部までほどこされた申し分ない美しさの装飾。俺が今まで見たことのないようなその素晴らしい剣が、≪エクスキャリバー≫であることは明らかだった。
 普通、装飾が施された剣というのは脆いことが多い。しかしこの剣は例外だった。どこをどう見ても非の打ち所のなさそうないい剣である。
 それを目の前にした俺とインシュヴァルツがとるべき行動は一つだった。
 どちらかが何を言ったわけでもない。
 しかし、それぞれが自分の剣をピタリと構える。
 インシュヴァルツがメインウィンドウを操作し、俺にデュエル申込の通知が来る。
 もちろん、迷うことなくそれを受ける。
 カウントダウンが始まり、ウィンドウに【DUEL】の文字が躍った瞬間、二人は同時に本気で後ろへとジャンプした。
 目の前のプレイヤーの攻撃を避けるためではない。もっと身の危険に関わるものを回避したのだ。
 俺もインシュヴァルツも手加減というものを知っている。デュエルをしたところで、相手を殺してしまうようなダメージは与えないだろう。
 しかしそれは違った。俺たちが全力で回避しなければならないくらいには。
 俺たちが立っていた場所には、もうもうと土煙が上がっている。
 そう、何かが轟音を立てて二人の間に落ちてきたのだ。それもとてつもなく大きなものが。
 すでにこの瞬間に、インシュヴァルツがデュエル中止のメッセージを受諾している。
 土煙が去った後、俺たちの目の前に現れたのは頭がライオン、胴がやぎ、尾がドラゴンという異形なモンスターだった。
 その姿だけなら知っている人間も多いかもしれない。ギリシャ神話に登場する怪物。俗に言うキメラという奴だ。
 モンスター名は≪The Greek terror≫――――ギリシャの恐怖。
 おそらくこのモンスターがダンジョンの最終ボス。
 目の前の≪エクスキャリバー≫を守護者とでも言うべき存在なのだろう。
 その巨体の先に付いている黄色い光を放つ双眸が、俺とインシュヴァルツの姿を交互に見た。
 どちらを先に攻撃するかとでも考えているのかもしれない。
 どうやら結論は俺、ということになったようだ。
 キメラは大きく雄たけびを上げた後、俺の方へ突進してきた。でかい図体の割に動き素早い。背中に付いている羽が推進装置にでもなっているのだろうか、なんてことを考えている場合ではなかった。
「くっ……!」
 俺はなんとか上に飛び上がり、攻撃を避けた。しかし、キメラはあれだけのスピードを出していたにもかかわらず器用に体を止め、すぐに体の向きを変え、またもや俺の方へ突進してきた。
 今度は避けられない。
 そう悟った俺は、突進してくるキメラにぴたりと剣先を合わせた。避けられないなら、応戦するのみである。
 と、その巨体がいきなり横から弾き飛ばされた。派手な音を立てて、キメラは大きく壁に激突する。
 横を見ると、ソードスキルを発動した証拠のライトエフェクトを身にまとったインシュヴァルツの姿があった。
 自分に与えられたダメージに怒りを覚えたのか、HPバーが一割ほど減少したキメラは、インシュヴァルツの方へ向き直った。
 だが、インシュヴァルツの方を向いてくれたおかげで俺の側に隙が出来る。
 俺は、インシュヴァルツに向かって突進しようとするキメラにソードスキルを発動した。片手剣上位剣技、≪ブレード・ストーム≫。その六連撃をキメラに叩き込む。
 その攻撃にひるみ、キメラは一瞬動きを止めた。 
 その隙をインシュヴァルツは逃さない。彼もまたキメラに向かって突っ込んだ。 二方向からのソードスキルを絡めた猛攻を受け、キメラはその巨体をよじらせながらHPを急激に減少させていった。
 後二割程度。
 そこまで俺とインシュヴァルツはモンスターのHPを減らした。しかし、キメラはそのままこの世から消えてくれなかった。
 キメラは背中の翼を大きく広げ、猛スピードではためかせた。
 それと同時に、キメラの体を中心にして竜巻ともいえるような風が起こる。その爆風を受け、俺もインシュヴァルツも吹っ飛ばされた。
 幸い距離を空けるためだけの特殊能力だったのか、攻撃ではなかったらしく、俺たちのHPはそこまで減っていない。
 これならまだ余裕。俺はそう思った。
 しかし、起き上がった瞬間、目の前にキメラがいない。
 俺は焦って辺りを見回した。
 どこだ、どこに行った。
 見えない敵に対して、焦燥感だけが掻き立てられる。
 その時、インシュヴァルツの叫びが聞こえた。
「上だ!」
 俺は慌てて上を仰いだが、遅かった。すでにキメラは目の前に迫っていたのだ。キメラの爪が俺の体をとらえる。
 すさまじい衝撃を受けて、俺は横の壁に叩きつけられた。今の一撃だけでHPバーがレッドゾーンに突入してしまう。
 何て攻撃力だ。全く防御していなかったとはいえ、一撃が重過ぎる。
 結晶を使ってHPを回復するしかない。そう思った俺は、回復結晶を使うためにウィンドウを開こうとした。だが――――手が動かない。
 視界の右隅に移る、すでに赤色に染まってしまっているHPバーは、点滅する緑の枠に囲まれていた。
 その点滅が意味するところは一つ。俺は今、麻痺毒に侵されている。しかもよほど高レベルの毒なのだろうか。身動き一つ取れない。
 どうやら、キメラの爪による攻撃には、麻痺効果が付加されていたらしい。最悪である。絶体絶命じゃないか。
 その間にも、キメラは俺にとどめを刺そうと、こちらにゆっくりと歩いてくる。奴に知能というものが存在するのであれば、今現在勝利の余韻にでも浸っているに違いない。
 だが、俺は死ななかった。
 ギャァアアアアア
 断末魔の咆哮を上げたのは、キメラだった。
 その頭に突き刺さっている光り輝く剣。あれは――――
「エクス……キャリバー……」
 消えそうになる意識を何とか押しとどめる。
 目の前のキメラが咆哮を続け、その叫びが止まった瞬間。
 膨大なポリゴンとなってキメラは爆散した。
 部屋の中が瞬く間に光の粒に包まれる。
 それを確認した直後、俺の意識は完全に暗転した。


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