第三話 悪夢と回想
けだるい午後、うっかりうたた寝をしてしまったら夢見は最悪だった。
人生で一番最低な時を抜粋した夢を見た。
「はぁ。最近見なくなってきたと思うんだけどな」
ため息とともに独り言をもらすとブランコからおりた。
普通のブランコではなく向かい合ったかたちで、座席が2つついているものだ。大体四人くらいが乗れるようになっていて、最近危険だと多くの公園から撤去されている、あれだ。
その関係でこの辺りには、学園の隅の忘れられた空間であるここにしかない様だった。
あたしはこのブランコが好きだったし、学園の隅の忘れられた空間だから人が来なかった。
だから1人になりたい時にはうってつけだ。
あたしはみんなと一緒にいるよりも1人でいることの方を好んだので、よくここに来ていた。
いわばお気に入りの場所だった。
私立莉玲学園―。
東京というコンクリートジャングルにありながらいまだ緑を多く残している名門私立である。
その広大な敷地には幼稚部から大学院までがそろっていて一貫教育が受けられる。
その他の施設も様々にある。
海辺にある豪華な研修施設に、避暑地にある巨大なログハウス。
長野には一流ホテル風のスキー場、アメリカには英語を勉強する為の施設まである。
とてもとても豪華だ。学校の校舎だって、本当にここは学校か!?と言いたくなるような無駄な豪華さを兼ね備えている。
おまけにもっと豪華な寮まである。この寮も常識を覆すものがある。
まず寮則というものが無い。学校側の言い分は、皆さんそこはわきまえてらっしゃるから寮則までは必要ない、ということらしい。実際は良家のご子息、ご令嬢が家と同じ様に好き勝手できるように、ということだ。以前、クレームをつけられたらしい。
廊下は各家のメイドさんが歩いている。そしてメイドがいるからには、メイド部屋も当然ある。
そしてそのメイドたちがルームサービスよろしく部屋へとご飯を運ぶ。
本当にここは学校なんだろうか、と在学生のあたしでさえ考え込んでしまうものがある。最もそんな風に思うのもあたしだけらしいが。まともな神経の持ち主がほぼ皆無なのだ。
唯一学園の隅の忘れられた空間であるここだけがその無駄な豪華さが無い場所だった。
古いけれど綺麗に花の咲きみだれる素敵な温室。
周りには趣味よく季節の木々が植えられ、お茶を楽しめるようなテーブルとイスの置かれたヨーロッパ風のあずまやの様なものがある。
そしてお気に入りのブランコ。
趣味悪いんじゃないの、と言いたくなるようなこの学校では奇跡的に趣味の良いところだった。
最近新築した校舎とその他諸々は、今の理事長のせいで物凄い成金趣味になっているから、ここだけが唯一落ち着くところだった。
今頃は無駄に長い告辞やら祝辞やらがダラダラと続く卒業式が執り行われているのだろう。
そのせいで校舎内は静かなものだ。
あたしは卒業式なんて、とサボった。
話が長いのだ。かったるい。
単なる祝辞でもご勘弁願いたいところなのに、単なる祝辞で済んだことは今まで一度としてない。
まずは「私の経験から・・・・」とかなんとか言って自分の昔話を語りだす。苦労話かと思いきや自慢だ。
まぁ、まだそこは祝辞として認めてあげられなくもない。けれどここで既に10分から15分程の時間が大抵の場合たっている。
皆一様に嫌気がさしてくる頃だ。
だがまだこれからが本番とばかりに舞台上のアホは喋り続ける。
この学校は名門私立なだけあって政府高官や大企業の幹部の出身校であったり、子供が通っていたりする。すると当然彼らが祝辞を話すこともあるわけである。
コイツラだったらまだいい。だがそうなる時はほぼない。何人もいる中に一人でもいればいい方だ。
一番厄介なのは会社の社長や政治家の時だ。
なんとコレの場合自社のアピールをしだしたり、選挙活動を始めるのだ。そして最後にとってつけたように「これで私の祝辞は終わらせていただきます」などと厚顔無恥にも言うのだ。
もう何なんだこの茶番は!!と、怒鳴りたくなってしまう。
こんな間抜けな茶番に付き合いきれるはずも無く、とっと卒業式や他の行事まであたしはサボり始めた。
取り繕うことも無くなってから。
小5の夏。
あの悪夢が現実としてあたしにのしかかってきた時。
所詮自分の存在自体が茶番なのだ。この学校にとって。
当時、あたしは大いなるスキャンダルの中心の一人としてマスコミに騒がれた。
学園としてはあたしなんて即刻退学処分にしたかったことだろう。
だが、マスコミはあたしを悲劇のヒロインに仕立て上げた。そんな少女を即刻退学処分にしたらマスコミにたたかれるのは火を見るよりも明らかだ。
マスコミは時に冷酷に人を傷つける。だが、自らに利がある時は助ける。
本当は助けられたくなんかなかったのに。こんな茶番早く終わりにして欲しかった。どうせ、ここにいたって虐めぬかれるだけなのだから。
苦しくは無かった。全てがバカバカしくて、くだらなくて、心動かされるもの何て無かった。
でも、もうそれも終わる。
もうじき、きっと。
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