第二話 プロローグ2
あたしは結局家へと帰った。
けれどその日はいつもと様子が違った。家の前に立っただけで分かった。
確かに離婚しようと話している時なのにいつもと様子が同じなはずがない。けれど次元が違ったのだ。
あたしはその時、殺気を感じた。鳥肌が、たった。
急いで家の鍵を開けて中に入った。
「危険だ」と、本能が告げていた。
そしてリビングの扉を開けた時、あたしは見た。
母親が父親に包丁を振り下ろしているのを。
そのすぐ横に血まみれになった父の愛人が丸まってうめいているのを。
父の血を浴びて紅く染まりながら。
母の顔は鬼の様だった。目が血走って、異様な光を湛えていた。鬼女だ、と思った。
何も出来なかった。
否、自分は犯罪者の娘になったのだと悟ることしか出来なかった。
どれだけたったのかは分からないが、次に気が付いた時は父の葬式だった。
その日まで一応普通に生活していたらしいが、あの悪夢の日から父の葬式まであたしには一切の記憶がない。
本当に気が付いたら、という感じだった。
でもこの日も親戚中が父母を蔑む声と一滴も涙を流さないあたしに向かって冷たい娘だ、と陰口をたたく声しか覚えていない。
他には、
「どうせあれには分かるまい」
と誰かが言っていたのも覚えている。
そして、だれがあたしを養うのか、遺産の相続は誰がするのか、と争いあっていた。
父はそれなりに名の知れた出版社の社長だった。
だからそれなりの財産があり、親戚中が媚びへつらっていた。
けれど一大スキャンダルが発覚するや否や、皆一様にそっぽを向いた。
そしてこの場での唯一の正当に遺産を手にする権利のあるあたしを無視して遺産争いを続けた。
誰もがこんな迷惑を被ったのだから遺産がもらえて当然と考えているようだった。
あたしを養うことはしたくない、けれど遺産は欲しい。まるでハイエナの様だった。
そんな中であたしは、「こんなものか」と思っていた。
所詮人間なんてこんなものか、と。
自らの為だったら、どんなにでも強欲で冷血になれる。そんなものか、と。
このほかに覚えていることは後、マスコミが煩かったことくらいだ。
結局誰も父の死を悼んでなどいなかった。あたしさえも。
家族をかえりみない父をあたしは家族だなんて思っていなかった。ただ、母を縛り付ける邪魔な人としか思っていなかった。
改めてそうだったんだと思い知った。その証拠に涙の一つもない。悲しむどころか憎んでさえいる様だった。
親戚中がたたいた陰口は、「冷たい娘だ」というのは当たっていた。亡くなってさえ実の父親を父だと思えないなんて、まだ邪魔な人だと思っているなんて、冷たい娘以外の何者でもなかった。
自らの為だったら、どんなにでも強欲で冷血になれる人間に自分だってご多分に漏れず入っていることをその日知った。 |