逆ギレも たまには許して
どんなに忙しくても、大事にしていることがある。
会話の最後で「ありがとうね」「よろしくね」ということ。
一日に100人を超える人間と話していると、いつしか、相手のために「ありがとうね」「よろしくね」と笑って別れる方が、自分のためにつながる事に気がついた。
もしかしたら、相手は、「なんで自分がありがとうって言われたんだろう。」分かってないかもしれない。
でもいいの。
言い切った自分の気持ちが引き締まるから、私は、いつも必ず言うようにしている。
夕方の出荷がようやく終わった頃、鳴った電話をとりあえず出たら、電話の相手が柏木だった。
げ。とりあえず出たのが運の尽き。
口に出せない心の悲鳴を何とか抑えつつ、「先ほどは、お構いも出来ませんで~」と勤めて軽く言う。
用件は分かってます。分かってますが、やりたくない…!!
案の定「忙しい中悪かったな」そっけない、分かりやすいぐらい心が籠もってない返事が返ってくる。はいはい、どうせ建前でしょ。
「今なら空いてる時間帯なのか?」
「空いていると言えば空いてますけど…。空ける気にならないと、空かない時間帯ですね」
どっちかって言うと、暇な確率が高いけど、確実ではないっていう意味。
「これから何が残っているんだ?」
電話の向こうで、あからさまに機嫌が悪いため息が聞こえた。
「いつ出す気だ。」さぁ?「あと2日だ。あと2日で、経過報告でいいから出せ。」
「はぁ。そうは言ってもねぇ」
アタシは、忙しいのだ。やりたくないという自分の気持ちを宥めることが先決で笑
っていうのは、2割冗談で、ぶっ飛ばされるかもしれないけど、ホントに勘弁してほしい。
「ふざけるな」
やっぱり明らかに、怒りはじめようとした声が聞こえて、しょうがなく此方も事情を話し始めた。
…といえば、聞こえが良い。
逆ギレに近い事情説明。もう、この際言っちゃうもんね。
「大体ね、その手の『報告書』を書いたことの無い人間を捕まえて、2~3日で出せって言う方が無茶なんじゃないかしら? それは、この前、申し上げましたよね?」
まぁ、確かに申し上げたんだが、その時確かに「赤線引きはこちらでやる」とも言われている。
でもね、そもそもね、アタシ自体が、この手の仕事をやったことが無いのだ。
その手の書類関係があったとしても、本社の物流部が適当に代筆して出してくれた。
そんな、今までなんだから、経費関係の改善報告書なんて、書いたことが無い。
やったことは、無いものは、無い。分からんものは、分からん。言い切って何が悪い。
「それに、目上目線で物を言いに来る前に、礼儀ってものがあるでしょう?
私は『分かんない』『やったことが無い』って相談と質問してるのよ?
急かすなら、さっさと手伝いに来なさいよ。」
どっちが目上目線だというツッコミは、この際、無視の方向で。
これでも、語気に気をつけて、お上品に話をしているつもり!なのよ~
「お前、入社何年目だ? 一から十まで、なんで此方がやらなきゃいけないんだ」
何を言われようが、もはや開き直ったアタシ。反論される全てが頭にくる。
こっちが、下手にでて(どこがだ)正直に話しているってのに、なんともムカつく言い方だわ。
くどいようだけど、此方だって分からないものは分からないのだ。
「現場を回すのが、私の仕事です。その辺の社会人よりも得意なことはあるけれど、苦手なこともあるって事よ。」
心の片隅で謝った方がいい気もしたけど、ね。
ただでさえ、むかつくこの男。売り言葉に買い言葉が続いているので、謝る気もうせた。
早く電話切ってくれないかなぁ~
夜の外階段は、風が冷たくて寒い。暗くて、気持ちも滅入ってくる。
相手をするのも疲れてきた。
数回のやり取りのあとついに「じゃあね、呼ばれたから切るわよ。」切り上げさせてもらった。
あ。
会話の終わりに、「ありがとう」って言い忘れたわ。
ま、人間、間違うこともあるのよ。人間だもの
…ってダメかしら?