親バレ
ぼく、多田ヒロシには好きな女の子がいる。となりのクラスの恵美ちゃんだ。恵美ちゃんの笑顔を見ていると、胸がきゅーっと、痛くなる。
ある日、どうしても我慢ができなくて、恵美ちゃんに好きです、って気持ちを伝えた。そしたらなんと「んー……まあ多田っちイケメンだし、いいよ。付き合おっか」という、思ってもみない返事が返ってきた。ぼくは浮かれた。有頂天だった。嬉しさのあまり、その場で彼女を抱きしめて、キスまでしてしまった。恵美ちゃんも、まんざらでもなさそうだった。
そうしてぼくたちは、ふたりっきりでご飯を食べたり、遊びに出かけたり、時々じゃれるようにキスをした。幸せだった。でもそれは、長くは続かなかった。
恵美ちゃんのお母さんに、ぼくたちの関係がバレたのだ。どうやら、そういうことに厳しい人らしく、激怒した恵美ちゃんのお母さんは、怒鳴り散らしながらぼくたちの小学校までやってきた。
「あなたね、うちの恵美をたぶらかしたのは!」
そんなことないです、と言いたいけれど、母親の尋常じゃない迫力に押されて何も言い返せなくなってしまう。黙り込んだぼくの腕をひっつかんで、母親はつかつかと歩き出した。
「とにかく、今から校長先生のところまで行きます。そこで説明してもらいましょう。もちろん、PTAでも問題にさせてもらいますからね!」
ぼくは何を言っていいのか分からず、黙ったままだった。それがカンに触ったのか、母親はぼくを睨みつけながら、こう言った。
「聞いているんですか、多田先生!?」
【了】
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