第2章 長期休暇のお出かけ
第八問 映画館は危険な予感? ③
「「……」」
映画館の中に入った僕達は、とにかく黙っていた。
一体何を話せばいいのだろうか……そのことで、頭がいっぱいだった。
「あ、あの……」
上映前なのにこの静かさ。
何だか耐えられないな……。
そう思った僕は、思わず姫路さんに声をかけていた。
「は、はい?何でしょうか?」
姫路さんは、若干焦るような形で僕の言葉に答える。
……どうやら姫路さんも緊張しているようだ。
「そ、その……なんだか大変なことになったよね」
「……そうでもないと思いますけど」
「え?」
姫路さんが言ったことの意味がよく分からない。
僕には分からないような感情を、姫路さんは感じているということだろうか。
「それにしても……さっきから後ろにいるお客さんが気になるのですが……」
「後ろにいるお客?」
姫路さんは、後ろをチラチラと見ながらそんなことを言っている。
僕も気になって後ろを振り向いてみる。
『……じゃから、ワシは男であると何回言えば』
『諦めろ。もうお前は世間認定なんだよ』
『…………』
『黙っておるのでは何も分からぬではないか!』
……何だか言い争っている様子だった。
しかもわりとシビアな問題らしい。
それにしても……何だか何処かで聞いたことのあるような声なんだけど、気のせいかな?
「……明久君、何だか木下君達の声が聞こえてくるような気がするのですが……」
「やっぱり?僕もそう思ったんだけど……流石に秀吉達がここに来てるとはちょっと考え難いよね」
僕は、姫路さんの質問に対してそう答える。
確かに姫路さんの言う通り、秀吉達の声が聞こえたような気もした。
だけど、まさかこんな場所に秀吉達が来ているとは少し考え難いし、多分空耳だと思う。
……多分というか、絶対空耳だと思いたい。
ここに秀吉がいると仮定すれば……雄二達もこの場所にいるということになるだろう。
それはつまり、僕は連休に入ってからずっと、雄二達に監視されていたという事実にも繋がる。
そうなると、カメラマンとしてムッツリーニが同行していることだろう。
そうなると……美波からパフェを食べさせて貰ってる時のこととかも、写真に撮られている可能性が出てくる。
「……どうしたんですか明久君?座席で頭を抱えて、何やら悩んでいる様子ですけど……」
「……ハッ!なんか今、僕の頭が凄く働いていたのを感じたよ」
姫路さんに声をかけられて、僕は思わずそう言葉を返す。
……なんでよりにもよってこんな反応なんだ。
なんか僕、痛い人みたいじゃないか……。
「そ、そうですか?」
「そこは素直に受け取らないで欲しいな……」
流すことなく、呆れることなく、姫路さんは僕のそんな痛いセリフもすべて包み込んでくれている。
姫路さんが優しい人なんだなと再認識させてくれるのと同時に……自分がどれだけバカな人間なのかを再認識させられるんだよなぁ。
『じゃからワシは……』
『ほら、もうすぐ映画が始まるから大人しくしてろ……それと二人共、ちょっとトイレに行きたくなったから、行ってくるな』
どうやら僕らの後ろの席に座っている客の内の一人が、トイレに行くために席を立ったようだ。
……そういえば、僕もまだトイレに行ってなかったっけ。
先に済ませておいた方が、映画にも集中出来るだろうと思うし、僕もトイレに行こうかな。
「ごめん姫路さん、ちょっとトイレに行ってくるね」
「え?あ、はい」
姫路さんに一応断りを入れておいて、僕はトイレへと向かう。
「ここだなっと……」
男子トイレの扉を開けて、僕は便器へと向かう。
そして、用を足す。
「ふぅ……」
そして、僕は洗面台まで行き、手を洗う。
……そうしている内に、隣に誰かが近寄って来た。
「……ん?」
少し僕は気になって、横を振り向いてみる。
ジャアアアアアアアアア←水がひたすら流れる音
バシャバシャバシャバシャ←僕が顔を一生懸命洗っている音
バッ!←僕がもう一度横を振り向いた音
「ま、まさか……」
隣にいたのは、よく教室でその姿を見る僕の悪友……。
坂本雄二が、そこにいた。
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