挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
死神を食べた少女 作者:七沢またり
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

9/37

第九話 草もたまには美味しい

 ベルタ城内、シダモの執務室の前。
 赴任したばかりの新人2名が、さてどうしたものかと立ち尽くしていた。具体的に言うと、目の前の物体について。

「……なにかしら、これ」

「どこからどう見てもパンじゃないか?」

「私が聞いているのは、何故パンがわざとらしく置いてあるのかということよ。……私達を試すテストかしら。良く考えないとまずいわね」

 真新しい士官服を着た女が、眼鏡を指で持ち上げながら呟く。予期せぬ出来事が発生した時の対処をみているのかもしれないと。
 もう一人の男は、しゃがんでパンを眺めている。何の変哲もない、ただのパン。それ以上でもそれ以下でもない。
――つまりは。

「誰かが落としただけだろう。お前の考えすぎだ」

「わざわざこんなところに? 一体誰がよ」

「とにかく、拾っておこう。もしかしたら参謀殿のかもしれない。俺がわざとらしく持っているから、何か気付くかもな」

「……好きにしなさいよ。ただし、私を巻き込まないでね」

 呆れた表情を浮かべた後、若い女が扉をノックする。中から、男の鋭い声が返ってくる。

「――誰か?」

 大きく息を吸い込み、声を張り上げる。

「はっ、本日付で第3軍配属となりましたカタリナ・ヌベス少尉です! 着任のご挨拶に伺いました!」

「同じく、ヴァンダー・ハーフェズ少尉であります!」

「入れ」

「失礼します!」


 短い返事を聞き、背筋を伸ばして失礼のないように入室する。中には眉間に皺を寄せて、執務を行っている男がいた。
 新人2名は、第3軍筆頭参謀のシダモ・アートだろうと予測する。何事も最初が肝心だ。更に背筋を伸ばし、踵をつけて何度も練習をした敬礼をする。
――ふと下を見ると、床の端に花瓶の破片が散らばっていた。

「ユーズ王国最前線、ベルタ城へ良く来た。諸君らのこれからの活躍に期待する、と言いたい所だが」

 そこで言葉を切るシダモ。

「……?」

「間もなく我々は第4軍に編入されることとなっている。貴様らが第3軍でいられるのも、残念ながら後僅かという訳だ。……それよりもだ、手に持っているそれは何だ?」

 ヴァンダーの持っているパンを、指差す。眉間の皺は更により、眉がピクピクと痙攣している。

「はっ、扉の前に置いてありましたので、一応拾っておこうかと。もしかして、シダモ参謀の――」

「違う。……お前の好きなように処分しておけ。英雄殿の落し物だ。腹が減っているなら食べても構わん。但し、話が終わった後でな」

「は、はぁ」

 カタリナと、ヴァンダー両名が怪訝な表情を浮かべる。が、シダモは無視して続ける。

「……話を元に戻すぞ。先程言ったように、第4軍が到着次第編入となる。恐らく我々は支援任務に当る事になるだろう」

 華々しい手柄を挙げることが出来ない裏方。もしくは厄介極まりない任務を押し付けられるのは疑いない。自分の消耗品より、他人のから使うのが当たり前だからだ。

「それでは、シェラ少佐の隊への配置の件は……?」

 カタリナが恐る恐る問い掛ける。将来の英雄の側で働く、最大の好機。逃したとは思いたくなかったのだ。ヴァンダーは、それも仕方がないと思っていたが。

「それは問題ない。予定通りに副官としてつけることになった。後でシェラ少佐の下に、食い物を持って挨拶に行くと良いだろう。話を真剣に聞いてくれるに違いない」

「了解しました」

 食い物という言葉を聞き、カタリナの頭に疑問符が浮かぶが、敢えて問いただす事はしなかった。先程のパンと関連がありそうだったが、そういう雰囲気ではなかった。

「……貴様達の上官になるシェラ少佐だが、些か問題のある人物だ。独断専行を好み、部隊指揮の経験も浅く、兵法にも通じていない。勇猛で、数多の敵を打ち破った実績の持ち主ではあるが」

 美辞麗句とは正反対の言葉を述べるシダモ。嘘をついても仕方がないので、淡々と真実のみを伝えている。

「で、ですが。18という若さで少佐に昇進されたのでしょう。我が軍でも異例の早さかと思われますが」

 ヴァンダーが尋ねると、シダモは重々しく頷く。

「そうだ。16で徴募に参加、その際に反乱軍の首を携えてきた為合格。初陣では奇襲失敗後、潰走中に敵小隊を殲滅し少尉に昇格。アンティグアでは脱走兵に紛れて敵工作員の拠点に潜入、帝国軍大佐を討ち取っている」

「す、すごい」

 カタリナは思わず感心する。まさに英雄に相応しい経歴だ。このままいけば、将官への出世も夢ではないだろう。その歩みを一番の間近で見届ける。その為に副官に志願したのだ。

「更にはアルシア会戦で指揮官戦死後の騎兵を率い、敵食糧貯蔵庫を壊滅させた挙句、包囲を突破して帰還した経歴の持ち主だ。奴が100人いれば、我らの勝利は疑いようがないな」

「では何故問題があるとお考えに?」

「シェラは確かに武に優れている。が、士官としての教育など受けていない。知識は乏しく、直感に頼った指揮を行い、あるのは優れた武力だけだ。一兵卒ならそれでも良いが、3000もの騎兵の命を預けるには大いに不安が残る。貴様達には補佐と同時に、奴の暴走の抑えとなってもらいたい」

「と、言われますと……」

「そのままの意味で理解すれば良い。まんまと敵の策に嵌って、奴が討ち取られるのを何としても防げ。我等第3軍と同じ轍を踏ませるなと言う事だ。――どうだ、理解したか? 理解したなら返事をしろ」

 自嘲気味に話し終えたシダモは、言葉に詰まっている両名に催促する。

「りょ、了解です。全力で補佐いたします」

「同じくヴァンダー、全力を尽くします!」

 言葉を詰まらせながらも、敬礼して了解の意を示すカタリナとヴァンダー。何故か、非常に困難な仕事を押し付けられたような気がしている。
 シダモは、少しだけホッとした表情を浮かべている。

「……宜しい。ならば下がってよし。今後の働きに期待する」

「はっ!」

 副官2名は恭しく退出すると、お互いに顔を見合わせる。
さて、どうしたものかといった様子で。

「取りあえずはシェラ少佐に挨拶にいこう。実際に会って見なければ、何も分からない。考えるのは、それからでも良いんじゃないか」

「そ、そうね。貴方のいう通り。案ずるよりも行動するべきよね。……いや、やっぱり良く考えないと駄目よ。全然駄目。行動してからじゃ取り返しがつかない事だって――」

 眼鏡を持ち上げて、独り言を呟くカタリナ。また始まったと、ヴァンダーは歩を進める。

「何を一人でぶつぶつ言ってるんだ。置いていくぞ」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「大きい声を出すな。聞こえてるよ」

「アンタが出させてるんでしょうが!」

 物心付いた時から親がいなかったカタリナは、努力と勉強を重ねてここまで辿りついた秀才である。武よりも学問を好み、直感で行動する類の人間は、どちらかというと苦手だ。
 彼女の型破りな育ての親も、考えるより先に手が出る人間だったというのもある。
 カタリナは眼鏡のズレを直すと、小走りで同僚の後を追いかけて行った。





 ベルタ城内厩舎。軍馬の世話を甲斐甲斐しくしていた兵士に、2人は話を聞いていた。
 カタリナは歩きつかれたのか、体をだるそうにしている。

「……シェラ少佐は?」

「先程、騎兵を率いて任務に出かけられましたが。いつもの通り、周辺警邏のついでに輜重隊襲撃に向かったんじゃないかと」

「し、しかし、それはシダモ参謀から止められていたのでは」

「ハハハ、私に言われましても。そういう事はシェラ少佐に直接言ってください。まぁ、言って止めるようなら参謀も苦労しないと思いますがね」

 笑い声を上げると、再び馬の世話に戻る兵士。彼もシェラ騎兵隊の一人である。指揮官の強さを直に見ている為か、比較的士気は高い。兵が仕事に戻ったのを見届けると、ヴァンダーは軽いため息を吐く。

「前途多難な気がしてならない。志願先を間違えたかな」

「……うるさいわね。思っても口に出すんじゃないわよ」

「口に出る性格なんでね」

「早急に改善しなさい」

「努力するよ、カタリナ少尉殿」

 シェラの士官室を訪れた所、無人だった為にベルタ城内を探し回ったのだ。兵舎でようやく足取りを掴むと、聞いた通りに厩舎へと急行する。
 だが一足違いだったようで、彼女は周辺警邏に向かうと言い残し、100の騎兵を率いてベルタを出発してしまっていた。
――副官が着任することは、すっかり忘れているようだった。






 一方その頃。シェラは予定通りに西ベルタを全速力で通過し、アルシア川を渡河した後、アンティグア支城を見下ろせる小高い丘陵へと身を潜ませていた。当然下馬して、兵士と馬は木々の陰に伏せている。

「どれどれ、かつての我が家アンティグアはどうなっているかしら。……相変わらず目障りな旗してるわね。あの糞忌々しい緑の旗。眺めてたら段々苛々してきたわ。シダモ参謀みたいに眉間に皺が寄りそうよ」

 寝転がったまま、帝国諜報員から奪った遠眼鏡で城の様子を覗いているシェラ。
 緑地にユーズ王家の紋章。解放軍の旗印だ。赤地に王家の紋章が正当な王国軍の物である。
 近くにあった雑草を乱暴に毟ると、口へ放り込み馬のように咀嚼する。苦い、まずい、エグいの三拍子。食べるんじゃなかったと即座に後悔する。
 近づき難い程の凶悪な形相で、遠眼鏡越しに状況を確認していく。城内は落ち着いている様子で、警備も緩くはなさそうだ。城壁の中の都市は兵士やら商人やらで賑わっており、行き交う町民には笑顔が見える。半年も経つと完全に落ち着きを取り戻している。むしろ王国時代よりも栄えているのではないか。圧政から解放された喜びがあるのだろうか。シェラは不快そうにペッと草を吐き出す。


「……少佐。苛々したからって、何も雑草を食べる事はないでしょう」

 後方で待機していた兵士が、呆れ気味に声を掛ける。

「馬に預けてるから、今手持ちがないのよ。私のお腹に危機が迫っているわ」

「ご安心下さい。これをどうぞ。先程手に入れておいたのです」

 匍匐前進でシェラの横まで来ると、笑顔である物を手渡してくる。アルシア平原を通行中に、畑で毟り取った植物だ。既に敵地であるため、遠慮せずに一本だけ頂戴したと言う訳だ。

「……なにかしら。私が食べた草よりは、歯ごたえがありそうだけど」

「砂糖の原料になる植物ですよ。茎を切って口に含んでください。甘くて美味しいですよ」

 兵士に言われたとおり、裂いて口に含むと甘味を含んだ汁が滲み出て来た。シェラは満面の笑みを浮かべてそれに噛み付く。

「甘くて美味しいわ。貴方大手柄よ。帰ったら好きな物を奢ってあげる」

「ありがとうございます」

「さて、私のお腹と、敵城の警護は万全と。お次はいつものご飯探しと行きましょうか。私達の為にわざわざ遠くから運んできてくれるのだから、感謝しないとね」

 城からアルシア平原へと遠眼鏡を向け直し、物資を積んだ輜重隊の捜索を始める。

「それにしても、あれだけ襲撃を繰り返したのに、一向に迎撃されないのは何故でしょうか」

「こんな無意味な所まで、警戒してるほど暇じゃないんでしょう。ベルタ方面に兵力を集中させているみたいだし。輜重隊に警備を付けるぐらいが精一杯なんじゃない? ――と、今晩のご飯を発見したわ。警備はどうかしら」

 馬車の縦列を遠方に発見したシェラ。警備は手薄に見える。これならば問題なしと立ち上がろうとした瞬間、強い殺気を感じた。そちらに遠眼鏡を素早く向ける。

「少佐? どうかなさいましたか」

「……相手も意外と暇だったみたい。それとも私達がやりすぎたのかしら。
ほら、貴方も見て見なさいな」

 そういうと、遠眼鏡を隣の兵士にヒョイと放り投げた。慌ててそれを受け取ると、シェラが示している方向を窺う。
 ……激しく砂塵が舞い上がっている。解放軍の旗、それに獅子の旗を掲げている騎兵隊だ。数は100ぐらいだろうか。シェラたちのいる丘陵へと向かってきている。それもかなりの進軍速度で。

「明らかにこちらへ進路を向けていますね。少佐、我々は発見されたのでしょうか」

 遠眼鏡をシェラに返しながら尋ねる。慌てていないのは、逃げ切る自信があるからだ。

「奴等もこっちの様子をコレで見てたしね。さっき、指揮官ぽいのと目が合っちゃったわ」

 おもむろに立ち上がり大きな伸びをすると、隠れている兵達の場所へ向かう。一撃加えるか、素直に退散するか。シェラは茎を咥えながら考える。

「どうなさいますか?」

「――そうね。数は同じくらいだし、ちょっと私だけで挨拶してくるわ。貴方達は下馬したまま伏せて、その長い槍をしっかり構えてなさい。お客様が来たら、思いっきり歓迎してあげるように」

「いくらなんでも単騎は危険です! 行くならば我々もお供します!」

「隊に損害を出したら、参謀にまた給金を減らされちゃうわ。軽く挨拶するだけだから、何も心配しなくて良いのよ」

 兜を被ると、青鹿毛の愛馬に飛び乗って大鎌を構える。隠し切れない茶色の髪が兜からはみ出てしまった。そろそろ切るかなと、どうでも良いことを考えながら鎌を軽く振るう。轟と唸りを上げる不吉な音が、周囲に鳴り響く。
 隊員たちは思わず息を呑んだ。あの鎌が振るわれるのが自分ではなくて本当に良かったと。シェラは馬腹を蹴ると、接近してくる獅子旗の元へと全力で駆け下り始めた。






 シェラが発見した、獅子の旗を掲げているこの部隊。散々悩まされ続けた遊撃から、輜重隊を警護するという難儀な任に当たっていた。腹を空かせた狼のように、的確に襲い掛かってくる敵騎兵団。精鋭であるこの隊を警護に回す程、シェラ達を苦々しく思っていたという訳だ。解放軍の台所事情も楽ではないのだから。敵軍に施してやる程余裕はない。

「フィン中佐。この距離では逃げられてしまうかもしれません」

 馬を並べて走っていた女の副官が話しかけると、フィンと呼ばれた若い男が軽く頷く。
 一見すると優男だが、豪腕の持ち主で先の会戦では敵少将を2名討ち取っている。かつての奇襲戦時、ジラ師団を壊滅させたのもこの男だ。獅子の旗印を許された、解放軍きっての強者である。
 青年の名はフィン・カテフ。後に獅子将軍として名を馳せる事になる。

「それならそれで問題ないでしょう。輜重隊を守り抜くのが僕達の任務ですから」

「全く、噂の死神とやらは実に厄介極まりないですね。警護の任に我々まで駆りだされたのですから」

「大鎌を振り回す巨大な化け物でしたっけ。本当ならあまり会いたくはないですね。まぁ、あの様子を見る限りでは噂に過ぎなかったみたいですけど」

 フィンが馬上から遠眼鏡で確認すると、先程の人影は姿を消していた。本物の死神ならば、コソコソ隠れたりはしないだろう。噂は所詮噂に過ぎないのだから。人の生み出した恐怖が一人歩きして増幅する、それが死神の正体。そう安心しかけたその時――。

「所属不明の騎馬がこちらへ下りてきます! ……王国軍の鎧、手には大鎌を持っています!!」

 先頭を走っていた兵士が大声を上げる。慌てて前方に目を凝らすと、確かに物凄い勢いで駆け下りてくる騎兵がいる。

「……おい、たった一騎だぞ。降伏でもするつもりか?」

「戦闘態勢をとったままだ。降伏じゃないらしいな」

 投降するのかと思ったが、手には不気味な大鎌を持っている為そのつもりはなさそうだ。脱走兵とも思えない。

「単騎で突貫だと? ふざけおって! 馬から引き摺り落とし、哀れな死神の正体を暴いてやれ!」

 女の副官が怒声を上げると、応と意気込んで3騎が槍を掲げ突進を開始する。

「はっ! 我らにお任せくださいッ!!」
「我が槍の錆びにしてくれるわ!!」
「舐めた真似をした報いを味合わせてやる!!」

 士気旺盛、腕に自信のある血気盛んな若い騎兵達だった。小柄な騎兵と、解放軍の騎兵達が交差する。その瞬間に、まず1騎の首が上方へ吹き飛んだ。残った騎兵が仇とばかりに激しい攻撃を繰り出す。軽々と連携攻撃を捌くと柄で馬上から叩き落とし、死神の愛馬が全体重で倒れた体を踏み潰す。
 最後の一人は、とても敵わぬと馬首を返し数歩逃げた所で、突然よろめき崩れ落ちた。若者の延髄に草刈用の粗末な小さい鎌が突き立っている。シェラはブーメランの要領で放り投げ、獲物の命を刈り取ったのだ。鎧と兜の隙間という僅かな目標に命中させて。

「し、死神だ。噂の死神だ」
「……ほ、本当にいやがった」
「しかも、まだ若い女だ。ば、化けてるに違いない」

 勇猛な騎兵達が思わず声を上擦らせる。猛者である彼らだが験を担ぐ性がある。魂を無残に刈り取る死の象徴。死神の具現化した姿に、思わず恐れを抱いた。

「貴様達、それでも獅子の旗を掲げる騎兵隊か! たかが一騎に何を恐れている!! 恥を知れッ!!」

「し、しかし」

 動揺した騎兵を、冷静な声が遮る。

「ちょっと僕が確認してみます」

「――え?」

 フィンがそう呟くと、流れるような動作で背負った弓を構え、矢を強く引き絞る。豪腕で引き絞られたそれは、唸りを上げてシェラへと放たれた。

「――ッ!!」

 矢の速度がシェラの予測より数倍速かった為、寸前の所で鎌で受ける羽目となる。間を置かずに矢を連射していく。大鎌を振り回して受け流すが、一本だけ肩鎧部に突き立った。
 シェラは舌打ちして矢を引き抜くと、馬首を返して丘を登り始める。

「どうやら死神にも、矢は当るみたいですね。これなら僕達でも勝てるかもしれません。同じ人間みたいですから」

「フィン中佐、今すぐ追いましょう! 今までの借りを返すまたとない好機です! 殺された仲間の為にも、是非追撃をッ!」

「……いや、何だか嫌な予感がします。ここはこのまま戻りましょう。輜重隊を守るという任務は果たせましたし。無理をしても良い事はないかと。
それより、彼らの亡骸を回収しなければ」

「中佐ッ!」

「それに単騎で来るなんて、誘っているとしか思えません。きっと伏兵が待ち構えてますよ。待ち伏せされて敢え無く戦死なんて、僕はご免です。ほら、顔を顰めてないで早く帰りましょう。綺麗な顔が台無しですよ」

「……了解です」

 唇を噛み締めている副官の姿を見て、思わず苦笑を返したその時。強い殺気を感じて、フィンの顔色が変わる。

「――ッ!! ミラ、避けろッ!」

「なッ!!」

 ミラと呼ばれた副官が返事をする前に、フィンが咄嗟に馬をぶつけて突き飛ばす。意表を突かれた彼女は、馬上から強引に弾き飛ばされた。
 ミラが先程までいた場所は、投擲された小型の鎌が通り過ぎていた。首筋を切り裂くであろう位置目掛けて、正確無比に。突き飛ばしていなければ、血飛沫が上がっていたことは間違いない。
 外れたのを見届けたシェラは、やれやれと首を振った後、口元を歪めてフィン達を見下ろしてくる。そして、自分の首を親指で切り裂く仕草で挑発した後、ゆっくりと丘上へと戻っていった。騎兵達は追撃を忘れ、呆然と立ち尽くす。

「…………死神の異名は、伊達じゃないって事か」

 大切な副官の命を守れたことに嘆息しつつ、フィンは忌々しそうに後姿を見送った。恐らく、これから何百という同士の命を奪うであろう、その小柄な少女の姿を。悠然と大鎌を肩に担いだその姿は、まさに死神以外の何者でもなかった。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ