第1話『鋼鉄少女、登場!』その4
「風が強くなってきたな」
「雨振る前に、さっさと探すぞっ! さあ気合入れよー!」
「おいっ、何か飛んでくるぞ」
「そうそう。槍が降ってこようが、溶岩が降ってこようが、ましてやヒーローが降ってこようが、気にせずいこう!」
天希が気合を入れたのと同時に、後ろに何かが落下してきた。彼女は、それに少し吹き飛ばされる。
疲れて休んでいた探は、吹き飛ばされてきた天希を受け止めるが、支えきれず芝生に転がった。
「もう、痛いな! 何事が起きたの!」
「それより天希、どいて……」
頭の土埃を払っていた天希の下から、探の苦しそうな声が聞こえてきた。
二人がなんとか立ち上がると、辺りには砂埃が立ちこめていて、一体何があったのか把握できなかった。
しかし、それはすぐに良好になって、そこで土を払っている人間を明らかにした。
「ナンパーダ……?」
探が、散らかった記憶を探り当て、彼の名前をつぶやいた。
すると、土を払うのに夢中だったナンパーダが気づいて駆け寄ってきた。
「おお、私の名前も知れてきたんだね。それは嬉しいことだよ。うん」
起き上がったナンパーダは、自分のファンと勘違いしたのか、探と猛烈に握手を始めた。
「二人のヒーローを軽く追い払ったあのナンパーダさんが、今回は泥まみれですね」
「……」
二人の間に沈黙が流れたが、探がごまかすように咳をして、その場はなんとか落ち着いた。
「それはともかく、ここにいると危ないよ君達」
「どうして?」
「そこは君。ヒーローたるもの、多くの秘密を持っているものだからね。聞かないでくれ」
「……秘密とかそういうのはどうでもいいけど、私達これから探しものの続きがあるんで」
「探しもの?」
「そう、私の今後を左右するとっても大事なものを探してるの! だから、用事があるなら他に行って」
天希は、眉間にシワを寄せて強気、というか喧嘩腰だった。
「そういう強気な女性も、私の心を振るわせる」
それでもナンパーダは余裕だった。彼のスカした表情が、天希の怒りを増幅させていく。
幼馴染の勘で、このままだとヤバイ展開になると感づいた二人は、天希は二人がかりで羽交い絞めにする。
勿論、それで怒らない彼女ではなく、子どものようにギャーギャー喚き始めたので、流石のナンパーダも呆れ顔だった。
「まあ君達。そうして姫君を守っていてくれたまえ。そろそろ、ここも危なくなるからね」
という彼の言の通り、辺りは地面に突き刺さった衝撃とともに再び土煙で包まれた。
すぐに土煙が晴れると、また新たな人物がそこには立っていた。まるで舞台の役者が照明が付くと同時に現れたみたいだ。
「空の旅はいかがだったかな? 軟派男」
「私はナンパーマンではない。ナンパーダ、だ。さっきあったばかりなのに、それすら忘れてしまったのか。スワロマン」
「貴様に名前など覚えていてもらいたくないわ! くらえ!」
事情を把握していない三人を尻目に、二人は突然争いを始めた。
先手をとったのはスワロマンだった。瞬間移動したようにナンパーダへ突撃すると、身を低くして拳を上に突き上げる。
それを予測していたか、ナンパーダはスレスレで避けたあとで、脇腹に華麗な蹴りを一撃加えた。
バイクスーツのようなものを着ているとはいえ、ダメージはよく伝わったようで、目に見えてスワロマンはよろけた。
「神速鳥人の名が泣くね」
「本気を出していると勘違いしてる、己の不幸に泣くがいい」
スワロマンがニヤリと笑ったかと思うと、その顔がブレて、消えた。
流石のナンパーダも、これには余裕を崩された。本当にどこから来るかわからないほどに、相手は早かったのだ。
気づいた時には、もう彼は背後からスワロマンに蹴り飛ばされていた。
再び地面に叩きつけられた彼に、容赦なくスワロマンは追撃をを加えようとする。
「かかったね!」
がその脚は、ナンパーダが投じた白いバラによって封じられた。
「なんだこれは!」
バラが刺さった方の脚は、網でも絡みついたように動かせなくなっている。
なんとかバラを抜こうとする彼の前で、ナンパーダは不敵に笑う。
「無駄だ。私のホワイトローズは、あらゆるものの動きを、一時的にだが拘束する。バラも抜けない、だが刺さっても痛くないだろう?」
「くそっ!」
「それは人の皮膚は切り裂けないんだ。貫くことも無理。ただ衣類に軽く刺さったり切れ目を入れたりするだけ。だが、これは違うよ?」
次に彼が取り出したのは、どこでも見かける赤いバラだった。それはまだつぼみだったが、彼が持つと、やたら高級なものに見えた。
「レッドローズは悪の血で咲かせる花、布や人の皮膚程度なら何でも切り裂ける。君にはレッドローズの養分となってもらおう」
「御免被る! そして貴様、この俺のことを悪と称したこと……万死に値する!」
スワロマンは、正義を名乗る者として最大の侮辱を受けた。その怒りは計り知れない。
「貴様は、地獄で後悔させてやるぞ!」
腕を十字にガッチリ組んだ彼は、その場で両手で手刀を切った。すると、辺りに大きな風がふいた。
「またスワロヴィントかい?」
「スワロセイバー!」
掛け声とともに、辺りにカマイタチが起こった。ただならぬ闘気を向けられて、ナンパーダは一歩下がった。
辺りの木の葉や雑草は全て切り裂かれ、また彼の後ろにあった木々も、袈裟斬りに切り裂かれていく。
いくらか切断音がしたかと思うと、白いバラは粉々にされていた。そして、次にカマイタチはナンパーダ自体にも攻撃を加えた。
ナンパーダの着ている白いスーツの部分部分に切れ目をいれたかと思うと、刃が頭の近くを過ぎっていくのが、傍から見てもわかった。
過ぎった刃は、ナンパーダの頬と、前髪を少し切り落として、また後ろの木々を切り倒していった。
「白いバラは破った。スワロセイバー、辺り一面に刃をばら撒く俺の必殺技だ。あまりの鮮やかさに言葉も出ないだろう」
頬を切られたナンパーダは、相手の言葉など聞こえてないかのように、呆然と立ち尽くしていた。
そして、切られた頬から少しだけ流れ出た血を、指先で掬い取った。そして、自分の頬が切れたことを、改めて確認した。
掬い取った血のうえには、ハラハラと切れた小さな前髪の先端が落ちてくる。
「この、この僕の美の象徴を……」
「美の象徴など、正義の何に役に立つというのだ!」
「許さない。許さないぞ、お前はああぁぁぁっ!」
ナンパーダが、今までにないほどの怒声を張り上げた。
だが、スワロマンもまた、それに呼応したのか感化されたのか、同じような大声で吠える。
「このナンパーダの美しい顔を、多くの美女達に認められたこの顔を、お前は傷つけた! 傷つけたんだっ!」
「黙れ! 小さき命を弄ぶだけでは飽き足らず、この俺を悪と称した愚か者の顔など、福笑いになってしまえば良いのだ!」
「わからないのなら、この罪の重さをこれからじっくりと教えてやる!」
「お前のような奴はヒーローの資格はない。ここでケリをつけてくれる!」
二人のヒーローは、互いに最大限の闘志を燃やしあっていた。
戦いは、いよいよ決着の場面に突入したのである。
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