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ヒロケン!
作:灯宮義流



第1話『鋼鉄少女、登場!』その2


 メシアボックス。
 いつ発見されたかもはっきりしないそれは、未知だらけの物体だ。
 大まかにわかっているのは、小学生から二十歳前後の人間しか変身出来ないことと、“正義の心”なるものを持つ人間でないと、変身できないことだけだった。
 果たして“正義の心”とは何なのか、何故子どもしか変身できないのか?
 それを解析したくても、今の技術力では解明どころか解体することもままならなかった。
 しかも、このメシアボックスは一度主を決めると、形を変えてしまう性質がある。
 変身したヒーロー達曰く、「専用の変身アイテムへと変わる」のだというが、むしろ形を変えるというより、箱からアイテムが出てくるといったほうが良いかもしれない。
 だが、これも本当に適切な説明とは言い難い。
 何故ならば、ヒーローが倒されて変身が強制解除されると、変身アイテムはまた元の箱に戻ってしまうのだ。
 箱に戻ってしまったそれは、持ち主が意識を取り戻して再び変身の意思を示せば手元に戻るが、別人の手に渡ったら最後である。
 脆くなったそれは、常人の握力でも角砂糖を潰すが如く、破壊が容易となる。壊された時、ヒーローはその資格を失い、ただの人間に戻ってしまうのだ。
 このため近年では、ヒーロー同士の潰しあいも多くなった。そもそも、我こそ正義と訴える者達が乱立すれば、対立が生まれるのも必然であったが。

「よくそんなにスコップ持ってきたよね」
「雑貨屋で買って来たの、三人分。浅弥がくるまでは私が責任を持って持つよ」
「……なんて言ってるけど、重くない?」
「未来のヒロインたるものが、こんなことで挫けるわけないじゃん」
「が、頑張ってね」
 林道の中を、スコップを担いだ探と天希が歩いていた。
 少なくともこの光景をデートと勘違いする者はいないであろう。ただ、変な二人組と思われることは請け合いである。
「浅弥が来なかったらしょうがない。私がスコップ二刀流で掘りまくる!」
 彼女は、それぞれのスコップを左右の手で持ち上げ、掲げた。とても危なっかしかった。
「天ちゃん、それは危ないって、危ないよってば!」
 探が彼女の興奮をなんとか鎮めると、ドサクサ紛れに穴掘りに適した場所を、適当に指差して薦めた。
 天希は不服そうな顔をしつつも、早く探し出したいという思いからか、探の提案に従った。

 道からはずれ、生い茂った草を掻き分けていくと、広場のようなところに出た。
 長年この裏山で遊んでいる彼等でも、ここはまだ未開の地で、こんなところがあったのかと探は思わずつぶやいていた。
 広場に出てみると、近くからザクザクという音が聞こえてきた。何かを掘り返している音だ。
 見ると、広場には穴をせっせと掘っている人影があった。
「先客?」
 天希の目付きが鋭くなった。
 探は、闘争心の燃えた天希が一番危険なことを知っていた。
 案の定、天希は先客の正体を探ろうと、スコップを両手に引きずりながら走っていった。
 スコップに潰された雑草は、質の悪い芝刈り機に刈り取られた如く、半端にも無残に四散していく。
 まさか喧嘩売る気では、と探が焦ったものの、争いはおろか追いかけっこが始まることも幸いなかった。
「あーっ、浅弥!」
「あぁ、よっ」
 天希が嬉しそうに声をあげた。そこに居たのは、彼女が呼び寄せたもう一人の戦力、浅弥がいた。
 彼は何故かジャージ姿で、泥まみれ汗まみれになりながらも、懸命に穴を掘っていた。
「どうしたの、その格好。確かに穴掘りには適してるかもしれないけど、学校のじゃないか。明日は確か体育じゃなかったっけ?」
 探が、複雑な表情で聞くと、浅弥はさも普通といったように答える。
「陸上部の最中だったからな」
「抜け出してきたの?」
「天希が緊急事態だって言うじゃないか。何があった? って聞いたら、穴を掘るって返って来たから。よくわからなかったが駆けつけてきた」
「そのスコップは?」
「事務員の人に頼んで借りてきた」
 つまり浅弥は、古ぼけたスコップを抱え、ジャージ姿のまま裏山まで走ってきたということなのだろう。
 それを見た通行人の反応は、想像に難くない。
 その行動力に感心すべきか呆れるべきか、悩んでいる探を差し置いて、天希は浅弥の肩をバンバン叩いた。
「もう、どうして勝手に始めちゃってるのさー!」
 わざわざ来てくれた浅弥への感謝を差し置き、天希は彼の到着を喜んだ。
「緊急事態っていうから、早くメールで言ってた何とかボックスとやらを見つけたほうが良いと思って始めちまった、悪い。で、緊急事態ってなんだ」
「……浅弥」
 浅弥は、どうにも緊急事態というのを本気の緊急事態と思い込んでここに来ていたらしい。
 いつも隙のない表情を揺るがさず、それでいて、誰の力にでもなってくれるクールなイケメンとして、学校の人気者だった浅弥。
 物凄く人の良い性格である彼は、逆に言えば『天然気質』を持った人間であった。
「もしかして浅弥は、メシアボックス知らないの?」
「飯屋? 緊急事態にどこへ食いにいくんだ」
「そうじゃなくて! ヒーローやヒロインに変身することが出来る、夢のアイテムのこと!」
 流石の天希も、彼の鈍さには苛立っているようだった。
 だが、本当に怒っているわけではないことを、傍から見ていた探は知っていた。
「ああ。なんか聞いたことあるな。お前はあれが欲しいのか」
「そう」
「その飯屋のボックスは、土に埋まってるのか」
「だから、メシアボックス! ……まあいいや。とにかく、この裏山からは多くのボックスが覚醒してるって噂なわけ。だから、私も掘り出そうと思ってるの!」
「……なるほど、まあ、なんというか、とにかく、手伝おう」
 全く理解していないような顔をしつつ、浅弥はまた穴をザクザクと掘り始めた。
「あ、よく考えたらこのスコップ無駄になっちゃったなー」
 天希は、そういって自分の持ってきたスコップを二つ眺めていた。浅弥が一つ持ってきているとなると、一つは不要だ。
 せっかく買ってきたのに、使わないのは勿体無い。
 しばらく彼女がスコップと睨めっこすると、ふいにスコップを二つ掲げ、高々と宣言した。
「やっぱりここは、二刀流で行くしかない! おりゃー!」
「危ないぞ」
 ペシッ、ザクッ。
 浅弥に軽く叩き落とされた左手のスコップが、探の足元に近い地面に突き刺さった。
 探は肝を冷やしたが、気を取り直して自分のスコップを構えると、浅弥から少し離れたところを掘り始めた。
 天希はしばらく浅弥に文句を言いつつ、「こんなことしてる場合じゃない」と自分も作業に取り掛かった。












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