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マーダークリック

作者: 緋宮 咲梗

路傍之杜鵑さん企画「殺し愛、空」参加作品。

「故意ではない殺人を犯してしまった直後~警察に捕まるまで」にシチュエーションを固定。



 ある日いつものようにパソコンを開いてみると、一件のメールが届いていた。

 開いてみるとそこには『市場調査アンケート』とある。

 暇潰しにそのアンケートに答える事にした。

 項目は次の通りだ。


 1、醜態を晒してまで行われる大食い競争を許せますか? YES/NO

 2、性欲を満足させる為なら例え相手が子供でも構わない YES/NO

 3、借金をして周囲に迷惑をかけてまで浪費する人は最低だ YES/NO

 4、自分にないからと相手をひがむのは筋違いだ YES/NO

 5、日頃から惰眠をむさぼり怠けているのは問題だ YES/NO

 6、怒りに我を忘れたのを理由に殺人を犯しても良いか? YES/NO

 7、普段から偉そうに人を見下し馬鹿にするのは構わない YES/NO


 これが市場調査と何の関係あるのだろうかと思いつつも、男は当てはまる答えをクリックしていった。


 1……NO

 2……NO

 3……YES 

 4……YES

 5……YES

 6……NO

 7……NO


 すると画面には、「1問答える度にその回答は自動的にこちらへ転送されます。ご協力ありがとうございました」との文章が現れた。

 男は別段気にしないで何事もなかったかのように、いつも通り他サイトへと遊びに行った。

 


 その頃、現場は騒然としていた。

 椅子に縛られた男女七人が爆死する事件が起きたのだ。

 一人は大食い競争で知られた女性有名人。

 一人は児童性愛を趣味にする男。

 一人は莫大な借金を抱えながらも道楽に耽っていた主婦。

 一人は嫉妬から同僚を首にまで追い込んだ男性会社員。

 一人は自宅に引きこもり働きもしないで寝るかネットに依存しているニート男。

 一人は復讐の為に相手を死に追いやった男性。

 一人は自分の裕福さから庶民を見下していた婦人。


 彼等はそれぞれ七ヶ所の部屋に監禁されており、縛られた椅子の前にはテーブルがありその上にはノートパソコンが置かれていた。

 そして作成したアンケートを第三者個人に送りつけて、答え次第で体と一緒に縛り付けていた小型爆弾が起動する仕組みになっていた。

 つまりこの七人に確答する答えをクリックした事で死ぬ運命に晒された事になる。

 警察はそれを製作した犯人の捜索を開始したが、呆気なく発見された。

 何故なら犯人は自ら正体を明かす遺書を残していたからだ。

 ――遺書――つまり犯人はこの七人の中に存在していて、第三者に決定権を委ねた犯人もその回答により爆死していたのだ。

 その犯人は五つ目の問いに当てはまる、自宅に引きこもり働きもしないで寝るかネットに依存しているニート男だったのである。

 ニート男はパソコンに精通しており、普段は引きこもりだがこの犯行の為に外出して闇ネットショッピングで入手した睡眠薬を混入した飲み物や、ハンカチに含んだ吸入麻酔薬を背後から鼻と口を塞ぎ気を失わせて被害者をさらって来ていた。

 犯人は死んだが、起爆決定の回答をクリックした殺人者がいる。

 遺書にはこう記されていた。

『遠隔殺人を行ったのは僕のネット仲間で、提案者は彼だ。僕はそれを用意しただけ。実際に殺害したのはそのネット仲間だ』


 警察はその遺書からこのニート男のパソコン履歴の捜索を開始した。

 そこでどうやらそのネット仲間とは、ある闇サイトで交流があった事を発見する。

 闇サイトのチャット内で、ニート男はそのネット仲間である男と犯行を企てるチャットを交わしていた。その様子からこのネット仲間も犯人であると警察は断定した。


 ある日男は仕事に行く為に出勤の準備をしていた。

 そこでインターホンが鳴る。

 こんな朝早くから一体誰だろうと男はネクタイを締めながらドアを開けた。途端にドアをがっちりと押さえ込まれて数人の男達が玄関前を立ち塞がる。

「なっ、何ですかあんた達は一体!?」

 男は驚愕を露にして応酬する。しかし相手の男達は一切動じる事無く一人が内ポケットから手帳を取り出す。

「警察の者だ。家宅捜査令状及び逮捕状が出た。お前を逮捕する」

「は! はあぁぁ!? 一体僕が何をしたって言うんですか!!」

「お前は以前、パソコンで市場調査アンケートに回答したな」

「え? えーっと……あの、大食いとか子供相手に性欲とかってヤツかなぁ?」

「そうだ。それはお前が闇サイトであるネット仲間と一緒に共謀して発案したマーダークリックだったんだ。お前が正しい回答をクリックした事で質問と同じ数の人間に取り付けられていた爆弾が起動した。つまり遠隔殺人だ」

 警察の言葉に男は愕然とした。

 確かに闇サイトでそうしたやり取りはしたが、まさかそれを実行されてしかも自分が殺人の片棒を担がされようとは思ってもいなかったのだから。

 しかもあの時の市場調査アンケートの内容は闇サイトで交わしたチャットでのマーダークリックの内容と大幅に違っていて、それに関係しているとは夢にも思わなかったのだ。

「こ、こんなの……! これは何かの間違いだ! 僕は何も知らない!! 人を殺す気なんて欠片もなかった! ただの遊びでそれがあったら面白いと言っただけで、本当に相手が実行するとは思ってもいなかった!! 僕は殺してない!!」

 男は激しく動揺したが刑事は冷酷に現実を突きつける。

「しかし事実、お前が正解をクリックした事で被害者は爆死したんだ。七人だ。お前は七人もの人間を殺した」

「そそそそ、そんなの僕は知らない!! そうだ、あいつは!? その闇サイトでチャットした奴だ! そいつが……」

「確かに用意したのはそいつだが、殺人を実行したのはお前なんだよ」

「僕は本当に知らなかったんだ!! 誰も殺すつもりなんて……そいつを逮捕しろよ! マーダークリックの用意をしたそいつを!」

「そいつは死んだ。そいつも自分をその被害者の一人として入れていたんだ。そいつが残した遺書で今回の事件が判明した」

「……!!」

 そんな……そんな!! 自分が知らない内に殺人を犯していたなんて、しかも七人も。

 男の頭は真っ白になった。もう何も考えられなくなる。思考能力の停止した男の両手に手錠がかけられる。

「気付いてたか? あのアンケート内容はキリスト教にある“七つの大罪”に準えられていた事に。そこで俺達は“七つの大罪爆破事件”と捜査名をつけたんだ。ま、詳しい事は署でじっくり聞かせてもらうわ」

 そう言う刑事の言葉はもう男の耳には入っていない。男はただ促されるままに覆面パトカーに乗せられる。そうして男を乗せた車が署へ発進する中、家宅捜査が開始された……。




――END――




 2008年にバチカンが発表した新装版「七つの大罪」の方も面白かったかな。


【新装版「七つの大罪」内訳】

1、遺伝子を改造すること

2、人体実験を行うこと

3、環境を汚染すること

4、社会的な不公正を行うこと

5、他人を貧困にすること

6、悪辣に金を得ること

7、薬物を濫用すること


 拙作ながらご覧頂いて真にありがとうございました。

 路傍之さんと奥様、そして聖騎士さん、この度は企画発足及び運営準備お疲れ様でした!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 なんていうかこんなことが実際にあったらとか色々と考えてしまいました。 タイトルもいいなと思いました。 [一言] 短編に対して感想を書くのは初めて…というか短編をなろうで…
[一言] 非常に面白かったです。 正義感、常識? 正しくあろうとする意識が、逆に利用され作用する。 意図しない力の暴走が、色々な事を考えさせられます。 けれど、ニート男の意図を掴みかねます。 犯人に…
[一言] 企画参加者の玖龍と申します。 「マーダークリック」とはなんだろう……?と思いながら読ませていただきました。知らなかっただけに、スリルさが増し、背筋がゾクッとしました><怖かったです。容易に…
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