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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

冒険者は幸福な夢を抱いて眠る

作者:うさこ
何故世の中に異世界転生の物語があふれているのか。それを物語にしました。
 どこにでもある一車線の道路。
 少し狭い路側帯を自転車に乗った少年が走っていた。
 ごく普通の朝の風景。
 その風景がたったひとつ……。
 たったひとつ誰かが落としたゴミによって変わった

 激しいブレーキ音とドンという鈍い音。
 それはちょうど交差点で何人かの人が信号待ちをしていた目の前で起こった。
 排水溝の上に落ちていた薄い紙のようなゴミの上を自転車が通った瞬間。
 タイヤがすべり少年は車道側へ倒れた。
 誰も止めることができない一瞬の出来事だった。





 真っ白な空間に真っ黒な学生服を着た少年が立っていた。
「ここは……あれ?俺さっき自転車で転びそうになって…」
「ごめんねええええええええ」
 記憶を整理しようとしていた少年に、どこからか現れたバイーンボイーンな男の夢の詰まったような女性が抱きついた。
「わぷっ! だ、誰?何?」
「ご、ごめんなさい!私は女神ユリシーノ。
 私はあなたの運命を狂わせたおわびに参りました」
 少年の顔に豊満な胸をぎゅうぎゅうと押し付ける女神。
「ちょ、ちょっとまって、とりあえず離れて、そうじゃないと話しとかできないよ!!」
 顔を真っ赤にした少年が、女神を押しはがす。
 どこかのギリシャの女神のような胸の谷間が大きく開いたようなドレスを着た女神の姿に、少年は目のやり場にこまり顔を背ける。
「それで、お……私の運命を変えたとはどういうことですか?」
「実は私の手違いで風の旋律が時空のすきまを通ってこの世界に落ちました。
 それを追ってこの世界で回収しようとした瞬間、あなたが風の旋律の上に乗って倒れてしまったの。
 そのせいであなたは、この世界の乗り物に跳ね飛ばされて死んでしいました。……ごめんなさい!」
 再び少年は胸の谷間にはさまれるようにギューッと抱きしめられた。
「~~~ッ!俺死んじゃったの?」
「ええ。でもこれは私のミスだから私の力であなたを生き返らせてあげるわ」
「な、なんだびっくりした~」
 少年はへなへなとしりもちをついた。
 だが女神はまだ渋い顔をして少年を見つめていた。
「ただ、この世界には私の力は及ばないの。
 だから私の世界に転生という形で生まれ変わらせてあげられるわ」
 女神の言葉にポカンと口を開けて数秒、少年は火がついたように顔を上げて叫んだ。
「ふざけるな!俺はまだ死にたくなかった!」
「ええ、だから生まれ変わらせて……」
「違う、今の世界で生きて、いた、かっ、た……」
 ボロボロと少年の目から大粒の涙が零れ落ちる。
 次第に幼さの残る丸いほほに涙の筋が太くなる。
「本当にごめんなさい。私の過失なのに願いをかなえてあげられなくてごめんなさい。
 私にできることは一つだけ。
 あなたにできる限りの加護をつけて、私の世界に生まれ変わらせてあげることだけ」
 女神はやさしく少年のほほをぬぐった。
「願って。新しい世界でなりたい未来を。私にあなたを幸せにするお手伝いをさせて」
「ど、どんな、加護が……ぐすっ……もら、え、るん、ですか? ズズッ」
 鼻をすすりながら少年は女神をにらむ。
「いくつでも、どんな願いでも」
「じょ……女子にモテモテ…ど、が…も?」
「もちろん」
「せ、世界、最強の魔法使い、どがでも?」
 鼻の詰まった声の質問に女神は静かにうなずいた。
「女神ユリシーノの名において、新たなる人生があなたにとって最良でありますように。
 ここに加護を授けます」
 女神は少年のほほを両手で包み、額に唇を寄せた。
「今のあなたなら新しい世界で、この世界でつかむはずだった愛や栄光を手にできるでしょう。
 さあ、お行きなさい。」
 少年の周りに光が満ち、溶けるように少年と女神の姿が消えた。
 そしてその空間は光を失った。


「ここは……どこだ?」
 どこかで見たような植生の木々。
 映画やゲームで見かけるような、石造りの中世の城が遠くに見える。
「異世界転生か……。なんか漫画みたいな話だな。えっと、ファイヤー!」
 近くの地面に向けて冗談交じりの口調で手を向ける。
 瞬間野球ボール大の火球が飛び出し草が燃え上がった。
「わわわわっ!!えーとえーと、火消さなきゃ!!水でろ水!!」
 局地的なゲリラ豪雨のような水があたりに降り注ぐ。
「うわー。まじで魔法つかえるのか。しかも呪文とかじゃなくて、水出ろで出るのか…便利だな」
 びしょびしょになった服をひっぱって、少年は少し思案した後全部の服を脱ぎ素っ裸になる。
「失敗したらこわいからな。乾燥!」
 脱いだ服にふれ、乾いたことを確認した少年は服にそでを通した。
「とにかくここにいても仕方ないな、人のいる所に移動するか……」
 まいったなという顔で首の後に手を当てながら、少年はとぼとぼと歩き始めた。


 そうして少年は冒険者となり、ひょんなことで助けることになった少女と恋をし、たくさんの仲間と出会い、巨悪と戦い、勝利し、皆に望まれ一国一城の主となった。

「本当におれは幸せだった。サーラ、愛してるよ。
 みんなにであえてよかった。そして…お前たち、生まれてきてくれてありがとう」

 少年は老人になり、妻と多くの子供や孫にみとられてその生涯をとじた。
 その胸にたくさんの幸せな思い出を抱いて。



 夢を見ていたのは1秒もない刹那の時間。
 その魂が安らかに眠る瞬間までただ傍観者として見ることしかできない一瞬の一生。
 やっと自分の意思で動かせるようになった視界には、凍りついた運転手と、道路に転がった少年の体。
 突然の出来事に動きの止まった通行人たち。
 自分で動くことができなかった、刹那の一生の時間でシミュレーションしたことを私は口にする。
「お兄さん、110番と119番に電話して!」
 私は隣にいた背広の男性に指示を出す。
 私が少年に駆け寄ろうとすると、ハッとした周りの通行人たちも駆け寄ってくる。
「コートを着ている人は、周りから彼が見えないように隠してあげて。
 まだ生きているかもしれないから声かけも。
 頭を打ってる可能性もあるから動かさないでね」
 駆け寄ってきた男性はちゅうちょせずコートを脱ぐ。
「お嬢さんあなたも119番。彼に声をかけながら電話して」
 私は彼が確実に死んでいるのを知っているのに、そう指示を出す。
 なぜなら自分以外、誰も彼が死んでいることを知らないからだ。
「大丈夫、落ち着いてください。
 私は彼がゴミか何かでスリップして倒れたのを見てました。
 ちゃんと証言してあげるから安心して車を邪魔にならないところに移動させようか?」
 運転手はパニックに陥っているのか、声を出さず何度もうなずいた。
「動かしたら保険やさん呼べる?
 もう110番と119番には別の人に連絡してもらってるから、後は保険屋さんにきてもらおうね。
電話番号はダッシュボードとかに保険証券入れてるでしょ?」
 車をすぐそばの邪魔にならなさそうな場所に誘導して警察と救急車と保険屋が来るのを待つ。
 車から降り、ぼうぜんと道路の端の縁石に腰掛けた運転手に声をかけ背中をさする。
 私には少年を救う力はない。
 しかし、偶然通りがかっただけで不運に巻き込まれてこれから地獄に落ちるかもしれない、今生きているこの人なら少しは救えるかもしれない。
 そう思って私は刹那の一瞬の間に何度も運転手を救う方法を考えていた。

 いつからだったか。
 人の今際の際(いまわのきわ)が見えるようになったのは。
 物心ついた頃には見えるようになっていたから詳しくは覚えていない。
 多くの人の今際の際といえば、走馬灯のようにとよく聞くように、その人の人生で幸せだった思い出を刹那の時間に思い出す人がほとんどだが、例外的に刹那に長い夢を見る人がいる。
 若くして亡くなった人たちだ。
 その刹那の夢は最近は異世界転生ものを見ることが多くなった。
 多分漫画やアニメの影響もあるのだと思う。
 ひと昔前は異世界転生物というより、過去に戻ってやり直しやタイムスリップものが多かったからだ。
 走馬灯もはやりすたりがあるらしい。
 ただ、今際の際のさらに最後の最後には、皆幸せな思い出を胸に抱いて幕を閉じる。
 どういう仕組みか私にしか見えないので検証も立証もできないけれど。
 この現世で大往生した幸せな老人は、この現世の幸せな思い出を胸に抱き、現世で幸せをつかみきれなかったものは、刹那に幸せな夢を見て、その幸せな夢の思い出を抱いて眠る。
 それが今際の際の決まりごとらしい。
 それが傍観者として何人もの今際の際を見続けてきた事実だ。

 私が死ぬときはどんな幸せな夢を見て眠るのだろうか。
 自分で動くことのできない刹那の一生の間に良くそんなことを考える。


 この世はなんてやさしいのだろう。
うん
_人人人人人人人人人人人_
> 異世界いってねえ! <
 ̄Y^Y^Y^Y^YY^Y^Y^Y^YY^Y^ ̄
読む方が誰に視点を当てるかによってハッピーエンドにもアンハッピーエンドにもとれるのですが、一応ハッピーエンドのつもりで書きました
異世界転生のテンプレートを私ならどう描くんだろうなあと妄想していたらこうなりました。
小説を書いたのは20年ぶりです。

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