32話 夢の中で…
新章突入です♪
日恵野の部下(この世界の警察)に案内された宿で、俺達は数時、静かに過ごしていた。
疲れていたのもあるし、サヤカが医者に運ばれて行ったのと、アリサが常に赤城を警戒していて、なんとなく雰囲気が悪かったのが理由だ。
現在部屋には、疲れの影響で睡魔さんのお迎えが来た俺と、縫いぐるみなのにイビキをかいて寝ていやがるポチ、何故か俺達と一緒の部屋に案内され部屋で静かに読書中の赤城、赤城が居るからか警戒態勢を崩さないアリサさん…
全く、あの『日恵野』とかいう男は何をしているんだ。
この部屋で待機していて下さい、って言うから待っているのに、一向に姿を見せない。
アイツはふざけているのか? いい子は寝る時間を、とっくに過ぎてんだよ、育たなくなったらどうやって責任とる気だ!!
俺の『眠い』という感情が通じたのか、アリサさんは俺に、
「寝ていても大丈夫ですよ
マスターの安眠は私が守ります」
と、言ってくれた…マジ、助かる。
何故か、敵意は赤城に向いていたが…まぁ、いい、お言葉に甘えるとしよう…
睡魔さんが迎えに来てんだ、俺は睡魔さんと一緒に夢の国に行くんだ…
俺はゆっくりと眠りに落ちた。
■
いきなりだが、どうして人は寝ているとき夢を見るのだろうか?
まぁ、前世なら『ググれ』ば一発で解ったのだが…
今は、昔観たアニメで、主人公が言っていたおぼろげな知識しか無い。
非常に残念だ…異世界転生を果たしたにも関わらず、繊維関係の専門知識しか持ち合わせていない俺は、前世の知識でヤリタイ放題が出来ないのだ。
唯一の専門知識も行き詰まったし…
こんなことなら、何時転生してもいい様に知識を溜め込むんだったぜ…どうでもいい話だったな…
さて、夢の話だ。
人間の睡眠には二種類ある、『レム睡眠』と『ノンレム睡眠』だ。
人は『レム睡眠』、つまり、身体は休息中なのに脳が活発に動いている時に、夢を見るらしい。
夢とは『記憶の整理』だ…とか、言う人もいるが。
アレは本当なのだろうか?
だとしたら、今の俺の状況は夢では無さそうだ。
何故なら、こんな状況初体験で、前世にも現世にも全く記憶のないことが起きているからだ。
真夜中、沈没しかけた豪華な船の一室…
肌に触れる海水は確かに冷たく、その水位は増すことも無いが引くことも無い。
時折、船は揺れるが、沈むことは無い…永遠に沈没しかけた状態。
そんな場所で、俺はその少女に出会った。
まったく面識の無い、その少女に…
■
夢にしてはリアリティーが凄いな…
最初、俺は、漠然とそう思った。
不思議を感じだしたのは、それから数分後のことだ。
夢の世界にも関わらず、何故、こんなにも意識がハッキリしているのか?
後、なんで、寝た筈なのに眠いんだ!?
俺の意識は、夢にあるまじき程に、ハッキリしている。
海水の冷たさも感じるし、水浸しの床に立つ疲労感も感じる…
俺はゆっくりと歩き出した…なんか、呼ばれてる気がしたからだ…そこに行けば寝れるカモしれんし…
水位は、俺の腰まで迫っており、転ければ最悪溺れてしまう。
この世界に転生してから、泳ぎなど一度も経験が無いため、この身体が何処まで泳げるのかは知らん。
息継ぎの仕方、忘れてないよな…俺?
歩き出してはみたが、この広い船内を三歳児が歩くのはシンドイ。
もう、眠い…寝ちまうか?
海水の届かない所まで上がり、
夢の中で寝る…と、いう、高等技術に挑戦してみた…
何故だ、眠いのに寝れない…なんだ、この拷問は!?
駄目だ、
直にギブアップして、呆然と立ち尽くした。
心身ともに疲れていた、
改めて、夢の中で『疲れ』を感じる事実に…少し恐ろしくなった…
「お初にお目にかかります、月村様」
この空間に居るのは俺だけでは無い様だ。
よくよく考えるに、この空間はただの夢ではない。
夢にしたらリアリティー凄いしな…
魔法的、ファンタジー的な空間に閉じ込められているのかもしれない。
精神世界とか、そんな名前付いてたりな…
そして、この人物は、俺をこの空間に招いた張本人ではないか?
だとしたら、俺の命は空前の灯火なんだが…なんか、危機感とか感じないんだよな…
振り返るとソコには、水面に立つ青いドレスを身に纏った美しい少女が居た。
アンニュイ雰囲気を感じさせる、独特な空気を身に纏った美少女だ。
歳は、サヤカと一緒くらいか…こちらの方が発育が良いな…何、考えてんだ俺…
「お前は何者だ、なんで俺をこんな所に呼び出した」
ビックリする程、スラスラと自分の口から単語が紡がれる。
俺は今、この少女が、俺をココに招いた『犯人』だと確信していた…何故だろう?
少女はニッコリ笑うと、口を開いた…
「私は、七大貴族、『水無瀬家』の者です、
気軽に『水無瀬』…と、呼んで下さい。
その内、現実世界でもお会いすることもあるでしょうから、下の名前はその時に…
本日は、少々強引ですが、ご挨拶に伺いました」
俺を呼び出したことに否定が無い、確信してはいたが、この『水無瀬』と名乗る少女が、俺をココに招いたのは間違いなさそうだ…
なら、執る対応は1つだな。
「挨拶、ありがとう
俺を元の世界に戻せ…さぁ、早く!!」
こんな得体の知れない人間が作り出した空間に長居は無用だ。
速攻、脱出しなければ何をされるか解らない…
それに、何より眠い!!!
水無瀬はニッコリ笑うと、俺をマジマジと見て来た、そして口を開く。
「おやおや、セッカチな人ですね…
世間話の1つでも如何です?
貴族の嗜みですよ?」
俺は少し苛ついて来ていた…俺は、眠いのだ、ココに来ても相変わらず眠いのだ…この空間で過ごしていては寝たことになっていない…凄い、迷惑だ。
それに、見た目5歳で、なにが『貴族の嗜み』…だ!!!
普通の子供なら、大人しく玩具で遊んでろ!!!
俺は返事に怒気を含ませる、なにぶん機嫌が悪いのでな…
「眠いんだ…さっさと出してくれ!!」
水無瀬は、嫌みを感じさせない含み笑いをすると、不承不承とばかりに首を振った。
あからさまに、残念そうな顔をする…
「私と仲良くするのは、好い事ですよ、『月村様』」
……今更だが、コイツ、なんで俺の名前が月村だと知っているのだ?
頭が少しずつ、眠気から醒めて行く…今更だが、この空間はなんだ?
水無瀬…七大貴族か…なんで、このタイミングで接触して来る?
夜守の一件で、俺は身元を他人に明かしている…その前に、荒崎が知っているか…それで、俺の名前を知ったのか?
解らん、謎だ…
とはいえ、この状況を『夢』と断じることは不可能だ。
何故だか知らんが、『夢』では無いのだからな…
俺は水無瀬に訪ねた。
「解った、世間話ししてやる…
ここはどういう空間だ?」
水無瀬は、あからさまに嬉しそうな表情を作り、俺の問いに答えてくれた。
「精神世界…と、言えば分かり易いかな?
正式名称は『夢幻廻廊』って言う、『水無瀬の家伝』だよ」
水無瀬の家伝?…
そういえば、自分の使える意外の魔法については全く知識が無いな。
同じ『人形遣い』である筈の夜守も、俺の知らない『黒い魔糸』を使っていたし…
その夜守を一撃で倒した日恵野も、何かしら魔法を使った様だった。
そして、今更だが、他家にも『家伝魔法』があるのか…
夢幻廻廊…
この空間は、夢や幻か何かで構成されているのだろうか?
こうやって他人を引き込めるなら、凄く便利な魔法だな…
聞いてみるか…
「俺みたいに、他人を引き込めるなら凄く便利だな、この魔法」
俺が言うと、水無瀬は困った様に眉を寄せた。
「普通、君みたいに招くのは無理かな…
第一、今回、君を招けたのは奇跡みたいなもんだしね。
通常なら、もっと手間の掛かることなんだよね、他人を招くのって…
試しに、適当にやってみたら、出来ちゃった感じかな?」
なんだよ…出来ちゃったって…
俺の安眠を返せ!!
「つーか、なんで、俺をここに呼んだ!!
それに、なんで、俺の名前を知っている?」
少女は不敵に笑うと、唇に人差し指を当てた。
「…それは、内緒かな?
ただ、敵ではないつもりだよ。
今の所、君だけに肩入れするつもりも無いけどね…
ただ、挨拶はしとかないとなぁ〜…って、思ってたんだよね
いや、仲良くしてくれると嬉しいよ?
お姉さん、最近、暇だしね
仲良くしてくれたら、好感度UPだよ」
なんだ、この、年不相応な感じは?
見た目に反して、中身が合ってない感じ…
コイツ、まさか…
俺の顔を見て、水無瀬はニヤニヤと笑った。
「解った感じだね、多分、それで合ってるよ
さて、長いし過ぎたね、話す時間短くてゴメンね
最後に年上からのアドバイス…コレからは、君、大変だよ?
まぁ、頑張ってね」
水無瀬の身体は泡となって崩れて行き、完全に泡と消えた…なんだ、どうなっている?
ゴゴゴゴゴゴ…………
なんだ?!
この嫌な音は?
この効果音の時は大体碌なことが起きない…
徐々に水位が増して来る…
沈没が始まった様だな…
さて、現世ではどれくらい泳げるかな?
俺は、暗い海の底に引き込まれた…
■
目が覚めた、悪夢だ。
気づけば、もう外は明るい。
寝た気がしない…悪夢だよ本当に…
アリサが俺の隣に座っていた。
俺が起きたのを気付くと、少し困った様な顔を向けて来る。
なんだ、その表情は?
俺は少しずつ、自分の仕出かしたことに気がついて行った…
ふぅ…少し落ち着こうか?
普通の三歳児と比べてくれ、大丈夫、俺は三歳児としては変ではない。
逆に、ハイハイが出来る様になって数日でマスターした俺が以上だったんだ…
だけど…おねしょはマジで…悪夢だわ。
代えの服…持って来てない…