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【煙草】

作者:向日葵


『死んでくれないかなあ。』



アンモニアにスカトール、噎せ返るような煙草の臭いに、私の気分は最低だった。
換気もせずに灰皿をいっぱいにする彼が、憎くてたまらなかった。それよりも、こんなところまで堕ちてしまった自分が情けなくて仕方がなかった。

『ねえ、私達って』
「じゃ、また。」

私の言葉を遮られるように発せられた冷たい台詞。玄関のドアが閉まる音と同時に、煙草の山の上、適当に放られた長い一本を手に取る。
とてつもなく苦いそれを、何回も咳を繰り返しながら消費していく。白い煙が出て、先が赤く光り、だんだんと短くなってくる。
大嫌いなこの煙を、なんだか今日はずっと吸っていたいような気分だった。

今日何度目かのため息を吐いて、逃げていった幸せを取り戻すこともせず、ただぼーっとしていた。
幾らか時間が過ぎて、携帯が着信を知らせる。私は、見向きもしない。したくない。
誰からの着信か、どんな要件か、嫌になるほど予想がつくから。これがいわゆる女の勘ってやつなのかは分からないけれど、とにかく、今はひとりでいたい気分なのだ。寂しさを紛らわせるために誰かの声を聞いたところで、孤独感が増すだけだということを私は知っている。

適当にカーディガンを羽織り、夜中に用もなくふらふらとコンビニに向かっては、缶ビールを適量以上に購入する。店員がだるそうにレジ打ちをしているのを脱力感の中見ていると、なんだか分からないけれど私と少し似ていて面白かった。

またふらふらとうちに帰れば、彼の名前を何度もため息混じりに呼びながら、寂しくひとり酒をする。
テレビをつけて、若手芸人が奮闘している深夜番組をサーフィンしながら、彼のことばかりを考えていた。
彼は今、どこにいるのだろう。何をしているのだろう。電話に出なかった私を、面倒な女とでも思っているのだろう。

今は少しだけ、少しだけ涙を流すことを許して欲しい。こうなったのは私のせいで、抜け出せないのは彼のせい。彼と身体を重ねる度に、なんだか空虚感が私の中からポッと出てくる。好きなのに、好きだから、仕方が無いのだろうけれど、私にはもう、耐えられない。
爆発寸前のこの気持ちは、今彼に電話をかけ直したらどうなるだろう。悪い方向にいくに違いないことは頭の中で確信しているのに、寂しさを紛らわすために寂しさを求める私は究極の馬鹿だ。

何度か、耳につくメロディが流れ、彼の声が私の耳に届く。

「もしもし。」
『あのね、私もう貴方とはやっていけない。』

早口で一方的に投げたその言葉。
言い切ったところで、彼の返事も、相槌も待たずに通話を終了させた私の心は空っぽになる。
彼の広い背中を思い出して、涙が頬を伝う。どうしようもできないこの気持ちをどうにか紛らわそうと、ビールを喉に無理やり流し込む。

これでいい、これでいいんだと何度も心の中で自分を納得させようとする。これで、彼は彼女と幸せになれるんだと。少し膨らんだ腹部を眺めて、ぼんやりと思う。
今なら悲しくない。今なら、まだ間に合う。

『死んでくれないかなあ。』

最低なママでごめんね。








END

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