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第21話 :コア

「今日は俺の家に来てもいいけど?」


そう言って、頑張ったお祝いに、セルスが家に呼んでくれた。

セルスの家のソファーに顔をうずめる。


「・・・セルスの匂い・・・」


暖かくて、優しくて。空みたいな匂い。


「追い出すぞ、変態。」

「やだぁ!」


セルスのしっかりした腕が私の腕を掴んでいる。

いつもならここで終わるのに、セルスはその手をゆっくり

私の小さい手に重ねて、そのまま隣に座った。


「なぁ」


ドキドキと心臓が音をたてて五月蝿い。


「お前、俺が居なくなったらどうする?」


ドクンッ”

ドキドキとは違う、また別の脈が心臓を鳴らす。


「な、何?いきなり」

「別に。」


深い意味はない、とセルスはそっぽを向いた。


「・・・なぁ、どうする?」

「・・・どうするって・・・」


この手を放す時が来るって意味?そんな風に覗いても見かえしてはくれない。

遠くにいっちゃうのは嫌だ。会えないのなんか絶対嫌だ。

毎日会って、毎日笑って、毎日怒って。いつだってすぐ傍にいてくれたのに。


「遠くに行っちゃうの?」

「別に、そういう意味じゃ・・・」


傍にいて。ここにいて。離れないで。放さないで。

そんな言葉が頭の中をグルグルと回る。


「・・・仕方ないよ。」


思ってもないような言葉が私の口から零れていった。


「永遠と傍にいられる・・・訳じゃないし。

セルスに好きな人ができたら、離れなくちゃならない。

セルスが目指す場所に行くなら、さよならしなくちゃならない。」


いつまでも、頼り続けてばかりじゃダメ。

心の中でそんな思いが口から流れ出る。

離れないとか、ついて行くとか。そんな甘い事は言ってられない。


「お前・・・・・・・」


大好きなセルス。いつだって、私から逃れていく。


「大好きだもん、大好きだから・・・。」

「俺、お前が分からない。」


怒るように静かに、呆れるように悲しく、彼が放った言葉が深く胸に突き刺さる。


「え?」

「お前の大好きなんて、どうせ忘れられる程度なんだろ。」


どうせ・・・忘れられる?どうしてそんな風に言われなくちゃいけないの?

貴方に何が分かるの?・・・大好きって気持ちから、いつも逃げる貴方に!

こんなにすぐ傍にいて、この手が触れ合っていても、貴方にこの気持ちは伝わらない?


「セルスには分かんないよっ!!」


喉の奥から怒りまかせに言葉が出て行く。

その勢いで彼の手を放して、パッとそのソファーから立ち上がる。


「あぁ、分からない。」


そんな私に、突き離すような言葉を座って下を向いたまま、セルスが言った。


「どうしてそうやって、すぐに手を放すのっ!?

どうして面倒くさくなったら、諦めようとするの!?」


私はただ真っ直ぐ届けようとしたでしょ?貴方にはそんな事も、届きはしなかった?

そんな気持ちで射るように見ていた彼の眼が、私を見上げて言った。


「それはお前だろっ!?」


シンと静まる空気が、私の頭を冷やしていく。


「毎日大好きだとか言いながら、結局どこに行ってもいいんだろ。

その程度の気持ちで、大好きなんか言うな。」


その程度だなんて、勝手に決め付けないでよ。

悲しみのような怒りがそっと目から溢れ出ていく。

大好きだから・・・。どこに行っても想ってる自信があるから・・・。


ちゅっ――――――――――――


離れていた手が握られ、強く引き寄せられたかと思うとソファーに背を預けて押し倒される。

そして静かに、ゆっくりと、優しく、彼の唇が私の唇をそっと塞いだ。


「・・・っ!?」

「・・・大好きってのは、何が何でも放したくないって気持ちなんだよ。

お前のは、大好きだなんて言えない。」


追い続けて、捕まえたくて。どうしたら貴方を捕まえられるかばかり考えて。

こんなにも溢れ出して止まらない感情を、どうしたら貴方に伝えきれる?

握られていた手が、彼の握っていた感覚が、私を締付けるように思わせる。


「・・・どうして捨てようとするの?」


私の呟いた言葉に彼が驚いたような顔を見せる。


「どうして、諦めようとするのっ?!どうして・・・・逃げてるのは、セルスの方だよっ!」


押し倒されたソファーから、セルスを押し返して玄関まで走った。

涙が零れる。前がにじむ。光の分散が、まるで夜景のように世界を舞う。


「・・・セルスなんか、どこにでもいっちゃえ!!」


バンッ”

外の風が冷たく刺すように私の頬をかすめて行った。

涙が乾いては潤い、乾いては潤った。

傍にいて欲しいだなんて、言えないよ。逃げる貴方を捕まえるのに、精一杯だったの。

この気持ちを否定しないで。誰にも負けたりしないくらい、大好きなの。


どこにも行かないで?ここにいて?この手を放さないで。

貴方にこの気持ちが、筒抜けになってしまえばいいのに。

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