信号が変わる時
男は郊外に引っ越した。
不況の煽りを受け、給料が下がったため、
今の家賃を払うことが厳しくなったのだ。
新しく借りたその家は
住宅街から少し離れたところにあった。
生活する上では不便であったが、
昼間、うるさい自動車工場で働く男にとって、
静かなその家は悪くない物件であった。
そんな家のすぐ近くに1つの信号と横断歩道があった。
なんのへんてつもない信号。
引っ越した来た頃には、たいして気にも止めなかったが、
1週間、2週間と経つうちに、男はある事に気がついた。
信号がいつ見ても青なのだ。
運がいいだけかな?
そう考えてみたこともあったが、
ある休みの日、信号を観察し続けた結果、その考えは否定された。
10分待っても20分待っても、信号が変わることはなかったのだ。
ずっと青のまま、赤になることのない信号。
もともと車の通りのない道だ。
特に問題になることもない。
きっと壊れたまま誰も直さないのだろう。
男は自分の中でそんな結論を導き出した。
それから1週間、2週間と時は流れ、
その日も男は家を出て信号に差し掛かった。
ドンッ
鈍い音と共に身体が衝撃を感じたのは一瞬だった。
高く宙に舞った男の身体は地面に叩きつけられた。
信号が赤に変わった。