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第4章 対決Cクラス
第十六問 空白の記憶 ④
みんなが出て行ってしまった後、病室には僕と、途中で引き返して来た小さな女の子の二人しか残っていなかった。
……何だか少し気まずい。
何か話したいけど、話す内容が見つからない。
それは女の子も同様らしく、さっきから仕切りに口を動かしてみては、すぐに引っ込めてしまう。
こんな状況が生まれたのも、僕のせいだ。
僕が記憶喪失なんてしなければ、こんな状況なんて生まれなかったというのに。
……けれど、起こってしまったことは仕方がない。
僕が何で記憶喪失なんかになってしまったのかも分からない状況じゃあ、何をすればいいのか分からない。

「あの……お兄ちゃん?」
「……何かな?」

名前を呼ぶことは出来ない。
何故なら僕は、目の前にいる少女の名前を、覚えていないからだ。

「……本当に、葉月のこと、覚えてないですか?」
「……ごめん。自分の名前以外は何も覚えていないんだ。本当に、ごめん」

ただ僕は、謝ることしか出来ない。
それしか、僕に出来ることはないのだから。

「……葉月のこととか、お姉ちゃんのこととか……何も、覚えてないですか?」
「……うん」
「……そんな。そんなことって、あっていいんですか?私はこんなにもバカなお兄ちゃんのことが大好きなのに……お兄ちゃんは何も覚えてないなんて……」

見た目小学生くらいの女の子に、純粋な好意を寄せて貰えるのは本当に嬉しいと思う。
だけど、だからこそ……申し訳ないような気分になってくるのだ。
好意を寄せて貰っているのに。
僕のことを好きでいてくれているのに。
なのに僕は……その好意に応えることが出来ないのだ。
……そんな僕は、本当に情けないと思う。

「……お兄ちゃんは、私と結婚の約束もしたんですよ?それも……覚えてないですか?」
「うん。その約束も覚えて……って、結婚!?」

な、なんでそんなことまで約束してるんだ、僕は!?
こんな小さな女の子に、一体何をしたというんだ!?

「それにバカなお兄ちゃんは……私の初めての人でしたし」
「は……初めて?!」

……記憶を失う前の僕は、そこまで欲求不満で……鬼畜な奴だったと言うのか!?
こんな小さな女の子に……僕は……僕は……!!

「……鬱だ、死のう」
「……ファーストキスの相手として、ですよ?」
「ああ、なんだ……キスの話か……って、キス?」
「はい。葉月が困ってる時に、バカなお兄ちゃんが助けてくれて……その時に、キスをしたです」

……なんだ。
小学生特有の愛情表現なのか。
きっとこの子の言う『好き』は、『Love』ではなく『Like』の方なんだね、きっと。
……本当にそうなのだとしたら、結婚の約束なんてしないだろうけど。

「……よう、明久」

その時。
さっき出て行った……えっと、雄二とかいう人とその他の人達が戻って来た。
……何だか、その表情はやけに真剣なものだけど、さっきの数分間に一体何があったと言うのだろうか。

「明久君……」
「えっと……君は?」

鈴の髪飾りをつけた女の子が、僕の前に立つ。
それが揺れる度に、チリンという音が鳴る。
その音は、なんだか心地よくて……どこか懐かしい気がしたのだが、やはり思い出せないで終わった。

「……ごめんね?私のせいで、こんなことに巻き込んじゃって……明久君の記憶を奪ったのは……私みたいなものだから……」
「……」

その女の子は、一生懸命に僕に謝ってくる。
涙目になりながら……一生懸命謝る。

「牧野……」
「あ、亜美ちゃんのせいじゃありません!本当に悪いのは……」
「瑞希、それ以上は……駄目よ」

釣り目でポニーテールの女の子が、ピンク色の髪の女の子のことを止める。
それだけで……何となく僕の身に何が起きたのかが分かった。
だから僕は……えっと、牧野亜美だから……。

「……亜美のせいじゃないよ。悪いのは、僕の方なんだから……何があったのかは覚えてないけど、悪いのは多分僕なのだから。だからもう謝らないで。なんだか僕の方が申し訳ないような気がしてならないんだ……」
「明久君……」

これでいいだろう。
今僕が言うべきことは、このことなのだ。
亜美という女の子は何も悪くない。
だから……僕に笑顔を見せて欲しい。
今僕が見たいのは、涙に染まった表情ではなく……笑顔なのだから。

「……牧野、明久、それにみんな……俺から話がある」
「……え?」

その時、雄二が僕達にそう呼び掛けた。













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