第5章 失われた明久の記憶
第二十問 バカとアイドルと日常風景 ④
「明久君は、やっぱり優しい人だった……ううん、優しい人なんだ。いつも私達のことを気にしてくれて、自分が傷ついているのにも関わらず、他人である私達のことをよく心配してくれて……本当に、嬉しさと同時に、申し訳なさがあった……明久君に負担をかけてる。明久君は感じないだろうけど、多分それって負担になってたんだと思うんだ。そして、今回の事件で記憶を失って、本当ならば泣きごとだって言いたかったと思うのに……結局最後まで私の心配をしてくれた。どこまでも、明久君は私達に優しい……弱いところも結構見せるけど、本当に弱い、誰にも見せたくないような部分を……明久君は決して見せない。私達には、いつも笑顔で接してくれる。そんな明久君が……私は、好きになったんだ……」
「亜美……」
僕の胸の中で、亜美はそう言葉を紡ぐ。
僕のことを……好きでいてくれている。
そのことに安心したと同時に、申し訳なさがこみ上げてきた。
こんな僕を……こんなバカな僕を、亜美に選ばせてしまったことに対する後悔。
けど……亜美がそれを望むのだとしたら、僕が選ぶべき道は……ただ一つなのだろう。
「亜美……僕は……」
「……駄目。それ以上言葉を言わないで」
「……え?」
しかし。
その後の言葉を紡ごうとして、僕は亜美に止められた。
そして亜美は僕に言う。
「このままの流れだと……確かに明久君は私の申し入れに応えると思う。けど、それじゃあ駄目なの。それじゃあまだ納得いかないの。明久君の心は……私にない。そうだよね?」
「それって、どういう……」
「知ってるよ……明久君、他に好きな人がいるんだよね?」
「!!」
……まさか亜美が知ってるとは思わなかった。
僕に……好きな人がいるってことを。
「誰かから聞いたとかじゃないよ……これはあくまで私の勘。けど、こういう時の女の勘って……残念ながら当たる確率の方が高かったりするんだよね……だって、自分に関係することだもの。自分と……その相手との今後の人生がかかってることだもん」
「……」
「……けど明久君は優しいから。今の言葉だってすんなり受け入れようとした。確かに私は明久君のことが好き。大好き。もうこれ以上の人はいないって確信出来る程に好き……顔がイケてるとかじゃなくて、明久君の人間性に……私は惚れたの。好きになったの。もうこの気持ちは……抑えられそうにない。けど、抑えなければ、明久君も傷つくだけ。それでも、明久君は多分笑い続けると思うんだ……だって、明久君にとっては、友達って一番大切な存在なんだもんね」
「亜美……」
そうだ。
僕にとって……友達とは隣にいて当たり前な存在でもあり、その実失いたくないかけがえのない存在でもある。
だから僕は、そんな友達を見捨てることなんて……出来やしない。
確かに……僕には好きな人がいる。
けれど……僕には到底届かない相手。
最初から敗けが決まっている……デキレース。
そんな気がして、僕は不安……いや、若干の諦めを抱いていた。
それだけに……亜美が僕に好意を寄せてくれていると知った時……どれだけ嬉しいと思ったか。
そして、両親との約束を果たす為……また、僕に会う為にアイドルになってくれたことが、堪らなく嬉しかった。
こんなバカな男でも……好きになってくれるような人だっている。
だから僕は、亜美の想いに応えたいと……そう思ったのだ。
だけど、それでは亜美が納得することが出来ない。
何故なら……そのままだといずれは崩壊してしまうから。
僕の心が別の人に傾いている内は……二人共苦しいだけだから。
「……明久君は、今のままでいい。私が明久君のことが好きなんだってことを、認識していてくれるだけでいい……あのコンテストの日に明久君が誰に票を入れてたのかも、実は分かってた……あの二人は知らないだろうけどね」
「……」
何も答えられない。
だって……あの日僕は、亜美に票を入れることはなかったのだから。
「……けどその代わり覚悟しておいてね?いつか明久君の心を……きっと明久君を私に振り向かせてみせるんだから!」
「あ、アハハ……お手柔らかに、ね」
僕は戸惑いながらも、そう返事を返す。
……亜美も、やっぱり優しいんだね。
友達の為に、僕なんかの為に遠慮しちゃって……。
「それで明久君……コンテストの時の借り、ここで返して貰おうかなって」
「……え?」
「今度の日曜日……二人きりで出掛けない?」
訂正。
亜美はとっても……積極的な女の子だった。
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