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神在月の空

作者:海 潤航
出雲の地の大社の亜空間。

「皆の者、ご苦労」

ここに様々な神々が、エネルギーとなって集まっている。

その真ん中には、ひときわ大きいエネルギー体がいる。

出雲神社祭神の大国主大神である。

「さて、各地の神々の様子を聞こうか」

他の神々は、各土地の様子を伝え始めた。


少し時間が過ぎる。

「皆の者の報告はわかった。伊勢の神々の越権行為はなかったようだな。

伊勢の神は天孫族の事だけを考えればいいのに、未だに私たちの動向をうかがっているようだ。。

しかし、天孫族は抜け目がない。

今後も、私と同盟を組んで倭の地を守っていこう。

今回の神有月も終わるが、また年が変わったらこの時期に集まってくれるよう願いたい」




一人の女子学生が、出雲神社のまわりを旅していた。

大学で専攻している日本古代史のレポートの為であった。

山里に小さな神社があるというので、カメラをぶら下げてグーグルマップを頼りに、目的の神社にたどり着いた。

木で作られた鳥居をくぐり、狛犬の横を通り、神殿の前に立つ。

何の変哲もない神社である。

締められたガラスの格子戸に近づき、顔を付けて中を見ようとする。

ふと、人の気配を感じた。

奥にある汚い小さな社務所から、関係者と思える老人が境内を掃除している。

その老人が顔を上げ彼女を見た。

彼女は反射的に挨拶をする。

「こんにちは」

「こんにちは」

老人はにこやかに頭を下げる。

彼女はその老人のところへ歩み寄った。

「この神社の方ですか」

小柄で作務衣を来た老人は、再び頭を下げる。



「古い神社ですね」

「そのとうりですじゃ。だいぶ痛んでいるので継ぎはぎだらけの手直しばかりですが、古いことは古いんですじゃ」

「あのー、私、神社を調べているんですが、少しお尋ねしてもいいですか」

そういうと、メモを取り出して話し出す。



この神社が出雲坐天照御魂神社という名前である事。

いつからあるかはわからないが、かなり古い神社である事。

出雲神話と縁結びの事。

神無月の事。

質問は、どの本にも載っているありふれた内容だった。


穏やかな老人は、その事にいちいち答えてくれる。

彼女はボールペンのノックを押して芯をしまい、メモを閉じた。

大学のレポートである。これくらい話を聞けば十分だったのだ。

「いろいろありがとうございます」

彼女は頭を下げて、カメラの電源をオンにして老人から離れる。

古い社殿や狛犬を撮影し鳥居を撮る為に少し離れる。

鳥居を何枚か撮り終わると、いつ傍に来たのか老人が立っている。


「お嬢さん、何故鳥居があるのか知ってなさるか」

彼女は、その気配のなさに驚いたが、老人と向き合った。

「えーと、先生から神と人の結界だと授業で聞きました」

「そのとおりじゃ」

「そうですね、人や魔物が入れないようにしているんですね。」

「違うんじゃ」

軽い会話だったが、老人の声色が少し変わる。

「違うんですか、だっていろんな本にも書いてありますよ」

「その本はまちがっとる。

本当は、神がこの神社から出られないようにしているんじゃ」

「えっ、神様が出られないようにしているんですか」

「そう、神を閉じ込める結界がこの鳥居じゃ。

狛犬も、鈴もその為においているんじゃ」

「失礼ですが、そんな事は聞いた事がありませんよ」

女子学生は、からかわれていると思い少しむっとした。


「そうかい。それじゃこの神社の祭る神を知っているかのう」

「出雲坐天照御魂神社とおっしゃいましたよね。天照だからアマテラスオオミカミでしょ」

「ここの神様はアマテラスではなくてアマテルじゃ」

「えーちょっと待ってください。アマテルなんて神様は知らないんですが・・・。あー、ぐぐったら出てきました。

長崎県対馬の阿麻て留神社(あまてるじんじゃ)と 京都の木嶋坐天照御魂神がでてきました」

「出雲坐天照御魂。つまり出雲に座している、アマテル様の御霊ということじゃ。

アマテル様は日本中にいた。どこにでもな。

しかし大和はこの太陽神アマテルをいつの間にか、皇室の祖先として、アマテラスにしたんじゃ」

「えーそうなんですか」

突然の展開に女子学生は面食らっている。

大体、大和とか、神を閉じ込める結界とか唐突過ぎる。


「お嬢さん、よく聞きなさい。本当の事を話してあげるから」

老人は、静かに語り始めた。

「大昔、大和と出雲は戦争をしたんじゃ。

そして大和は出雲を組み伏せ、乗っ取ってしまった。

そのあと出雲の神 大国主は大和と契約を交わした。

この国の神は出雲に任せ、人は大和に任せるとな」

唐突な話に割りに、説得力のある老人の話し方に思わず相槌を打つ。

「あー、古事記にのっていますよね。

国譲りの話でしたっけ。

建御雷神たけみかづちが剣の上に座って、国を譲れと脅迫した奴ですよね」

女子学生も少しは古事記の話を知っているらしい。

「そうじゃ、その時に、神は出雲に任せ、人は大和に任せると約束したのじゃ」

「へーそうなんですか」

彼女は真剣にうなずいた。

「だから、神無月があるんじゃ。日本中の神様たちは、この神無月になると出雲にやってくる」

「あーそれなら聞いた事があります。その時出雲は神在月と言うんですよね」

彼女はメモを再び取り出し、その事をメモしている。

「あっ、さっき言われていた鳥居の話ですけど、なんか逆の事をおっしゃってましたね」

「うむ。お嬢さん、神無月に神様が出雲に集まるという事とは、どんな意味があると思うかね」

「どんな意味って、みんなが日本のことを相談するっていい事じゃないですか」

「いいかい、お嬢さん。そんな平和会議に出席しない神様たちが居る」

「そーなんですか」

「さっき話したアマテラスもそうじゃ。伊勢にいる神々は出雲には来ないんじゃ」

「へー、仲が悪いんですか」

「その通りじゃ。出雲は脅されて国を譲ったんじゃ。

和解などはしておらん。

大和で平和的に住み分ける約束をしただけじゃ。

しかし、和解に見せかけて大和はとんでもない手を打ってきよった。

大和は日本の各地で祭っている祠を神社にして、その前に鳥居を建てたんじゃ。

これは、大和がやった謀略だった。

国津神と呼ばれる地方の神々は、岩や森からはなれ、その神社にとらわれてしまった。

そして、国津神がそこから出られないように鳥居を立てた」


「国津神って、地元の神様の事ですよね。

その神様たちを神社に閉じ込めて、人間社会に出れないようにしたって事?

それが鳥居がある本当の理由なんですか」

女子学生は驚いて声を上げた。

「そうじゃ。鳥居は、国津神を閉じ込める結界じゃ。

大和が異国から持ち込んできた通行禁止の大きな結界なんじゃ。

鳥居の上には、ヤタガラスという大和の神の鳥が飛んできて、時々鳥居の上にとまり国津神を見張るんじゃよ。

鳥居の形を良く見て見なさい。天という漢字から出来ている。

天とは天孫族のことなんじゃ」

女子学生は天という字をメモ帳に書いた。

確かに上に横棒が二本あり、人という字を離せば鳥居の形になった。


「鳥居はもともと唯の門じゃった。その門に細工をしたんじゃ。

天孫族の神はその門を通れるが、国津神はその鳥居を通れない」

老人は無念そうな顔をしている。


「そして、神無月には全国の神々が年に一度終結する」

「えー、もしかすると出雲には全国の神様が集まるのは、作戦会議のためですか。」

「そうじゃ。伊勢のお宮は、神無月の事には何一つ触れていない。

調べて見ればわかるが、知らん顔をしている。

年に一度、日本の古代の神が集まる事なんぞ気にもしていない風にな」

「へー」

「古代、国津神は山や森、川や岩にすんでおったんじゃ。

だからわざわざ神社に行く事もなかったんじゃが・・。

不便なもんじゃ。

神社の中に閉じ込められてしまった神々は、人々と触れ合う事が少なくなって、力が弱まってしまっている。

大和の目的はそこにある。汚い手を使う奴らじゃ」

女子学生はあまりの内容にポカンとしている。

ふと気づくと老人が居なくなっている。

冷たい風が神社の境内を吹きぬけた。


あまりにも不思議な話に、現実味がなくなっている。

もしかしたら、あの老人も神社にとらわれてしまった、この地の古い神様だったかも。


ふと思った女子は来る時に老人を撮影していたはずだと思って、デジカメの画像を再生した。

しかし、そこには古い社務所しか写っていなかった。


神有月がもうすぐ終わる。

神々が空を飛んで日本中の神社に戻っていくのかな。

そんな気がして、彼女は空を見上げた。
この物語は、アートワークス 時間探偵 鳥居は神を封じ込める結界 から組み立てました。http://artworks-inter.net/ebook/?p=162

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