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ヒロケン!
作:灯宮義流



第1話『鋼鉄少女、登場!』その3


 商店街では、一騒動起きていた。
 一人の女性が皆の制止を振り切って、街で一番高いビルの屋上から飛び降りた。自殺を図ったのだ。
 が、彼女が地面に叩きつけられることはなかった。間一髪で、一人の男が助けたのである。
 女性を助け出した男は、彼女を抱えたまま電柱に飛び乗ると、高らかに宣言した。
「姫君はお救いしました。私の名は、白銀美男子ナンパーダ!」
 宣言と同時に、町の人々の歓声に迎えられたのは、あのナンパーダであった。
「大丈夫かな、お嬢さん」
「離してよ! もう私は死ぬしかないんだから!」
「そんな悲しいことを言わないで、何があったか説明してくれるかな?」
 助けられておきながらヒステリーを起こす彼女に対して、あくまでナンパーダは冷静であった。
「裏切られたの、六年も付き合ってた彼氏に。結婚だって考えていたのに、アイツは二股どころか四股かけていたのよ?」
「それは、なんと酷い」
 ナンパーダ、という名前にふさわしくない台詞が飛び出した。
「もう誰も信じられない、だから死ぬの! 離して!」
「なら、この私があなたのその傷ついた心を癒しましょう」
「えっ」
 絶望に満ちていた彼女の頬が赤く染まり、少し表情が綻んだ。
 白銀美男子と名乗るだけあって、彼は客観的に見て、モデル並のルックスを誇っていた。
 女性の心を一発で揺るがすほどの、多くの女性にとっては夢みたいな男性像を持つ彼に、惹かれていく。
「そんな、えっと、私みたいな、えっと、こんな捨てられた女なんて」
「捨てる男に見る目がなかったんですよ。私は、あなたに底知れぬ魅力を感じます」
「魅力だなんて……」
「私でよければ、あなたの魅力をいくらでもあなた自身にお教えしましょう。気が済むまでずっと、ね」
「ナンパーダ、さま」
 すっかり、虜になった女性の目は、キラキラと輝いていた。
「さて。ではまずその辺りの喫茶店でお茶……」
 と言い切る前に、美男子の頭に小石が飛んできた。
 笑顔のまま、彼は小石の飛んできた方に顔を向けた。
 そこには、背広をきたごく普通のサラリーマンが立っていた。
 普通でないところがあるとすれば、ゴーグル型のサングラスをしていることくらいだろう。
 サングラスをかけて通勤するサラリーマンなど、なかなかお目にかかれない。
「貴様だけは……許せん!」
「ん? 君とは初対面のはずだったと思うが、どなたかな?」
 額をさすりながら、ナンパーダはやれやれと言った様子で、相手に聞いた。
 女性を守るという彼の正義からすれば、むさ苦しい男など面倒な相手でしかなかった。
 顔に小石を当てられたナンパーダの笑顔に、少し殺気が生まれる。
「許せないとは、どういうことか、説明していただこうか」
 彼は笑いながらも、目で相手を睨んだ。女性を温かく迎えたそれとは違う、冷酷な目を。
「これを見ろ」
 サラリーマンは、そういって片手を差し出した。
 その手の上では、まだ羽毛も生えていない鳥のヒナが、親を求めてか細く鳴いていた。
「貴様が立っているその足元には、鳥の巣があった。だが、お前が通った時の風で、ヒナが一羽吹き飛んだ。巣も少し崩れた」
「それはそれは、気づかなかったなあ。何せ彼女の魅力が……」
「生まれたばかりの小さくも尊い命を、貴様は奪おうとしたのだ」
「奪うつもりなど無かったさ。だが、彼女の魅力に比べれば、そんな小さな命など霞んで見えるというだけのこと」
 ナンパーダの一言が、サラリーマンの怒りを爆発させた。
 ハンカチとともに「この小さな命を頼む」と見物人にヒナを渡した彼は、サングラスを取って高々と掲げた。
「変身!」
 掛け声とともに、男は光に包まれた。
 光が解けた頃には、もうそこに怪しいサラリーマンの姿はなかった。
 今そこに居る者は、サラリーマンとは全く違う方向性を持った格好をした男であった。
 肩と腕が青い以外は真っ白な、バイクスーツに似たような服を身にまとい、口元から下が見えているバイザー式のヘルメットを被った男が、そこにはいた。
 その白さはナンパーダなど目ではないくらいの純白を誇り、所々には疾走感を現すように、赤い線が模様としてつけられている。
 さらにそれは、ヘルメットの側面から伸びた、鳥の羽をあしらった飾りで引き立てられていた。
「小さき命は未来の希望! 神速鳥人、スワロマン!」
 高らかに名乗った男は、右足の膝を極限まで曲げ、左足を極限まで伸ばし、両手を左方向に向けて平行に突き出してポーズをとった。
 彼もまたヒーローだったのだ。
 しかし、ナンパーダはうろたえない。
「君もヒーローだったのか……ま、言動から予想はしていたけれどね」
「貴様は外道だ。ヒーローなど名乗る資格の無い外道だ!」
「面倒な相手に絡まれたものだ。せっかく彼女の心を癒そうと思ったのに。それは相手をしないといけないね」
 そういってナンパーダは、ようやく電柱から降りると、女性を地上に下ろして、こう告げた。
「姫、私は少し外道を懲らしめなくてはなりません。それまでこちらで待っていただけますね?」
「は、はい!」
 女性はもう、ナンパーダの手足のように言うことを聞くようになっていた。
 そしてナンパーダは、やれやれといった様子でスワロマンと対峙する。
「人のヒーローとしての活動に水をさした罪、そんな軽いものではないよ」
「小鳥の命を脅かした貴様こそ、二度とお天道様を拝めないと知れ」
 そして二人は空に飛び上がった。
 開始早々に、拳や脚を常人ではわからないほどにぶつけあう。
 かち合っていくその音にはほとんど間隔がなく、これには機関銃もビックリすることであろう。
「軟派な男を語るわりには早いではないか」
「君こそ、神速超人を語るわりには、遅いね」
「ほう、なら本当の神速を見せてやる」
 ヒュンッ。
 スワロマンがナンパーダの前から消えた。
 敵が視界から消えて、流石のナンパーダの余裕も崩れた。
 そして、辺りを見渡しているうちに、背後から声がした。
「スワロヴィント!」
「くっ! うわあああああああっ!」
 ナンパーダは、凄まじい風によって吹き飛ばされていった。それを追ってスワロマンも、光の如く飛んでいく。
 町の人々は、それをただあんぐりと見上げていた。
「ナンパーダ様ぁっ!」
 吹き飛んでいった先は、あの裏山だった。

「風が強くなってきたな」
「雨振る前に、さっさと探すぞっ! さあ気合入れよー!」
「おいっ、何か飛んでくるぞ」
「そうそう。槍が降ってこようが、溶岩が降ってこようが、ましてやヒーローが降ってこようが、気にせずいこう!」
 天希が気合を入れたのと同時に、後ろに何かが落下してきた。彼女は、それに少し吹き飛ばされる。
 疲れて休んでいた探は、吹き飛ばされてきた天希を受け止めるが、支えきれず芝生に転がった。
「もう、痛いな! 何事が起きたの!」
「それより天希、どいて……」
 頭の土埃を払っていた天希の下から、探の苦しそうな声が聞こえてきた。
 二人がなんとか立ち上がると、辺りには砂埃が立ちこめていて、一体何があったのか把握できなかった。
 しかし、それはすぐに良好になって、そこで土を払っている人間を明らかにした。
「ナンパーダ……?」
 探が、散らかった記憶を探り当て、彼の名前をつぶやいた。
 すると、土を払うのに夢中だったナンパーダが気づいて駆け寄ってきた。
「おお、私の名前も知れてきたんだね。それは嬉しいことだよ。うん」
 起き上がったナンパーダは、自分のファンと勘違いしたのか、探と猛烈に握手を始めた。
「二人のヒーローを軽く追い払ったあのナンパーダさんが、今回は泥まみれですね」
「……」
 二人の間に沈黙が流れたが、探がごまかすように咳をして、その場はなんとか落ち着いた。
「それはともかく、ここにいると危ないよ君達」
「どうして?」
「そこは君。ヒーローたるもの、多くの秘密を持っているものだからね。聞かないでくれ」
「……秘密とかそういうのはどうでもいいけど、私達これから探しものの続きがあるんで」
「探しもの?」
「そう、私の今後を左右するとっても大事なものを探してるの! だから、用事があるなら他に行って」
 天希は、眉間にシワを寄せて強気、というか喧嘩腰だった。
「そういう強気な女性も、私の心を振るわせる」
 それでもナンパーダは余裕だった。彼のスカした表情が、天希の怒りを増幅させていく。
 幼馴染の勘で、このままだとヤバイ展開になると感づいた二人は、天希は二人がかりで羽交い絞めにする。
 勿論、それで怒らない彼女ではなく、子どものようにギャーギャー喚き始めたので、流石のナンパーダも呆れ顔だった。
「まあ君達。そうして姫君を守っていてくれたまえ。そろそろ、ここも危なくなるからね」
 という彼の言の通り、辺りは地面に突き刺さった衝撃とともに再び土煙で包まれた。 












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