第2章 長期休暇のお出かけ
第八問 映画館は危険な予感? ⑤
「「……」」
映画を見終えた僕達の顔は……多分赤かったと思う。
何だろう……見ているこっちが恥ずかしくなるような内容だった。
「あ、あの場面でキスは……ちょっと卑怯だと思う」
「そ、そうですよね……」
どうやら僕と姫路さんが考えていることは同じのようだ。
しばらく僕達の顔は、赤くなったままその熱を収めることはないだろう。
「あ、あの……明久君」
「ひゃ、ひゃい!?」
緊張のあまりか、僕は思わず高い声を出してしまう。
出してしまってから、僕は恥ずかしいと一瞬で思った。
けど、姫路さんは僕のそんな様子を汲み取ってくれたのか、流してくれた。
「明久君は……あんな恋をしてみたいと思いますか?」
「え?」
姫路さんが、真剣な表情で僕にそう尋ねてくる。
……映画の内容は、ラブストーリーだった。
だけど、設定は正直どうなのだろうかと思わせるものだった。
ストーリーの具体的な内容を説明すると、主人公はとある一人の青年。
仲間達と共に旅行に来ていた時に、一人の女性に出会う。
だけど、その女性は実は死刑を宣告された脱獄囚で……彼女を好きになった青年は、二人でこの国から脱出することを決意する。
そんな二人の……悲しいまでの純愛。
「あのストーリーだと、最後に青年が庇って死んでしまいましたけど……明久君なら、もしも同じような状況に立たされたとき、どうしますか?」
「僕なら?」
そうだな……。
もしも僕が青年と同じ立場で。
僕が庇わないと、愛した女性が死ぬ。
僕が庇えば、愛した女性は死ぬけど……僕が死ぬ。
そんなことになった時、僕なら……。
「僕なら、女性を庇って死ぬ道を選ぶかな。その人には、生きてて欲しいから……僕の分まで、生きて欲しいって思うから」
「……そう、ですよね」
僕は本心から答えた積もりだ。
けど、姫路さんは顔を曇らせる。
どうしてだろう……表情を曇らせる理由なんてあるのだろうか。
「けど、私は……もしも私が同じ状況に陥ったとしたら……私は、一緒に死ぬ道を選ぶかもしれません」
「え?」
姫路さんから聞けるとは思っていなかった……まさかの一言。
それは、僕を驚かすには充分すぎる程のものだった。
「一緒に、死ぬ?」
「はい……例えその人が私を庇って守ってくれたとしても……私には一人で生きていける自信がありません。私の愛する人が死んでしまったら……もしかしたら私は、後を追って死んでしまうかもしれません」
「……姫路さん」
「あ、例えばの話ですよ?実際にそんなことが身近で起きるとは考えていませんし、第一考えたくもありません!けど、出来れば一緒に死にたいです……一人で残されるくらいなら、せめて最後まで一緒に……」
「……そっか。そうだよね」
僕は納得した。
大事なのは……庇ってその人が生きていたかではない。
どの選択肢を選べば……その人が幸せに生きていけるか、だ。
そうだ、僕は何て大切なことを忘れていたのだろう。
僕は……その人さえ生きていれば、自分の命なんて差し出しても構わないと思っていた。
けど、もしもあの青年と同じ立場にあった時……どちらかが死んでどちらかが生きる。
そんな時に考えなくてはならないのは……本当に考えなければならないのは、その人が幸せだと思う道なのだ。
「もしも僕が青年だったら……」
それでも、僕はその考えを貫けるのか?
さっき姫路さんは、一緒に死ぬと言った。
だけど……それはつまり、諦めなのではないのか?
どちらかが生きて、どちらかが死ぬしかない状況。
そんな状況……ないほうがいいに決まってる。
「さっきの発言はなしにしよう……僕が同じ立場にあったら、僕は最後まで生きようと足掻く道を選ぶ」
「生きようと足掻く道を……ですか?」
「うん。二人で生きていたいから……最後まで二人一緒でいたいから。でもそれは、一緒に死ぬことじゃなくて、一緒に生きるってことなんだと思う」
「……」
「……何言ってるんだろう。僕らしくもないな」
自分で言ってて、なんだかおかしいと思った。
そもそも、何でこんな話になったんだろう……僕はそれすらも分からなくなってきた。
「……やっぱり、明久君は明久君ですね」
「え?」
「そんな明久君だから……私は……なんです」
「へ?何姫路さん?」
「なんでもないですよ。それよりも、早く次の場所に行きましょう!」
「う、うん」
最後に姫路さんが言った言葉は聞こえなかったけど……今はこの時間を享受したいから。
とにかく今日は、姫路さんと二人きりという時間を満喫しよう、大いに楽しもう。
そして……たくさん思い出を作るんだ。
この幸せが、あの青年と女性のように、いつ崩れるのか分からないのだから……。
『そんな明久君だから……私は、明久君のことが……好きなんです』
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