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死神を食べた少女 作者:七沢またり
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第十七話 綺麗な勲章よりも美味しい物が欲しい

 解放軍前線野営地。将官達の士気は旺盛で、皆が明日こそは落してやると息巻いていた。
 ディーナーの予定では、後1週間程度で攻城作戦は終了する。
 被害度外視の総攻めを昼夜問わず行えば、直ぐにでも落ちるとは思うが無理をする必要はない。ここまで来たら、詰めを誤らなければ問題ないのだ。
 投石で歩兵の援護をしながら、堀を埋め立てる。そして攻城塔、破壊槌を使用できるようになれば、一気に優勢となる。
 敵に増援が来る気配がない今、正攻法で攻め立てるのみ。敵兵の精神を圧迫し内部崩壊に持ち込み、門を内より開けさせるのだ。既に多数の内応に成功している今、開城は時間の問題だ。

「ディーナー殿。攻城作戦は当初の予定通りに進んでおるようですな。部下の者達も、気勢を上げておりましたわい」

 老将ベフルーズが、ディーナーに声を掛ける。巧みな用兵を得意とする、解放軍の中核を為す将官の一人だ。

「ええ。全て計画通りです。遠くない間に、かの門は開け放たれるでしょう」

 地図上に記されたベルタ城。その四方は解放軍の駒により完全に包囲されている。

「後は、捨て鉢になった敵の攻撃に注意を払うだけですな。追い詰められた敵は、何をしでかすか分からない。くれぐれも気をつけねばなりますまい」

「その事ですが。もう暫くしたら、一箇所だけ包囲を薄くする予定でいます。敢えて隙を見せつけて、敵を誘い出すのです」

 東方面に配置された駒を、後方に下げる。

「成る程。その退路に伏兵を配備すると言う訳ですな。分かっていても、撤退を図る敵は乗らざるを得ない。待っていれば自滅するだけ」

「……ここで、例の死神を討ち取る予定です。そろそろ厄介な存在になってきましたので、強引にでも退場して頂く。あの騎兵隊は、落城前に必ずや脱出を図るでしょう。退路上に、身を隠して行軍するのに丁度良い森林地帯があります。彼らはここを通過するはず。そこを捉えます」

 通るように、誘導させる。その為の手は打った。進路上に兵を伏せ、無防備に前進するしかない騎兵を一気に討ち取る。敵が動くのは間違いなく夜更け。視界は最悪で、伏兵には気がつけない。噂通りの猛者であろうと、人間である以上は限界がある。数で押しつぶせば、必ず殺せる。どんな英雄でもだ。

「死神。確か、シェラ・ザードとかいう名前でしたな。勇猛果敢な若い女将官だとか。是非一度拝見したい物ですな」

 ベフルーズが冗談交じりに軽口を叩く。
 だがその目は笑っていない。同僚を何人も討ち取られて、内心歯噛みしている。ボジェク、ボルールを失ったのは痛い。経験豊かな士官だった彼らには、後進を指導するという重要な役割があった。それをあの死神が、易々と刈り取っていってしまった。

「残念ですが、その機会は訪れないかと。死神には早急に元の世界にお帰り頂く。滅び行く王国軍に、英雄など必要ない」

 ディーナーは言い切ると、ベルタ城へと視線を送る。
 現在も苛烈な投石攻撃は続いている。敵の反撃は段々と勢いが落ちている。
――全てが順調だ。








 篭城開始から6日経った。相変わらず、増援は来ない。堀は刻々と埋め立てられている。
 そんな絶望的状況下のベルタ城内、貴賓室。
 シェラはダーヴィトの招きを受けて、豪華なディナーに興じていた。ある任務を引き受けて貰った謝礼、先日の働きを評しての事だ。何が欲しいか本人に尋ねたところ、美味しい食べ物をくれと物怖じせずに答えたのだ。
 食欲のないダーヴィトは、目の前で食事を平らげていく女将校を見て、思わず苦笑した。

「シェラ少佐。美味いか」

「はい。美味しいです」

 顔を上げずに答える。今は鎧や篭手は着用していない。得物は下に置いてあるが。

「そうか。それならば良い。一流の料理人が作ったものだ。ゆっくりと味わうが良い」

「はっ! 了解しました」

「食べながら話さなくて良い。貴官は落ち着いて食べていろ」

 それに頷くと、ナイフを使って肉を切り分けていく。王国北西部で取れる稀少なコロン牛。それを使った料理など、庶民にはとても食べられる物ではない。
 滴り落ちる血のソースを味わいながら、シェラはパクパクとステーキを口に放り投げていく。他にも諸国連合で取れる果実や、帝国産のワインなどが並んでいる。いわゆる高級貴族の食卓。シェラは、貪るように食い荒らした。
 この自分の娘と同い年に見える少女が、死神と畏怖されているとはとても思えない。
ダーヴィトは、興味深そうにその食事風景を眺めていた。

――そこに最後の闖入者が乗り込んでくる。
 10名程の手勢を率いた貴族の男。ダーヴィトに取り入って参謀の地位にいた人間だ。
 抜き放った剣を得意気に向け、厭らしい笑いを浮かべる。シェラはそれを気にせず食事を続ける。彼らからはその小さな背中しか見えない。

「誰かと思えば、アサル参謀ではないか。珍しく剣など持ってどうかしたのか?」

 ダーヴィトが虚ろな瞳で問い掛けると、アサルと呼ばれた男が鼻を鳴らす。

「フン、知れたこと。閣下の首を手土産に、解放軍に投降するのです。アルツーラ姫とて元々は王家に連なる者。仕えるに不足はないですからな」

「それで、わざわざここまでやってきたという事か。実にご苦労なことだ」

 ワインを傾けるダーヴィト。シェラはフォークで果物を突き刺す。丁度良い大きさに切り揃えられた、網状の模様が入った緑の物体。食べたらとても甘かった。

「閣下らしくありませんな。どこの小娘かは知りませんが、このような情けを掛けられるなど。虐殺の主導者である貴方には、最後までそれらしく振舞っていただかないと」

 アサルが合図を送ると兵がテーブルに近づく。

「おら、呑気に飯食ってる場合かッ!」

 シェラの頭を強く小突いた後、テーブルクロスを勢い良く引き抜く。綺麗に並べられていた食器が、料理ごと落ちて床に散乱する。ワインの瓶が割れ、液体がシェラの足下を流れていく。シェラの手には、フォークとナイフだけが残された。

「ダーヴィト閣下には非常に落胆させられましたよ。出世街道を歩まれるかと思ったからこそ、私は今まで懸命に仕えて来たのです。没落した貴方には何の価値もない。だが、貴方の首にはまだ価値があるらしいのでね。ですから今まで仕えてきた慰謝料として、こうして頂きに参上したと言う訳です。理解できたのなら、ダーヴィト殿。無駄な抵抗はせずに、その首を差し出してもらえますかな」

 おどけて己の首を切る仕草を取るアサル。手勢を集めるまでに遅れを取ったと思ったが、まだ標的が残っていて安堵していた。他の奴らに先を越される心配があったからだ。
 だが、それは杞憂だった。他の参謀共も案外手ぬるいらしい。そういう事ならば、一番手柄はこのアサルが遠慮なく頂くとしよう。殺せと、兵達に指示を送る。始末したら、門を開けて解放軍を中に入れなければならない。まだまだ忙しい。王国に最後まで尽くすなどという輩も、少なからずいるのだから。

「アサル様。この小娘はどうします? 面倒なんで殺しても良いですか?」

 兵の一人が、小刻みに震えているシェラの髪を掴み上げる。恐怖で震えているようだ。兵士は己の嗜虐心を刺激される。

「どうやら閣下のお気に入りらしい。一人ではお寂しいでしょう。
共にそっ首叩き落してやれ」

「――はっ! おい、聞いたか。ぶっ殺して良いってよ。へへ、どんな顔で死ぬんだろう――なッ!!」

 兵士が顔を近づけた瞬間、シェラは振り向き様に顔面へナイフを突き立て、深く抉る。暴れ狂うのもおかまいなしに、何度も何度も突き刺した。凄絶な悲鳴が室内に響き渡る。

「ねぇ。お前のせいで私の食べ物が酷い事になったわよ。おい、聞いてるか?」

 血飛沫を浴びながら、シェラが耳元で尋ねる。悲鳴を上げるばかりで返答がないので、フォークを脳天に突き刺して、壁へと放り投げた。ベチャっと軽い音がした後、ようやく部屋が静かになる。やれやれと顎鬚を撫でているダーヴィトも、巻き添えで返り血を浴びている。

「な、なんなんだお前はッ! い、いや待て。き、貴様、シェラ少佐か!?」

「そういうこと。貴方で最後みたい。ダーヴィト閣下に命令されてね。王国を裏切ろうとする屑共を始末しろって。そのお礼にご飯食べさせてくれたの」

 下に落ちてしまった肉片を拾い上げ、食べる。肉汁が口内に溢れ出す、その後で濃い鉄の味がする。

「し、死神シェラだ。おい、こんな話聞いてねぇぞ! なんで護衛にこいつがいやがる! この糞貴族がッ! 話が違うじゃねぇか!!」

 隊長格らしき男が、激昂して叫ぶ。彼はシェラの強さを知っている。撤退するダーヴィト隊の中にいたのだから。自分達では絶対に勝てない。対峙しているだけで怖気が走る。
 死神に捕捉される前に、逃げなければならない。今すぐに。

「だ、黙れ! 誰に口を聞いているんだ貴様は!! とにかく相手は一人だ。取り囲んで殺せッ!」

「馬鹿野郎ッ! てめぇはこいつの強さを知らねぇから惚けた事が言えるんだ! 百人いてもこいつには勝てねぇ。化け物に勝てる訳がねぇっ!
とにかく俺はゴメンだ。おい、とっとと逃げるぞッ!」

「た、隊長、待ってくださいッ!」

 我先にと部屋から逃げ出していく兵士達。生き残る為に裏切ろうとしているのに、死神が待ち構えているなど冗談じゃない。手柄よりも命。彼らに共通した思いだった。

「待て! おい! 私の命令に背く気かッ!! 待てと言っているだろう!」

 追いかけようとしたアサルの背に、何かが投げつけられる。態勢を崩して床に這い蹲ると、その何かと目が合ってしまう。先程まで彼の同僚だった参謀だ。ダーヴィト派閥で熾烈な出世争いを行っていた相手でもある。

「ひ、ひいいいッ!」

「アサル参謀。お前が一番遅かったぞ。他の者はもっと早くに来ていたのだよ。まさか、普段の働きと同じ結果となるとはな。実に失望させられる。ほら、見てみるが良い。裏切り者の末路だ」

 ダーヴィトが立ち上がり、テーブルの下、影に隠れていた複数の球体を蹴りだす。
 参謀はそれを見て、恐怖の余り失禁した。人の首だ。

 シェラは床に置いてあった鎌を掴むと、アサルの傍へと歩き始める。首を鳴らしながら、面倒臭そうに。

「ま、待ってくれ。た、助けて。か、金ならやるから。シェラ少佐、頼むッ! そ、そうだ、私じゃなくて、ダーヴィトを殺せ! 一緒に解放軍に――」

「一緒に解放軍に行けって? アハハッ、本当面白いこと言うわね、貴方。
じゃあ、面白いお話も聞けたことだし、そろそろいいでしょ?」

 血塗れの顔で微笑むと、泣き喚くアサル目掛けて、それを振り下ろした。ダーヴィトは満足そうに頷くと、赤が混じったワインを飲み干した。

「シェラ少佐。面倒を掛けてすまなかったな。……それと、先日の暴言を詫びよう。この通り、謝罪する」

 ダーヴィトは頭を下げた。シェラは特に感慨もなくそれを見ている。

「貴官はこの城から脱出しろ。シダモ参謀からもそのように申し出があった。恐らく、明日には堀が埋められるだろう。そうなれば持ちこたえることは出来ん」

「はっ、了解しました」

「私はここに残るが、動ける兵士達は脱出させるつもりだ。指揮はコンラート少佐に一任してある。計画は彼と打ち合わせるように。決行は、明日の夜だ」

「シェラ少佐、了解しました!」

「下がってよい。貴官の武運を祈っている」

 シェラは敬礼すると、大鎌の血を振り払って退出していく。血の臭いが充満する部屋で、ダーヴィトは暫くの間目を瞑っていた。








――翌日。
 堀は完全に埋まった。本格的な攻城が始まる。

『攻城塔前進開始ッ! 敵の弓兵を打ち落とせ!!』

 攻城塔がベルタ城の至近距離まで前進し、苛烈な攻撃を開始する。

「弓構えっ!! 放てっ!!」

 塔の内部から身を隠しつつ、城壁の弓兵を射抜き始める。高さという利点を失った王国兵達は、次々と落命していく。しかし退避は出来ない。城壁から下がってしまえば、攻城塔は梯子をかけて来る。そこから次々と歩兵が投入されるのだ。こうなれば止められない。だから、城壁は絶対に死守しなければならない。

 篭城側は、攻城塔だけではなく下にも注意しなければならない。縄梯子を掛けて強引によじ登ってくる可能性もある。破壊槌で門を打ち破られないように、攻撃を集中させる必要もある。

『決して突破を許すな! ベルタを反乱軍に渡すなッ!! 第4軍の意地を見せ付けろッ!!』

 守備隊長の掛け声が空しく響く。守勢の戦意は、既に崩壊寸前だった。このような場合は、指揮官の叱咤により奮起する場合もある。
 だが貴族上がりのダーヴィトではそれも難しい。何より、一度も本館から出てきていないのだ。士気が上がる訳もなかった。


 シェラは、持ち場の指揮をカタリナに任せて、コンラート少佐と話し合っていた。今晩決行する脱出作戦についてだ。コンラートは無骨を絵に描いたような男で、必要な事だけしか喋らない。

「シェラ少佐。私が第4軍転進任務を指揮するコンラートだ。決行は、今晩日付が変わると同時だ。上から見る限りでは、東門の包囲が薄く見える。よって、東門より突破を図り、カナン地帯のロシャナク要塞を目指す」

 ベルタ地帯と王都地帯に挟まれるように存在するのがカナン地帯だ。
険しい山岳に囲まれており、王都を目指すにはこのカナンを抜けなければならない。一本だけ通っている街道を抜けると、広大な大平原が連なり、その中心部に王都ブランカが存在する。
 カナン自体は痩せた土地で、農産物も期待できない。これといった産業もない為、人口も少ない貧しい地帯である。攻めても利益はないが、王都を目指すならば必ず通らなければならない。


「それで、私の騎兵隊はどうすれば良いのかしら?」

 コンラートとは同階級である為、疲れる敬語を止めるシェラ。豆を齧りながら、足をぶらぶらさせている。コンラートは特に気にしてはいない。

「先陣を切るか、殿軍となるか。好きな方を選べ。どちらも厳しい戦いになるだろう。残った方に私が行く。私はどちらでも構わない」

 機動力を生かすならば先陣で一気に駆けるのが正解だが、残念ながら敵は確実に待ち構えている。伏兵により、被害は甚大な物となるだろう。
 では後詰で出たならばどうかというと、それもまた地獄。北と南からの増援に囲まれる可能性が高いからだ。足を止めたら最後。確実に壊滅する。死ぬ可能性が高いのは、殿軍であるのは言うまでもない。

「じゃあこれで決めましょうか。私はどちらでも良いし」

 どちらにせよ、解放軍を叩きのめすのみ。やることは変わらない。
手にしていた豆の一つに、爪を差し込んで×印をつける。もう一方は無印。
両手を合わせた後、それぞれの手に握りこみ、コンラートへ差し出す。

「……何の真似だ」

「×印が当りで先陣よ。貴方の運が試されるわね。幸運を祈っているわ」

 楽しそうに微笑むと、シェラは運命の分かれ道を提示した。




 陽が暮れると、解放軍は兵を下げていく。積極的攻勢は掛けては来なかった。恐らく、脱出を企んでいると見抜いているのだろう。兵を無駄にするつもりはないようだ。
 煌々と光を放つ松明が、静寂のベルタ城を包み始める。最後の夜が来る。損壊激しい城壁から周囲を見渡すと、やはり東側の松明が少ない。その先には森林地帯があり、カナンへと続く道となる。茨の道だ。

 コンラートとシェラの指揮の下、ベルタ城の兵5000が集められた。身動きできない負傷者、必要最低限の兵士を引いた数がそれだ。脱出する気のない者は、城に残っている。
 威容を誇った第4軍の成れの果て。最早動ける兵士はこれしかいない。脱出が成功次第、兵達は開城し降伏する手筈となっている。
 ダーヴィトは、脱出を固辞し本館に一人で残っている。筆頭参謀は重要書類の焼却作業に当っている。暖炉へと過去の栄光を全て投げ込み、最後には毒を呷るのだろう。

 コンラートはシェラに合図を送る。シェラも大鎌を掲げてそれに応える。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。走り出したら最後。決して止まってはならない。


――と、その時、城内から爆音が轟き、本館から火の手が上がり始める。
 東を除く各城門が開け放たれ、痺れを切らした解放軍が雪崩れ込んでくる。内通者が行動を起こしたようだ。手柄を挙げるには、このタイミングしかありえない。

「――城門開けっ!!」

 コンラートが馬上から怒声を上げると、最後の門が開かれる。

「コンラート隊、転進を開始するッ! 全員突撃! 進めええええええッ!!」

『応ッ!!』

 第4軍旗を掲げた兵士達が進撃を開始する。誰も彼もが疲労している。早々に剣を投げ捨て、別方向に脱走を企てる者もいた。東門から、それぞれの思惑を持って全方位へと散らばっていく。既に統率は取れていなかったのだ。
 コンラートの指揮に従うのは僅か1000人。彼が以前から率いていた直下の隊。なんとか士気を保っているのはコンラートの手腕である。指揮官を先頭に、森林地帯を目指して突撃を敢行した。




 その不恰好な行列を見送ったシェラ。騎兵隊は同時に出ることはしなかった。シェラの思いつきで、なんとなく止めた。

「少佐。我々は行かないのですか?」

 弓に覚えのある騎兵が、平然と尋ねる。シェラの騎兵隊は、白烏の黒旗の下高い士気を保っていた。その数は2300。多少減ったのは篭城中に戦死したからだ。仲間の死をシェラは残念に思った。食事を一緒に食べてくれる人間が減るのはやはり寂しい。でも戦争だから仕方がない。シェラは彼らの分まで食べることにした。

「そろそろ行きましょうか。大分明るくなってきたし」

 城内本館、ダーヴィトの居るであろう場所が、勢い良く燃え盛っている。各城門も火の手が上がり、もはやどうしようもない。ベルタは落ちる。
 カタリナが報告する。

「少佐。やはりヴァンダー少尉の姿はありません。恐らく、いえ、確実に内応しているものと。探し出して始末しますか? ご命令頂ければ、必ず殺してきますが」

「それは次にしましょう。今はやるべきことが他にあるしね」

「はっ!」

 シェラは肩に担いでいた大鎌を横手に持つ。出撃だ。

「では、我々も行きますか?」

 騎兵の一人が問い掛けると、シェラは頷く。騎兵隊員が、兜の眉庇を下げていく。シェラは彼らの着けている重甲兜が好きではなかった。隊員の注意を聞かず、軽量化された物を好んで装備している。

「シェラ少佐、ご命令を」

 カタリナが眼鏡を持ち上げて、促す。手には杖を構えている。

「――シェラ騎兵隊、転進を開始するッ! 私の後に続けッ!!」

「シェラ少佐に続けッ!! 軍旗を掲げろっ!!」

『応ッ!!』

 馬腹を蹴り、シェラが疾走を開始。軍旗が装着された槍を掲げて、騎兵が整然と駆け抜けていく。敵はいないと踏んで乗り込んできた敵兵を、馬で轢き殺し、槍で薙ぎ払う。
 闇の中に、白いカラスが放たれた。





 解放軍の苛烈な追撃が開始される。体力のない者から真っ先に脱落し、敵兵の手に掛かり死んでいった。敵兵の攻撃を掻い潜り、ようやく逃げ込んだ森林。そこに弓矢が射掛けられる。

「やはり伏兵がいるかっ! 相手にするな、走り続けろ!」

「し、しかし! どこも敵兵だらけですっ!!」

「一箇所に攻撃を集中させろ! 必ず隙があるはずだっ!」

 コンラートが懸命に指示を出す。その最中も剣を振りながら矢を叩き落していく。
 本当に隙などあるのだろうか。ここは袋小路ではないのか。不安が侵食していく。人数を減らしながらも、コンラート隊の奮闘は続く。




「一人も逃がすな! 王国兵は皆殺しにしろッ!!」

「敵将の首を挙げれば報奨金が出るぞ! 絶対に逃がすんじゃないっ!」

「噂の死神なら、莫大な報奨金に、将官への出世が約束されている! 必ず殺して、仲間の仇を討つのだ!!」

 前方を駆ける騎兵を追撃する。相手は逃げるのに必死で、反撃してこない。こんなに楽な戦いはない。勝利が確約されている。口元を醜く歪めながら、敵兵の後を追う。殺して首を取り、手柄を上げるのだ。

――その瞬間。敵騎兵が何の前触れもなくこちらを振り向いた。
 突如として速度を落し、馬首を変えたのだ。何事だと戸惑いが走り、追撃の足が止まる。
 その隙を突いて、大鎌を持った騎兵が瞬く間に突撃してくる。

「シ、シェラだ。死神が――」

 叫ぼうとした最前線にいた兵の喉下に、大鎌が食い込み、身体ごと持ち上げられる。声にならない悲鳴をあげ、手足を前後に痙攣させる。どれほどの激痛が襲っているのか、周りの兵士は絶句する。楽しげに軽々と振り回した後、そのまま引きちぎって舌なめずりする
 死神は次の獲物を求めて、彷徨い、動きだした。大鎌を前後左右、交互に振るい、血飛沫を上げ始める。後には統率の取れた騎兵隊が、追撃を仕掛けていた解放軍歩兵を蹂躙していく。

「何をしているっ! 敵は敗走中なのだッ! 散開して包囲しろ、包囲しろッ!」

「死神を討ち取れ! 名を上げる好機だ!」

 勇敢な騎兵が撃ちかかるが、一撃の下に頭から引き裂かれる。兜、鎧、馬まで縦一文字に。もう一人は既に上半身がない。下半身を乗せた馬が、主を探すかのように彷徨い始める。

「ひ、ひいいいッ!」

「次はこないの? 誰でも良いわ。さっさと来なさい!」

「掛かれっ! 消耗させるのだ!」

「弓の使用許可を! 攻撃を集中すれば倒せます!」

「ならん! 同士討ちする気かっ!」

 弓は使えない。あまりに近すぎる。外れた矢が、包囲している他の味方に当ってしまう。
 追撃の手が止まったのを見届けると、シェラ達は再び転進を開始する。
 わざと追いつけそうな速度で進軍し、歩兵達が再び包囲すると虐殺を始めるのだ。
 その度に死体の数は増えていった。惨劇を見て怖気づいたのか、増援が来ない。誰も死神の正面になど行きたくない。勝ち戦なら尚更だ。


「――も、もう良い。これ以上は無理だ。先の奴らに任せるッ」
「ハアッ、ハアッ。ば、化け物めッ!」
「糞ッ! 死神に当るなんてついてねぇッ!」


 3度虐殺が繰り返された所で、追撃していた部隊は諦めた。勝ち戦なのに、なぜ死ななければならないのか。なぜこのような化け物と、自分達だけが相対しなければならないのか。彼らは森林地帯へ駆けていく白いカラス達を、為す術なく見送った。






「シェラ少佐ッ! 前方の森林地帯でコンラート隊が交戦中です!」

「伏兵にやられてるみたいね。それじゃあ、私達はその側面を衝きましょう。少し暗いから、明るくしないといけないわ。カタリナッ!!」

 大鎌を構えながら、目標を定める。刃の先には、哀れな敵兵が串刺しにされている。
 カタリナがその死体に魔力を送り、屍霊化する。

「いつでもいけますっ!」

「――よし、喰らえッ!」

 勢いを付けて死体を投擲する。伏兵が隠れていそうな茂みに、死体が投げ込まれる。
 カタリナが指を鳴らすと、死体が爆散し、火の手が上がり始める。驚愕した伏兵達が、慌てて飛び出して来た所を、シェラ騎兵隊が突撃、粉砕していく。


「カタリナッ! 次ッ!」

「お任せくださいッ!」

 複数の生贄を手に入れたシェラ。足下から拾い上げ、次々に前方へと投擲していく。
 カタリナが指を鳴らすたびに、凄まじい爆音を轟かせて、敵兵が焙り出されて来る。その度に悲鳴と千切れた四肢が舞い上がる。

「――騎兵隊突撃ッ! 殺せッ!」

 騎兵隊がシェラの命令に忠実に突貫を開始。陰から繰り出される槍が、数名の騎兵を串刺しにする。串刺しにされた騎兵は、血反吐を吐きながらも敵の集団に突っ込んでいく。
『敵を殺せ』。シェラの命令は絶対だ。息絶えるまで彼らは殺し続ける。5本の槍が胴体を貫いても、騎兵は戦闘行為を続けた。貫かれたまま前進し、目の前の歩兵の首をへし折る。
――そして笑いながら死んだ。 

「少佐ッ! 背後から敵兵です! 数は1000程度!」

「全員殺すッ! カタリナ、お前は半分連れて先を進め! コンラートと合流しろ! 敢えて炎の中を突き進め! 後は私と来いッ!! 悉く皆殺しだッ!!」

 死体を放り投げ、爆破する。森林地帯は赤く燃え上がっている。伏兵達も耐え切れずに外へと脱出していく。

「はっ! カタリナ少尉、前進します!」

 カタリナと騎兵達は、指示通りに炎の中を進軍していく。それを見送るとシェラは振り返り、追撃部隊と相対する。敵の指揮官らしき男が、剣を構えて話しかけてくる。

「大人しく降伏しろッ! もう逃げられんぞ! 剣を捨てて、馬から降りろっ! 今すぐにだ!」

 シェラの背後には地獄の業火が燃え盛る。黒い旗が炎の明かりで煌々と照らされる。
 歯を剥きだしにして、死神が凶暴に微笑む。その隣に騎兵達が槍を掲げて隊列を組む。

「私の騎兵隊は死んでも戦い続けるわ。勿論私も。ね、そうでしょう?」

『シェラ騎兵隊万歳ッ! シェラ少佐に勝利をッ!』

 軍旗を高らかに掲げ、全員が斉唱する。その異様な光景を見て、追撃兵の足が止まる。
 こいつらはどこかおかしい。そう、例えるなら死兵だ。死ぬことを恐れていない。だから、生きている者を恨み、黄泉へと引き摺り込もうとする。死んでいる奴と戦うなんて嫌だ。こんな場所で死にたくない。
 小隊長を含めて、兵達の手が震える。身体の震えが止まらない。何故自分達はこいつらを追ってきてしまったのか。己の不幸を呪う。

「宜しいッ! ならば我々は負けていない! 王国軍は敗れても私は勝ち続ける! 屑どもに身の程を思い知らせてやれッ!」

『屑どもに死を! 反乱軍に死をッ!!』


「く、来るな!」
「ば、化け物だっ!! こいつは化け物だッ!!」
「死神だ、死神が来るぞ!! に、逃げろ!!」

 圧倒的優勢だった追撃部隊が勢いに吞まれ、恐慌状態に陥り潰走を始める。その背後から蹂躙を開始する騎兵隊。解放軍の旗を踏み破り、兵士の後頭部を槍で突き刺していく。
 一方的な逆襲が始まっていた。

 制圧したベルタ城で異変を察知したディーナーは、南北に展開していた兵を追撃部隊として投入。圧倒的な数で押すことで、ようやくシェラ達を森林地帯へと追いやっていく。数え切れない程の死者を出しながら。とても掃討戦とは思えない犠牲者の数だ。兵法も何もない。圧倒的な暴力により、あらゆる追撃が打ち払われていく。

 ディーナーはシェラの力を見誤っていたと認識し、その上で、必ずここで討ち取らなければならないと確信する。

「死神を殺せっ! ここで逃がすと禍根となるぞ! 必ず殺せっ!」

「デ、ディーナー様、落ち着いてください!」

 ディーナーの従者が引き止める。近くにいる将官達も、見慣れぬ軍師の姿に、唖然としている。

「何なのだアレは! ふざけるなッ! あんなものは私は認めないッ! 認められないッ!」

「ディーナー殿、落ち着かれよ。ベルタ城は既に落したのだ。貴公の計画通りではないか」

ベフルーズの言葉にも耳を貸さない。

「あれは生かしておいてはならない! ここで逃せば、更に多くの解放軍の血が流れるッ!」

 騎兵の機動力を活かしながら、退いたかと思うと突撃を仕掛けてくる。しかも、己の死を厭わない無謀な攻撃方法で。あんな戦い方は認めない。認められない。だから、必ずここで討ち取る。解放軍はディーナーの全て。それを、虫けらのように殺していくシェラは生かしておけない。

「フィン大佐の獅子騎兵隊を投入しろッ! 絶対に討ち取れと厳命しておけ!」

「か、かしこまりました!」

 伝令が慌てて走り去っていく。
 ディーナーは爪を噛みながら、死神の軍勢を血走った目で見下ろし続けていた。








 コンラート隊と合流したカタリナ、シェラは一撃離脱を繰り返しながら、解放軍を翻弄し続けた。暗闇と機動力を利用して、まるで常に意思疎通をしているかのように左右から挟撃、転進を繰り返す。夥しい被害を出しながらも、執拗な追撃を続ける解放軍。
 フィン率いる騎兵隊もそれに加わり、ようやく落ち着きを取り戻し始める。勇猛な指揮官が陣頭に立ち、叱咤する事で冷静さを取り戻したのだ。連携を絶ち、孤立させながらフィンは王国兵を各個撃破していく。

「貴官達は良く戦いました。もう良いでしょう。剣を捨て降伏してください。決して悪いようにはしません。僕が保障しますよ」

 フィンは追い詰めた敵に降伏を促す。目の前には赤く染まった騎兵が10騎。シェラ本隊とはぐれ、足止めの為に独自の判断で踏みとどまった者達だ。槍先には解放軍の民兵の死体が刺さっている。黒旗は返り血で、ぬめりと嫌な輝きを放っている。

「シェラ騎兵隊に降伏はない。我々に敗北はないのだ」

「シェラ少佐万歳。シェラ騎兵隊に死は存在しない。我々はシェラ様と共に生き続ける」

 淡々と返事を返す騎兵達。民兵の死体から槍を引き抜き、殺気を向けてくる。それを見て、フィンの副官ミラが注意を促す。

「こいつら、どこか狂っています。説得は不可能かと。危険です」

「そうみたいですね。仕方ありませんが、やりましょう」

 フィンが合図を送ると、隊列を組んで騎兵達を包囲する。騎兵達は、恐れを見せることなく、フィン目掛けて最後の攻撃を仕掛けてきた。

「フィン大佐!」

「問題ありませんよ」

「――ッ!!」

 鋭い突きを交わし、カウンターで串刺しにする。抜き放つと同時に、薙ぎ払って馬上から叩き落す。他の騎兵達も、歩兵の槍に掛かり討ち取られていた。
 どの敵兵も、最後の瞬間まで槍を握り締め、戦う意志を見せていた。体力さえ残っていれば、まだ彼らは戦い続けていただろう。

「このっ、いい加減に死ね!」
「まだ息があるぞ! 確実に仕留めろ!」
「ハアッ、ハアッ、化け物かこいつら!」

 確実に止めを刺し、次へ向かおうとするフィンと兵達。

「さぁ、次へ向かいましょう――ッ!?」

 その背後から、殺したはずの騎兵が飛び掛り、フィンの頚動脈を引き裂かんと襲い掛かってきた。先程心臓を突き刺した騎兵だ。もう動ける訳がないのに。
 振り払おうともがくが、凄まじい力で思うようにいかない。フィンの顔に初めて焦りが浮かぶ。

「――シェラ少佐ニ勝利ヲッ!!」

「フィン大佐!! こいつ、大佐から離れろッ!!」

 ミラが強引に引き剥がし、剣でその首を切断する。
 フィンは息を荒げて、死体を見やる。兜が外れたその死に顔には、凄惨な笑みが浮かんでいた。

「……た、助かりましたよ、ミラ。敵ながら恐ろしい。死して尚敵を殺さんとする闘争本能。まさに、死神の騎兵ですね」

「……何が彼らをそこまで駆り立てるのでしょうか。腐敗した王国にそこまでの価値があるとは思えません」

「さぁ、それは僕には分かりかねます。指揮官の魅力じゃないですか?」

 小さく嘆息すると、追撃を再開するフィン。死神には関わるべきではないと、彼の本能が警鐘を鳴らしていた。それを飲み込んで、明かり一つない暗闇を前進する。兵達の顔に怯えが見える。勇猛果敢な獅子の旗印。だが、暗闇は恐怖を刺激する。闇の中から、いつ大鎌が伸びてくるか分からない。松明を破邪の魔除け代わりに掲げ、彼らは静寂の中を進軍する。死神に魅入られないよう祈りながら。







 夜が明け、森林地帯を抜けても追撃は続いた。コンラート隊は疲労困憊で最早戦えない。一方のシェラ隊は隊列を崩さず行進を続ける。敵が現れれば転進して迎撃し、足止め後再び隊列に戻る。
 解放軍は追撃部隊として5000を編成、死神を討つ為にカナン地帯へと進撃させた。
 一方、ロシャナク要塞のヤルダーは、放っていた斥候よりその敵情報を得る。

『敵兵を打ち払い、直ちに友軍を救出せよ』

 参謀が引き止めるのを一蹴し、自ら4000を率い出撃、縦列陣で猛追を掛けていた解放軍の側面を奇襲した。隊列が伸びきっていた為、分断されて混乱に陥る。
 それに合わせてシェラ隊も再突撃を敢行。追撃部隊を完膚なきまでに叩きのめし、これを潰走させた。
 第4軍の残存兵力は2000。城を出た時5000だった兵は、2000まで減らされていた。
地獄を潜り抜けた彼らは、ヤルダー隊の助けを得ながら、ようやくロシャナク要塞へと入り込んだ。誰もが手傷を負い、その装束はボロボロだった。ここまでこれた事が奇跡である。

『シェラ少佐の働きがなければ、彼らがカナンへ辿り付く事は出来なかっただろう。その苛烈なる働き、まさに死神の如し』

 ヤルダー大将は、シェラ少佐の奮闘を激賞。重傷を負いながらも生き延びたコンラートが謝辞を述べる。彼は死神の選択に正解し、幸運を掴み取ったのだ。
 シェラは中佐への昇進が決定すると同時に、王国騎士勲章が授与された。このような敗戦では異例の事だ。

 シェラはそれを適当に受け取った。勲章などはどうでも良く、今欲しいのは全く別なものだったから。その後、ヤルダーが特別に用意したご馳走にありつき、ようやく満足そうな笑顔を浮かべた。

「皆、本当に良く戦ったわ。ここにいない兵達も、常に私と共にある。だから、その分、私は食べなければいけない」

 ナイフとフォークを動かしながら、独り言を呟くシェラ。聞こえたのは、隣にいた副官のカタリナだけであった。

「シェラ少佐?」

 カタリナが不思議そうにシェラに問い掛ける。

「いや、なんでもないわ。貴方は気にせず食べなさい。生きている者の特権よ」

「は、はい」





 シェラ騎兵隊残存1500。ロシャナク要塞総兵力7000。
 ヤルダー大将は、ここカナンで解放軍を迎え撃つべしと、王都へ伝令を送った。
シャーロフ元帥は国王に直に申し入れを行い、第1軍の半数、5万をカナン地帯へと増派することを認めさせる。各兵団を数隊に分け、続々と兵力を送り込む。
 ちなみに、シダモ参謀はベルタ城を脱出し、ロシャナクで再びヤルダーの補佐役に就いた。彼は一般兵に身を扮し、隙を突いて逃げ出したのだ。


 ベルタ陥落を見届けた帝国は、時至れりと判断、王国に対し宣戦を布告した。王国北西部へと進軍を開始。立ち塞がる要塞線の攻略に取り掛かった。季節は既に初秋、厳しい冬季を迎える前に、早期での攻略を目指した。
 迎え撃つは王国軍第5軍。王国北西部出身者で固められた部隊で、結束は非常に固い。
反帝国感情が最も強く、降伏勧告の使者を、口を開く前に即座に斬り捨てた。

 諸国連合と隣接する王国南部地帯では、王国軍第2軍が釘付けとされていた。元々独立意識の強い地帯であり、第2軍が離れた途端、領主達が反乱を起こすのは確実だ。
 身動きの取れない第2軍司令官は、各地の苦戦を歯噛みして見ているしかなかった。





 一方、ベルタ地帯を制圧した解放軍は、選択を迫られていた。カナンを攻略し、一直線に王都を目指すか。王都制圧後を見据え、独立の危険がある南部地帯の攻略から目指すか。
もしくは、それらを並行して行うか。
 全ては、解放軍の若き指導者、アルツーラの決断に掛かっていた。



――王国軍を裏切ったヴァンダーは、城門を開け放ち、混乱に乗じてダーヴィト大将の首を挙げる事に成功した。その功が認められ、大尉待遇で解放軍に迎えられている。ディーナーの麾下に入り、降伏した元王国兵達を率いる事が決定した。

「ヴァンダー大尉。貴官はシェラ少佐の指揮下で、副官だったそうだな」

「はっ、その通りであります」

「……少し聞きたいことがある。嘘偽りなく、正直に答えてもらう。良いな?」

「私は既に解放軍の人間です。私の知る全てをお話しします」


 ディーナーはシェラについての情報を入手しようとしていた。どんな些細な事でも良い。死神の人柄、思考、指揮方法。それを把握することで、次の戦いに繋げる。ベルタ城は確かに落したが、個人的には、この戦いは負けだ。
 シェラを逃がしては完璧ではない。あの忌々しい死神を討ち取りたかったのだ。
――次は殺す。必ず殺す。ディーナーは漲る殺意を押し隠しながら、ヴァンダーに対し尋問を行った。

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