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ただいま 検品中  作者: 黒田 容子
2/14

始まりは、突然だから 「始まり」

やっと繁忙期も終わって、パートさんたちも「なんか、今更で繁忙期の疲れが出てきたわ…」とか肩をトントンしたくなってる今日この頃。

「やっと終わったね、最後まで付き合ってくれて有難う」「交代で連休とってもいいよ~」

声を掛けて歩きながら、あがってきた作業レポートに目を通す。


あ、うちのカイシャってね、機械部品を扱ってる商社なんだけどさ。

私の職場は、商品を取引先から在庫として受け取って、お客さんのところへ出荷する物流センターなの。

私は、100人のパートさんたちの面倒を見るのが仕事。

車1台保有するにも、カイシャは行政と国に色々書類を出さなきゃならない。

そんな感じの事務仕事やりながら、パートさんたちの作業状況を現場でチェックしてる。

ガテンでしょ。


入社8年目

上司と2人で100人のパートさんに頼りながら物流センターを運営してきた。

残念ながら、男勝りなアタシになっちゃったけど、とりあえず毎日は楽しい、かも?


「蕃昌サン、事務所に何か偉い人が来てました」

パートのリーダーから連絡を受けた。

「偉い人かぁ… ばっくれてもいい?」

冗談は半分本気。

どこの誰かで、めんどくさい度合いが決まるんだけど、何なんだろうなぁ…

嫌だなぁと思いながら、事務所に向ってる最中にふと

「笑ってられるのも今のうちな嫌な話だったりして」と、呟いてみる。

悪い冗談が本当になるとも、それが未来の旦那との出会いになるとも、

そのときは、まったく予想できない展開だった。



事務所に戻ると、なぜか、パートが誰もいない。

ただの来客で、よくある用件じゃないのは、すぐに分かった。

「おぅ、ちょっと来いや」

上司に手招きされて、応接ソファーに座る。

アタシの上司こと通称:武藤の親父さん。物流倉庫のイロハを教えてくれた入社配属以来の上司だ

江戸っ子っぽいカラっとした気質が好きで、なんとか辞めずにここまでこれた。

アタシは、大好きだ。


「親父っさん」

その言い方すら、場にそぐわないような空気。誰が来たんだ?

来客は、見るも見目麗しい(というのだろう)若いサラリーマンだった。スーツの社章で、同じ会社の人だと分かった。

なんだ、社内じゃん。

一瞬、気が緩んだけど、その気分もすぐに消えとんだ。


「秘書課の柏木だ。蕃昌チーフだな?」

席を立っての挨拶もせずに、ものすごい目上目線で、ものすごい見上げ目線の挨拶。

ブッチーン!! なにコイツ!!

ちゅーか、お前誰だよ? 秘書課なんざ、本社販管費で営業部隊に養ってもらってる部署でしょ?

現場で身体張ってるアタシ達に対する態度がソレなわけ?

一応 筋を重んじるアタシ的には、(コイツ、無理!!)返事をするのがやっとだった。


「失礼ですが、ご用件は?」

数字ばっかりのプリントを受け取りながら、(あー早くコイツ帰らないかな)イライラのボルテージが早くも出現した

「手短に言う。」と、これまた、お約束のように冷たい言い方が切り出されて、

「経費削減の方針により、ここの物流センターの運営経費を15パーセント圧縮して欲しい。

 裁量は、現場にゆだねる。改善案は、直接、自分宛に送ってほしい。」

よく分かんない指令が落ちてきた。


てゆーか、お前誰だよ

何様だっての?

経費とか裁量とか、単語の意味が分かんなくもないけど、15パーセントって…感覚分からないよ。

ゆだねるとか、直接自分宛って、アナタそんなに偉いの?どう見ても見た目30代前半よ?


あまりの高圧的な態度ゆえに、「拒否権が無い」という事と

取り急ぎ、でかい爆弾が落ちてきたのは 頭の片隅で分かった。

でも、フツー、本社の秘書課くんだりが、本社の物流部も経由しないで行き成り「やれ」ってのも、どうなの?


今は聞けない自分をなだめつつ、「期限は?」と一応聞いてみた。

「いつまでに出せる?」

いつまでって… そもそも ここの運営経費の15パーセントって、額にしたら福沢諭吉先生たちが運動会やって盛り上がれるぐらいの人数よ?

そんなの簡単に出せる訳が無い。

「武藤さん…?」上司の顔を伺ってみる。

「相談相手が要るなぁ…」と、あまり大きい声でない返事が返ってきた。

「いきなり秘書課へ提出ってこたぁ、そのまま重役に行っちまうんだろ?

 本社の物流部の意向もあんだろうから、すぐってのは無理だ」

上司らしい当たり障りの無い理想的な返答をしてくれて、ほっとした

武藤の親父さんって人は、こうやっていつも「部下を守るのが、上司の仕事だ」背中で教えてくれる。

でもそれは、ただの時間稼ぎの効果しかないのは、お互い分かってる。

顔をあげて、めんどくさい珍客と目をあわせた。

それに気がついて、珍客が口をあける。

「本社の物流部では、話の埒が明かないので、こちらに伺った次第だ。」

なぜか、まっすぐに私を見る。

初対面のくせに、堂々と値踏みしに掛かってくるような視線。

無駄がないスッキリした顔立ちに、漆黒の髪が隙もなく固められている

ちょっとオシャレなオールバックだけど、緩みのない鋭角的な雰囲気が、ちょっと緊張させる。


でも一瞬、何かが伝わってきた気がした。

あぁこの人は、本社の物流部が殿様気取りの使えないオッサンばっかりの集団っていうのを分かってる。

現場管理士として、私に直接話を持ちかけに来たんだ。

もしかしたら、それなりに要点をわかって仕事している人なのかもしれない。


「私は現場管理士です。」

言い訳にならないよう、言葉を慎重に選

ぶ。

「運営には携わっていますが、改善報告の書面となると、書きなれているとは言い切れません」

言いたくないが、ここは素直に言うしかない

「おそらく、書類の添削と相談から話が始まるでしょう」

やるにはやるけど、手間はかかりまっせ。

「作文の赤線引きならすぐ終わる。それに ここの経費15パーセントなら、人件費を20人工にんく減らせば、目処がつく数字だ。」


今度こそ、冷静に話せる自信がなくなった一言だった。

コイツ、人の血通ってるの?

よくそんなリストラ案を平然といえるわね!?




それが、いまの旦那との初対面だった。

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