31話 閉鎖
俺の身分を日恵野に明かしたのは、赤城だった。
「その方は、月村の、未だ世間に公表されていない子供です
その証拠に、そちらのアリサさんは、月村家当主の作品です、調べれば判明するでしょう…」
日恵野は目を丸くし、アリサは怒りに満ちた目で赤城を見る。
しかし、赤城は何処吹く風とばかりに夜守の止血を始めだした。ポチも手伝っている。
日恵野は俺の顔をまじまじと眺めと後、ニッコリ笑ってくる。
「そうですか、それでしたら丁重に対応させて頂かなければなりませんね…
月村…レイジ君で、いいのかな?
…君のご両親は?」
俺は驚いてアリサを見た、
…これは、どうしたらいい?
アリサは凄く嫌そうな顔をしながら、赤城と日恵野を交互に睨み、疲れた表情を浮かべ口を開いた。
「…委員会を相手にして、下手に身分を隠すのは得策では有りませんね
マスター…、もう隠さずとも宜しいかと
こうなる様に仕組んだ輩も居る様ですし…」
アリサは言葉を切ると、赤城を一瞥し溜め息を吐いた。
そんなアリサに日恵野は爽やかな笑みを向ける…こいつ、デフォルトで笑顔を貼付けるのか?
「いいですよ、仰らなくても…
僕が当ててみせましょう…レイジ君のご両親は…」
得意げに笑うこの日恵野は…
「月村 美夜子さん…ですね?
顔付が美夜子さん似なので直に解りました
頭部に怪我が有りますねよね…直に手当しないといけませんよ?」
俺は右手で、頭を触った。
何処で付けたのか…多分、無我夢中で赤城と戦ったときだな…小さいコブが出来ている。
頭を撫でて来たときに気付いたのか…
日恵野はサヤカを見るとこちらにも微笑んだ。
「サヤカさんも、大怪我をしていますね
この場は我々に御任せ下さい
直に他の『委員会』の要請を受けた『警察』の者がやって来ますので、その者に皆様を僕の泊まる宿へと案内させたいのですが…よろしいですか?
その前に、御訪ねしなければならないことが有ります…
怪我の治療を優先したいですし、早く済ませましょうね」
この男…本当に何者だ?
アリサは俺の決定に従うらしい、サヤカは急に話に自分の名前が出て驚いている、赤城はやはり何処吹く風だ…ポチはもっと他人事だな…
たしかにサヤカの怪我が心配だ…先程まで忘れていたが、サヤカは屋敷で赤城に深い傷を負わされている。今は大丈夫そうだが、一度医者に観てもらわなければならないだろう…
俺は無言で頷いた。
屋敷が騒がしくなって来た…
「とりあえず、あなた方がここに居る理由からお話願えますか?」
■
夜守を捕縛し、病院へと運び。
レイジ君達を、僕の泊まっている宿にご案内してもらった後…
『委員会』が要請を受けた『警察』は、速やかに『夜守家屋敷』を閉鎖し、『七大委員会委員』の指示のもと捜査を開始した。
『警察』到着から3時間、その働きは目を見張る物が有る…
彼等は、警察組織の一員でありながら『委員会』の要請で動く、謂わば、警察の精鋭集団なのだ…
流石は『本物』の警察組織…動きが速いな…彼等が『魔法を扱う貴族』を逮捕する権限を持てば、今、この国にどれほど『逮捕されない貴族』が残るだろうか?
日恵野は『警察』の動きに感心し、先程の来客室でその働きを眺めながら、この国の行く末を案じる。
一人の男が日恵野に近付いて来た、顔見知りである。
「静、俺には働かせておいて、いいご身分だな?」
木暮大樹のいつも通りは、素っ気ない口調である。
大樹には現場で、『警察』達の指揮を執ってもらっていたのだ。
「大樹には頭が上がらないよ」
僕がそう言うと、大樹は露骨に嫌そうな顔をした。
「…ほざいてろ
さっさと仕事をしてくれ、終わらんだろ」
大樹は真剣な表情を作り、僕に報告を開始する。
「夜守の『私室』と、この屋敷の『地下室』、後、『書斎』は、俺だけじゃ手に負えないから一緒に来て欲しい…後、『書斎』には、変な仕掛けが施されていて中に入るのが困難だ…魔法的な『なにか』だから、静が一番の適任者だろう
後、頼まれた『調べごと』なんだが…」
『調べごと』…
夜守の意識が戻り次第、取り調べを開始するが。
今回の事件において、『最大の謎』を大樹には数日前から調べてもらっていた…
「そのことなんだが、本当に『サヤカ』って誰だ?
夜守巳三郎の経歴は勿論、夜守家全体の交友関係を調べたが『サヤカ』なる人物は浮かび上がらなかったぞ
夜守の空想上の人物じゃないのか?」
そう、夜守の事件を語る上で最大の謎は『サヤカ』とは一体なんなのか?
この一点に尽きるのだ…
僕が頭を悩ませていると、来客室のドアを一人の警官が駆け込んで来た。
僕と大樹の前に直立すると、綺麗な敬礼をして、焦った口調で半ば想像通りの報告を開始する。
来たか…
「ご報告します!!
先程、月村美夜子様が、突然、この屋敷を訪れ屋敷内に入られました…
我々も決死で御止めしたのですが…」
彼等の身分では、七大貴族の一家、月村の関係者をどうこう出来る訳が無い。
問題は、月村美夜子が、屋敷の『何処』に行ったかだ…
「それで?
月村美夜子さんは、何処にいらっしゃるのですか?」
「はい、大樹様ですら開けられなかった扉を開き、『書斎』にいらっしゃいます」
僕と大樹は立ち上がると、急いで『書斎』を目指した。
■
書斎の扉からは、『魔力』の残留物を感じ取ることが出来。
そこに何かしらの、『魔法的』な細工が施されていたことを臭わせるが、現在その効力は無い様だ。
だからといって、『入れる』訳ではない…門番が居るのだ…
「残念ですが御通し出来ません」
満面の笑みでそう告げる、軽薄そうな『ドール』に、大樹は詰め寄った。
「…七大貴族の木暮家と日恵野家の人間が『通せ』と言っているのだぞ?」
「はい、こちらも七大貴族・月村家の人間たる我がマスターが『通すな』と言っているので…
通せません」
静は、なんとなく、こうなることを予期していた。
息子のデビューを飾るには、今回、手が込み過ぎの様な気がしたのだ…
日恵野 静は、レイジ達がこの屋敷に来た理由を、大まかに聞いている。
赤城と言うあの黒尽くめが、サヤカちゃんを誘拐した話も聞いた…
しかし、しかしだ…彼等の話を聞くうちに、赤城と、四水というもう一人の『賊』の不可解な行動に目が付いた…彼等の目的は、最初からサヤカちゃんの誘拐で。それも簡単に出来たにも関わらず、わざわざレイジ君に見せつける様に誘拐したのだ…
しかも、七大貴族の子息であるレイジ君を『殺せた』にも関わらず『殺さなかった』…
さらには、自分がこれから向かう場所まで口にしている…
この誘拐事件には、未だ不可解な点がある。
赤城と四水が結界に引っ掛かることなく侵入出来た点、そして、その日、『偶然』にも月村美夜子、月村王雅、この両名が『デート』しに家を留守にするという『行動』…
全てに関して赤城は無言を貫いていたが…
ここまで揃えばある程度の仮説に行き着く。
赤城と四水は、何かしらの理由でレイジのご両親に雇われ、サヤカちゃんを誘拐して夜守の所に連れて行き、レイジ君達もソコに誘導した…
その理由は幾つか考えれるが、僕は、『人を大勢殺した悪鬼を、若干3歳で追いつめた天才児』という、名声とともに世間へその存在を開示したかったのではないか?…という、少々、乱暴な推理が一番確信に近いと考えている。
この推理が正しければ、わざわざ僕達を使う理由も頷けるし、色々と辻綱が会う。
ただ、実の息子を名声とともに世間公開するにしても、些か危険すぎて、大掛かりすぎはしないか?
と、いう、疑問も残っていた…
ただ、それも、他に『何かしらの理由』があるなら頷ける。
七大貴族がここまでする理由…あの『黒い魔糸』が何故か脳裏を過る…
まさか…
書斎の扉が開き、月村美夜子が暗い顔をして現れた、僕達に目を向け気まずそうな顔をしたが。
言い放ったその言葉は、僕達に大きな衝撃を与えた。
「これからこの現場は『月村家預かり』とします
『月村の家伝』に関係する『重用機密』と、七大貴族の総意により決定された『最重要機密事項』の漏洩を防ぐため、
この瞬間から、この現場に月村家の人間と、七大委員会幹部の人間以外が立ち入る一切のことを禁じます!
お二方は、以上のことを屋敷で捜査する『警察』の方々全員に速やかに伝達し、この屋敷を後にして下さい
お願いします…」
月村美夜子が閉める扉の向こうに、『継ぎ接ぎだらけの女』が見えた…
これにて2章完です…
3章は2章の後日談から始まります、ご了承下さい(汗)
日恵野君の名(迷)推理は如何だったでしょうか?
赤城&四水の黒幕は母様でした♪
母様の行動について不振に思われた読者様も多いと思います。
その理由は、赤城&四水を手引きし、夜守家にレイジ君を差し向けた黒幕が母様だったからです。
その理由と、パパ様の行方については後日談で語らせて頂きます。
3章は、作者が3章のタイトルを思いつき次第投稿致します♪
コレからも『人形遣い』をよろしく御願いします!!