「そんな……私の亜美様への愛が、こんなバカに負けるなんて……」
綾瀬さんは、負けたショックがかなり大きかったのか、その場に座りこんでしまっていた。
……何だろう、勝ったのに味わう、この罪悪感は。
「……雄二、ここにいたの」
「ゲッ!翔子!」
そんな時に、霧島さんが屋上に現れた。
……何やら鬼のような形相を浮かべて。
「……どうしたんだ翔子?どうしてそんなに怒ったような表情を浮かべているんだ?」
「……雄二、浮気は許さない」
「は?浮気?何を言ってるんだよ、翔子」
さっきから、会話のキャッチボールが少し出来ていない二人。
戸惑う雄二に、霧島さんが言った。
「……お弁当、食べてくれなかった。前は美味しいって言ってくれたのに」
「お前が変な薬を入れたから、警戒して食べなかったんだぁああああああああああ!目が、目がぁあああああああああ!!!」
翔子さんからの、問答無用の目潰し。
雄二はかなり痛がっている様子で、両目を押さえて悶絶している。
……正直、もう許してあげたいと思わせる程だ。
「……雄二、昼食の続きを」
「嫌だ!また薬を含んだ弁当を食うのは嫌だ!助けてくれ明久!ヘルプミー!!」
「……えっと、お幸せに」
「薄情者!後でこの恨みはきっちり晴らさせてもらうからな!!」
雄二はそんな捨て台詞を残して、霧島さんにズルズルと引きずられながら、屋上から姿を消した。
……残ったのは、今までの状況をうまく把握しきれなかった僕と、
「私の亜美様への愛が……足りなかったとでも言うの?」
相変わらず床に座りこんで、何やら黒いオーラに包まれながら、こんなことを呟いている、綾瀬さんの二人だけとなった。
しかも、こんな状態じゃ会話もすることが出来ないだろう。
……僕はどうするべきなのだろうか。
もうここから立ち去ってしまっていいのだろうか。
けど、綾瀬さんに何も言わずにこの場から消えるのもいかがなものか。
判断に迷うこと、およそ数分。
「……悔しいけど、私の負けは認めてあげるわ」
綾瀬さんは、ゆっくりと立ち上がりながら、僕に向かってそう言ってきた。
……ということは、僕はもうこの場から帰ってもいいということなのだろう。
早く教室に戻らないと、次の授業は鉄人だから、遅刻したら最後だからなぁ。
「えっと……それじゃあ僕はこの辺で」
「……待ちなさい」
「え?」
屋上から中に入ろうとした時。
綾瀬さんに呼び止められた僕は、その場に立ち止まり、綾瀬さんの方を振り向く。
……そこには、僕への敵意を相変わらず剥き出しにした、綾瀬さんの姿があった。
「今回は私の負けよ!けど、このままで済むと思わないでよね!私の亜美様に対する愛は、まだまだこんなものじゃないのだから!」
そう僕に言い捨てると、僕の体を突き飛ばし、さっさと中に入ってしまった。
……多分綾瀬さんなら、亜美と一緒にいられるのなら、Aクラスに入る為に何処までも必死に勉強することだろう。
しかし、肝心なことを聞き逃してしまったなぁ。
「……なんで亜美のことをあそこまで想うようになったんだろう?」
人が誰を好きになろうと、他人には関係ない。
けど、少なくとも亜美は昨日この学校に転入してきたばかりなのだ。
綾瀬さんはきっとこの学校には転入してきたわけではないだろうから、過去に何かあったという可能性がかなり高いわけで。
「……ま、いっか。僕にはあまり関係のない話だし」
気にしたところで仕方ない。
そう思った僕は、それ以上の詮索をしようとはせずに、自分の教室に戻るために屋上から校舎の中へと入った。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。