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出会いは六つの星の下で
作:維緒理



第15話


「ついてくるな、って言われたけどさ…」

 ルキウスはこっそりとラウドの後を付けていた。

 ラウドに魔封じの命令が下った相手、ガロン・マクバーグがいるシーナの町へ着くなりラウドはルキウスを宿に残し出かけて行った。もちろんルキウスに絶対宿から出ないようきつく言うのも忘れなかった。だが、相手は身分こそ二番目のリジャールだが、実力的には最上級魔術師のクワント並なのだ。いくら全ての魔術師の天敵といわれる魔封じのラウドでも、やはり強い魔力をもつガロンと戦うとなると大変だろう。

(だから俺にも宿にいろ、っていったんだろうし…)

 ルキウスは胸から下げているネックレスをにぎった。そしてそのネックレスをもらった時の様子も同時に思い出した。

(あの時、ラウドは魔封じを解きそうだった。今まではどんなに頼んでも…)

 そこまで思い、ルキウスは苦笑する。きっと魔封じを外して欲しいと思っていたのは最初の頃だけで、途中からは本気でその言葉を言ってはいなかった。

(でも、今回はどうして解いてくれる気になったのだろう。もしかしてもう俺は必要ないのかな。実力が足りないとか…)

 考えれば考えるほど不安になってくる。

 そうこう考えているうちに先を行くラウドは街角で若い男性を見つけると彼を追いかけるため足を速めた。

 ルキウスもあわてて追いかける。相手は犯罪者の割に堂々と昼間から陽の照る街中を歩いていた。何者にも勝つ自信があるのか、犯罪者はコソコソしているものだという思い込みがあったのか、ルキウスは少し驚いた。

 ラウドがうまく立ち回ったのだろう、程無く若い男を人気のない裏通りの袋小路へ追い込むことに成功した。

(あれが、ガロン・マクバーグ)

 ルキウスは隠れながらも急ぎ足でようやく追いつき、乱れる息をなだめつつ物陰から二人のにらみ合いをながめた。

 クワント並の魔力があるだけあってガロンも青年の外見だ。細いながらも筋肉質で、よくは見えないが、聡明で神経質そうな顔立ちのようだ。

 ガロンは手から眩しい光を放った。しかしすぐ彼の口から舌打ちが漏れる。光に乗じて逃げようとしたが失敗したようだ。

「悪いが、俺から逃げることは不可能だ。一度狙いを定めた相手が何処にいるのか分かる能力ちからがあるのでね」

 ルキウスの目はガロンの出した光で眩み、視界を失ったが、ラウドの声からするとラウド自身にはなんらダメージはなさそうだ。軽くルキウスはため息を吐き出した。

「魔封じが自分の能力を語るのは命とりじゃなかったのか?」

 顔立ちと同じように、ガロンの声は男にしては高く神経質そうだ。

「今のは別に知られてもかまわない能力なのでね」

 ルキウスにもようやく視力が戻る。ガロンは軽く開いていた両足に力を込めた。

「確かに。それでは体をはって『魔封じ』の謎をといていくか。どの文献にもお前の弱点は書かれていなかったからな」

「それはそれは。無駄な努力をさせて悪かった」

 ラウドの優雅な頭の下げ方が却ってガロンの癇に触ったようだ。

「お前をこの世で最後の魔封じにしてやろう。弱点を暴かれた間抜けな魔封じとして歴史に刻まれるがいいわ」

 そう言い放ち、ガロンは彼の手から大量の水の塊を出すとラウドに向けて投げつける。しかしラウドは避けようとはせず、どちらかと言うと自らその水の塊の中へ入っていった様にも見えた。

 水の塊は激しく回転しており、中がどうなっているのかが分からない。早く出てこないと窒息してしまう。見ているだけのルキウスもなんだか息苦しくなってきた。

(ちょっ…大丈夫…だよね?)

 心がざらりとし、ルキウスは首からかけているネックレスを知らないうちに汗ばんだ手で握り締めた。

 本当にラウドに何かあったら、ここで自分に何ができるだろう?

「やっぱり魔封じを解いてもらえば良かった。そうしたら一緒に戦えるのにな」

 しかし『何か』あったときはこのままでも飛び込んでいくつもりだ。

(そうだ、ガロンの気を逸らせば魔法が緩むかもしれない)

 そう考えてルキウスは何かないかと二人から目を離した。その途端、激しく弾ける音が鳴り、共に大量の水しぶきが飛んできた。

「これくらいの魔力では俺は倒せない。次はもっと強い魔法でやってくれ。これではすぐに終わってしまうぞ」

 ラウドは不敵な笑みを浮かべながらガロンへ近づいていく。あの水の中にいたのに全くぬれていない。ラウドの右手が淡く緑に光はじめた。魔封じの光だ。

(余計なこと言ってないで、早く魔封じしちゃえ)

 自分がびしょ濡れになっていることもルキウスは忘れてラウドに見入る。

「くそっ、化け物め」

 ガロンは尖った手のひら大の氷の塊を無数に投げつけた。それには稲妻がまとわりついており、水と雷の両方の属性を供えた高度な魔法である。しかしその塊はラウドを避けるように飛び、ラウドの足を全く止めることが出来なかった。

 ラウドはもはやガロンの目前にいた。ガロンは音が聞こえるほどの歯軋りをする。

「僧侶長ドルガ・サイレーンの命により魔封じを施す」

 ラウドはさらに間合いを詰めた。

(やった、もう終わりだ)

 ラウドの手は眩しいほどの緑の光で包まれている。最後のあがきかガロンは暴れ、ふいに彼の指輪がラウドの頬を掠めた。

「!」

 ガロンは驚いたように目を見開いた。ルキウスも目を見開く。あれだけ魔法攻撃に動じなかったラウドの頬から一筋の血が流れた。

 ガロンと同時にルキウスも悟った。ラウドは魔法攻撃には完全無敵なのだが、物理的攻撃に弱いということを。

 魔力で戦わせるため、ラウドはわざとガロンを煽るような事を言った。ガロンはラウドの弱点を知らなかった為、魔力で最後まで戦った。魔力が強ければ強いほど陥りやすい罠で、ある意味ラウドの作戦勝ちだ。

 ルキウスは初めてラウドに会った時、その日の二度目の魔封じを受ける前に小石を投げつけた事を思い出した。たしか彼は『正しい攻撃だ』と言った。それはこの事だったのだ。たぶんリドの町の火事でも魔力を帯びている火であれば火傷などしなかったに違いない。

 攻撃魔法が効かないのであれば、ルキウスの幻影にもだまされなくて当然だ。

 それでは、今までの旅の途中でラウドが一回も魔法を見せてくれないのは、『魔封じ』の能力を知られない為だったのだろうか? 

(確かに謎であればあるほど相手は恐れるけどさ)

 でも…と考えルキウスは、はたと気づいた。

(魔法の防御は完璧だけれど、もしかしたら攻撃魔法が一切使えないのかもしれない。今の戦いでも一度も攻撃魔法を出さなかった。そうでない限り彼は無敵であり、『六つ星』の事だって俺なんかいなくても出来るはずだ)

 何かがすんなり落ち着いた気がした。この戦いでいろいろなことが分かった気がする。

「冥土の土産ができてよかったな」

 その言葉と共にラウドはガロンに魔封じを施した。

「よかった…」

 ルキウスは自分の体が安堵から力が抜け、崩れ落ちるのが分かった。思った以上に体が緊張していたようだ。もしラウドが負けていたらと思うと全身が縮む思いがする。

(ラウドがいなくなったらって考えるだけで俺、どうしたらいいか分からなくなる。ラウドが隣にいない生活はもう想像できないし、したくない) 

 でもこれで本当に終わったのだ。あとはこっそり宿に戻ってラウドの頬の傷を治すのだ。『魔封じ』に傷を負わす方法があるということが知れるとラウドも戦いにくくなってしまうだろう。

(頬の傷って、あれはあれでワイルドでいいんだけど、余計な敵を増やさないようにする為にも、見えるところの怪我は治すに限るね)

 そう決めて顔を上げると同時に、ガロンの体が砂のように崩れ、跡形もなくなってしまうのが目に入った。

「えっ、なんで?」

 思わずルキウスは声を立てていた。しまったと思ったときにはもう遅く、ラウドにしっかり見つかってしまった。












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