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第66話 :コア
「南って言っても、広いだろ?どの村にいるんだ?」

空を飛んで3時間、鬱蒼と木が生い茂る森でルキアを休ませていると、ルアーが聞いてきた。
私はあの村の長老だった人に聞いた。
もしかしたら、王家の血を継ぐ者がいるのかもしれないと。

****

「本当ですかっ!?」
「いや、事実かどうかは私も知らぬ。」

たった小さな光が一瞬、見えた気がした。

「その方に王座についてもらえれば・・・この争いは終わりますか!?」
「・・・あんた、よそ者じゃろう?」
「え?あ・・はい。派遣されてきました。」

ここの人達にとって、私やルアーはジェラスはよそ者でしかない。
逃げようと思えば逃げられるし、戻る場所は別にある。
ここに置いていって後悔する物はないかもしれない。

「なら、なして・・そんな嬉しげな顔をする。」

その質問は私にとって愚問だった。

「私が出来ることが、あるかもしれないからです。」
「・・おぬしにできる事、とな。」
「これでもドラゴンマスターの端くれなんですよ?貴女はもう足に怪我をして動けない。
けど、私は動ける。歩く事も、空を飛ぶ事もできる。だから、私が変わりに王を迎えに行きます。」

たった一瞬見えた光は、今にも消えそうなほど弱弱しかった、でもそれは確かに光だったから。
私が追う光はあったのだ。

「あんたなら、少しはましな王になれそうじゃの。」
「えっ!?あははっ、面白い事いいますねっ。私が王だなんて。
きっとこの国を救う事なんかできない。それどころか、もっと酷い戦争が起こってしまう。
王につくのは、王の血を継ぐ者だからこそ、この争いは終わるんです。」

誰も反対することのできない、王家の血筋にある者だから、この戦争を終わらせられる。
有無を言わさず、『私が王だ。』そう言うだけで、2家はおとなしくなる。
そうできるのは、王家の血筋にある者のみ。

「南の、南のどの村にその方は?」
「シュランじゃよ。小さな村でな。わしも一度だけ訪れた事がある。
春と秋には収穫祭があってな、小さい村にたくさんの人が集まる。それはそれは賑やかな村だった。」
「シュラン・・・」
「だが、おぬし・・・ドラゴンマスターだと言うとったの。」
「え?」

長老が賑やかだった、というその村も今ではきっと貧しい人が幾人か残る痩せ細った村に違いない。
きっとここのように、人々は苦しみ病んでいる。

「あの村、今はどうか知らぬが、ドラゴンをここぞとばかりに嫌う者たちでな。
活気があった昔は、ドラゴンマスターはドラゴンを連れていくことなんぞ、到底できんかった。
それももう、昔の事じゃがな。」

ドラゴンを嫌う村・・?
そんな事があるなんて、私は驚いて思わず黙り込んでしまった。
長老はそんな私に優しく笑いかけると、その痩せ細ってシワシワになった手を私の頭に乗せた。

「わしは好きじゃよ、ドラゴン。おぬしのドラゴンは、あの白い奴だろう?」
「・・・はい。」
「綺麗じゃあないか。自信をお持ち。・・・この国が平和になったら、空を飛ぶ姿を見せておくれ。」

シワがたくさんあるその顔の中の、ほんの小さなその目が優しく微笑んだ。
その土まみれの手がとても愛おしく感じられた。

「はい!」

****

「南の村・・シュラン。」
「初めて聞くな〜。」

私の言葉にルアーは簡単に返事を返した。
ルキアは気持ちよさそうに、小さな川から流れ落ちてくる水で出来た滝に体を寄せている。
こんなにも綺麗なドラゴンを、嫌う人がいるなんて。それは今でも悲しい。

「シュランといえば・・・・・赤竜に滅ぼされかけたとか、何とか。」

ぼそっとそう呟いたのはジェラスだった。

「えっ!?そうなの?・・その話、聞きたい。」
「お前、知っていたのか。あの村が・・・」
「ドラゴンを嫌っていること?・・長老がお話ししてくれたの。」

それでも、私はやっぱり迎えに行かなくちゃならない。そう思った。
だからルキアにも聞いたんだ。ついて来なくてもいいんだよって。
ルキアはもちろん首を横に振って、傍にいると言ってくれたけど。

「それでも・・・。まぁ、それはいい。お前が決めた事だ。」
「うん。あの、それで・・・その赤竜の話、聞きたいの。」
「あぁ。これも50年以上昔の事だ。あのシュランの村に、1人のドラゴンマスターと赤いドラゴンが現れた。
そして赤竜は炎を吐いて村を滅ぼそうとした。しかし喜々としてその村は救われた、何者かの手によって。
それ以来、あの村の者は皆竜を恐れ、ドラゴンを嫌い、ドラゴンマスターでさえも、軽蔑したとか。」

なんて酷いことだろう。そんなことをするために、ドラゴンと空を飛ぶなんて。
そんなことのために、ドラゴンはマスターと契約したはずじゃないのに。
きっとドラゴンは、心を痛めていたに違いない。

「最低だよ・・・、そんなの。」

私が小さく呟くと、水滴がついた白い肌が近くに寄ってきた。

『どうかしたんですか?』

その声に私は思わず涙の溜まる目を、パッと見せてしまった。
その目にルキアは驚いたのか、声を上げる。

『コア?・・・どうかしたの?』

こんなに優しいドラゴンに、人に痛みを与えさせるなんて。
ドラゴンは優しく穏やかで平和を好む生き物。
争いごとは嫌いだし、本当は汚れた血を見るだけで弱ってしまうほどに純粋な生き物なのに。

「何でもないの。」

でも、結局私も同じなんだ。
戦いになることを分かっていて、ルキアを連れて行くのだから。
ルキアは私を守るために、自分や、他の人が傷つくことを恐れないだろう。
この間のように、私を庇うように敵から守って攻撃だって恐れずにするんだろう。
けど、私はそんな事のためにルキアと一緒にいたくないのに。

「私はルキアを・・・人と戦うための道具だと・・思ってるのかな・・・?」

小さく零れ出た言葉にルアーとジェラスは驚きの声を隠す事はできずに声を漏らし、その表情も驚いていた。
私だって同じじゃないのか、そんな疑問が心の中で何度も浮かぶ。
救いたいのだと言う言い訳をして、結局はルキアに人を傷つけさせる。
それが私に出来ることのなの?

『バカですね、コアは。』

立った一言呆れたような声が聞えた。ルアーとジェラスはルキアを驚いた顔で見ている。
私はその言葉にちっとも驚かなかった。ルキアなら、そんな事をいって優しく笑ってくれるような気がしていたから。

『分かっているんでしょう?貴女が何を言っても思っても、私はついていくと。』
「・・・ルキア。」

そう、心の中では分かっていた。こんな私だと知って尚、ルキアは私の傍にいてくれてる。
こんなに無力で、幼くて、馬鹿な私の傍にいたいと言ってくれる。

『貴女がそんな人じゃないくらい、私は知ってます。貴女は私の事を道具だなんて思っていない。』
「・・・」

ルキアはそう自信満々に言い切った。根拠もないのに、どこからその自信は湧いてくるのか、すごく不思議だ。
その目には一寸の不安さえも見えない。

『ルアーさんとジェラスさんは、コアが本当に私を道具だと思っていると、お考えですか?』

一瞬驚いた顔をしていた2人は、同時に軽く笑った。
それからジェラスはルキアを見て、続けた。

「まさか。」

その言葉にルアーは2・3首を横に振ってこっちに笑顔を向ける。

「そんな事を考えてんのかって、驚いただけだ。」

ねぇ、どうして誰も疑わないの。私は醜い人間なのに。
あの赤竜のマスターと何も変わりはしないのに。

『私は貴女が望むのなら、貴女の剣にでも盾にでもなりましょう。
だけど貴女は私を私として欲してくれる。貴女が私を欲するのは剣や盾が欲しいからじゃない。』

そうでしょう?とルキアはその白い頬を私の頬に軽く寄せた。
ざらざらとしたその肌が、私から離れると青い透き通った目が私を見つめる。
そうだよ。私はルキアに傍にいて欲しい。大切なパートナーとして。

「ルキア・・」
『けどもしも貴女が私を道具だと思っていても、それはそれでいいんですよ。』
「え?」
『貴女は私に空を飛ぶ幸せを教えてくれた。だから貴女の道具としてでも、私は貴女の傍にいたいと思うんです。
空を教えてくれた貴女の力になれるのなら、道具でもいい。』

私は貴女を傷つける者なのに。貴女はそれでも傍にいてくれるというの?
私が出会った貴女は空を知らなかったんじゃなく、知ろうとしていなかっただけ。
空なんて、私が教えたわけじゃない。
ルキアが私に教えてくれたことじゃない。

「空を教えたのは私じゃない。貴女が私に空を教えてくれた。」
『いいえ、貴女です。確かに貴女に空を教えたのは私です。
けど、空を飛ぶ幸せを教えてくれたのは、コア、貴女ですよ。』

あの日、雨にぬれた貴女はその体から土を落とし、白竜の姿を見せた。
その白竜は私にとって、唯のドラゴンでしかなくて、私は驚く事もなくその背に乗っていた。
雨にぬれた体を乾かすように風が吹きぬけていって、私は初めて空を知った。
あの時、ルキアは何を思っていたのかな。

『もう行きましょう。』
「私、ルキアの盾になれるように・・・頑張るから。ルキアの剣になって盾になって・・・貴女の役に立てるように。」
『・・今でも充分です。何度も言いましたよ。』

優しい目が青くこちらを覗く。
その様子をルアーとジェラスもそっと眺めていた。
私は何て幸せなんだろう。今まで幾度となく感じてきたその感情が、涙になって溢れそうだった。
もう、大丈夫。
“わしは好きじゃよ、ドラゴン。”“綺麗じゃあないか。自身をお持ち。”
そんな言葉がもう一度、優しく耳の奥で響いた。
もう、大丈夫。そう思えた。
どれだけ嫌いだと言われても、どれだけ憎む目を向けられても、私は胸を張っていう。

ドラゴンはとても美しい生き物だ、と。
ルキアがそうであるように、ドラゴンは優しく美しい生き物なのだ、と。

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