行けえっ!
一刻も早く、奴らを撲滅したい。
攻撃技は、だいたい一日に三回。
それ以上使っても無意味とされている。
今回、わたしに使う事を許された攻撃技は――おお、ずいぶんある――4種類だった。
(今回はまあ、多いほうだな)
わたしは、ただ俯いて、説明を聞く。なんでもいい、どうせ聞かされても分からないのだ。
(はやいとこ、攻撃を仕掛けないとなあ)
そればかり考えている。一日は短い。
奴が暴れさくっている事態が変わらないどころか、刻一刻と悪化している。
やっと、説明から解放された。
わたしは外に出て、車に乗り込む。
一秒の猶予もない。今ここで、さっそく仕込まれた技を繰り出してやる。
見てろよ。
「いでよ、タリオン!」
巨大ロボが天から降ってくる。大地を揺るがす轟音がたつ。もうもうと砂煙――アスファルトが割れるほどの威力を期待するぜ、タリオン。
タリオンが落ち着く。
すぐさま次の攻撃に移る。間を入れずに参る。
奴め、唐突に現れたタリオンに、あんぐり口を開いて茫然自失だ。
「トスフロ~キサシン~トシルっ」
溜めて溜めて――今だ。
「……さあん、えぇえええんっ」
酸塩!
行け、焦げ付かせる勢いで!灼熱の攻撃が炎を上げて地を走る。
うねる赤い怒りよ。
のんべんだらりと、この世の春を謳歌していた奴らは、タリオンが現れた衝撃から立ち直っていない。
炎の攻撃を真正面から浴びて、悶絶している。
まだだ。まだまだだ。これからが本番だ。
行くぞ、次だ。
「ムコダイン、召喚っ」
召喚獣ムコダインが、にゅるんと空気中から現れる。赤い目をした凶暴なムコダイン。
いい。いいぞムコダイン。
召喚主をも喰らい尽くす勢いの、獰猛な魔界の野獣だ。ねばっとして、どろっとして、ぐちゅっとして、べっと切る。
これには、流石の連中もびっくりだ。斜め上の攻撃だろう。いいぞそのまま奴らを絡めとれ。
そこでわたしは、はっとたじろぐ。
いい加減に聞き流していた説明の部分を思い出した。
説明書は手元にあるが、こんな文字、まともに読むわけがない――しまった、攻撃の手順を間違えた――本来一番最初に飲むべきだったこれが、最後になってしまったぞ。
どうしよう、どうしようか。
だが、迷ったのはほんの数秒だった。
いや、彼は最後にこう言ったではないか?ながながとした説明なんか、どうでも良くなるような一言だ。
むしろ、あんな説明はいらなかった、と思われる位の一言だ。
わたしはそれを思い出した瞬間、自信を取り戻し、最後の技を繰り出したのだった。
「喝」
びりぃっ。封を切る。
「っ魂っ」
きゅぽん、んぐっ、ごっ、ごっ、ごっ――口腔内をお助け水で満たし。
「ぐぶぼっおっ」
闘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
……んごっくん。
「……こちらはですね、抗生剤の役割を持っておりまして、朝夕の二錠となっております。こちらは痰の切れを良くするもので、一日三回。そしてこちらは、抗アレルギーのものでして、これも一日三回。ええと、そしてこちらは葛根湯ですね、こちらも三回ですが、これは食前でお願いします」
食前と食後。
一日二回と三回。
五日分……。
だけど最後に彼は言ったのだった。
「ですが、お忙しかったりなどしましたら、まとめて食後に服用されても構いません」
(毎回説明するのも大変だろうな)
とりあえず、飲むものは飲んだ。食事には全く関係のない時間だ。
いいんだよ、なんでもいいんだ、体に入れさえすりゃあ……。
第一回目の攻撃を喰らった「奴ら」は、ちょっとは大人しくなるだろうか。
暗示効果で、心なしか楽になったような気分でエンジンをかける。お薬さん、早く効いておくれ。
なぜか、攻撃技とか、巨大ロボを思い出すのです。